魔法の指輪のその価値は?
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月25日〜04月30日
リプレイ公開日:2005年05月07日
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●オープニング
その日、冒険者ギルドを一人の女性が訪れた。
年の頃は十七、八といったところ。腰に一振りの短剣を携えている事から、彼女が冒険者である事は想像に難くない。
だが、どうにも様子がおかしい。
「うわぁ‥‥人がいっぱい‥‥」
ギルドに来るのが初めてなのか、キョロキョロと辺りを見回しながら周囲の冒険者達の様子を窺ったり、
「‥‥どこに行くんだろう?」
依頼の相談だろうか、奥に案内されていく冒険者達を不思議に思ったりと、誰の目から見てもはっきりと分かるほどの初心者。
その様子に気づき、近くにいたギルドの男性係員が彼女に声をかけた。
「お姉さん、ギルドは初めてかい?」
「え!? あ、は‥‥はい。そうです」
少し戸惑った様子の彼女に、係員は穏やかな微笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「ハハッ。そんなに緊張する事はないさ。で、どんな仕事をお探しで?」
「いえ、あの‥‥その‥‥い、依頼をお願いしたいのですが‥‥」
「おや、これは失礼。依頼人さんか。それで、ご用件は?」
「あ、はい。実は‥‥」
腰に下げた荷物入れの中から彼女が取り出したのは、虹色の宝石がはまった一つの指輪。
「これはもしかして‥‥魔法の品かい?」
係員がそう尋ねると、彼女は頷く。
「ええ。実は‥‥これを別の何かに交換して下さる方を探していまして‥‥」
「え?」
係員は驚きの声を上げる。こういった魔法の品‥‥それも、指輪のように軽量かつ身につけて邪魔にならない品となれば、欲しがる冒険者は多いだろう。
だが、ここはあくまでも冒険者に依頼を斡旋する冒険者ギルド。商売の仲介なら、やはり商人に頼むのが筋というものだろう。
「‥‥何故、ギルドに?」
訊ねる係員。
受けた依頼の内容に応じて、冒険者がお互いの持つ武具や道具類を交換するのはよくある事だが、それをギルドに依頼するという者は珍しい。
「実は私、これからこのキャメロットで冒険者として活動を始めようと思っているのですが‥‥」
「はあ‥‥?」
「この指輪は私が村を旅立つ時に、昔、冒険者だった父がくれた物なのですが、父が言うには『それなりの価値がある品物だから、キャメロットに着いたらこれを売って、自分に必要な物を揃えなさい』‥‥と。私はその言葉に従って、商人のところへこの指輪を売りに行ったのですが、どうもあまり良い値をつけて貰えなくて‥‥」
「それで、より高い価値で引き取ってくれる相手を探している‥‥と?」
「はい。ここなら多くの冒険者の方が集まっていますし、良い条件で引き取ってくださる方がいらっしゃるかもしれないと‥‥」
ここまで聞いて、大体の事情は飲み込めた係員。
「本来だったら、こういった商人の真似事のような依頼はあまり引き受けたりはしないんだが‥‥。まあ、新たに冒険者として活動を始めるためだって言うし‥‥よし、分かった。特別に募集をかけてあげよう」
「本当ですか! ありがとうございます」
ペコリと係員に礼をする依頼人の女性。
「ただし、こっちはあくまでも募集をかけてみるだけだ。何とどんな風に交換するのかは、集まった連中と相談してあんた自身が決める事。いいかい?」
「はい。よろしくお願いします」
●リプレイ本文
冒険者にとって、必要とされる道具は様々ある。
戦士であれば、大抵は何らかの武器や防具は身につけているし、それらを使いこなす力のない魔法使いであっても、野営の道具や保存食などは冒険に欠かす事のできない必需品だ。
冒険に出る前に、自分にとって必要な物を用意する事。
それは、冒険者としての基本中の基本でもある。
ここにいるのは、冒険者となる事を決意した一人の女性。
果たして彼女は、何を必要とするのだろうか‥‥。
ギルドから交換の呼びかけに応じて、依頼人の女性‥‥リアの前には数人の冒険者が集まっていた。
だが、集まった冒険者の全てが魔法の指輪目当てかというと、そうではなく、中には新しい冒険者の仲間のためにと、彼女が交換相手を選ぶための手伝いをしたいと申し出た者もいた。
老齢のウィザード、マルト・ミシェ(ea7511)がそうである。
「とりあえず、私の驢馬の荷物でも見てもらおうかのぅ」
最初に、マルトはリアをギルドの外に連れ出した。
彼女が冒険者として全くの初心者であったため、まずは、どんな物が彼女にとって必要になるかを教えようと考えたのだ。
繋いでおいた自分の驢馬のところまでリアを案内し、マルトはその積荷を一つずつ取り出して見せた。
「うわぁ‥‥。色々な物があるんですね‥‥」
出てきたのは、簡易テント、寝袋、ロープ、防寒服一式。それからランタンと油。最後に保存食。
「これらは皆、冒険者として活動するために必要な物ばかりじゃ。よく覚えておくといいじゃろう」
マルト達がギルドに戻ると、今度はいよいよ、集まった冒険者達がリアに交渉を始めた。
それぞれに簡単な挨拶を済ませた後、最初に交渉に当たったのはシュリデヴィ・クリシュ(ea7215)。
「ゴーレムやスカルウォーリアーと言った相手と退治した時、これがあれば役に立つと思う」
彼女がリアに勧めたのはライトメイス。
「これは、その辺の店には置いていない特別製でな。通常のメイスよりは幾分か軽いので、予備の武器として使うにも丁度良いはずだ」
「予備‥‥ですか?」
自分の持っている剣だけではダメなのだろうかと、リアは疑問の表情を浮かべる。
シュリデヴィはこう続けた。
「冒険者にとって、いざと言うときに備える事は非常に重要だ。障害となりうるものに可能な限りの対策をしておく事で、失敗を防ぎ、被害を最小限に抑える事ができる」
シュリデヴィはそうして『備える』という事の重要性を説いたが、リアはまだ少し迷っているようだった。
実は、リアは交渉の事前にマルトから幾つかの助言を受けており、
「あまり早いうちから強力な武具を扱うのは、その武具に振りまわされることにもなりかねんのぅ」
という話を聞いたからだ。
結局、リアは判断に迷い、返答は保留となった。
次に交渉に当たったのはサラ・フォーク(ea5391)
「なかなか機知に富んだ親御さんを持ったわね。指輪の価値を考えれば、たぶんこうなる展開、想定内の出来事ってやつだわ」
「そ‥‥そうなのですか?」
サラの話に、驚いた表情を見せるリア。
そんなリアの反応に微かな笑みを浮かべながら、サラは彼女の手を引いて、ギルドの外へと連れ出した。
その先に待っていたのは、一頭の馬。
「ほら、少し触ってあげて」
「え、あ、はい‥‥」
何となく流されるままに、リアは馬を撫でた。
馬はとてもおとなしい性格のようで、リアに触られるままにじっとしていた。
「この子の名前はリム‥‥。私の妹と同じ名前をつけたの」
サラは急に真剣な表情になると、一つの話をし始めた。
「ハーフエルフという存在を知っているかしら? 色々な理由で、人々から敬遠されている‥‥。冒中にも、ハーフエルフは何人もいるわ。でも、彼らを嫌わないで、受け入れてあげて欲しいの。それが馬を譲るときの約束」
「何故‥‥ですか?」
リアはそう訊ねた。彼女には、エルフのサラがハーフエルフを庇う理由が分からなかったからだ。
「私の‥‥妹がハーフエルフだから‥‥」
「被ってしまいましたか‥‥」
続いたのはルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)。彼女もまた、提供品は通常馬だ。
ちなみに、リアはサラの馬との交換は断念した。
まだ冒険者として活動を始めたばかりのリアには、今まで持っていたハーフエルフという存在への疑いを拭い去れる自信がなかったのである。
「正直なところを言えば、リア様にはまだ馬は必要ではないかもしれませんね。ですが、必要最低限の物を自分で持つ事さえ難しいという方が、冒険者の中には少なからずいます」
ルイーゼはリアに対し、共に冒険する事になる仲間達の事を考えるのも、冒険者として大切な事だと教えた。
「これからは、様々な冒険者の方と旅に出る事になるでしょう。その仲間達の助けになるかもしれない事を考えれば、必ずリア様の助けとなるはずです」
この意見にはリアも大いに納得。
ただ、今のリアにとってすぐ必要かと言えば、やはり疑問が残ったため、この交換もまた保留される事となった。
「俺からはこれだな」
エリック・シアラー(eb1715)が提示したのは、金貨十五枚。
多過ぎず、少な過ぎず、新人冒険者が受け取る額としては丁度良いだろうと思える金額。
「まあ、説教するような柄じゃないから、ちょっと照れくさいのだが‥‥」
苦笑を交えつつ、エリックはこう語り始めた。
「今、ルイーゼからも聞いたと思うが、冒険者にとって大切なのは仲間‥‥それから経験だな。常に自分の行いを省みる習慣。そして、冒険者として常に『上』を目指す姿勢。これは決して忘れてはいけない。自分を律し、多くの経験を得れば、おのずと自分に必要な物は分かる。その時に必要な物を買うために、この金を使って欲しい」
他人から奨められた物ではなく、自分に必要な物を自分で見つける事が大切だと、エリックは言った。
「確かにこれだけのお金があれば、必要な物を揃えるのにも十分‥‥」
「ちょっと待ってくれない?」
――ドン!
「なっ‥‥!?」
エリックが提示した条件に対し、同じく金銭での交換を申し込もうとした者がもう一人いる。
その彼女‥‥ユウン・ワルプルギス(ea9420)は、大量の金貨の詰まった袋をリアとエリックの目の前に置いた。軽く百枚を超える量の金貨がある。
「これは今のボクが持ってるお金、全部だよ」
「こ‥‥こんなにですか!? さすがに、こんなに貰うわけには‥‥」
「それは、自分で考え抜いた末の結論かな?」
「‥‥え?」
ユワンはそう言って、リアに真剣な眼差しを向ける。
「ねえ、リア君。キミは自分の枠の中に自分を閉じ込めてしまってはいないかい? それは、すごく勿体ない事だよ。自分の意思と責任でなんだってできる、それが冒険者、だよ。僕は、リア君にならこれだけのお金を出してもいいと‥‥いや、ぜひ受け取って欲しいと思ってるんだ」
このユワンの説得に、リアの心が揺らぐ。
「しかし、今から持ち過ぎるのは、むしろ甘えに繋がるのでは‥‥」
「じゃが、ユワンの言う事にも一理あるのう」
後ろからは、ルイーゼとマルトのそれぞれの意見が聞こえてくる。
結局、あまりにも極端な差があった金銭での交換は、どちらも保留となった。
「まあ、皆さん少し落ち着きましょう。何か、飲み物でもいかがですか?」
だんだんと熱くなっていく他の冒険者達に対して、そう言ったのはアルガノ・シェラード(ea8160)。
「あの‥‥アルガノさんは何をお持ちになったのですか?」
「私ですか? これなのですが‥‥」
アルガノが取り出したのはヒーリングポーション。
「やはり、冒険には危険も多いですから、怪我の回復が出来るものを持っていると良いですよ」
そうは言ってみたものの、先程の金銭でのやりとりがあるだけに、比較的手に入りやすい回復薬では、リアの反応は鈍い。
こうなると、アルガノも難しい表情を浮かべていてもおかしくは無いのだが、そうではなかった。
その理由は、後に分かる事になる。
最後に交渉にあたったのはミル・ファウ(ea0974)。
彼女の提示したアイテムは銀製武器、シルバーダガー。
「これなら、幽霊や悪魔にもダメージを与えられるよ。リアさんも知ってるかもしれないけど、この前、キャメロットで悪魔が出て大騒ぎになった事があったの。他にも、最近はそういった普通の武器じゃ勝てない魔物がたくさん出てきて、みんな苦労してるみたい」
ミルは続けてこう語る。
「だから、できればリアさんに使って欲しいなって思ったのよ。それに、私が持っていても重くて使えないし‥‥」
残念そうな表情を浮かべるミル。
「確かに、銀の武器は持っていて損はないな‥‥」
「弱点を補うという点でも、合っていますしね」
シュリデヴィとルイーゼがそう補足する。
「なるほど‥‥」
現状のキャメロットを反映した、特殊な性質を持つ武器の必要性。
これにはリアも大変に興味を示したようだ。
冒険者達の言葉を一つずつ思い出しながら、時間をかけてリアは結論を出した。
「ミルさん、私の指輪とその銀の武器、交換していただけますか?」
選ばれたのは、ミルのシルバーダガー。
「よろしくお願いします」
「うん。こちらこそ」
こうして指輪と短刀は、それぞれの新たな持ち主の手に渡った。
さて、本来はこれで依頼終了なのだが、この話には少し続きがある。
リアがギルドを去ろうとした、その時の事。
「少し待って貰っていいですか?」
呼び止めたのはアルガノ。
「えっと‥‥何でしょう?」
「いえ、渡したい物がありましたので‥‥」
スッとリアの手を取ると、アルガノはある物をその手に持たせる。
「これは‥‥え?」
「先輩としての、私からのプレゼントです。では、私はこれで」
渡されたのは、ミルの提供した物と同じく、シルバーダガー。
戸惑うリアが何かを言う前に、アルガノは颯爽とその場を立ち去った。
実は、彼がこの依頼を受けたのは、新たな仲間を援助する事が一番の目的であったらしい。
後に、アルガノのこの行動は周囲の冒険者達から高く評価され、ちょっとした話題として広まったそうだ。