娘の恋人募集します

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月11日〜10月18日

リプレイ公開日:2004年10月14日

●オープニング

「‥‥はい?」
 訪れた依頼人の女性から話を聞いたギルドの受付の係員は、つい間の抜けた声を発してしまった。
「ですから、娘の恋人になってくれる冒険者を募集したいんです。あ、もちろん期間限定で構わないのですけど‥‥」

 話はこうだ。
 
 依頼人の女性には今年で17歳になる娘がいる。
 この娘さん、近所でも美人で評判で、家事も一通りこなし、おしとやかで優しくて‥‥と、そんな人なので、あちこちから噂を聞いた男性達が毎日のように家を訪れ、周囲からも縁談の話が絶えない。
 母親である依頼人も、自分は本当にいい娘を持ったと鼻が高かったそうだ。

 だが、それは当の本人にとって、あまり喜ばしいものではなかったらしい。
 昼夜を問わず、贈り物を持っては家に訪れる求婚者達。
 外に出れば、あっという間に数人の男性達に囲まれ、絶え間なく囁かれる愛の言葉。
 時が経ち、彼女がより美しく成長するにつれ、近づいてくる者はその数を増すばかり。
 その煩わしさから、彼女の中で少しずつ世の男性達を嫌悪する気持ちが強くなっていった。

 そして、いつしか彼女は重度の男性恐怖症になってしまったのだ。
 父親以外の男性とは全く言葉を交わそうとせず、ほんのちょっと腕を伸ばせば触れられる距離まで近づかれただけでも、大声を上げて逃げ出すようになってしまったのだという。

「それで、何で恋人を募集したりするんです? 彼女にとって良くないんじゃ‥‥」
「いいえ。今のように男性との関わりを避けていては、それこそ一生あのままです。あの娘には、恋をする事が楽しいものであるという事を知ってもらわなければなりません。冒険者の中には女性の扱いに長けた方もいらっしゃると聞きます。そういった方に娘の心を開かせてほしいのです。今のままでは、あの娘があまりに不憫で‥‥」
 本当のところを言えば、やはり気がすすまないのであろう。依頼人の表情は暗い。

「まあ、荒治療ってやつだな。色々と難しい依頼だ。くれぐれも、娘さんの心を傷つけるような真似はしないように。ちなみに、基本的には男性冒険者を募集するが、娘さんの心を開かせてくれるなら、女性冒険者も歓迎するとの事だ。まあ、頑張ってくれ」

●今回の参加者

 ea1509 フォリー・マクライアン(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3109 希龍 出雲(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3449 風歌 星奈(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

ウォル・レヴィン(ea3827

●リプレイ本文

 それは、堅く閉ざされた心の牢獄。
 傷ついた少女が逃げ込んだ場所。
 その中に逃げ込んでなお、少女はたった一つの希望を持ち続けていた。
 それは、ここから出るための鍵。
 だが‥‥。
 
「「「こんにちは〜」」」
 笑顔を携え、声を揃えて依頼人へ挨拶をしたのは、フォリー・マクライアン(ea1509)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、風歌星奈(ea3449)の三人。
 いずれも、今回の依頼の中心人物である男性恐怖症の少女、リーナと同じ年頃の女性達だ。彼女達は皆、リーナの相談役となるつもりでこの依頼に参加した。
「ようこそ。さあ、どうぞ上がって下さいな。後ろの皆様も、ご遠慮なく」
 見ればフォリー達の後ろには、今回の依頼の中核を担う男性冒険者達の姿もあった。
「うわぁ‥‥でっかい屋敷だなぁ‥‥」
 中に入るなり、そう呟いたのは希龍出雲(ea3109)。
 おそらく、依頼人の家はかなり裕福な部類に入るだろう。内装や調度品もかなり良い物を使っており、一体どれだけのお金がかけられているのか、彼には想像もつかない。
「なるほど。リーナという少女に男どもが群がったのは、彼女自身だけでなく、この家の持つ財産も関係あるのかもしれないな」
 屋敷の中を見回しながら、ジョセフ・ギールケ(ea2165)は思案を巡らす。
「まあ、細かい事はさておき。俺は問題のお嬢様に早く会ってみたいね」
 すでに色々と策を練ってあるのか、ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)は随分と余裕だ。これからの事を考え、期待に胸を躍らせている。
「楽しみですよね。どんな方なんでしょう?」
 ジョーイ同様、エリンティア・フューゲル(ea3868)も余裕の表情。もっとも、彼の場合はいつもそんな顔なので、本当のところは分からない。
「リーナなら、すでに奥の部屋で待たせてあります。どうぞ、こちらへ」
 打ち合わせ通り、まずは女性陣からリーナに会うことに。
 扉の向こう、長く伸びたテーブルの一角の席に、その少女はいた。
 艶やかな銀色の髪、美しくもどこか儚げな瞳、形の良い唇、ほんのりと紅く染まった頬。
「綺麗‥‥。まるでお人形さんみたい‥‥」
 ヴァージニアがポツリと洩らした言葉は、彼女の正直な感想だろう。
 その言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、リーナは彼女の方を見て、少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「あの‥‥初めまして。リーナと申します。その、母から大体の事情は聞いているので‥‥」
 戸惑いがちに自己紹介をするリーナに、同じように簡単に自己紹介を済ませ、しばらく他愛もない会話を交わした後、星奈は一つの質問をした。
「自分の男性恐怖症、治したい?」
 そう聞くと、少し躊躇いはあったものの、リーナは小さく頷いた。
「もし、治せるのであれば、やっぱりその方がいいのでしょうし‥‥」
 この言葉に納得したのか、フォリーが扉の前で待機していた男性陣を呼ぶ。
「隊長〜、相棒〜、皆〜、入っていいよ〜」
 その後、やや一方的なものではあったが、男性陣も無事にそれぞれ自己紹介を行った。
 リーナの反応も思っていたほど悪くはなく、出だしは順調と言えた。

 全員の自己紹介が済んだ後。
「なあ、ちょっとキッチン貸してもらえねぇか?」
 依頼人にそんな事を頼んだのはデュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)。
 実は、冒険者達はリーナのために、一つの企画をしていた。
 それは、彼女を外に連れ出してのピクニックである。
 デュノンは、このピクニックに行く時に皆で食べる料理を作ろうと考えていた。
「お貸しするのは構いませんが、あの、食材の方は? 見たところ、何もお持ちではないように見えますが、どこに?」
 この人数の食事を用意するとなれば、それなりの量の食材が必要なはず。
 そのあるはずの物がなくて、依頼人は不審に思った。
「いや、全く用意してないけど?」
「‥‥はい?」
 そう。何とデュノンは、食料の類を一切持たずにここに来ていた。唯一、食料と呼べるのは馬乳酒一本だけである
「あの、ギルドに食事は各自で用意していただくよう伝えたはずですが?」
「うん。そう聞いていたから、私は用意してきたよ」
「私も、少し余分に用意してきたわ」
 そう言うのはフォリーとヴァージニア。
「あの、私ちょっとだけ足りないかも‥‥。分けてもらってもいい?」
「ええ。構わないわ」
 星奈が足りなかったわずかな分は、幸い、丁度ヴァージニアが余分に持ってきていた分で足りそうだ。
 さすがに、女性陣はしっかりしていた。これなら大丈夫かもしれない‥‥と、依頼人も思い始めたのだが‥‥。
「俺も用意してないぞ」
「私も半分くらいしか‥‥」
「アハハ、奇遇ですねぇ。実は私も全く用意してきませんでした」
「あ〜、そう言えば何か用意してこいとか言われた気も‥‥」
 もはや、語るまでもないだろうが、敢えて言おう。今回の男性陣で、日数分の食料を用意してきた者‥‥皆無である。
 その後、様々な交渉の末、食事に関して準備が足りなかった分は依頼人が用意してくれる事になった。ただし、その費用は各自にきちんと請求されている。なお、食事の内容は依頼人達に合わせる事となったため、その費用が保存食を用意していた場合の倍かかった事は、男性陣にとってはいい薬になったのではないだろうか。

 ピクニック当日。
 残念ながら、初日に男性陣が派手に失態を演じた事もあり、リーナの男性陣への好感度は、どうやらかなり低下したようである。
 そのため、当初予定されていた男性陣の策は、そのことごとくが未だ実行できない。
「ちっ、さっきから何人目だ?」
 リーナが家に閉じこもってからも、彼女に近づく事を諦めていない男は大勢いたようだ。彼女が外に出た途端、どこに隠れていたのかと思うほど、道中のあちこちから姿を現す男達。もっとも、彼らがリーナに近づく事は、ジョーイ、出雲、デュノンの三人によって完全に防がれていた。
「そんな、がっついた態度はみっともないぞ?」
 目の前の男達に言い放つジョーイ。
「俺はただ、彼女に‥‥」
 何かを言おうとした男に対して、ジョーイは睨みをきかせ、それ以上の言葉を続けさせない。
「おっと! ‥‥すまねぇな兄ちゃん」
 一方、出雲は周りに見えないように、こっそりと男達に当て身を喰らわせては、近くの茂みへ放置するという行為を繰り返していた。
「お帰りください」
 爽やかな笑顔で言うのはデュノン。なんと、その手にあるのはラージクレイモア。持ち前の長身と合わせて、それを目の前の男達に見せ付けて威嚇していた。
 そんな男性陣の横で、星奈は彼らがリーナに近づく手助けになる情報が得られればと思い、一つの質問をした。
「ねぇ、リーナ、男のどの辺が耐えられないの?」
「‥‥色々ありますけど、一番嫌なのは、相手の事を考えずに自分の都合ばかり押し付けてくる人が多い事です。‥‥あと、どんな事情があれ、弱い者に対してすぐに暴力を振るったり、脅したりする人が多いのも嫌いな理由です」
 そう言う彼女の視線の先には、近寄ってくる男達を力ずくで追い返すデュノン達の姿がある。
 一気に場の雰囲気が暗くなったのは、おそらく気のせいではないだろう。
「‥‥の馬鹿」
 何やら星奈の口から誰かの名前が聞こえた気がするが、ここは敢えて聞かなかった事にしておく。
「た‥‥確かに困るわよね。そういう人は」
 苦笑いを浮かべながら、離れたところにいる弟をチラリと見るヴァージニア。
 リーナが少しでも男性に気を緩めてくれれば、近くに呼ぶつもりだったのだが、この様子では出番はなさそうだ。
「くそっ、これでは会話に入るチャンスが全くないではないか‥‥。私の計画が‥‥」
 同様に、離れた位置から彼女達の会話を聞き、自らの恋愛について熱く語る機会を心待ちにしていたジョセフであったが、こうも状況が悪化してはどうしようもない。
「あの‥‥」
 女性陣がこれからどうしようかと途方に暮れていたその時、今まで離れた場所から彼女達を見守っていたエリンティアが近づいてきた。もちろん、リーナとは距離をとっている。
 何か、この状況を打破する策があるのではないかと、女性陣の期待は高まる。いや、ここで流れを変えなければ、おそらく今後状況は悪化の一途を辿るだろう。
 そして、皆の期待を受けながら、彼が放った言葉は‥‥。
「僕はぁ、別に無理してまでぇ、男性恐怖症を治す必要は無いと思うんですぅ」
 ‥‥一同、絶句。
「逆に同性が好きな人もいますしぃ、中には異性なら種族問わずと言う変わった人もいますからねぇ」
 これは何かの作戦だろうか‥‥。
 いや、残念ながらそうではない。彼は本気でリーナの男性恐怖症を治すつもりがなかったのである。
 がっくりとうなだれる一同の中で、彼だけは、その後も終始笑顔であった。

「ごめんなさい‥‥」
 最終日、フォリー達は依頼人に頭を下げた。依頼は結局失敗に終わったのである。
「あの‥‥、そんなに気を落とさないで下さい」
 そう言うと、依頼人は女性陣にのみ、報酬の入った袋を渡した。それも、当初の倍の報酬が入った袋を。
「「「え!?」」」
「私はあなた方が頑張って下さっている姿をずっと見ていましたから‥‥これはほんの気持ちです。どうか受け取って下さい」

 この結果を受け、数日後、ギルドに再度同様の依頼が出される事となるが、それはまた別の話。