【その剣にかけて‥‥】Side―A

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月16日〜08月27日

リプレイ公開日:2005年09月09日

●オープニング

 徒党を組んだ盗賊達に、その村は突然に襲われた。
 何一つ抵抗する術を持たぬ村人達は、ただ怯えるばかりだった。
「ど‥‥どうか、命だけは‥‥」
 一人の老人が額を地面にこすリながら、必死に賊の一人に命乞いを繰り返していた。
「分かった、分かった。爺さん、ほら、顔を上げろよ」
 その言葉に、老人がおそるおそる顔を上げると‥‥、
「嘘に決まってんだろうが。とっとと死ね」
 ――ザクッ!!
 ‥‥絶望を突きつけられたまま、老人は首をはねられた。
「悪いけど、外に助けを呼びにでもいかれちゃ面倒だからねぇ‥‥。一人も逃がすんじゃないよ、お前達!!」
「分かってらぁ!! せっかくだ。おい、誰が何人殺せるか勝負しねえか」
「いいねえ、その勝負のったぜ」
 ‥‥抵抗の意志のない村人達を、盗賊達は容赦なく虐殺していく。
 女も子供も例外なく‥‥。まるで、尊い命を弄ぶ事を楽しむかのように‥‥。
「さあ、奪え!! 殺せ!! ここにある物は、全て俺達の物だ!!」

 ――数日後、冒険者ギルド。
 一人の娘が、今にも倒れそうな様子でギルドへ駆け込んできた。
「おい、大丈夫か!! しっかりしろ!!」
 すぐに近くにいた冒険者の何人かが駆け寄り、娘に手を貸す。
「た‥‥す‥‥け‥‥‥‥」
 おそらく、無理をして何日も走ってここまで来たのだろう。汚れた服や、疲れきった表情から誰の目にもそれは明らかだった。
 ――しばらくして。
 冒険者やギルドの係員達の助けを受け、娘は何とか落ち着きを取り戻した。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です‥‥」
「いったい、何があったんだ?」
「村が‥‥盗賊達に襲われて‥‥」
 娘は、自分の村が盗賊達によって襲われ、村人達が虐殺された事を冒険者達に語った。
「‥‥そうか。よく、無事だったな」
「父が‥‥助けてくれたんです‥‥」
 盗賊達が襲って来た日、父親が彼女を庇って囮となり、そのおかげで彼女は逃げ延びる事ができたのだという。
「災難だったわねぇ。‥‥村一つ潰すような盗賊団となると、騎士団に報告した方がいいかしら。でも、今はあちこち戦乱の影響でごたついたままでしょうから‥‥」
 首を捻るギルドの女性係員に、周囲にいた冒険者達の視線が集まる。その場にいた皆が、その先の言葉を待っているのは明らかだった。
「分かったわ。ギルドからの依頼としましょう。ただ、問題は報酬だけど‥‥」
 今回の場合、盗賊を退治した後に彼らから得た戦利品を換金するのが妥当だろうか‥‥と、係員は思案を巡らせたが、そこで思いも寄らぬ提案が出た。
「あの‥‥。この剣では駄目でしょうか‥‥」
 逃げ延びてきた娘が、護身用に持っていたらしい剣をギルド員に見せた。
「逃げだした時、父が持たせてくれた物なのですが‥‥」
「う〜ん、剣一振りじゃ‥‥‥‥ん? ちょっと、見せてくれない」
 そう言うと、係員は娘から剣を預かり、鞘から引き抜いてその刀身を確かめた。
「やっぱり‥‥。これ、無銘の業物ってやつだわ。これなら‥‥」

 新たな依頼が出された。
 内容は盗賊団の討伐。敵の人数や、現在彼らが潜伏している村の地形などを考慮し、冒険者を二つの部隊に分けて盗賊団を襲撃するのが妥当ではないか、というのがギルドの判断だった。
 ただし、その中で報酬が与えられるのはただ一人だけ。
 しかし、その報酬は‥‥魔法の力を秘めた剣との事だった。

●今回の参加者

 ea1910 風見 蒼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5391 サラ・フォーク(22歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6089 ミルフィー・アクエリ(28歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7422 ハインリヒ・ザクセン(36歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8955 アミィ・アラミス(27歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 eb1144 グレリア・フォーラッド(34歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb1249 ヤト・シエラレオネ(39歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

ティウン・ヴォンク(ea9192

●リプレイ本文

 その景色が語る最後の村の姿は、略奪、暴力、死‥‥。
 惨劇の後には、もう何も、かつての村の姿を残すものはなく、そこにあったのは、ただ己が欲望を満たすために力を振るう邪な心を持った者達の姿。
 それは、けして許してはならない者達の姿‥‥。

「連中、村に作物や家畜が残ってる間はまだしばらく留まる気でいるみたい。あちこち荒らされて酷いものだったわ‥‥」
 村の入り口へと抜ける森の少し手前。待機していた仲間達にサラ・フォーク(ea5391)は偵察で分かった内容を伝え始める。
「向こうの数は二十人前後。こっちの別働隊の数を合わせて考えても、人数的には向こうの方が若干上ね」
 その他にも、周辺の地形や敵の装備など、様々な情報をサラは仲間達に伝えた。隠密能力に優れた彼女はその力を存分に発揮し、多くの情報を仲間達に教えてくれた。こちらのメンバーの通ってきたルートが裏道に近いルートであった事も幸いしたのかもしれない。離れて村の様子を窺うのに丁度良い場所も幾つか発見できていた。
「助かるのう。これなら、向こうに迷惑をかける事も無く、こちらはこちらで上手く動けるじゃろうて」
 風見蒼(ea1910)が賞賛の言葉を口にし、サラも礼を返したが、当の彼女はその言葉に少し戸惑っているのか、余り素直に喜べてはいない様子だった。
「まあ、ここに来るまで皆には色々と迷惑をかけてしまったし、これくらいはね‥‥」
 その働きは大きいサラだったが、実は冒険者として初歩的な失敗を幾つかしていた。まず、保存食を買い忘れており、今回の冒険に必要な食料は全て仲間達から分けてもらっていた。また、事前の荷物の整理が不十分であったため、出発時に彼女の馬に余分な荷物を積みなおす事に少し時間を割く事にもなった。
「ふみゅ‥‥。私もどこかで迷惑をおかけした分をお返ししないといけませんね」
 食料に関してはミルフィー・アクエリ(ea6089)、ハインリヒ・ザクセン(ea7422)も数日分足りず、蒼とリノルディア・カインハーツ(eb0862)も僅かに一日分だけ足りなかった。長期の依頼でのこういった基本的な準備の怠りは、そのまま依頼全体の失敗を招く事もある。幸いな事に、他の仲間達はその辺を予想していたのか、かなり多くの食料を持ち込んでいる者ばかりだったので、大事には至らずに済んだ。
「えっと、その‥‥が、頑張ります」
 少しバツが悪そうな表情ではあるが、リノルディアは小さな背筋のピンと伸ばしながら精一杯の笑顔でそう言った。
「あら? 別に気にする必要はないのよ。困っている仲間に救いの手を差し伸べるのは、当然の事。ああ、何と美しい心がけかしら‥‥。やはり、美しい者は心もまた美しい‥‥」
「そうですわ、気にする必要などありません。ただ、私への感謝の心は忘れないようになさい! おーほほほほほ!!」
 話の途中で自己陶酔を始めてしまったヤト・シエラレオネ(eb1249)。そして、高笑いをしているのはアミィ・アラミス(ea8955)。
「‥‥これはもしかして狂化か?」
 ヤトとアミィの二人のハーフエルフの様子を見ながら、ハインリヒはグレリア・フォーラッド(eb1144)に訊ねてみた。
「‥‥違うわ。それと‥‥できれば一緒にしないで‥‥」
 半ば、頭を抑えるように、グレリアは同族の二人の姿を眺めていた。

 数刻が過ぎ、うっすらと陽の光が辺りに広がり始めた頃、冒険者達の作戦は開始された。
 グレリア、リノルディア、アミィ、サラの四人は森の中に身を隠し、村の様子を窺っていた。
 その彼女達の視線の先で、村にいた盗賊達の動きが急に慌ただしくなる。寝ていた者は叩き起こされ、幾つかの大きな声が聞こえてくる。
「敵襲だ!」
「どこだ!?」
「橋のところでさぁ! 冒険者が集団で攻めてきやがった!!」
「野郎ども、行くぞ!! 返り打ちにしてやれ!!」
 浮き足立つ盗賊達の姿を確認すると、今まで息を潜めていたサラ達も口を開いた。
「向こうが動いたみたいね」
「それでは、こちらも始めようかしら!!」
 アミィが鞭を手に飛び出したのを最初に、サラ、グレリア、リノルディアも次々と茂みから飛び出し、森を一気に抜けて村へと入った。
 そして、先手必勝とばかりに、手近な相手を見つけるとそれぞれの武器で奇襲をかけた。盗賊達にしてみれば、完全に背後をつかれた形。
「今まで奪った命の代償、その命で償ってもらうわ‥‥」
 ――ヒュン!!
「があっ!?」
 先制とばかりに放たれたグレリアの矢は狙い違わず、賊の一人に直撃する。
「さあ、喜びなさい!! この私が遊んで差し上げますわ!!」
 ――ピシィッ!! パシィッ!!
「ちいっ、こっちにもいやがったのか!!」
 鋭い鞭の音を響かせ、一気に敵の注目を集めるアミィ。それにより、その場に残っていた盗賊達の多くが、彼女達に一斉に向かってくる事となる。
「ちょっと!! こんなに敵が多いなんて聞いてませんわ!!」
 向かってくる敵の数に逃げ腰になるアミィ。
「皆、こっちへ!! 早く!!」
「森に逃げ込むよ!」
 今度はサラとリノルディアが先になって、四人は撤退を始める。
「逃がすな、追え!!」
 当然、追いかける盗賊達。
「おい、妙だぞ。いやにあっさりと退きやがったが、森に誘いこむ罠じゃないのか?」
 一部の盗賊達がそう気付いたが、
「構うかよ!! このまま逃げられるなんざ、俺達の腹の虫がおさまらねぇ!!」
 どうやら、頭に血が昇っている者が多いらしく、盗賊達は次々とアミィ達を追いかけていく。
 それが、自分達にどんな結果を招くかも知らずに‥‥。

「‥‥待っていたぞ外道共。ジーザスの名の下に、今より我が剣にて天罰を下す」
 アミィ達を追い、森へと駆け込んだ盗賊達を最初に待ち受けていたのは堅牢な鎧に身を包み、聖像の刻まれし剣を振るう神聖騎士ハインリヒ。
 盗賊達の足が一気に止まる。
(「今ね‥‥」)
 ハインリヒの背後に逃げ込んですぐ、サラは携帯していたスクロールを広げた。
 ――ピカッ!!!
「くぅっ!?」
「なっ!?」
 突如、視界を襲った閃光に盗賊達の何人かが視力を奪われる。ダズリングアーマーの魔法だ。当然、そこにできた隙を見逃すはずもなく、ハインリヒは剣を振るう。先頭にいた盗賊の一人がその剣の直撃を受けて倒れると、盗賊達に焦りが生まれる。
「下がれ!!」
「させません」
 ――ゴゴゴッ!
 だが、隊列を変えようとした盗賊達を、今度はある物が妨害し、分断する。それは、リノルディアが大地より出現させた巨大な壁、ストーンウォール。
「くそっ‥‥!」
「さあ、楽しませてもらいましょうか。そうそう‥‥あなた達の相手をするために、とっておきの物を用意しておきましたわ。害虫潰しの聖具、あなた達のような輩には最適ですわね」
 恍惚とした表情を浮かべるアミィ。その手には神秘の力を秘めたメイス。
「このような者達に情けは無用。全力で潰します」
 そう言いながら姿を現したヤトは、無数の棘が仕込まれた鞭を手にしている。
 その冒険者達に睨まれた盗賊達の顔は、まるで今から一方的に拷問でも受けるかのような恐怖を感じているようにも見える。
 だが、その中で余裕のある表情を浮かべている盗賊が一人。重厚な鎧に身を纏い、大剣を構えた男だ。
「さては、貴殿がこの者達の統率者か‥‥。村人達の命を奪った罪は重いぞ。覚悟はできていような」
 男の眼前に剣を突きつけるハインリヒ。だが、男は表情一つ変えずに言い放つ。
「偉そうな口をきくのは、勝ってからにするんだな」

 ストーンウォールで分断された範囲で起こっている前衛側での戦いの一方、後衛側。
「はああっ!!」
 戦闘の始め。蒼は単身、敵の中に切り込んだ。敵ウィザードの一人を捉え、見事それを撃破するも、反撃とばかりに発動されたバードのコンフュージョンの魔法を受け、さらには追い討ちとばかりに敵のレンジャーの矢を浴びせられ、負傷。後退する。
「くっ、不覚‥‥」
「そこっ!!」
 グレリアは弓、サラはスリングでの攻撃。それらは呪文の詠唱中であった魔法使い達を襲い、その詠唱の成就を防いでいた。敵のレンジャーによる弓の攻撃もあったが、二人はそれを何とかかわして凌いでいる。後衛側では、森という地形を利用しての遠距離での攻防が中心となった。
 たまらず、敵のバードは高速詠唱でシャドゥフィールドを展開する。
「それで防げるほど、甘くはないわよ」
 広がる闇に眼を凝らし、僅かな動きを頼りに、グレリア達は敵の位置を探る。放った矢は先ほどまでの命中率はないが、それでもまだ敵を捉えた。
 結局、彼女達はそのまま一方的な攻撃で魔法使い達を葬ると、続いて敵のレンジャー達との射撃戦に入り、これもまた撃破した。

 前衛側の戦いに戻ろう。
 ハインリヒ達はその盗賊に苦戦していた。
 他の盗賊達は何とか撃破していたが、ヤトは盾を砕かれ、アミィも大剣の攻撃を受けて重傷。今は後方に下がっている。
 リノルディアが後方より魔法の援護を行うが、小さな風の刃は敵の鎧に阻まれ効果が薄い。アミィも聖なる力による魔法攻撃を試みたが、やはり効果は今ひとつ。
 だが、それでも‥‥。
「てめえら、いい加減しつこ‥‥ちぃ!!」
 ハインリヒに一撃を浴びせたところで、盗賊が振り向いた先には助走をつけた短槍の一撃を繰り出すミルフィー。
「女だと思って甘く見ないでくださいなのです!」
「がはっ‥‥!? くっ、調子に乗るんじゃねぇ!!」
「きゃあ!」
 傷つき、弾き飛ばされ、それでも冒険者達は諦めなかった。治療薬を使っての回復や、連携を取っての攻撃の繰り返し。小さな有効打を積み重ねていく。
 そして‥‥。
「これで‥‥!」
「終わりなのです!!」
「‥‥っ‥‥く‥‥がああああーーーっ!!!」
 最後に、彼らは勝利を掴んだ。

 戦いを終え、冒険者達はキャメロットへと戻った。

 余談かもしれないが、戦いの後、蒼は倒した盗賊達の装備から何とか売り払えそうな物を幾つか回収してきており、それによって若干ではあるが冒険者達に収入があった。
 なお、魔法の剣の受け取り手には、別働隊にいた者が選ばれたとの事だ。