救え! 未来の冒険者
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月17日〜10月22日
リプレイ公開日:2004年10月22日
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●オープニング
当の子供達にしてみれば、それは単なる遊びのつもりだった。
きっかけは、ほんのちょっとした一言。
「やっぱり冒険者って格好いいよな〜」
ギルドから出てくる冒険者達の姿を見ながら、瞳を輝かせる少年。
「そう? 僕から見れば、あんなの馬鹿のやる仕事だよ。盗賊と戦ったり、得体の知れない魔物と戦ったり、宝があるかどうかも分からない遺跡に出かけたりさ。命がけの仕事なんて、僕はしたくないな」
彼とは対照的に、もう一人の少年はつまらなそうだ。
「お前、夢がないな〜。それがいいんだよ。分かんねぇか?」
「分からないよ。それに僕、将来はお父さんの後を継いで、お医者様になるって、もう決めてるんだ」
彼らの側にもう一人、冒険者達に‥‥特に杖を携えたウィザード達に憧れの眼差しを向ける少女の姿もある。
「私は分かるな〜。呪文を唱えながら杖を振ったりするの、やってみたいな〜。もうちょっと大きくなったら、ケンブリッジの魔法学校にいけるかな〜?」
「よ〜し。それじゃあ、今日は冒険者の真似して遊ぼうぜ。あ、あそこに怪しい奴がいるぞ。きっと盗賊に違いない。なあ、こっそり後をつけてみようぜ」
そう言う彼の視線の先には、ヘビーアックスを構えた、人相のすこぶる悪い男の姿があった。
「え〜」
「つべこべ言うなよ。ほら、行くぞ」
こうして、三人の子供達は仲良く『冒険者ごっこ』を始めた。
「‥‥で、その相手が本物の盗賊だったと」
わんわんと泣きながらも、少女はギルドの受付の係員の言葉に頷いてみせた。
少女の話では、盗賊の男は郊外にある廃屋を根城にしているらしい。
男を追跡していた途中で、子供達も随分遠くに行くのを不審に思い、引き返そうかという相談もしたのだが、ついつい最後までついて行ってしまったのだそうだ。
物音を立てないように注意しながら、そっと家の中を覗いたところ、盗賊仲間と思われる男達が数人おり、顔を合わせるなり、今度はどこそこの金持ちの家に押し入ろうか、などという相談を始めたとの事。
身の危険を感じ、急いでその場を離れようとしたところを、運悪く見つかってしまったのだという。
少女もあと少しで捕まりそうになったのだが、一緒にいた少年達が何とか頑張ってくれたおかげで、自分だけは逃げてくる事ができたらしい。
「厄介な事になったな‥‥。報酬に関しては後でどうにでもなりそうだが‥‥」
ギルドの係員は周囲を見回すと、その場にいた冒険者達に大声で呼びかけた。
「話は今聴いた通りだ! 誰でもいい! 盗賊に捕まった子供達を大至急助けにいってくれ!」
●リプレイ本文
必ず助ける。絶対に殺させやしない。
そう思い、彼らはひたすらに走った。
一分でも、一秒でも早く‥‥。
ギルドを飛び出して、どれくらい経っただろうか‥‥。
たどり着いた先に、その廃屋はあった。
「‥‥何とか間に合ったようだ。中にはまだ、子供のものと思われる呼吸がある」
ブレスセンサーで廃屋内の状況を調べたスプリット・シャトー(ea1865)の言葉に、一同は安堵の表情を浮かべる。
「本当はもっと情報が欲しいところなのだが、仕方ないか‥‥」
スプリットはここに来る前、逃げ延びた女の子に廃屋に関する情報を聞こうとしたが、分かったのは、二階などはなく、それほど大きくもない古い建物だという事だけだった。
もう少し詳しく聞いてみたいとも思ったが、捕らえられた子供達の救出が最優先であったため、質問にあまり時間をかけるわけにはいかなかった。
「では、手はず通りに‥‥」
そう言って、イリス・ローエル(ea7416)は小さなジャリ石らしきものを霧崎明日奈(ea7454)に渡した。 それは、魔力を注ぐ事で一時的に黄金のようになる『愚者の石』であった。
「余り人数が少なければ、余計な疑いを招くかもしれぬ。拙者はこちらに残るでござる。皆、くれぐれも罠には気をつけて‥‥」
黒畑緑朗(ea6426)のその言葉が合図になった。冒険者達は二手に分かれ、半数が残り、もう半数が森の中へと消えていく。
「では、行きましょうか」
「ああ。急ごう」
お互いに頷きあい、ロレッタ・カーヴィンス(ea2155)とヴォルグ・シルヴァール(ea6865)が、廃屋の方向へ歩き出すと、明日奈と緑朗もそれに続いた。
四人は廃屋の周囲に罠が張られていないか注意しながら、ゆっくりと森の中を進む。
彼らが、あと数歩で廃屋の入り口というところまできた時の事だ。突然、そのドアが開いた。
こちらの動きに気づかれたのではないかと、全員に緊張が走る。
出てきたのは、大きな袋を抱えながら、ヘビーアックスを担いだジャイアントのファイター。
「くそ、もう来やがったのか!? てめえら、それ以上近づくんじゃねえぞ! こっちには人質がいるんだからなぁ!」
様子を見る限り、こちらに気づいて姿を現したというわけではないようだ。どうやら、廃屋の中に隠してあった宝を持って、逃げ出そうとしているところだったらしい。
冒険者達の予想では、女の子が助けを呼びに行ったことから、盗賊達は廃屋の周辺に罠を張って待ち構えているものと読んでいたのだが、どうやら彼らは、罠を張る間も惜しんで荷造りに励んでいたらしい。女の子が呼びに行った応援が到着する前に、さっさと逃げ出すつもりだったのだろう。
いかにも盗賊らしいと言えばそうだが、宝を優先する余り、彼らの逃走が遅れたのは冒険者側にとって幸運だったと言えよう。
だが、子供達が人質にとられている今の事態が危険である事には変わりない。
「あらあら‥‥そう慌てなくてもよろしいのですよ。私達は、何もあなた方と戦いに来たわけではないのですから」
ロレッタが穏やかな表情で語りかける。
そう、けして焦ってはいけない。冷静に、そして的確に‥‥。
幼い子供達の命がかかっている。失敗は許されない。
「そのままでいいから聞いてくれ。逃げてきた女の子から事情は聞いた。こちらとしては子供達を無事に返してさえくれればそれでいい。何とか黄金を調達できたから、それで手を打ってはくれないか?」
何かの棒らしき物の先に、白い布をつけ、それを白旗のように見せながらヴォルグは取引をもちかける。
「黄金だと? ちょっと見せてみろ」
そう言って廃屋の中から、杖を携えた男が出てくる。姿から察するに、おそらくはウィザードだろう。
「はい、これです」
盗賊達との距離を取りつつ、手の中の『愚者の石』を黄金のように変え、盗賊達に見せたのは明日奈。
「ほう‥‥。いいだろう。とりあえずガキの一人はその金と交換してやる」
「一人だけでござるか? もう一人も解放してはいただけぬか?」
相手のウィザードの言葉に、緑朗が渋い表情を見せる。
「二人とも解放しちまったら、こっちに人質がいなくなっちまうだろうが。言っておくがな、俺達はてめえらの事なんざ信用してねぇ。その金だって、本物とは限らないしな」
その盗賊の言葉に、明日奈は一歩前に出てこう言った。
「その坊や達には何の罪もありません‥‥私がその子達の身代わりになっても構いません‥‥だから‥‥だから‥‥子供達だけは‥‥」
どこか涙ぐんだ切ない表情で、彼女は盗賊達に子供達の解放を懇願した。
自らを犠牲にする事も厭わないその行動が、盗賊達の心に響いたのかどうかは分からないが、どうやら効果はあったようである。
「ガキ二人が金と女に代わるってんなら、悪い話じゃねぇな‥‥。いいだろう。まずはその黄金を確認させてもらおうか? おい、そいつをこっちに投げな」
盗賊のウィザードに言われるまま、明日奈は手の中の黄金を彼に向けて放り投げた。
それは相手の足下の少し前で地面に落ちる。
ウィザードの男はそれを拾うと、しがしげと眺めた。
「いちおう本物のようだな‥‥。よし、一人は返してやる」
ウィザードの声に応じたのか、中から十字架を首から下げたクレリックらしき男に連れられ、両手を縛られた二人の少年が連れ出されてきた。
そのうち一人がそれらの拘束具を解かれ、すぐさま冒険者達の方に突き出された。
自分が助かった事を知ると、少年は大声を上げて泣き出してしまった。
「恐かった‥‥恐かったよぉ‥‥」
「もう大丈夫だ。友達もすぐに助けてやるからな」
ヴォルグは、そっと少年の頭を撫でた。
「さあ、次はあんたの番だぜ」
ニヤリと笑いながら、ジャイアントのファイターが言う。
「はい。‥‥ですが、私が人質になるのは、その子供の解放と同時でお願いします」
「いいだろう」
お互いに一歩ずつ歩み寄る、子供を連れたファイターと明日奈。
全員が固唾を呑んでその状況を見守る。
そして、彼の手が子供から離れ、明日奈に延びようとした瞬間‥‥。
「ぐあっ!」
突然、彼は苦痛に表情を歪めた。
「今のうちに!」
叫んだのはジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)。
彼女は物陰に潜み、ずっと機会を窺っていたのだ。
戦士の腕には、彼女が投擲したナイフが深々と刺さっている。見事な腕前だ。
もちろん、この状況に即座に対応したのは事前に相談を済ませておいた冒険者側。
二人の子供は、説得班のメンバーに連れられて、急いでその場を離れる事ができた。
「くそっ!」
すぐさま追いかけようとした盗賊達の前に、物陰に潜んでいた冒険者達が一斉に姿を現し、彼らの前に立ち塞がる。
「チッチッチッ! 悪いけどあんたらの好きにはやらせないよ」
追跡しようとするクレリックに向かって、ジョセフィーヌは矢を打ち込む、
「未来の担い手である若者をこんな事で死なせるわけにはいかんな。誰一人この先へは行かせんぞ!」
両の手に得物を持ち、イリスは盗賊達を睨みつける。
「こうなれば魔法で‥‥」
「させるか!」
印を結ぼうとしたウィザードに、日本刀を持って切りかかったのは龍深冬十郎(ea2261)。
突然の攻撃に、ウィザードは対応できずに直撃を受けた。
「貴様!」
仲間を倒した冬十郎めがけ、廃屋の中から飛び出してきたのは敵のファイター。こちらの戦いはそのまま、この二人の鍔迫り合いとなったようだ。
その一方、戦士系同士の戦いとしては、ジャイアントのファイターである敵と、エルフのファイターであるイリスの戦いも始まっていた。ジャイアントの得物はヘビーアックス。イリスの得物はダガーとナイフだ。まさに、豪と柔の戦いだが、押されていたのはイリスの方だった。
実のところ、実力的にはイリスの方が上である。問題は、彼女がシュライクの連続攻撃という戦法を取っていた事にある。この戦法、確かに命中すれば敵に与えるダメージの増加を期待できるが、それゆえに、相手に攻撃を命中させるために要求される技術は普段の攻撃の時以上だ。もし、イリスの剣の腕がもう数段上であれば、今回の敵に対してより有効な戦法であったのだが‥‥。
「こいつら、思ったよりやるな‥‥。必殺技なんて試せる相手じゃないか‥‥」
イリス同様、冬十郎も技の使用に困っていた。狙っていたのはスマッシュEXとシュライクを合成した一撃だったのだが、この攻撃は非常に難易度が高い。達人級の腕を持つ者でさえ、この合成技を使う相手は慎重に選ばねばならないだろう。今の冬十郎では、この攻撃を成功させる事のできる可能性は極めて低い。バーストアタックEXの使用も考えていたが、こちらも少し難しいようだ。
だが、少々苦戦はしたものの、時間が経つにつれ、流れは冒険者側に傾いてきた。イリス達が苦戦している間に、ジョセフィーヌはクレリックを、説得班で唯一残った緑朗はレンジャーをそれぞれ倒していたのである。
これにより、スプリットも魔法による支援をしやすくなる。
そして、冬十郎も敵のファイターに紙一重の差で勝利した。
残るはただ一人。
「こうなったら、てめぇだけでも‥‥!」
渾身の力をこめて、ジャイアントはイリスに向かって斧を振り上げる。
だが、そこにできた一瞬の隙を彼女は見逃さなかった。
「これで‥‥終わりだ!」
数時間後。
冒険者達は無事にギルドへと帰還していた。
盗賊達が奪っていた品々は、ギルドの方で元の持ち主を探して返してくれたそうだ。
後日、冒険者達の報酬は、子供達の保護者と、盗品の元の持ち主からの謝礼金によって支払われた。
もっとも、冒険者達にとっての一番の報酬は、今もどこかで自分達を見ているかもしれない子供達の、元気な笑顔だったそうだ。