力ある者達の死闘

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜08月02日

リプレイ公開日:2006年08月02日

●オープニング

 広大な大地に豊かな森の広がる国、ロシア。
 そして、森は多くの命を育み、守り、人々に恵みをもたらす。
 だが、人々のより豊かに暮らしたいという欲求は、それだけでは満たされない。

 キエフ。「森の町」と呼ばれるロシア王国の首都である。
 ビザンチンに続くドニエプル川の河岸に、森を割って大きく街並みが広がっており、うっそうと茂った森の小高い丘の上に、国王ウラジミール一世の居城がある
 数年前よりロシアでは、そのウラジミール一世の国策で大規模な開拓が行われていた。
 それというのも、キエフには人口の流入が続いており、既に都市は人口が過密な状態となっていたからだ。
 そのため、かの国王は近隣への入植を推奨した。
 だが、森を切り開くということは、そこに棲む者達の居場所を奪うということ。当然、そこに棲む者達はそれを望みはしない。
 多くの魔物が入植者達の森への進出を阻み、国王の政策は依然として十分な成果をあげることができずにいた。
 また、キエフから少し遠ざかれば、そこは森によって生み出された暗黒の国。蛮族達の領域。建設中の開拓村までの道は無法地帯も同然であり、そのこともまた、人々を悩ませていた。

 結果、これらの問題に対処するために、人々は冒険者という名の力ある者達に助けを求める。

 ここ、キエフの冒険者ギルドの壁には、今日もまた新たな依頼が張り出されていた。
「よし、聞いてくれ。仕事は、ここから北に二日ほど歩いたところにある街道に出る盗賊退治。向こうの腕っ節はそれなりで、報酬も相応だ。腕自慢、命知らず、殺し合いの好きな奴、とにかく強い奴を歓迎するぜ」
 そう呼びかける者の姿を見れば、周りの冒険者達と比べても劣らぬ、筋骨たくましい豪腕の男だ。
「言っとくが、この国じゃ中途半端な奴は周りに容赦なく叩き潰される。この依頼もそうだ。舐めてかかるとただの怪我じゃすまねぇ。‥‥今ニヤリとした奴ら、良い顔だ。気に入ったぜ。さあ、受けたい奴は集まりな!」

●今回の参加者

 eb0777 紅 葉(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5072 ヒムテ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5666 ディノン・ハーマン(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5721 カマラ・プリエスタ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5737 レティルシェ・フェイスレス(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5767 レオニード・ストラホフ(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 彼らは向かう。
 そこに、倒すべき敵がいる。戦わなければならぬ相手がいる。
 理由など、それで十分。
 だが、力ある者達よ、忘れるな。汝らが敵は、牙持つ狩人なれば‥‥。

「すみません、お待たせしてしまって‥‥」
 小さな荷車を引いて歩きながら、アトラス・サンセット(eb4590)はギルドの前で待つ仲間達の元に帰ってきた。彼が荷車を調達してくるから少し待っていて欲しいと仲間達に頼んでから、半日以上が経過してしまっていた。
「大丈夫で御座るか? 何かあったのではないかと心配したで御座るよ」
 磧箭(eb5634)がそう声をかけたが、
「ええ、大丈夫です」
 と、アトラスは笑顔で返してみせた。
 本当のところを言えば、アトラスはかなり疲労していた。というのも、目当ての荷車を売ってくれる相手が中々見つからなかったせいで、今までほとんど走りっぱなしだったからだ。国をあげて周辺地域の開拓に臨んでいる今のロシアにおいて、荷車や荷馬車の類は需要の多い貴重な道具。近年発見された月道により貿易が盛んになったとは言われているが、それでも欲しい物が欲しい時にすぐ手に入るほど、この国には物が溢れているわけではないのだ。時間こそかかったものの、何とか目的の物を入手できた今回のアトラスは幸運に恵まれていたと言ってもいい。
「それじゃ、いっちょ気合入れて行きますか‥‥って、おい、誰か足りなくないか?」
 あらためて出発という時になって、ヒムテ(eb5072)が九人いたはずの今回の依頼参加者が八人しかいないことに気づく。
「そういえば依頼を受けた時は、他にも一人いたね。どこに行ったのかね?」
 アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)も辺りを見回してみるが、見当たらない。
「さすがにこれ以上、ここで時間をとるわけにもいかないわ」
「‥‥だな。今になって逃げたのかもしれねぇし、もう放っとけ」
 しばらく待った後のレティルシェ・フェイスレス(eb5737)やディノン・ハーマン(eb5666)の提案に、皆も仕方がないと頷いた。この時、一歩間違えば、自分も置き去りにされていたかもしれないと考えて、アトラスは少し血の気の引く思いがした。
「不安ですね‥‥」
「確かに、あまり良い出足という感じではありませんね」
 カマラ・プリエスタ(eb5721)と紅葉(eb0777)は、何となく嫌な予感がして顔を見合わせた。この予感が、ただの杞憂で終わってくれることを二人は心から願った。

 キエフを離れ、冒険者達はひたすらに目的地の森を目指して進んだ。
 だが彼らの進むその道は、少し開けた場所に出たかと思えば、すぐにまた森の中。
「暗黒の国ねぇ‥‥。まったく、上手いこと言った奴がいたもんだ」
 歩きながら、故郷を思い出してヒムテはそう呟いた。彼の生まれた蝦夷にも、広大な森はある。だが、この国の森には全く別の、得体の知れない何かがそこら中に隠れているのではないかと思わせる、そういった不気味があった。
 実際、今のロシアは、言うなれば点と線で構成された国。村と村の間が、魔獣や蛮族達の領域となっている場所は少なくない。
「これでも一応、開拓中の村に向かうための道なのですね」
 森歩きに慣れた葉からでも、そんな言葉が出た。彼女もまだこの国には来たばかりの身。この環境に慣れるには、もうしばらくかかるかもしれない。
 二度目の野宿を終え、また半日ほど歩いた後で、一行はようやく目的地の森に辿りついた。
 そして幸か不幸か、目的の敵にもすぐに遭えた。
「その積荷、置いていってもらおうか」
 前方から剣を持った男が二人。冒険者達の左右からは、短剣を持った者と弓を構えた者が一組ずつ。ギルドで聞いた情報が確かなら、他にファイターが一人とレンジャーが三人いるはずだが、姿が見えないところから判断して、どこかに身を隠しているのだと思われた。
「‥‥囲まれましたね」
「警戒はしていたはずなのだがね‥‥」
 厳しい表情を浮かべる葉とアナスタシア。ここまでに何度かブレスセンサーを使っていたアナスタシアも、やはり使用回数と効果時間が限られていたためか、今回は上手くいかなかったようだ。
「構いません。どちらにせよ、ここまでは予定通りです。あとは‥‥」
 そう言って、急ぎ来た道を引き返そうと走り出すアトラス。
 ――ヒュッ!
「‥‥くっ!?」
 だが、走り出した彼の進路上、どこからか飛んできた矢が突き刺さる。反射的に彼が飛び退いていなければ、間違いなく彼はその矢を受けていただろう。
「おいおい、逃げるなよ。お前らが持ってる物も一緒に頂くに決まってるだろうが?」
 賊の一人が、下卑た笑みと共に冷酷な言葉をアトラスに言い放つ。
(「用意周到な奴らで御座るな。姿の見えぬ者が何人かいると思えば、気づかぬうちに退路まで塞いでいたで御座るか‥‥」)
 箭の緑の皮膚を、小さな汗の雫が伝う。甘く見ていたつもりではないが、どうやら自分達が思っていた以上に、今回の敵は厄介な相手のようだ。
(「やっぱ、作戦の詰めが甘かったか。どうしたもんかね、こりゃ‥‥」)
 皆が睨み合いをしている後方の森の中、奇襲を行うために離れて後からついて来ていたヒムテは下手に身動きの取れない状況に頭を抱えていた。せめて、隠れている敵が一人であったなら、事前の打ち合わせを無視してでも仲間の退路を確保しに一人で動くこともできるが、四人もいては、先に動きをみせた自分が潰されてしまう可能性の方が高い。
 ヒムテと同様に、荷車の後方にいた葉、レティルシェ、アナスタシアも動けずにいた。敵が自分達の前方のみにいるのならともかく、後方から弓矢に狙われていると分かっていては、詠唱中に無防備になってしまう魔法の使用は難しい。
 焦りを覚える冒険者達。しかし、事態はすぐに動いた。
「いいねぇ。最高に楽しくなってきやがったじゃねぇか‥‥」
「ディノン様‥‥? 何を‥‥」
 カマラが声のした方へ視線を移せば、そこには血走った目で笑みを浮かべる男‥‥いや、獲物に飢えた野獣が一匹。この緊張感の中で、耐え切れず狂化を起こしたディノンの姿があった。
「さあ、俺を楽しませろ!!」
 大槌を手に、一直線に前方の敵へ駆け出すディノン。
「ちっ、こいつ!!」
 この状況で向かって来られると思っていなかったのか、盗賊達も慌てて剣を構えなおす。
 ――ドゴゥオッ!!!
 凄まじい轟音と共に、賊の一人の身体が、破壊された剣ごと宙に飛ぶ。
「そんなもんかよ‥‥。もっと俺をゾクゾクさせろやぁ!!!」
 咆哮するディノン。だが、次の瞬間。
 ――ビュッ!
「があっ!?」
 後方から一斉に飛来した複数の矢が、彼の背中に突き刺さる。懐から急いで回復薬を取り出そうとするが、口に運ぶまでには至らず倒れるディノン。
「なんて無茶を‥‥」
 これ以上、彼が攻撃を受ければ確実に死に至ると判断し、慌ててアトラスは敵の注意を引くべく前に出る。
「‥‥急げ!! 動くなら今しかねぇだろうが!!」
 じっとしていられず、叫んだのはヒムテ。
 ――ザッ!!
 そして、後方に隠れていた自分が姿を見せたことで、同じく身を隠していた残りの四人の賊が一斉に動きをみせたことに、ヒムテは気づく。
「やるしかねぇってか。ちっ‥‥」
 もはや躊躇っている暇はない。葉とアナスタシア、そしてはレティルシェそれぞれ魔法の詠唱に入る。
 それを何とか邪魔させないために、箭とカマラは左右へ別れ、賊の注意を引こうとする。
「邪魔はさせないで御座る!」
 何とか先制とばかりに、箭は敵の顎元に拳を叩き込む奥義、龍飛翔を繰り出すが、
「おっと!」
「な‥‥っ!?」
 意外なほど容易く敵のファイターにかわされてしまう。相手の身のこなしはそれほど素早くは見えない。それは、素人がとっさの反射でかわせてしまえる程度でしか、箭がまだこの奥義を使えないことを意味する。この後、箭は下手に攻撃に転じることを諦め、防御に徹した。
「さあ、いくわよ。私の力、思い知らせてあげるわ」
「‥‥何だ、こりゃあ!!?」
「どっから出やがった、この化け物!」
 突然伸びたレティルシェの腕、そして突如現れた全長三メートルもの大ガマに、盗賊達は驚愕していた。どちらも魔法の成した奇跡の業。とはいえ、おそらく盗賊達も長くは動きを止めないだろう。
「道を開けてもらおうか!」
 突如、森の中を走る一筋の雷撃。
 三人の弓矢の集中攻撃を浴びながら、かろうじて逃げかわしを続けていたヒムテにとって、天の助けにも思えるアナスタシアの魔法での支援。
「アトラス様、今のうちに!」
 瀕死状態のディノンの身を急いで確保すると、前方の敵の注意を一身に受けていたアトラスに声をかけるカマラ。
「はい!」
 後退しようと素早く身を翻すアトラス。卓越した体術のなせる業か、彼はまだほとんど傷を負っていなかった。
「はっ! 誰が逃げていいって言っ‥‥うおっ!」
 追う盗賊達。だが、そこには葉の大ガマが立ち塞がる。
「誰が追っていいと言いました?」
「こいつ‥‥!」
 繰り返される攻防。だが、今の冒険者達の頭にあるのは賊に勝利することではなかった。どうにかこの場を逃げ切ることのみ。

 しばらく後、先の戦場とは違う森の中。
 ある者は深い傷を負い、ある者は荷物を失い、それぞれに大きな痛手を受けつつも、何とか賊の追撃から逃げ延び、かろうじて命を永らえた冒険者達の姿があった。だが、そこに喜びの表情を浮かべる者はいない。
 彼らには、賊に対し反撃に出るだけの力はもはや残っていなかった。それが意味するのは、依頼の失敗。自分達の敗北。
 後日、キエフに戻った冒険者達に知らせが入る。それは、あの森から賊が姿を消したとの知らせだった。
「狩場を変えたか、しばらく身を隠すことにしたんだろう。そのうちまた、どっかで誰かが襲われることになるな」
 冒険者達の胸に、ギルド員のその言葉が重く響いた。