森の中の小さな精霊

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月15日

リプレイ公開日:2006年08月17日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であるが、時には少し違った依頼も舞い込む。
 今回の依頼も、そういったものの一つ。

 その日、ギルドには珍しい依頼人が来ていた。まだ十二、三歳くらいの子供ばかりが五人。その子供達の話を、ギルドの係員が聞いていた。
「アースソウル‥‥ですか?」
「うん。きっとそうだと思う」
 その少年が『彼』に出会ったのは、つい先日のこと。とある開拓途中の土地から、家族とキエフに戻ってくる馬車の中、ふと目に移る森の景色の中に、小さな男の子の姿を見つけた。
「けれど、その姿が見えたのはほんの少しの間で、その男の子は突然、青白いもやのようになって消えてしまったんですね? それで、友達にその話をしたところ、旅人の噂や物語などに登場する森を守る精霊、アースソウルに違いない、ということになって‥‥」
 確認するように、ギルド員が子供達から聞いた話を繰り返すと、
「皆で会いに行ってみたいって話になったんだ」
「でも、子供だけで森に行くのは危ないから駄目だって、親は反対するし‥‥」
「だから、僕らと一緒に森に行ってくれる冒険者の人を紹介して欲しいんだ」
 と、子供達は真剣な表情でギルド員に詰め寄る。よほどアースソウルに興味があるのだろう。
 ギルド員が少し調べてみれば、問題の森は少しキエフから距離があり、ゴブリンやオークなどの魔物が多く生息しているものの、それ以上に凶悪な魔物の目撃情報はなく、それなりの人数の冒険者がいれば、子供達の安全を確保するのはそう難しくないと思われた。
「分かりました。それでは、募集をかけてみましょう」
 その一言に、子供達から大きな歓声があがった。

●今回の参加者

 ea5077 大曽根 萌葱(28歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8876 宗祇 祈玖(17歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0689 アクアレード・ヴォロディヤ(20歳・♂・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb1731 ケイオス・ヴェトレイヤー(46歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5072 ヒムテ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5610 揚 白燕(30歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)

●リプレイ本文

 始まりは好奇心。
 抱くのは憧れ。
 そして、今の自分達を動かすものは、小さな勇気。

 冒険初日。冒険者の一行と子供達はそれぞれに旅立ちの準備を済ませ、ギルドの前に集まっていた。ただ、子供達の見送りに、何人かの親が一緒に集まっていた。
「何度も言うけど、ちゃんと皆さんの言うことを聞いて、気をつけて行ってくるのよ」
「もう、分かってるってば〜」
 冒険者が何人も護衛についての旅とはいえ、やはり心配なのだろうと察し、ヒムテ(eb5072)はスッと前に出る。
「大丈夫。この子らは、俺が体張ってでも守ってやっからさ」
 ヒムテに続いて、レドゥーク・ライヴェン(eb5617)や大曽根萌葱(ea5077)も、それぞれに親達へ挨拶をする。こういった些細な行動の如何が、後の冒険者達自身の信頼や評判にもつながることを彼らは心得ているのかもしれない。
「子供達の護衛の任、必ずやり遂げて見せましょう」
「私達がしっかりとお守りしますので、どうかご安心を」
 彼らの丁寧な対応に、親達も少し安心した様子で、
「よろしくお願いします」
 と、丁重に三人に頭を下げた。
 一方で、子供達はと言えば、
「ミーは河童の磧箭で御座る。ボーイミーツガール、コールミー『かわや』で御座るよ〜」
「ほ〜らワンちゃん、こっちこっち〜!」
「あ〜、逃げた〜」
「こら待て〜」
「‥‥って、聞いて欲しいで御座る〜!!」
 という風に、磧箭(eb5634)の連れてきた幼いハスキーやフォックスの可愛さに出発前から大はしゃぎしていた。筋骨逞しく体力のある磧も、子供達のあり余る元気さには振り回され気味のようだ。
 また、子供達がそんな状態だったので、先程から彼らと話す機会を窺っていた宗祇祈玖(ea8876)などは、なかなかそのタイミングが掴めずに困っていた。
「子供たちニ挨拶、しないト‥‥いけナイ‥‥ケド‥‥。えト‥‥どうシヨ‥‥」
 しかし、オロオロする祈玖とは逆に、これは良い機会と動いた者もいる。
「集合!!」
 アクアレード・ヴォロディヤ(eb0689)が大きな声で一喝すると、子供達は怒られると思ったのか、慌てて彼の前に集まった。
「いいか、道中は勝手に集団から離れたり、大騒ぎはしないことだ。モンスターを呼び寄せる危険もあるし、何よりアースソウルは森を汚すものを許さない。ちゃんと約束は守れるな?」
 そう子供達に訊ねれば、
「「「「「はい!」」」」」
 と、気持ちの良い返事。
「よし。お前達が約束を守るなら、俺は全力でお前達を守る事で、それに応えよう。‥‥さあ、アースソウルを見つける冒険に出発だ!」
「「「「「「おー!」」」」」」
 元気いっぱいの子供達‥‥と、いつの間にか彼らに混じった揚白燕(eb5610)の声。実は彼女、今回が冒険者としての初仕事ということもあって、その胸に抱く冒険への期待は子供達以上のもの。
「初めての依頼〜頑張るしふ〜☆ みんなで一緒にアースソウルを見つけよ〜☆」
 しばらくして、ヒムテ達と保護者達との挨拶が終わると、冒険者と子供達の一行は無事にキエフを出発した。

 問題の森までの道中は実に平和な旅路だった。
 ロシアはその大地の多くが森に覆われ、気が滅入るような暗闇の中を延々と歩き続けて、ようやく目的地に着くという場合がほとんどだが、今回は比較的、進みやすい道だったようで、多少はやはり森の中を抜けることが多かったものの、何度かは太陽の光を浴びながら進むことができた。そのおかげか、夕方になっても子供達の元気は衰えていなかった。
「わっ、祈玖ちゃん、その手綱、ちゃんと持っててよ」
「心配‥‥シナくてモ、大ジョブ‥‥。ハナ、大人しくテ‥‥イイ子ネ」
 出発前はどう会話していいものか迷っていた祈玖も、長い道中の間にすっかり打ち解けていた。祈玖の方でどう話を切り出していいか分からなくとも、同じ年頃の小さな女の子が冒険者をしているとなれば、子供達の方から興味を持って話しに来てくれるのは自然な流れ。祈玖にとって、これはとても嬉しかった。
(「この国ノ人、私ハーフでモ虐めナイ‥‥。皆、優しくシテくれるノ‥‥嬉しイ。お役、立ちタイ」)
 ふと思い出すのは自分が生まれた国と昔のこと。そして、冒険の共として連れてきた驢馬のハナに乗って、上機嫌な笑顔を浮かべる子供達の姿を見ながら、この国に来て良かったと祈玖はあらためて思う。
「たまには良いもんだな。こういうのも」
 連れてきた兎のステラマリスが子供達と追いかけっこをしている様子を見ながら、アクアレードも何となく、一日中、周囲に気を張って疲れた自分の心が癒されていくように感じていた。
「さあ、皆でご飯にしましょ〜☆」
 言ったのは白燕。彼女は子供達や他の冒険者から食料を預かり、自慢の料理の腕を披露すべく、先ほどからせっせと働いていた。パンや肉や野菜は、ほんの一手間で見違えるほど美味しい料理に変わる。保存食の類であっても、それは同様だ。
「ほら、早くこないと無くなっちゃうわよ〜」
 白燕と共に夕食の用意をしていた萌葱が一声かければ、今までやっていたことをそっちのけで、一斉に集まってくる子供達。用意されたその食事に、一斉にかぶり付く。
「美味しい?」
 と、萌葱が訊ねると、口を食べ物で一杯にしていたため喋ることのできない子供達は、うんうんと首を縦に振って答えた。
「ふふふのふ〜♪」
 その様子を見て、調理を担当した白燕は実に得意そうだった。
「大したもので御座るなぁ」
 日々を武術の腕を磨くことに費やし、自分は料理や家事などとは無縁だと思っていた磧などは、こういった技術が冒険者として役に立つこともあるのだと知り、少し感動を覚えていた。
 子供の扱いに慣れた萌葱のような者がいてくれるおかげか、それとも普段から親と共に森に出る機会があって、その危険を知っているのか、これまでの道中で勝手な行動をして自分達を困らせる子供は一人もおらず、意外なほど子供達がしっかりしていたことを嬉しく思った。
「‥‥う゛!?」
 そんな風に思っていた磧の目の前で、男の子の一人が慌てて食事を喉に詰まらせてしまった。
「ほら、飲むで御座る」
 すぐに器に水を入れて差し出してやると、男の子はグビグビとそれを飲み干す。
「危なかったぁ〜。お兄さん、ありがとう」
「なに、お安い御用で御座る」
 しっかりしているように見えて、やはりまだ子供なのだと思うと、磧はやれやれと思いながら、これもまた少し嬉しく感じながら、この子供達のことを守ってやらなければと思う。

 キエフを経って三日目の朝。ようやく目的の森にたどり着く。
「僕がアースソウルを見たのは、こっちの方だよ」
「よし。俺が先に行こう」
 男の子の指差す方へ、弓を携えたヒムテを先頭にして一行は進む。
 誰が注意したわけでもないのに、それまでの道中では続いていた会話がピタリと止んだ。
 皆、周囲のどこかにアースソウルが隠れていないか注意して探していたのもあるが、この周辺は多数の魔物が生息していることも知っているので、騒がしくしてそういったものを呼び寄せてしまうことが恐い。
 ――ガサッ。
「ん?」
 ふいに、一行の進む横の茂みから何かが近づいてくるのが分かった。
「もしかして、アース‥‥」
「下がりなさい!」
 男の子の一人が列から離れそうになったのを、レドゥークが慌てて止める。
 ――ザッ!
「うわっ!? 出たーー!!」
 茂みの中から姿を現したもの、棍棒を持ったオークの姿に驚いて、子供達は一斉に後ろに下がる。
「怖ぇなら、目を瞑ってろ。終わったら声かけてやっからよ」
 ポンっと近くの子供の頭を軽く撫でて、声をかけるアクアレード。ナイトレッドに染め上げられたマントを翻し、槍を構えて前に出たのであった。

 ‥‥しばらく後。
「キリがないで御座るな‥‥」
 ――ガッ!
 ゴブリンの顔面を豪快に蹴り飛ばし、そう呟く磧。
 一行が森の奥へ奥へと進むほど魔物と遭遇する回数が増えてきていた。
「ゴブ‥‥!」
 冒険者達の実力を見せつけられてヤケになったのか、手負いのゴブリンの一匹が手にしていた木の棒を女の子の一人に向かって投げつけてきた。
「きゃあ!」
「伏せろ!! ‥‥くっ!」
 持ち前の機敏さで、素早く女の子を庇うヒムテ。
「‥‥‥‥」
 無言で黒い光の魔法を放ち、手負いのゴブリンにトドメを刺す祈玖。その目には、静かな怒りがあったかもしれない。
「‥‥お兄ちゃん、大丈夫?」
「どうってこと無ぇ。‥‥それに、守るって約束したからな」
 怪我をした右腕の具合を確かめながら、ヒムテは再び立ち上がる。
 しかし、そんな彼らを魔物達は待ってはくれない。
 ――ザザッ。
「また来ましたか‥‥」
 レドゥークの視界には、新たにゴブリンが五匹。そろそろ他の皆も疲弊している。これを倒して、まだ目的のアースソウルに遭えないなら、さすがに諦めて引き返すしかないかもしれない。
 ‥‥と、そう彼が思った時だった。
 ――――――――!!!!?
 突如、形容し難いほどの恐ろしい大きな叫び声が森中に響いた。
 その場にいた全員が反射的に耳を塞ぎ、魔物達は驚きのあまり我先にと走って逃げ出していった。
「‥‥あ、皆、あそこ!!」
 恐る恐る顔を上げ、白燕の示す先を皆で見れば、皆の視界に、木の枝の上に座ってこちらを見ている小さな男の子の姿。
「もしかして‥‥」
「アース‥‥ソウル‥‥」
 誰かがそう呟いて名を呼ぶと、枝の上の男の子は少し笑った後、スウッと白いモヤのようになって消えてしまったのだった。

 帰り道。
「きっと、あの時の叫び声は、アースソウルが私達を助けるためにしてくれたことなんだと思うな」
 先の森の方角を振り返って言う萌葱。子供達も同じように森の方を振り返って頷いた。
 伝説や噂に聞くアースソウルには、こんな話がある。森の守護者であるアースソウルは敵から森を守るために、大きな叫び声を上げて相手を驚かせることがある‥‥と。
「次ガあったラ、今度コソ、お話、したいネ‥‥。出来タラ、友達‥‥なりタイ」
 最後にアースソウルが見せてくれた笑顔を思い出し、祈玖は言う。アースソウルを見て、子供達も同じ気持ちになったのだろう。
「私も」
「僕も」
 と言って頷くと、顔を見合わせて笑った。それを見て、冒険者達も知らず笑顔になる。
 今回、冒険者達は無事に子供達をアースソウルに会わせることができた。けれど、冒険者達は思う。この子供達はいつかもう一度、アースソウルに会いに行くかもしれないと。
 もう一度、あの笑顔に皆で会うために。