ベストパートナー

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 29 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜08月31日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であるが、時には少し違った依頼も舞い込む。

 それは、些細なことから始まった。
 冒険者達がよく集まる酒場の一角で、ジャイアントの大男が実に機嫌の良さそうな顔で何かを喋っていた。その男と同じ卓には、彼の友人らしき別の二人の男がいた。皆、それぞれに剣や鎧を身につけているところから、おそらく顔なじみの冒険者同士というところだろう。
「‥‥というわけで、俺の相棒の大活躍で見事、そのオーガを倒すことができたってわけよ。ま、俺達にかかれば何てことのない相手だったぜ。なあ、相棒」
 言って、男が視線を向けたのはテーブルの下。そこにいたのは、嬉しそうに干し肉を齧っているボルゾイ。
 察するに、どうやらこの大男、自分のペットのボルゾイがいかに優秀かを友人達に自慢していたらしい。
「へえ‥‥。そういえば、最近はペットを飼う冒険者も増えているらしいな」
「良いよなぁ。俺も何か飼おうかなぁ‥‥」
 昨今、冒険者達が冒険の供としてペットを連れ歩くことが多くなった。中には妖精や精霊、ドラゴンを従える者までいる。それらは、ただ可愛がられるだけの対象ではなく、冒険者達を助ける力となることも多かった。風の噂ではあるが、遠い異国で大きな戦が起こった時には、巨大な鳥を従えた冒険者達が大きな功績をあげたとの話もあった。
「まあ、他の奴らも色々とペットを連れているらしいが、それでも俺と俺の相棒のコンビに勝てる奴なんか、いやしねぇな」
 そう言って、大男が目の前のエールに口をつけようとした、その時だった。
「‥‥ぷっ」
 それは、大男達の隣の卓で赤ワインを飲んでいた華奢なエルフの男が発した声だった。
「‥‥おい、兄ちゃん。何か面白いことでもあったか? あぁ?」
 自分が笑われたことが分かったのだろう。大男は相手を威嚇するかのようにドンと大きな音を立ててテーブルを叩き、席を立った。
「これは失礼‥‥。いえね、私もペットを飼っているのですが、そこの犬が私の相棒より優れているようには、とてもとても見えなかったもので‥‥」
 見れば、エルフの男の隣の席のイスには、実に凛々しい一羽の鷲が行儀よく止まっていた。

 しばらく後。冒険者ギルド。
「‥‥で、それが何でこんなことになったんですか?」
 途中まで説明を聞いていたギルドの職員が、依頼人の商人に尋ねた。
「いえね、たまたまその場に居合わせた私が言ったのですよ。『それなら、実際にお互いの腕を競ってみてはいかがでしょうか?』‥‥と」
「それで、『競技会を開きたい』‥‥ですか?」
「ええ。実は、商売仲間達と相談して、近いうちに開拓しようと候補に上がっていた土地がありましてね。しかし、これがまた色々な魔物や動物がいまして、なかなか‥‥」
 頭の回る商人だ、とギルド員は感心し、一方で呆れもした。
 酒場の冒険者達は上手く説得できた様子だが、この商人は一歩間違えれば大喧嘩に巻き込まれて顔に青痣の一つもこさえていたかもしれない。

 競技会の内容はこうだ。
 競技の期間は三日間。参加者は、それぞれ二匹までペットを連れて参加することが可能で、期間中、一日だけ競技の舞台となる森に入り、それぞれに森の中の魔物や動物を狩る。これを日毎に参加者が入れ替わる形で繰り返し、その成績を競う。
 審査員として商人が雇ったシフール達が参加者の行動を見張り、最終的に彼らの協議の上で優勝者が決まるのだが、その成績を最も左右するのは、ペットと飼い主の連携。
 たとえば、二匹のペットを連れていたとして、その連携の評価が今一つということになれば、たとえ倒した魔物の数や質が良くとも、一匹のペットしか連れてこなかった飼い主の方が順位は上になる。しかし、もし連携の内容が同じくらい見事であれば、二匹のペットを従えている者の方が高い技術を有しているものと判断され、そちらの方が上位になる。
 どんなペットを連れてくるのも自由。ただし、飼い主もペットも、その行動で他の参加者にケガをさせたり、何らかの妨害行動を取るようなことがあれば、その場で失格となる。
 森の中には兎、蛇、狼、鷹などの動物を始め、ゴブリン、オーク、オーガなどの魔物もいる。
 なお、参加者は期間中の何日目に参加するかを自分で決めて良い。

「酒場の一件の時の冒険者達はもちろんですが、話を聞いて、その場で参加を希望した冒険者も結構いましてね。既にそれなりの人数がいますが、もう何人か参加していただきたいと思います。よろしくお願いします」
 と、商人は実に人の良さそうな笑顔を浮かべて言ったのであった。

●今回の参加者

 eb0815 イェール・キャスター(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3691 ナダ・ノーチェ(22歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5971 クレムヒルト・クルースニク(28歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 その名を呼んだ時、共に旅した時、共に戦った時。
 時の流れの中で、ゆっくりと、強く結びついた心。
 確かめよう。その心に強く感じる、絆の力を。

 一行がキエフを発って三日目の朝。暗闇に閉ざされていた草原に、少しずつ陽の光が差してくる。競技の開始までは、まだ少し時間がある。昨夜、会場となる森の側まで着いた一行は、ここにキャンプを張り、それぞれの番を待つことになっていた。
「ヒメル、落ち着かないのですか?」
 羽を休めながら、しかし首を忙しく振って周囲を見回す相棒に、ナダ・ノーチェ(eb3691)は穏やかに笑顔を浮かべながら声をかけた。
「大丈夫。私がついています」
 言って、ナダもあらためて周囲を見渡す。集まっていたのは、屈強そうな多くの冒険者とそのペット達。犬、猫、鷹、馬、鷲‥‥様々な動物がこの場に集まっていた。これだけの数の者達と腕を競うのかと思うと、ヒメルに対してああ言ったものの、自分も緊張してしまう。もっとも、それは恐れではなく、この環境の中で自分達の実力を試せることへの喜びや期待からくるものだ。
「おや?」
「「や?」」
 アシュレイ・クルースニク(eb5288)と彼の従える妖精ユエとルナは、ある人物を見つけて近づいていった。
「おはようございます。イェールさんは、今日はまだ参加されないのですか?」
 自分の傍らに寝そべる虎のスパーダの顎を撫でてやることに気がいっていたイェール・キャスター(eb0815)は、声をかけられてやっとアシュレイに気づき、すぐに笑顔で挨拶を返した。
 しかし、イェールはまだ少し眠そうな様子。何でも昨夜、遅くまで眠れずに歌を歌っていたらしい。
「でも大丈夫。いつでも良いって言ったら、私は三日目になったから。今日と明日はこの子達とお休みよ」
 この子『達』という言葉の示す通り、イェールにはもう一匹、連れてきているペットがいる。それは、先ほどから彼女の頭上にとまっている妖精のパルフェ。
「パルフェ、ほら、おはよう」
「よう」
 踊り娘服の小さな妖精は、飼い主の言った言葉の最後の部分だけを拾って元気に挨拶する。
「おはようございます」
「「ます」」
 アシュレイが挨拶を返すと、彼の連れていたユエとルナも揃って挨拶。
 しかし、一匹でも珍しい妖精が三匹も集まっているせいだろうか、周囲の冒険者達の何人かが時おり二人の方を向いて、その様子を窺っているようだった。
「何だか目立ってしまっているみたいですね、私達‥‥」
「そうね。‥‥でも、もっと目立つ人もいるみたい」
 イェールがそう言って目を向けたのは、メイユ・ブリッド(eb5422)のテントのある方角。丁度、彼女は朝の食事を摂ろうとしているところだった。
「食べ辛いですね‥‥」
 見れば、周囲のほとんどの冒険者達の視線が彼女とそのペット達に向けられている。彼女が連れてきたペットは、片や神話に謳われる純白の翼を持つ天馬、ペガサス。片や強靭な爪と百獣の王の身体を併せ持つ美しき獣、多くの騎士がその背に乗ることを憧れる鷲獅子、グリフォン。どちらか一方だけでも十分に目立つというのに、それを共に従えているメイユが注目されるのも仕方がなかった。

 しばらくして、競技の第一日目が開始となった。
 それぞれにペットを連れた冒険者達が一斉に森に入っていく。
「参加する以上、全力を尽くさせていただきます」
 言ったのはクレムヒルト・クルースニク(eb5971)。
 彼女は今回、非常に珍しい参加者であった。多くの参加者が狩猟用に育てられた鳥や猟犬などを連れている中、彼女が連れてきたのは、まだまだ成長途中の若いボーダーコリーのバイブルと、通常馬のテスタメントだ。
 バイブルもテスタメントも、現状では狩りに適したペットとは言い難い。だが逆を言えば、この組み合わせで見事な狩りをして見せることができれば、飼い主とペットの連携を重視する今回の競技では高評価を得ることも可能。彼女の狙いがそこにあるのだとすれば、実に狡猾な作戦である。
 ‥‥が、現実はそう甘くはなかったようだ。
「わっ、違いますテスタメント! そちらではなく、こらちです!」
 バイブルが見つけた兎を捕まえるため、テスタメントの背に跨って追いかけようとしたクレムヒルト。だが、まだまだ未熟な彼女の乗馬の腕では森の中で思うようにテスタメントを走らせることができず、振り回されてしまっていた。
 また、獲物を見つけて追い立てる役目を任されたバイブルも、飼い主が獲物を追い詰められるように頭を働かせて動くまでの域には達しておらず、残念ながら、見つけた獲物に逃げられてしまう機会が多かった。
 最終的に、クレムヒルト達が捕まえたのは小さな野兎が一匹。
「バイブル、テスタメント、よく頑張ってくれましたね」
 そう言って、彼女は自分の愛するペット達を誉めた。だが本当に、これは賞賛に値した。クレムヒルト自身も狩りに関しては全くの素人同然であったのだから、たとえ一匹だけでも狩りを成功させられたことは、一人と一匹と一頭の協力の賜物であった。

 そして、二日目の競技も無事に終了し、ついに三日目。
 おそらく、この日を指定した冒険者達が狙うのは、今までの二日間の間に他の冒険者から生き延びた強者であろう。イェール、ナダ、アシュレイ、メイユの四人もこの日の参加者であった。

「ゴブ!?」
 風の刃がその身を切り裂くと、魔物は激痛によろめく。
 だが、それはまだ恐怖の序章。
「さあ、狩りの始まりよスパーダ」
 イェールが一声かけると、彼女の傍にいたスパーダは力強く大地を走り、瞬く間に獲物であるゴブリンとの距離を詰める。
 恐怖に駆られたゴブリンは手に持つ棍棒を振り回しすが、悲しいかな、そこにあるのは圧倒的な戦闘力の差。
 ――グシャ!
 スパーダが何の躊躇いもなく爪を三度振るうと、魔物はただの肉塊へと変わった。時間にして僅か十秒の殺劇。これだけの力を持ちながらスパーダは未だ成長途中の子供の虎。末恐ろしいとはこのことである。
「パルフェ、次の獲物を探してくれる?」
 これがイェールの狩り。妖精のパルフェが魔法で獲物を探しだし、スパーダの攻撃をイェールが魔法で援護する。見事な連携であった。

「なかなか見つかりませんね‥‥」
 手頃な獲物が見つからず、ナダは少し困っていた。できるだけ森の情報を得てから狩りに臨みたいと考え三日目を指定したものの、競技のルール上、森に入ることはできず、今回は少し読みが外れたと言わざるをえない。
「いました」
 しかし、全く獲物がいないわけではなく、しばらくして機会は巡ってきた。見つけたのは木にとまっていた一羽の鷹。
 ――バサッ!
 ヒメルが大きく急旋回をすると、自分が狙われたことが分かったのだろう鷹は、慌てて飛び立つ。身体の大きさは鷹の方が上だが、ヒメルは驚異的な速さと機動力で鷹を翻弄する。そして、獲物となった鷹は逃げることのできないまま‥‥。
 ――ヒュッ!
 ナダの投げたナイフが鋭く鷹の羽に突き刺さり、獲物はゆっくりと大地に堕ちた。
「良い動きです、ヒメル」
 そう言って、ナダは満足そうに笑ったのだった。

 ――ガンッ!
「くっ‥‥」
 オークの槌を受けて、アシュレイの肩に痛みが走る。名鎧『ウィグハード』に護られているとは言え、その一撃は重かった。
「ルナ!」
「な!」
 だが、そのアシュレイの肩の後ろには、魔法の詠唱を終えた月の妖精ルナ。
「ブヒッ」
 発動した魔法により、眠りへと誘われるオーク。そして、戦いの最中に意識を奪われた者の末路は‥‥。
 ――ザン!
「‥‥ユエ、次の敵を探してください」
 その刀についた血を払いながら、アシュレイは言った。彼もイェール同様、妖精の魔法による探査を行っている。二匹の妖精の力を借り、また、それを護りながら戦う彼の戦い方を監視のシフール達も興味深そうに見つめていた。

 彼女が通った後は屍の山であった。見つかったが最期、いかなる魔物も逃げられなかった。ペガサスのうまと、グリフォンのピン玉。勇ましき翼を従え歩くのは、メイユ。
「確か、五条の乱の天駆隊でしたかしら? こんな僻地にまで噂が届いているなんて、私も負けていられませんわ」
 世界各地を旅してきた彼女が思い出すのは、京都で聞いた話だ。扱いの難しいロック鳥を見事に従えて見せたその冒険者達の中からは、乱に参加した冒険者の中で一番の功績者と評価された者も出ている。だが、ここにいるメイユ達の強さも、おそらくはそれに劣らぬものであろう。
 ――ピタッ。
 斧を振り上げたまま、オーガの動きが完全に停止する。メイユが詠唱もなく瞬時に使ってみせたコアギュレイトの効果だ。
「ピン玉くん、うまさん」
 ペット達の名前を呼べば、後は爪と蹄の連撃。それなりの実力を持つオーガさえ、赤子の手を捻るように容易く倒してしまう圧倒的な力。
「お疲れ様です。さて‥‥」
 目の前のオーガの命が絶たれたのを確かめると、メイユ達はあらためて次の獲物を探し始めたのであった。

「優勝は‥‥アシュレイ・クルースニクさん!!」
 一瞬、自分の名前が呼ばれたことに驚いてアシュレイは頭が真っ白になったが、すぐに気を取り直して前に出ると、彼は盛大な拍手の中に包まれた。
「今回の競技会、皆さん実にお見事でした。その中でも私達は、アシュレイさんのペットと自分の弱点を互いに補い合った戦い方に、とても大切なものを見た気がします。よって、彼を今回の優勝者として選びました」
「あの‥‥ありがとうございました」
 賞賛の言葉を受けながら、アシュレイは祝福してくれた皆に恥ずかしそうに頭を下げたのだった。

 余談ではあるが、今回の競技会に参加した冒険者達の流した噂によって、アシュレイ、メイユ、そしてイェールに通り名がついたという。それが何かは、それぞれがまた知ることになるだろう。

 こうして一行は無事に依頼を終え、キエフへと戻ったのであった。