もう一度、娘の恋人募集します
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月23日〜10月30日
リプレイ公開日:2004年10月25日
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●オープニング
「‥‥本当によろしいのですね?」
ギルドの受付の係員は、依頼人の女性に、もう一度依頼内容の確認をした。
「はい。どうかよろしくお願いします」
表情に若干の躊躇いは見えたが、それでも彼女は係員の質問に、はっきりとそう答えた。
しばらくして貼り出された依頼書にはこう記されている
『娘の恋人募集します』と。
話はこうだ。
依頼人の女性には今年で17歳になる娘がいる。
少女の名はリーナ。
実は彼女、男性恐怖症である。父親以外の男性とは話をする事もできず、近くに寄って来られようものなら、大声で悲鳴を上げて逃げ出してしまう。
もちろん、生まれつき男性恐怖症だったわけではない。
彼女はその美しさ、優しさ、家柄などから、今までに数え切れないほど多くの男性の求愛を受けた。いや、受け過ぎた。
昼夜を問わず、贈り物を持っては家に訪れる求婚者達。
絶え間なく囁かれる愛の言葉。
その煩わしさから、いつしかリーナは世の男性達を嫌悪するようになってしまったのである。
実は数日前、依頼人は今回と全く同じ依頼をギルドに申請し、冒険者達にリーナの男性恐怖症を治してほしいと頼んでいた。
だが、結果は失敗。リーナの心は男性に対して閉じられたままだ。
「やはり、女心ってのは難しいもんだな‥‥。正直、俺にはどうすればいいのか見当もつかない。下手な魔物を相手にするより、こっちの方がよっぽど難しいかもな‥‥」
そう言って、ギルドの係員は集まった冒険者達を見回した。
「ちなみに、実際は恋人になるところまでいけなくても、娘さんの男性に対する恐怖心をある程度まで和らげられれば報酬は出してくれるそうだ。もちろん、完全に恐怖心を取り除く事ができるなら、それが一番だな。それに成功した場合は、追加報酬を出してもいいと考えているらしい。ああ、それと‥‥」
思い出したように言葉を紡ぐ係員。
「この娘さん、育ちがいい上に優しい心の持ち主だ。何かあれば、すぐに暴力を振るう様な品のない奴や、普段の生活にだらしない奴なんかは特に嫌いなんだとさ。まあ、粗相のないように十分注意して行動しろよ。じゃあ、よろしく頼むぜ」
●リプレイ本文
堅く閉ざされた心の牢獄。
少女はその中で、今も待っていた。
いつ失くしてしまうかも分からない希望を抱いて。
「まあ、こんなに‥‥」
今回の冒険者がリーナの家までやって来た時、依頼人は彼らが抱えてきた荷物の多さに驚いた。彼らはここに来る前に市場に寄り、リーナと一緒に食べるためのチーズや発泡酒等を購入してきていたのだ。
「本当は、もっとお菓子なんかも欲しかったんだけどね〜」
少し残念そうな顔で、そう呟いたのは太郎丸紫苑(ea0616)。
現実的な問題として、市場で欲しいものが欲しい時に手に入るとは限らない。訪れた時間や日によっては、何も買えなかった可能性もあるのだ。
紫苑が通うケンブリッジの学校でも、お菓子やその類を口にする機会は、夕食のデザートにほんの僅かに出てくるかどうかという程度。ケンブリッジでは、安い値段で三食とも学園側で保証しているだけ。お菓子の販売などを行っていないのは、紫苑にとっては少し不満な点だ。
「私も美味しい紅茶など、できれば用意したかったのですが‥‥」
同様に、目当ての物を購入できなかったのがカイ・ミスト(ea1911)。
彼は、紅茶を探し、ギルドで売っている場所を調べたりもしたのだが、入手には至らなかった。分かった事は、キャメロットでは紅茶は庶民には普及しておらず、個人的に商人を通じて取り寄せるぐらいしか入手方法がないという事だけだ。
「まあ、最低限欲しかった物は買えたし、それだけでも良かったよ」
穏やかに笑ってみせたのはリオン・ラーディナス(ea1458)。
その服装は、彼が普段冒険者として活動している時とは違い、礼服一式による完全な正装である。その姿からは、彼がいかに誠意を持って今回の依頼に取り組んでいるかが伝わってくる。彼自身は礼節に関する知識はほとんど無いのだが、せめて形だけでも紳士的に見せようとの意図だろう。
リオンに限らず、今回の冒険者は皆、必要と思われる物をちゃんと自分で用意してきていた。これなら、依頼人も余計な手間に時間を取られる事もなさそうだ。
「さあ、皆さん。どうぞ上がってください」
その頃、希龍出雲(ea3109)は屋敷周辺の警戒に当たっていた。
今回、彼には特別な目的があり、他の仲間達とは別行動を取っていたのである。
「お、いやがったな」
彼の視線の先には、依頼人の屋敷の様子を窺う数人の男達の姿。その男達に、彼は少しずつ近づいていった。
だが、彼がこの後に取った行動の結果は、本人も予想しなかった方向へ発展していくのである。
冒険者達の姿を確認すると、リーナは少し恥ずかしそうにしながら頭を下げた。
その美しさは以前と少しも変わってはいない。つい彼女の方を見たまま、少しの間、完全に動きを止めてしまった者もいたほどだ。
「久しぶりね、リーナ。元気そうで良かったわ」
「星奈様もお元気そうで何よりです」
まずは、リーナと面識のある風歌星奈(ea3449)から彼女に挨拶を済ませる。星奈は以前の依頼の時にすっかりリーナと打ち解けていた事もあって、彼女が仲間達を順に紹介した。
「初めまして。リーナ様」
星奈に続いて挨拶をしたのは、カレン・ロスト(ea4358)。
偶然だが、カレンの特徴はリーナと良く似ていた。エルフの特徴である尖った耳や、瞳の色は違うものの、銀色の長い髪や、美しい白い肌。そして何よりも、その穏やかな物腰は、何か通じるものがあるのでは‥‥と思うほどに良く似ていた。
そしてカレンの後に続いたのは‥‥。
「こんにちは。リーナさん」
見につけているのは女性用の服。額にあるのは水晶のティアラ。そして、姉に頼んで施してもらった化粧。
外見は女性のそれであるが、その正体は15歳の少年、ウォル・レヴィン(ea3827)だ。
何と彼は男である事を隠し、リーナに接近しようと試みた。もし、男である事がバレたら、リーナがどんなショックを受けるか想像もつかない。かなり危険な賭けである。
だが、ウォルの天性の素質か、姉の技術か、はたまたリーナの中に女装という概念が存在しなかったのか。理由はともかく、彼の女装は見事成功したらしい。
星奈やカレンと同じくらい近づいてみても、リーナは穏やかな表情のままだ。
「うっ‥‥我ながらとは思うけど嬉しいやら哀しいやら‥‥」
余りに上手く行き過ぎたために、ウォル自身は少し複雑な心境のもよう。
「リーナお姉ちゃん、こんにちは〜。僕、キット。よろしくね〜」
参加者の中で唯一、男である事を隠さずにリーナに接近を試みたのがキット・ファゼータ(ea2307)。
なにせ、彼は11歳。リーナから男として認識されるには、まだ早いと睨んでの行動である。
「うん。よろしくね」
どうやらこちらも成功のもよう。後で分かったことだが、リーナは子供好きで、男性恐怖症になって、一人で外を出歩く事ができなくなる前は、近所の子供達の世話などもよくしていたそうだ。
(よし。上手くいったな)
心の中でニヤリと笑うキット。ちなみに本来の彼は、口調なども子供っぽい甘えた感じではなく、むしろ少し無愛想なところがあるくらいだ。リーナに接する態度は、完全に演技である。これも彼の作戦のうちだ。
「あの、僕も近づいても大丈夫かな‥‥?」
キットが近づいても平気だったのを見て、紫苑が訊ねる。彼は年齢こそリーナよりやや下という程度だが、身長が低いという種族的な特徴を持つパラである事と、生まれ持った中性的な外見があった。また、普段から紫苑の行動や言動は非常に子供っぽいところがあり、彼はキット以上に子供らしい子供であったと言えよう。
心配そうに自分を見つめる紫苑に対して、リーナは優しく微笑んだ。どうやら平気なようだ。
「あの、リーナさん。よければ明日、私達と一緒にお庭に出ませんか?」
あくまでも女性らしく、ウォルがリーナをお茶会に誘う。もっとも、紅茶は手に入らなかったので、飲み物はジュースや発泡酒なのだが。
「ええ。お庭でなら‥‥」
その日の夕方。
屋敷の庭には、ほうきを持って掃除をしているリオンの姿があった。
「結構、広いな。こりゃ思ってたより骨かも‥‥ん?」
屋敷の方を見ると、窓から興味深げにこちらを見ているリーナの姿がある。
だが、気づかれた事を知ると、リーナは慌てて立ち去ってしまった。
「一応、関心は持ってくれているのか‥‥」
翌日。
お茶会は問題もなく、最初はお互いの趣味など、当たり障りのない会話から始められた。
ウォルはまだ女装したままなので、リーナとの会話はごく自然に可能であったが、リオンやカイはまだ距離を取ったままだ。キットは子供らしく、リーナに甘え通しだったが。
「男の子だって同じ人間で、恐くなんかないよ。ボクも男の子だけど、リーナさんの気持ちを理解したいし〜。リーナさんにも、男の子の気持ち、知ってほしいな〜」
無邪気な笑顔と共に、会話の流れを変えたのは紫苑。
少し真剣な表情になって、リーナは次のように答えた。
「私も、頭では分かっているんです。でも、だからこそ辛かった事もたくさんありました。相手の気持ちが分かるから、なおさら辛い事も‥‥」
どうやら、彼女が心を閉ざした原因は、男達が執拗に彼女に迫った事以外にもあったようだ。自分が優しすぎるせいで相手を傷つけてしまう事もたくさんあったし、自分を巡って、つまらぬ事で争う男達も大勢いたとリーナは語った。そういう事も含めた全てが、彼女の男性恐怖症の原因となったようだ。
「以前、私の姉も貴女のようになった事がありましてね‥‥」
語り始めたのはカイ。
「今でこそ吹っ切れてますが‥‥。その理由は・・・・恋人が出来たからでしょうね」
その言葉に、リーナは少なからず反応を見せた。
「恋をすれば‥‥私も変われるのでしょうか‥‥?」
どこか遠くを見ながら、そう呟いた。
「ええ。きっと変われると思いますよ」
微笑んで答えたのはカレン。これがリーナにとって良い目標になってくれる事を、彼女は願った。それがきっと、彼女の新しい一歩になると信じて。
「ねえ、実は、この場に呼びたい人達がいるのだけど、いいかしら?」
場の雰囲気から、この機会を逃すまいと話を切り出す星奈。
その後、彼女が連れてきたのは大勢の男達。彼らは皆、以前からリーナの元を訪れていた求婚者達である。 実は、彼らは全て出雲が連れてきたのであるが、当の出雲の姿はない。
「リーナさん、僕達をあなたの親衛隊にして下さい!」
「‥‥え?」
単独行動をしていた出雲は、リーナの事を本気で想っている男を、求婚者達の中から探した。
本来ならリーナと友達になるところから始めてもらうはずだったのだが、陰ながらリーナのために奔走する出雲の姿に、男達は心洗われたのだという。
そして、出雲を見習って、今度は自分達でリーナを守り、彼女に会いにいく時も、仲間達で相談した上で行うという制度を作りたいとの事。
本人のいないところでそんな話を進められるのも、どうかという問題はあったのだが、今までに比べればずっと良いという事で、これにはリーナもすぐに納得してくれた。
依頼最終日。
そこには、リオンやカイと握手を交わすリーナの姿があった。
「キミの周りにはオレよりイイ男がきっといるから、頑張って」
「貴女に相応しい方が現われますよう、心より願っております」
それぞれに別れの挨拶を交わす。
「ありがとうございました。今はまだ、どの男性とも仲良く‥‥とはいきませんけど、少しずつ慣れていければと思います」
その時の彼女の笑顔は、今まで彼らが見たどんな女性の笑顔よりも、美しかったという。
余談ではあるが、この後、ウォルやキットがその正体をリーナに明かすと、彼女はショックで気を失ってしまった。幸い、それが原因で男性恐怖症が悪化する事は無かったそうだが‥‥。