死者の道と牙の道

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月30日〜09月04日

リプレイ公開日:2006年09月08日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であり、この日の新たな依頼もまた、そういった内容の仕事であった。
 
「仕事は荷馬車の護衛。積荷は開拓中の村に届ける食料や生活物資だ」
 ロランと名乗る依頼人の若い男は、実に簡潔に依頼の内容を述べた。
 ここロシアでは、町と町の間はその多くが未だ深い森に覆われ、暗黒の国と呼ばれる危険地帯。商人や開拓民などからの護衛の依頼は少なくない。
 ただ、当然のことながら運ぶ物資や目的地によって、それを何から守るのかは大きく変わってくる。今回の依頼は、その一点において少し特殊な部分があった。
「目的地に行くための道だが、実は二つの道があってな。一つは狼の縄張りを通る道。もう一つは悪霊が出るって噂のある道だ」
 ロランが言うには、依頼を受けた冒険者達で、どちらの道を進むか決めてもらいたいとのことだった。
 狼の特徴は、群れによる狩りを行うこと。彼らは獣でありながら、実に巧みな連携をとり、じっくりと獲物を追い詰める形の戦い方を得意とする。その素早い動きで相手を翻弄し、一瞬の隙を見つけ、その牙を獲物へと突き立てる。
 悪霊は、別名レイスと呼ばれる魔物。成仏できないまま、その地にとどまった霊が凶暴化したものであり、人や動物、あるいはその死体に憑依することもある。レイスの最も厄介な点は、通常の物理的な攻撃が一切通じないこと。つまり、魔法や銀の武器を使わなければ絶対に倒せない。
「右も左も危険な道だが、集まった冒険者によっては、どちらかの道の方が楽ってこともあるだろう。俺は無事に目的の村に着ければ良い。さて、あんたらはどっちの道を選ぶ?」

●今回の参加者

 eb0689 アクアレード・ヴォロディヤ(20歳・♂・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5484 千住院 亜朱(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb5646 リョウ・アスカ(33歳・♂・エル・レオン・ジャイアント・ロシア王国)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5724 レイヴァン・テノール(24歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb6291 イオン(22歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

リリーチェ・ディエゴ(eb5976

●リプレイ本文

 死してなお大地に留まる者。
 生きる者を妬み、恨み、闇の世界で待ち受ける者。
 此度、訪れるのは新たな生者の死か、死せる者の滅びか。
 その答えが待つのは、道の果て。

 キエフ、冒険者ギルド前。約束の時間を間近に控え、依頼人の男が馬車と共に姿を見せると、既に出立の準備を終えて待っていた冒険者達が出迎える。
「決まったか?」
「ああ。レイスの出るって道を行ってもらう。ムカつくこの世のゴミを、あたし達がこの手で掃除してやろうじゃないか」
 依頼人が一声かければ、答えたのは褐色の肌に金髪の女騎士、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)。依頼人から提示された二つの道のうち、冒険者達はレイスの出る道を希望した。人に被害を与えるという点では狼も無視できない敵ではあるが、依頼人と馬車の積荷を護衛することを考えれば、群れを成し複数で行動する狼よりも、おそらく単独で行動しているであろうレイスのような敵の方が対処しやすいとの考えに加え、今回は参加者の多くがアンデッドへの対抗策を持っていたこともある。
「倒せる手段があるからって、それで勝利が決まるわけも無ぇんだが。後は俺らのふんばり次第‥‥ってな。ちょっとばかり、こっちの人数が少なくなってるが、まあ何とかなるだろ」
 聖なる力を付与されたメイスを右手に持ちながら、現状に少し苦笑するアクアレード・ヴォロディヤ(eb0689)。実は、今回の依頼を受けた冒険者は八人いたものの、何故か出発当日になって姿を見せないものが三人もおり、結局、今回の依頼は五人の冒険者で遂行しなければならなくなっていた。もっともアクアレードは内心では何とかなるだろうと前向きに考え、心に余裕を持つことを忘れないでいた。
「実際どのくらいの数のレイスが出てくるのか分からないって心配もあるな。聞いた限りの噂じゃ一匹だけって話だが、こういうのは放っておくと増える可能性もあるからな‥‥。まあ、早目に退治しておくに越したことはない。それにしても、何の未練があるのか知らないが、死んでからも他人に世話をかけさせるなんざ迷惑な奴だな」
 そう言ったのはアッシュ・ロシュタイン(eb5690)。彼自身は、普段も他人から迷惑を被ったり、失敗の尻拭いをさせられたりと散々な目に遭うことが多いらしく、今回の依頼も我ながら面倒事に首を突っ込んだものだという思いがどこかにあったりする。要領が悪いのかもしれないが、こうして自ら厄介事に関わっている辺り、どちらかと言えば人が良いのだろう。
 そうして挨拶や雑談もそこそこに済ませると、一行はキエフを経った。

 キエフを出て少し歩けば、そこは暗い森の中。今のロシアの大地は、大部分がただの森だ。そのため、開拓地に向かう道中で魔物や蛮族に襲われ、命を落とす者は少なくない。月道によって各国との貿易が盛んになり、新天地での生活を夢見てやって来た者達が、これからという時に殺され、死ぬに死にきれず悪霊になったとしても、ある意味で仕方のないことかもしれない。もちろん、今回通る森に出ると噂のレイスがそうであるとはまだ言えないが、その可能性はある。もし、そうであるのなら、悪霊とはいえ同情する余地はあるかもしれない。
「どちらにしてもやることは変わらん。ただ依頼された通りに護衛するだけだ」
 剣を手に黙々と周囲の警戒を行っていたロイ・ファクト(eb5887)は、ふと誰に言うともなしに呟いて、その後はまた無言で周囲の警戒を続けた。
「もうすぐ夜ね。念のため、この一帯に敵がいないか、魔法での確認もしておくわ」
 慈悲の神に祈りを捧げ、千住院亜朱(eb5484)は探査の魔法を発動させる。彼女に調べられるのは不死者の存在の有無だけだが、森の中で余り多数の反応を探知しても判断が面倒になる場合もある。調べたいものが特定の敵の有無であるなら、こういった魔法の方が便利だ。
 幸い、特に反応はなし。一行はその場で野宿することにした。問題の森に着くのはまだ少し先の話。大事な時のために十分な体力を残すよう努めるのも冒険者には必要なことだ。

 戦いの時が訪れたのは二日目の夜。
「来やがったか‥‥」
 カタカタと、まるで同質の存在との遭遇を喜ぶかのようにアッシュの持つ『惑いのしゃれこうべ』が音を立てる。死者の怨念が込められているとされるそのアイテムは、周囲のアンデットの存在を知らせてくれる魔法の品だ。ただし、存在の有無は分かっても、その位置までは特定できない。
「どっから来る?」
 右手の霞刀へとオーラの力を付与し、シャルウィードは臨戦態勢に入る。少し離れたところにある馬車と依頼人の近くにはアクアレードが護衛についている。ロイはアッシュやシャルウィードと同様に辺りの警戒。そして、亜朱は呪文の詠唱を開始している。使うのは、敵の位置をはっきりさせるための探査魔法デティクトアンデット。
「‥‥アッシュさん、上です!」
「くっ!!」
 間一髪、亜朱の声に咄嗟に地面を蹴って飛びのけば、今までアッシュがいた場所を得体の知れないものが通り過ぎる。それは例えるなら青白い炎のようにぼんやりとした色で宙を漂う幻影。大きさは人と同じ程度で、しかしはっきりと人の形を成してはいない。噂に聞いた悪霊、レイスに違いなかった。一瞬でもアッシュの反応が遅れていれば、その身に触れた炎の幻に身を焼かれていたかもしれない。
「はあっ!」
 素早く駆け出したのはロイ。彼は比較的軽装で、この場にいる冒険者の中で一番機動力があった。彼の手に握られていたのは、トロイツカヤと名のついた業物のクルスダガー。聖なる像が刻まれた十字架が虚空を切り裂けば、レイスの炎の身は激しく燃え上がるかのように揺らめく。だが、レイスはロイの狙っていた追の斬撃まで受けることなく、風のような速さで彼の脇をすり抜ける。しかし、それを今度はアクアレードのホーリーメイスが待ち受ける。
「死霊仲間に誘うにゃ、ちょっと相手が違うぜ? ‥‥どうせなら昇天して楽になっちまえよ」
 大きく風を切る音がして、メイスの一撃が宙に浮かぶ青白い炎に叩き込まれる。アクアレードの一撃を受けて苦しそうにもがくレイスは上空に逃げようとするが、冒険者達はそう簡単に見逃しはしない。
「迷える霊よ、仏の慈悲にすがりなさい」
 闇を走る閃光。逃げるレイスを亜朱の放つホーリーの聖なる光が貫く。
 そして、最後に振るわれるのは二つの刃。
「これで‥‥終わりだ!」
「消えて無くなっちまいな!」
 アッシュの太刀『天国』の斬撃と、シャルウィードの霞刀の一閃。特にシャルウィードの攻撃の様は、飢えた獣が獲物に牙を突き立てるかのようだ。伝説の名工の作とされる力ある太刀を用いた重い一撃と、強い闘気の込められた鋭い一撃を受け、レイスの身は弾け飛ぶように霧散し、跡形もなく消え去った。
 だが、まだ冒険者達は安心しない。すぐに亜朱が魔法での探知を試みる。
「‥‥もう、大丈夫。他にはいないみたい」
 その言葉を聴いて初めて、冒険者達は安堵の表情を浮かべたのであった。

 戦いの夜が明けて、翌日の昼に一行は無事に目的地の開拓村まで辿りついた。
「よしっ、ここまでだな。まっ、今回は良い仕事させてもらったぜ」
 憎むべきアンデットの退治と依頼人の護衛を成し遂げ、シャルウィードは上機嫌だ。
「これであの森も静かになると良いが‥‥」
「まあ、帰りにも通る道だ。大丈夫だとは思うが、念のためにもう一度、レイスが出てこないか確認しておこう」
 アクアレードとロイが来た道を振り返ったところで、依頼人の男が馬車から降りて彼らに頭を下げた。
「ありがとよ、あんた達のおかげで助かったぜ。キエフに戻った時にはまた護衛を依頼するかもしれないが、その時はよろしくな」
「ああ、任せてくれ。今回は退治できなかったが、狼達のことも気になるしな。何か悪さするようなら、呼んでくれれば駆けつけるぜ」
 アッシュがそう答えると、亜朱がひょいと二人の間に入ってこう言った。
「ならせっかくだし、帰りに狼退治も良いかもしれないわね」
 途端に固まる冒険者一同。しかし、クスリと笑って亜朱はこう付け足す。
「冗談よ」
 そのやり取りに依頼人の男は面白がって大笑いしていたが、疲れの残る他の冒険者達は苦笑いを浮かべるのみであった。

 こうして一行は無事に依頼を終え、キエフへと戻ったのであった。