鉄壁のバグベア

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2006年09月14日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であるが、時には少し違った依頼も舞い込む。

 その日の依頼人は、実に珍しいことに、ギルドに所属する冒険者の一人だった。名をデルテという、年の若い人間のファイターだ。余り育ちの良さそうな感じではなく、どこか他国の田舎から出てきた冒険者かもしれない。
「先日、とある開拓村からの帰りにバグベアの集団に襲われてな。何とか逃げ延びて命だけは助かったんだが、荷物を積んだ馬を奴らに奪われちまった。多分、馬はもう殺されて連中に食われちまってるだろうが、せめて積荷だけでも何とか取り返したい」
 バグベアは、熊の体に猪の頭を持つオ−ガの一種。体格も良く力もあり、一般人はおろか冒険者さえも襲って略奪を行うという魔物である。今回の依頼人も一人では分が悪すぎると判断したのだろう。バグベアと戦うために同業者達の力を借りたいと、そういうことらしい。
「ちなみに、その積荷っていうのは?」
「別に珍しい物があるわけじゃない。武器とか鎧とか、ようするに仕事道具さ」
 その場にいた冒険者の一人が訊ねると、デルテは何の気なしにそう答えた。だが、頭の回る一部の冒険者は問題の大きさに気づく。
「つまり、バグベア達はお前から奪った武器や防具で武装している可能性があると、そういうことだな? どんな武具があったか詳しく話してもらえないか?」
 そう訊かれて、デルテの顔が青ざめる。どうやら、本人はそこまで考えていなかったらしい。
「‥‥そんな、大した品は無いんだ。その‥‥ジャイアントソードとか、ヘビーアーマーとか‥‥」
 頑強な重武装のバグベア達を想像して、何人かの冒険者は苦笑いを浮かべるしかなかった。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea9563 チルレル・セゼル(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb5610 揚 白燕(30歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb5623 アデム・レオ(59歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5780 レティスタニア・クローディス(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6021 アリシア・ウィンストン(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 奪う者、奪われる者。
 強い力を持つ敵が更なる力を得れば、それは脅威。
 待ち受けるのは、鎧を纏い、剣を振るう獣。

 キエフ冒険者ギルド。
 シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)とチルレル・セゼル(ea9563)は出発前に確認しておきたいことがあり、依頼人の男に話を聞くことにした。
「あの、確かデルテさんとおっしゃいましたね? 少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
 シシルフィアリスがそう言って話を切り出そうと近づいたところ、何故かデルテは一歩下がって距離を取ろうとする。
「お‥‥俺は行かないぞ! 絶対に行かないからな!!」
「はい?」
 どうも武装したバグベア達をすっかり恐れてしまっているらしく、平常心を失っているようである。よくこれで冒険者が務まっていたものだなとチルレルは半ば呆れもしたが、そうなってしまうくらい強力な武具を魔物に使われているのだと考えれば、自分も少し不安にはなる。しかし一方で、強い敵に挑めることを喜ぶ気持ちもある。冒険者の中にはそういう命知らずも少なくないが、それこそが冒険者たる所以かもしれない。
「‥‥情けない男だねぇ。心配しなくても、無理に連れてこうなんて考えちゃいないよ。ただ、奪われた武器や防具にどんなのがあるか、もう少し詳しく聞かせて欲しいだけさ」
「そ‥‥そういうことなら‥‥」 
 情けないと言われて今までの自分の態度が急に恥ずかしくなったのか、小さく咳払いを一つしたあとで、デルテは奪われた物資の内容を二人に細かに説明した。
 少し後で、二人はギルドの外で待っていた他の仲間達と合流する。
「正直なところ、これ以上に余計な武器を敵に奪われているとは考えたくないのですが‥‥どうでしたシシル?」
 訊ねたのは、珍しいエメラルドの石板を胸に抱えたオリガ・アルトゥール(eb5706)。
「え、え〜と‥‥とりあえず歩きながらにでも‥‥」
 言葉に詰まるシシルフィアリスの様子から、嬉しくない結果を聞かされるのだろうと思いながら、一行はキエフを後にすることとなった。

 目的地までの道中、アリシア・ウィンストン(eb6021)は少し世の理不尽さを嘆きたい気持ちになっていた。薄暗い森の中を長く歩いていると、何となく気持ちまで暗くなるのかもしれない。
「はあ‥‥ラージフレイル、ミドルシールド、ラメラアーマー‥‥そしてジャイアントソードにヘビーアーマーですか。私には色々な意味で縁の無い装備ですね」
 弓使いの女騎士にとって剣や盾の類は使う機会がないというのもあるが、それ以上に弓使いは一回の戦闘における矢の消費に経費がかかり、依頼を成功させても収入から支出を引いて赤字ギリギリという場合が多い。もっと高い報酬の依頼を受けられるようになればこの状況も大幅に改善されるのだが、まだ冒険者としての経験の少ないアリシアにとっては今のところ、高価な武具は眺めるだけの対象だ。
「よくもまあ、それだけの装備を揃えたものだとは思うが‥‥」
「今後が心配であるな。魔物に奪われているようでは、持ち主が装備に振り回されかねないのである」
 宝の持ち腐れという言葉がジュラ・オ・コネル(eb5763)とアデム・レオ(eb5623)の頭に浮かぶ。二人は、どちらかと言えば荷物は少なく、最小限の装備と消耗品のみ持って行動をしているところがあった。ただし、今回はそれが全て誉められることであったわけではない。実は今回、最初から他者のテントにでも入らせてもらうつもりなのか、寝具の類を一切持ってきていない者が多く、テントや寝袋といった物を準備してきたのはシシルフィアリス、アデム、オリガの三人だけだ。場合にもよるが、適切な環境での休息を怠れば、身体の丈夫な冒険者といえども、最悪いざという時に体調を崩して本来の実力を発揮できないということもある。
 しばらく歩くと、偵察をかねて先行していたシフールの揚白燕(eb5610)が飛びながら戻って来た。レティスタニア・クローディス(eb5780)が声をかける。
「白燕さん、何か見つかりましたか?」
「この先に、開けた場所があったよ〜。そろそろ夕方だし、今日はそこでキャンプにしよ〜」
 身体を休めることを考え、その用意をしておくことも冒険者には必要なことだ。用意をしてきたものは十分に、準備を怠った者はそれなりにではあったが、明日に備えて一行はしばしの休息を取るのであった。

 夜が明け、戦いの日が訪れる。
 バグベア達を探し出すのに、それほどの時間も労力もかからなかった。何せ、相手はジャイアントと同じぐらいの巨体で、おまけに目立つ武器や鎧で重武装をし、加えて集団であった。白燕が飛び回ってそれらしいものを見つけると、猟師の心得のあるアデムやジュラが慎重に森の中を歩いて近づき、武装したバグベア達の姿を確認した。
「数は四匹。幸い、それ以上はいないようであるな」
「では、予定通りにいくぞ」
 余計な武装を取り払い、ごく普通の旅人に見えるような服装でジュラは一人バグベア達の前に姿を見せる。
 ――ガサッ。
 森の中から現れた若い女に、バグベア達は一斉に振り向く。彼らから見れば、今のジュラは格好の獲物だろう。しかし、その獲物は自分達と顔を合わせると途端に踵を返して逃げ出す。もちろん、バグベア達も一斉に追う。ジュラの仕事はここからすぐ逃げ出し彼らを仲間達の待ちうける場所におびき出すこと。要するに陽動だ。そして、陽動の先に待ち受けるのは魔物達を襲う罠。
 ――ビュオオオ!!
「‥‥ブ!?」
 森の中で発生した突然の猛吹雪がバグベア達を襲う。魔物達が凍える身体を震わせながら目を開ければジュラの姿はもう見えず、そこにあったのはアイスブリザードを放ったオリガの姿。
「さすがに、魔法一回で終わりというわけにはいきませんか。なかなか体力がおありのようですね」
 オリガの吹雪が止むと、今度はバグベア達を囲むようにして、隠れていた冒険者達が一斉に姿を現す。
 慌ててバグベア達も反撃に動き、ジャイアントソードを持った一匹が豪快にそれを白燕に振り下ろす。身軽なシフールの武道家が僅差でそれをかわせば、巨体の神聖騎士アデムが攻撃の終わった隙をついてバグベアの腕を掴む。
「はああっ!!」
 バグベアの巨体が宙に舞ったのは、すぐ後。青白い光を発するデビルハンドの輝きが魔物の思考を狂わせ、一切の抵抗力を奪った上での攻撃。さすがのバグベアもこれは堪えたらしく、苦しそうな呻き声を上げていた。
「今のうちに」
 魔法の詠唱に入るシシルフィアリス。だが、そう簡単に敵も思うようにやらせてはくれない。彼女のすぐ横から、別のバグベアが彼女を襲う。
「危ない!」
 ――シュッ!
 間一髪、アリシアの放つ矢が、シシルフィアリスを襲おうとしていたバグベアに直撃し、怯ませる。重厚なヘビーアーマーの隙間を狙って放たれた一矢は、深くバグベアの身に突き刺さっていた。いかに頑強な鎧といえど、こうした攻撃の前では意味をなさない。
 そして、詠唱の終わったシシルフィアリスの魔法も発動する。
 ――キンッ!!
 放たれたのは、氷の棺に相手を封じるアイスコフィンの魔法。少しでも安全な射程距離を保って使うには、シシルフィアリスにはまだ扱いの難しい魔法だが、どうにか上手くいったようだ。
「アリシアさん、ありがとうございます。助かりました」
「どういたしまして」
 これで、バグベアの一体はしばらく動けない。この隙に他のバグベアを叩き、有利に戦いをすすめるのが彼女達の狙いだ。
「バグベアは焼き豚‥‥いや、焼き熊‥‥ああ、もう面倒だ! どっちでもいい! さあ、さあ、派手に燃えちまいな!!」
 ラメラアーマーを着たバグベアに向かって、チルレルの火球が飛ぶ。だが、防具のついたバグベアにはカスリ傷程度のダメージしか与えられなかった。鎧一つの存在でここまで違うものかと半ば悔しくも思ったが、今はそれぞれができることをやるものだと割り切る。
「くっ‥‥」
 ライトニングソードを手に戦うレティスタニアもそれは同様で、ウインドスラッシュでの遠距離攻撃を試みていたが、カスリ傷以上のものにはならないと知った。それほどに、バグベアの身体は頑強であった。もっとも、そのウィンドスラッシュやチルレルのファイヤーボムで与えた傷が僅かにバグベアの動きを鈍くし、仲間達を助けていた面もあった。
「この‥‥!」
 バグベアのラージフレイルをかわし、ショートソードを手に反撃に出るジュラ。だが、やはりこの一撃も僅かの差でバグベアへの確実なダメージとはならない。
「下がってください」
 様子を窺っていたオルガが少し前に出、ジュラの離れた瞬間にアイスブリザードを放つ。鉄壁の武装をしたバグベアも、さすがに一段階上の威力の魔法は十分に有効らしい。
「トドメです!」
 吹雪の止んだ瞬間に、一筋の矢がバグベアを貫く。アリシアの鎧の隙間を抜ける一矢だ。それでバグベアは大きな音を立てて地面に倒れた。

 キエフに戻った一行を、依頼人のデルテは笑顔で出迎えた。
「どうぞ、お約束のものです」
 話しに聞いた奪われた装備の類と、近くで見つけ出されたテントやたいまつの入った荷袋をシシルフィアリスが渡すと、デルテはほっとしているようだった。
「‥‥強かったろ、あいつら。本当、助かったぜ。ありがとうな」
「いえ、こちらこそ良い経験をさせていただきました」
 笑顔を返すオリガだが、実は彼女、少しだけ他の者より得をしたことがある。戦いの後、バグベア達の装備していた物の中に、依頼人の話になかった物を少しみつけたのである。それは使い古しの棍棒や杖などであったが、ここまで戻ってくる途中で適当な店に売ると幾らかのお金になったのだった。

 こうして、冒険者達は無事に依頼を終えたのである。