魔の道と牙の道
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:09月24日〜09月29日
リプレイ公開日:2006年10月04日
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●オープニング
キエフ冒険者ギルド。
ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であり、この日の新たな依頼もまた、そういった内容の仕事であった。
「先日は世話になった。また仕事を頼みたい」
今回の依頼人は、町や村を回って物資の売買を行っている商人。名をロランという。
彼は先日、冒険者達に荷馬車の護衛を依頼したことがあり、今回ギルドを訪れるのは二度目だ。
「前に開拓中の村へ行く道を通るための護衛を頼んだと思うが、今回も同じ仕事を頼みたい」
以前のロランの依頼は、物資を載せた荷馬車で開拓中の村へ行くための二つの道のうち、そのどちらかの道を通るかを冒険者達に決めてもらい、村まで護衛してもらうという内容のものだった。
「確か、前の時に一方の道の障害であったレイスは退治されていますよね? そちらの道は今は安全なのでは?」
係員が訊ねてみると、ロランは首を横に振った。
「少し前までは安全だったが、最近になって面倒なのが現れるようになってな‥‥。クルードって悪魔の名前、聞いたことがあるか? それが何匹ものインプと一緒に集団で人を襲うようになってる」
クルード。醜い鼠の顔をした、尻尾の長い低級の悪魔である。濃い霧を生み出し、獲物の視界を封じた上で襲い掛かってくる。狡猾で水の精霊魔法も使うという。インプは背中にコウモリの羽を生やした子鬼の姿をしていて、集団で行動することの多い悪魔だ。自分より高位のデビルに従っていることもある。
「悪魔の道と狼の道ですか‥‥。悪魔の相手は確かに大変ですが、狼の道もけして楽ではありませんよね‥‥」
狼は群れによる狩りを行う動物。彼らは獣でありながら、実に巧みな連携をとり、じっくりと獲物を追い詰める形の戦い方を得意とする。個々の能力も高く、考えようによっては小悪魔達より厄介な敵である。
どちらの道を選ぶかは依頼を受ける冒険者達次第。
●リプレイ本文
人々の苦しみ、嘆き、悲しみ‥‥。
それらを糧とし、闇に蠢く者達がいる。
冒険者達は剣を手に、あえてその闇に挑む。
その闇の先に、自分達を待つ人々がいるのだから。
鳥の囀り、虫達の声、獣達の足音。様々な生き物の息吹に溢れる森の中も、木々に光を遮られて薄暗く、どこか陰を感じる。それは多くの人々が精一杯に生きながら、一方で様々な問題を抱えるロシアという国そのものの縮図かもしれない。
「あの時の例の道に今度はデビルが出るようになったか‥‥。また随分と厄介なのが住みついたものだな。だが仕方ない。もう一度、あの道を通れるようにしてやるまでだ。」
赤銅色の刀身を持つ魔法の剣を手に、ロイ・ファクト(eb5887)は以前の依頼の時のことを思い出していた。同じ道を進んでいくうち、死霊との戦いの記憶が蘇ってくる。
「前は幽霊で、今度は悪魔っすかー? ホント、災難っすね」
「何かヤバイものを引き寄せる原因でもあるのかね、この道には?」
そんな話をしていたのは、ロジェ・ラファール(eb7088)とヒムテ(eb5072)の二人。
短期間に続いた魔物の出現。彼らが疑問に思うのも当然といえば当然だが、一方で先の幽霊の存在が消え、人々の往来が増えたことが悪魔達を呼び寄せる原因となったのではないかとの見方もできる。人々の困る姿を見るのが何より好きだというのが悪魔達の性分だ。
「原因はともかく、悪魔達を野放しにも出来ませんからね。出来る限り潰しておきましょう‥‥」
シャリオラ・ハイアット(eb5076)にとって、今回の敵は見過ごせない相手。悪魔達は元々、神に仕える存在でありながら神に反逆した者達であると言われている。聖職者のシャリオラにとっては、宿敵とも言える存在だ。
「ん〜‥‥とりあえず何もないのは良いことだけど、暇でしょうがないねぇ」
「確かに、それはあるかもしれません‥‥」
戦いの時を今か今かと待ち、思慮を巡らせている者達とは対称的に、リスティ・ニシムラ(eb0908)やリディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)などは周囲の警戒をしながらも随分とのんびりしたものだった。ずっと気を張っていては、いざという時に疲れが出てしまうとの考えなのかもしれないが、まるで普通の旅行にでも来ているかのような雰囲気を感じる。意識的にしているのか自然体なのかは分からないが、なかなかに肝の据わった女性達である。
しかし、そういった面ではレドゥーク・ライヴェン(eb5617)とカーシャ・ライヴェン(eb5662)の二人の方が上かもしれない。なにせ、悪魔と戦うことになるであろう依頼に夫婦で参加するという豪胆さだ。
「‥‥痛いですよ、ドラン」
見れば、レドゥークは一緒に連れてきたドラゴンの子供らしきペットに腕を噛まれているところだった。まだしっかり懐いていないらしく、ドランは時々レドゥークの命令を無視してはやりたい放題に彼に迷惑をかけていた。人間の子供程度の大きさながら、魔物の子供らしく体力もあり素早いので、世話をするレドゥークは気づけばボロボロの状態だった。
「大変です! 早く、ケガしたところを見せて下さい」
しかし、そこは妻のカーシャが治療魔法でサポート。
「カーシャ、貴方が側にいてくれて本当に助かります」
「そんな、改まって言われると何だか恥ずかしいです‥‥」
今が護衛の任務中だということも半ば忘れたように、気づけば二人だけの世界に入ってしまうレドゥークとカーシャ。
「何だかなぁ‥‥」
見ている方が恥ずかしくなるような光景を、十四歳のエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は半ば呆れ、しかし半ば羨ましそうに見ていたようである。
キエフを発ってしばらく。
最初のうちは気の抜けたような状態であった一部の冒険者達も、問題の森が近づくにつれ、少しずつ表情が変わってきていた。さすがに戦いの時となれば、冒険者としての血が騒ぐらしい。
「‥‥霧が出てきているみたい」
「まだ薄い霧だが、気になるな‥‥」
エリヴィラの言葉に肯いた後、ヒムテは自分の指を見やる。そこには、悪魔の存在を探知できる指輪がはめられている。しかしながら、それにはまだ反応はない。
「もう少し先で待ち構えているということでしょうね。皆さん、落ち着いて配置に付きましょう。まあ、分かってはいるでしょうけど、ここで慌てれば相手の思う壷です」
シャリオラが仲間達に声をかける。それは自分自身に言い聞かせる言葉でもある。これから先、敵の姿どころか味方同士でさえ、互いを認識しあうことが難しくなるかもしれない。そうなれば、僅かな視界と互いの声くらいしか頼りにできるものは無くなる。頭では分かっていても、本能が恐怖を訴える。
「困ったっす〜! 何も見えないっす〜!」
いよいよ霧が濃くなると、ロジェは上空の偵察を諦めざるをえなくなった。下手に荷馬車との距離を取れば、それだけで迷子になりかねないほどに、冒険者達の視界は限られてきていた。
「いつだ‥‥? いつ来る‥‥?」
ロイは既に魔剣をその手に構え、いつでも敵の襲撃に対応できるようにしている。
「落ち着いて。焦っては負けです」
一声かけて、リディアはロイの剣にさらなる魔力を与える。今こうしている間にも、悪魔達は自分達の姿を見て笑っているのかもしれない。だが、それならばその間に、彼女にはできることがある。
「‥‥ん、どうやらおいでなすったみてぇだぜ」
ヒムテの指輪の蝶が激しく羽ばたく。
「これは‥‥気をつけて下さい! かなりの数です!」
仲間達に聞こえるように、カーシャが声を上げたその時だった。
――バシッ!
戦いの始まりを告げるかのように、霧の中を光が弾けた。
「神の力に抗いますか‥‥」
シャリオラの放った聖なる光を、インプの一匹が結界を張って防いだのだった。
『ハッハーッ!! 臭うぜぇ、俺達の大嫌いな神の下僕の臭いだ』
『殺せ、殺せ! 皆殺しだ!』
霧の中に悪魔達の声が響く。
「くっ、何だこの数は!」
「狼たちの方が厄介だと思ってたけど、失敗だったかなぁ‥‥」
ロイとエリヴィラはとにかく荷馬車に近づくインプ達を追い払うように武器を振るっていた。
「カーシャ、敵は何匹いるのですか!?」
「5‥‥9‥‥13‥‥。おそらく、インプだけでも16匹! クルードはまだ分かりません!」
それは、レドゥークの問いへのカーシャの返答。
「うわぁ〜〜っ!! 速過ぎるよ〜!!」
馬車の幌の上では、ロジェが二匹のインプを相手に苦戦していた。何せインプ達は、シフールのロジェより早く空を駆け巡り、容易くロジェの背後を取っていたからだ。武装をしているせいとはいえ、ロジェは今回参加した冒険者達の中で最も機動力に優れている。その彼がスピードで負けているのだ。他の冒険者達の苦戦も必至というもの。
「まずいな‥‥。くっ、この霧さえ何とかできれば‥‥」
梓弓から矢を放ちながら、ヒムテはクルードと呼ばれる悪魔の姿を探していた。だが、あまりに多くの悪魔の存在が彼の捜索を妨害していた。
今回の戦い、インプ達の統率を行っているであろうクルードを最初に潰せればと考えている冒険者も何人かいたが、どうやら敵もそう簡単には姿を見せにはこないらしい。狡猾な悪魔のやること。実はクルードには、霧の中でも視界に影響がでないという特殊能力がある。インプ達をけしかけ、自分は離れたところから様子を見ているのだろう。
「だあっ! くっ!? おらぁ!! どこにいやがるクルード!! 叩き切ってやるからさっさと出てくるさね!! 霧なんぞに隠れてないでねぇ!!」
次々と霧に紛れて攻撃してくるインプ達を剣で払い盾で押しのけながら叫んだのは、銀の髪を振り乱し瞳を紅く染めたリスティ。
純粋な戦闘力なら小悪魔など彼女の相手ではないが、こうも数が多く視界を制限されては思うように戦えない。必然的に小さな傷が増えていく。
そんな彼女の様子を見ていたのか、ついにその敵は姿を見せる。
「皆さん、気をつけて! 右方向から何かが‥‥あっ!」
カーシャが敵の反応に気づいた時、冒険者達を突然の猛吹雪が襲った。
『威勢が良いな、女! 気に入った! 遊んでやるぜ!』
霧の中からリスティの前に現れたのは、耳まで裂けた大きな口をした巨大なネズミのような醜い姿の魔物。
一瞬の隙を突かれ、リスティはクルードの尻尾を足に絡められ転倒する。リスティはすぐに立ち上がり、反撃の剣をクルードに振るうが、かわされてしまう。インプ達から受けた傷もあり、少しずつ身体は言うことを聞かなくなってきていた。
「ちっ、服が汚れちまったじゃないか」
『そりゃ良い。俺はな、ボロボロになった人間を地べたに這いつくばらせて、踏みつけにするのが大好きなんだ』
「随分な趣味じゃないか。けど、たまには踏みつけられてみるのもどうだい?」
ニヤリと笑って言い返すリスティだが、正直なところ彼女は辛い状況だった。ただ、それはリスティに限った話ではない。冒険者達はそれぞれに多少の傷があり、全体的に戦況は思わしくなかった。
「とにかくこの霧を抜けましょう!」
レドゥークの一声をきっかけに、馬車も冒険者達も一斉に移動速度を上げた。元より依頼は悪魔の殲滅ではなく護衛。ここで無理をしては全滅もありえる。
「今後のために少しでも数を減らしておきたいところでしたが‥‥仕方ありません」
目の前に現れたインプの一匹を刀の一振りで切り倒すと、エリヴィラは自分と共に走った。
「イゴール、行って下さい」
シャリオラはボルゾイのイゴールを先に走らせ、仲間達とはぐれないための案内役とする。自身は時に神聖魔法を唱え、悪魔達の追撃の妨害を行う。
ヒムテやリディアもそれぞれに弓矢、攻撃魔法などで悪魔達を牽制していた。
「乗れ!」
「なっ!?」
狂化したままクルードに気をとられていたリスティは、ロイが後ろから引っ張り上げ馬車の荷台に押し込んだ。
何とか濃い霧の中を抜けると、そこで悪魔達は追ってはこなくなった。どうやら自分達で活動範囲を決め、深追いはしないようにしているのだろう。
目的の村に辿り着いた時、冒険者達の表情は暗かった。依頼は成功し、人々には感謝もされたが、悪魔達との戦いは、どこか悔しさが残る結果となったからだ。
その冒険者達の様子を見たからか、依頼人のロランは別れ際にこう告げた。
「俺はこれから別の道を通って違う村にも向かうが、直にまたキエフにも戻る時が来る。その時にまだ悪魔達がいるようなら、また依頼を出すかもしれない」
それぞれに思うところはあったが、その後、冒険者達は問題の森を避け、徒歩で通れる別の道を歩いてキエフへと戻った。