人が消える森

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:9人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月30日〜10月07日

リプレイ公開日:2006年10月11日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であるが、時には少し違った依頼も舞い込む。

 新たに壁に張り出された一枚の依頼書。その内容について、ギルドの係員が冒険者達に説明を行おうとしていた。
「最近、周辺地域の開拓にあたっている人々の間で、とある森についての噂が広まっています。その森に入った者達が次々と行方不明になるという話です」
 ロシアでは、国王の政策によって周辺地域の開拓が進められている。そして先日から新たな開拓候補地として、何人かの商人や貴族が目をつけた森があるのだという。キエフからもさほど遠くないその森には凶悪な魔物の目撃情報もなく、最初は誰がこの土地の開拓を行うかで些細な揉め事が起こったほど条件の良い土地だったらしい。
 最終的に、ある貴族がその土地の開拓の権利を得た。だが、その貴族に雇われた何人かの開拓民が調査のために森に入ったところ、誰一人として森の中から戻ってこなかったという。雇い主の貴族は救助のための私兵を何人か派遣したが、その兵士達までもが誰一人として森の中から戻ってこなかった。
 そこで、今度は冒険者の一団に調査に向かって欲しいとの依頼が舞い込んだというわけである。
「皆さんには、人々が行方不明になった原因を森に入って調査していただき、また、魔物などが原因なら、その排除も行って欲しいとのことです」
 はっきり言って今回は難しい依頼だ。問題の起こった原因は分からず、敵がいるとして、その正体も数も不明。何が起こるか、何が出るか分からなければ、具体的な対策を立てることもできない。
「ああ、そうそう。お役に立つかは分かりませんが、一つ妙な噂を耳にしました」
 複雑な表情を浮かべる冒険者達の前で、ギルドの係員はこう続ける。
「問題の森には、大きな守り神がいるとの古い言い伝えがあるそうです」
 果たして、その噂は真実か嘘か。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea7602 リーン・クラトス(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5627 クンネエムシ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5690 アッシュ・ロシュタイン(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5760 フォルケン・ジルナツェフ(36歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5874 リディア・ヴィクトーリヤ(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●サポート参加者

チェムザ・オルムガ(ea8568)/ アド・フィックス(eb1085)/ シャサ・グリン(eb3069)/ エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)/ シダル・ヴァー(eb7128

●リプレイ本文

 彼らは生まれてからずっとそこにいた。
 長い時の流れの中を、静かにゆっくりと過ごしていた。

 問題の森に向かうにあたり、冒険者達は二手に分かれた。それというのも、今回の依頼に関する情報はあまりに少なく、依頼の遂行に大きな不安を抱えていたからである。
 魔法の靴や馬など高い移動力を持つ者は先行し、道中の村などで可能な限りの情報を集めて回り、その後で問題の森の近くで待ち合わせるという約束をしていた。
「凶暴なモンスターの目撃情報もないのに入った者が行方不明になる森か‥‥なんつうか良く分からない森だな」
 先行した冒険者の一人、アッシュ・ロシュタイン(eb5690)は頭を抱えていた。自分に出来る限りの聞き込みはしたつもりだが、それでもなお、問題の森に何かの魔物が生息しているというような話は聞けなかったからだ。
「森そのものも、今まで特に不審な点は無かったそうですね。今回のように多くの人が行方不明になったのは初めてのことだと聞きました」
「ただ、何年かに一度くらいは他にも行方不明者が出るようなことがあったらしいね」
 同じく先行組のシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)、リーン・クラトス(ea7602)がそれぞれに話す。多くの土地を深い森に覆われ、様々な生き物が生息するロシアにおいて、行方不明者が出ること自体はそれほど珍しいことではない。だが、短期間に複数人が一度にいなくなれば、さすがに人々の間でも噂になる。それが今回初めて起こっているということは、やはり貴族に雇われた開拓民達が森に入った時、何かの異変が生じたのだろうと考えられる。
「守り神の存在についてですが、ここに来るまでは巨大なエレメントやゴーレムといったものの類かと思ったのですが、そうではなさそうです。謎めいた言葉ですが、言い伝えでは森の守り神は『森そのもの』だとか‥‥」
「その言葉が本当だとすると、トレントかもしれません」
 オリガ・アルトゥール(eb5706)の言葉を受けて、リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)はある存在の名を告げる。トレントとは、樹齢百年を超えるほどの年月を生きた大木が知性を持ち、森を守る存在となったものである。一見、普通の樹木と大差はないので、トレントの方から行動を起こさない限りは、普通の人間が気づくのは難しいかもしれない。もし、今回の事件がトレントによって引き起こされているものであるなら、辻褄の合う部分は多い。
「だが、トレントってのは確か大人しい性格をしてるって聞いたことがあるぜ。‥‥人喰樹って線はどうだ?」
 アッシュの口から出た人喰樹というのも、存在としてはトレントに近いものだ。樹齢百年を超える木が特殊な能力を持ち、生き物の血肉を喰らう性質を持ったものである。植物でありながら、人間大の生物も捕食してしまうほどの力を持った存在である。
「ずっと悩んでいても仕方ありません。やはり中に入って調べてみるしかなさそうですね」
 愛馬であるユニコーンのローラントの背に乗ったまま、神聖騎士アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)は手綱を引いて問題の森の方に向き直った。
「確かに、実際に確かめてみるしかなさそうですね。フォルケンさん、ありがとうございました。ここからは自分の足で歩いてみます」
「なんの、これくらいのこと」
 今までフォルケン・ジルナツェフ(eb5760)の戦闘馬に乗せてもらっていたリディアが、ゆっくりと馬の背を降りた。ここまでの道中をリディアのような悩ましい肢体の若い女性と一緒に馬上で過ごしていたフォルケンは、その引き締まった身体や重厚な装備とは裏腹に、何とも恥ずかしそうな表情をしていた。普段は強面の騎士は、騎士である以前に一人の男であるようだ。
 しばらくして、後発組となったロイ・ファクト(eb5887)とクンネエムシ(eb5627)が到着した。
「すまない。遅くなった」
 ロイは本当は先発組に加わって行動したかったが、彼の愛馬は彼を乗せて十分な速さで走ることができず、他の先発の者達についていくことが難しかったため、急遽、後発組に方針を変更せざるをえなくなったのである。
「ところで、何か情報は集まったのか?」
 クンネエムシが訊ねると、仲間達は今までの話し合いの内容を彼らにも聞かせたのだった。

 武装と心の準備を済ませると、冒険者達は順に森の中へと歩を進めた。
「確か行方不明になった方々は、この辺りから森の中に入ったと聞いています」
「特に手がかりらしい物は見あたらないか‥‥。こうして見ると普通の森だな。何か得体の知れないものが潜んでいるようには見えないが‥‥」
 シシルフィアリスとクンネエムシは入ってすぐの森の中をさっと見渡してみるが、まだ何の不審な点も見つけることはできない。
「う〜ん‥‥こっちも異常なしだね」
 リーンも『インフラビジョン』を用いて動くものの影を探してみるが、鳥や小さな森の動物達以外の存在は見つけられない。ただ、それで分かることもある。
「予想はしていたが、行方不明になった奴らは無事ではない‥‥と、そういうことか」
 ロイが呟くように言うと、何人かの表情が曇る。生きているのなら、一人でも多く助けたかった。そう思ってここに来た者達もいる。
「もう少し奥の方に進んでみましょう。せめて遺品くらいは‥‥」
 気を取り直し、シシルフィアリスは前に歩を進める。ここで立ち止まってはいられない。真実を自分達の手で見つけたい。その思いで一歩ずつ。

 どれだけ歩いたろうか。
 森の中ほどまで来たところで、リーンの飼っている犬のグレースが吠えた。
「‥‥どうした?」
「あっちの方に何か‥‥全員、周りに注意しろ!」
 グレースの吠えた方向に視線を走らせたかと思えば、突然表情を変え、アッシュはその手に持つ太刀を構えなおした。彼の見たもの。それは、何かに頭を潰され、通常ではありえない方向に手足が曲がった状態の、兵士達の異様な死体。
「フォルケンさん、こちらへ」
「うむ。頼む」
 リディアが『バーニングソード』、リーンが『フレイムエリベイション』の魔法を仲間達に付与し始める。しかし、この行為が戦いの引き金になるなど、この時、誰が予想しただろうか。
 ――ゴォッ!! 
「ぐっ!」
 鈍い音が森の中に響き、衝撃でロイの身体が宙に浮いた。彼の背後にあった大木の一つが、巨大な枝を腕のように伸ばして攻撃してきたのである。見れば、木のうろの様な部分が口のように動いている。人喰樹、またの名をガヴィッドウッド。
「ちっ、複数ってのは少し予想外だったな‥‥」
 駆け出そうとしたアッシュの頭上、さらに別の大木から伸びた枝が襲い来る。間一髪で交わすが、攻撃がどこから来るか分からないという今の状態は、彼に次の行動を起こさせない。こちらはガヴィッドウッドより一回りだけ小さく、口のように動く部分もない。おそらくトレントだ。
「下手に刺激するな!」 
 クンネエムシは仲間達になるべく木々から離れるようにと促す。次々と繰り出される枝の攻撃をアッシュやフォルケンは必死に受け流す。だが、それもいつまでも続けてはいられない。
「少し時間を下さい。何とか話し合いをしてみます」
 言うが早いか、アーデルハイトはユニコーンのローラントに命じてオーラテレパスを発動させる。しかし、流れてきたトレント達の思念の言葉は、余り良いものではなかった。
『火‥‥恐い‥‥敵‥‥』
『こいつら‥‥森壊す‥‥その前に‥‥喰う』
「説得は‥‥無理みたいです」
 アーデルハイトはすぐにそう判断せざるをえなかった。今のトレント達の意識は、リディア達の生み出した魔法の炎への恐怖と、それに伴って生まれた冒険者達への恐怖や憎しみで一杯だった。
「やるしかないのか‥‥」
 クンネエムシは小太刀をガヴィッドウッドの伸ばしてきた枝を払うべく斬りつけた。だが、彼の攻撃は全く効いた様子がなく、そのまま枝の勢いに押し負けてクンネエムシは手痛い一撃を受けてしまう。
「くっ‥‥!」
 自分の攻撃が通じないと判断した彼はそのまま後退し、後方の魔法使い達の護衛に回る。
「半端な攻撃は意味を成さぬか。ならば、我が最高の一撃で、葬り去ってくれよう!」
 鎧棒と呼ばれる巨大な槍を手に、フォルケンが走る。
 ヴィッドウッドの伸ばした枝の連続攻撃を、かろうじて急所を避けることで耐え凌ぎ、ただ真っ直ぐに進む。
「一気に片をつけてやる」
 フォルケンの後ろからは、アッシュ。コナン流の二人の狙いは同じ。目の前の巨大な相手に、渾身の力を込めた一撃を全力で叩き込む。
 ――ドゴッッ!!!
 大きな音がして、大木の身に大きな傷が生まれる。だが、ガヴィッドウッドは倒れず、攻撃はまだ止まらない。
「下がってください!」
 オリガの声に反応して二人が飛び退けば、激しい吹雪が大木を襲う。
 シシルフィアリスとオリガのアイスブリザードだ。
「やったか‥‥」
 フォルケンとアッシュがそう思った瞬間、もう一度、ガヴィッドウッドの枝が彼らを襲う。まともに受け傷を負うも、二人もまだ倒れない。
「‥‥いい加減に‥‥ぶっ倒れろっ!!」
 アッシュのその叫びと共に、再び彼らの武器が大木の胴を捉えた時、巨大な木は音を立てて倒れた。
 残るはトレントだが、こちらの戦いも終わりが近づいていた。
「やられっぱなしで終わると思うな!」
「不本意ではあるが、これも仕方のないこと」
 ロイの剣、ラハト・ケレブの輝く刀身が、そしてクンネエムシの急所を突く小太刀の一閃が、トレントの枝を薙いでいく。
「森の守護者たる貴方には敬意を払います。ですが、私達は‥‥」
 名剣ベガルタを手に、アーデルハイトも愛馬のローラントと協力し、少しずつトレントにダメージを与えていく。
 ガヴィッドウッドに比べ、トレントの防御力は若干ではあるが脆いようだ。リディアやリーンの支援魔法の効果もあるのだろう。最初こそ複雑な枝葉の動きに惑わされた冒険者達も、次第に戦況を有利に進めていった。
『恐い‥‥恐い‥‥』
 死に絶える直前のトレントの心の悲鳴。それを、ローラントを通じてアーデルハイトは聞いていた。
「‥‥神は‥‥」
 小さな声でそこから先の言葉は周囲には聞こえなかった。だが、彼女は一人、トレント達へと何かの手向けの言葉を送っていたようだった。

 それ以上の敵がいないことを確認し、行方不明者達の遺品を回収すると、冒険者達はキエフへの帰途についたのであった。