霧深き悪魔の道へ

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月13日〜10月18日

リプレイ公開日:2006年10月23日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物などとの争いに関するものが主であり、この日の新たな依頼もまた、そういった内容の仕事であった。

 依頼人はロランという名の商人だった。
 彼は、周辺の町や村を回って物資の売買を行っており、その関係で過去にもギルドで依頼を出している。
「先日依頼した護衛の件では世話になったな。今回は、その件と少し関係があるのだが‥‥」
「‥‥先日の件ですか。確か、依頼そのものは無事に成功したはずですよね?」
 何か問題でもあったのかと思い、確かめるようにギルド員がロランに訊ねる。
「実はここ数日、あの時に遭遇した悪魔達による被害がかなり増えている。活動範囲も広がっているらしくて、今までの情報から迂回路を探すのも難しくなってきている。知り合いの商人にも荷物や金品を奪われた奴が何人もいるし、最悪、殺された奴もいる」
 ロランが言う悪魔達というのは、多数のインプと、それを統率するクルードという悪魔達の混成集団のことである。クルードが深い霧を生み出して対象の視界を奪ったところを、インプ達が機動力と魔法を駆使しての襲撃を行う。この連携に、先の護衛依頼を受けた冒険者達も苦戦し、何とか逃げきるという形で悪魔達の森を抜けている。
「今回は護衛ではなく、悪魔達の掃討を依頼したい。今のまま放っておけば、道が通れないなんて問題じゃなくなる。これ以上、奴らの被害が広がる前に、きっちり片をつけてくれ」

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5512 ウィオラ・オーフェスティン(27歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb6752 メル・レゾン(26歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7758 リン・シュトラウス(31歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

カノ・ジヨ(ea6912)/ シャサ・グリン(eb3069

●リプレイ本文

 霧深き森の中、悪魔達は獲物を待つ。
 だが、彼らの領域に踏み入る者全てが弱者ではない。
 彼らは気づいていただろうか?
 今、そこに近づくのは知恵と力を持つ狩人であることに。

 霧の中に生まれたのは淡い光。それは、クリスティン・バルツァー(eb7780)とカーシャ・ライヴェン(eb5662)の魔法が発動したことを意味した。
「ふん、低俗な悪魔どもが‥‥よくもまあ、こんなに湧いたものだな。‥‥来るぞ」
「後ろからも来ます。皆さん、注意して下さい」
 濃霧に覆われた森の中では、敵の位置を知ることも難しい。それゆえ、クリスティンとカーシャは仲間達の目となった。彼女達の存在によって、インプ達の霧に紛れての奇襲は意味をなさない。
 そして、相手の位置が分かるということは、冒険者達が先手を取る機会を得るということでもある。
「オリガおねーさま、こちらは私が‥‥」
「ええ。任せましたよ、シシル。‥‥さて、身内が世話になった分、きっちりとお礼をさせて頂きます」
 言葉を交わし、それぞれに金の髪を風に躍らせ、互いの背に仲間達を庇うように、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)とオリガ・アルトゥール(eb5706)は一歩前に出る。共に紡がれる呪文は同じく、インプ達に向けられ放たれるのは凍てつく風、アイスブリザード。
 ――ビュウウ。
「ギィ‥‥ッ」
 吹き荒ぶ風の中から聞こえてくるのは、複数の小さな呻き声。深い霧に視界を遮られているせいで、はっきりと姿を見ることはできないが、シシルフィアリスとオリガの魔法は、確かにインプ達を捉えていた。だが、全てのインプがその羽ばたきを止められたわけではなかった。

 ――バサッ!
「危ない!」
 上空から急降下してきた一匹のインプ。その鋭い爪が呪文の詠唱中であったリン・シュトラウス(eb7758)に迫ったところを、ユニコーンのローラントを駆る神聖騎士、アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)が名剣『ベガルタ』で受け止める。奇襲を防がれたインプは攻撃を受けられた反動を利用し、そのまま上空の霧の中へと逃げ込んだ。
 そのすぐ後で、リンの魔法が発動する。輝く月光の矢が霧の中へと放たれ飛んでいく。それに続くように、すぐ近くにいたウィオラ・オーフェスティン(eb5512)もムーンアローの魔法を放つ。彼女の矢はリンのそれよりも威力を増したものとなっており、射程距離も長い。
 遠くで悪魔の小さな呻き声がし、魔法が成功したのを確認して、リンは隣にいたアーデルハイトに向き直り、礼を述べる。
「ありがとう! 助かりました」
「どういたしまして」
 リンは今回が初めての依頼という経験の浅い冒険者だが、同じシュトラウスの姓を持つことからの親近感もあったのか、何度か依頼を受けた経験のあるアーデルハイトが先輩冒険者として彼女に気をかけてくれていたおかげで、この森まで来るまでの間は故郷の話などもしながら、順調に過ごせていた。なお、この森に来るまで‥‥というのは、今現在リンが狂化した状態にあるからだ。
「さて、この悪魔供、次はどうしてくれましょうか。やはり――から――に――を――して、――に――することにしましょうか」
 とても記録には残せないような単語の数々を発しながら笑うリン。隣で聞く神聖騎士のアーデルハイトは思わずローラントの耳を塞いでいた。知能の高いユニコーンとはいえ、オーラテレパスによる意思の疎通なしには、今のリンの言葉を理解してはいないはずだが、それでも反射的に身体が動いた。普段は細かいことを気にしないアーデルハイトだが、今回のリンの台詞の内容はさすがに無視できない内容だったらしい。側にいたウィオラも、どう言葉を返していいか分からず困り顔だ。
「さあ、この――ども、今、――してあげます」
 霧の中に、リンの高らかな笑い声が響く。
「‥‥どうしたものかしら」
「さすがに、リンさん一人にするのは避けた方が良いと思います。低級のものとはいえ、この悪魔達の狡猾さは侮れません」
 放っておいては危険と判断して、アーデルハイトとウィオラは彼女の側について戦うことにしたようだ。

「はあっ!」
 ――ッシュ!
『‥‥ギィッ!?』
 霧の中を舞う深紅のサーコート。それを纏うのは、オーラの力で自らを強化したレドゥーク・ライヴェン(eb5617)だ。彼が振るう剣は軌跡を描いてインプの身を切り裂いた。
「カーシャ、無事ですか?」
 レドゥークは今回、魔法を使う仲間達の盾となって動くことにしていた。どう行動するにも、足元を見ることすら難しいこの霧の中では下手に動けない。それならばいっそ敵の位置を確認できる者の側につき、その者達の言葉を頼りに戦った方が効率は良い。また、悪魔達も無防備な詠唱中の術者達を狙って攻撃をしかけてくることが多かった。
「はい。大丈夫です」
 繰り返しデティクトアンデットによる悪魔達の探査を行うカーシャ。今のカーシャは短い時間と距離でしかこの魔法の効果を使えないが、それでも近づいてくる悪魔達を探査するには十分だった。探査だけで攻撃も防御も行う余裕がほとんど無かったが、そこは愛する夫であるレドゥークが側で補ってくれていた。
 だが、それでも数の多い悪魔達の攻撃を全て防ぐことは容易ではなく、二人を含め、冒険者達には少しずつ傷が増えていった。

 冒険者達の間で固まって慎重に動く者が多い中、霧の中を一人で動き回っていた者もいる。狂化して理性を失ったリスティ・ニシムラ(eb0908)だ。彼女はクリスティンからそれらしい敵の姿を教えてもらうと、周囲の状況も構わず、しかも案内役としてクリスティンの襟首を無理矢理に引っ張って霧の中を突っ走った。そして見つけたのは、先ほどアーデルハイトとリンの放ったムーンアローを受け傷ついたたクルードの姿。もちろん、追い討ちをかけるべくリスティは手にした魔法の剣を振るった。かわしきれず一撃を受けた後、クルードは急いで距離を取った。
「ほらほら、毎度毎度隠れてないで出てきなよっ! 今度こそあたしが足蹴にしてやるからねぇ!」
『ちぃ、この女‥‥!』
 戦いはリスティの優勢であった。とはいえ、実際にクルードを苦しめていたのは、遠距離からアーデルハイトとリンの放ってくるムーンアローの連射によるところが大きい。魔法で反撃したいところだが、そこをリスティが追いかけてくるので詠唱に時間を割くこともままならない。
「そっちじゃない、こっちだ! って、おい、襟を引っ張るな!」
「あ〜ったく、あんたはごちゃごちゃ言わずに奴の居場所だけ教えてくれれば良いんだよ! 食わせた飯の分くらい、しっかり返して欲しいもんだ!」
「‥‥くっ、痛いところを」
 リスティに道具扱いされてるも同然の状態のクリスティンだったが、今回の彼女はあまりリスティに頭が上がらない。というのも、依頼の出発前に食料やテントなどの物資を用意してこなかった彼女は、この森までの道中も他の仲間達に散々世話になっており、リスティにも借りができていたからだ。
『ちぃ、何をしてやがるインプども!!』
 醜く歪んだ顔をさらに歪め、クルードが叫ぶ。だが実は、本来なら司令塔として機能しているはずのクルードが逃げ回っている状態であったために、インプ達も上手く動けない状況になっていたのである。霧の影響を受けるのはインプ達も同じで、クルードの的確な指示なしに十分な能力は発揮できなかった。徐々にではあるが、クルードを集中的に攻撃する方法を持っていた冒険者達によって、その霧の悪魔は最期の時を迎えようとしていた。
『俺が、俺様がこんな雑魚どもに!? ちくしょうがぁーーっ!!』
「はっ、冗談! 本当の雑魚はどっちか、教えてやるよ!」
 飛来する二つのムーンアロー、クリスティンのファイヤーボム、そしてリスティのティールの剣。冒険者達の攻撃が次々にクルードに直撃すると、悪魔はその形を失い、消滅したのだった。

「何とか終わったようですね‥‥」
「ええ。でも、何匹かのインプには逃げられてしまいました」
 周囲に静寂が戻ると、シシルフィアリスとオリガはアイスコフィンで動きを封じたインプ達が動かないことを確かめつつ、周囲の仲間達の姿を探す。
 クルードが倒されたことで周囲に立ち込めていた霧は徐々に晴れ、辺りにはごく普通の森の景色が広がっていた。
「さすがに今回も疲れました‥‥。一部には逃げられてしまいましたし、悪魔狩りを名乗るには、まだまだ修行が足りないかもしれませんね‥‥」
「ですが、これであの悪魔達も少しは身のほどを弁えて、しばらくはこの道にも近づかないと思います」
 そんな会話をしているレドゥークとアーデルハイトはカーシャから魔法での治療を受けているところで、すぐ近くでは精神的にかなり疲労したウィオラとリンが適当な木に寄りかかって眠っていた。
「あ〜っ、結局あたし、あいつを一回も足蹴にできてないじゃないか! ちっくしょーっ!」
「‥‥やれやれ」
 違う場所では、悔しそうに騒ぐリスティをクリスティンが冷めた眼で見ている光景もあった。
「どうやら全員、無事のようですね」
「ええ。でも、本当にこれで終わりでしょうか‥‥?」
「え? どういう意味ですか、オリガおねーさま?」
「‥‥いえ、少し気になっただけです」

 それからのこと。
 冒険者達はしばらくの間、アイスコフィンの氷の中からインプ達が出てくるのを待ち、その小悪魔達を退治して後始末を終えると、キエフへと戻った。
 数日が経った後も、あの道に再び悪魔達が姿を現すことはなく、人々は開拓村とキエフの間を自由に行き来できるようになったとのことだ。