サバイバルマラソン!

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月07日〜11月16日

リプレイ公開日:2006年11月20日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 開拓のすすむロシアにあって、それは主に魔物や蛮族との争いに関するものが主であるが、時には少し違った依頼も舞い込む。

 その日、ギルドの壁に新たに貼られたその依頼は、依頼というより広告に近いものだった。
「何だこれ? 競争?」
「優勝者には賞品が出るってよ」
「ほう‥‥腕試しには丁度良いかもしれんな」
 ざわざわと、集まって来た冒険者達の間から様々な話が聞こえてくる。

 依頼の内容を説明しよう。
 企画したのは、とある開拓村の住人達だ。
 その村は最近になってできたばかりの開拓村なのだが、キエフから少し遠方に作られたこともあり、まだまだ人の出入りが余り多くないのだという。
 今も開拓事業が進められてはいるものの、多くの大地を深い森に覆われたロシアにおいては、村同士の交易や交流は他国のそれに比べて非常に大きな問題である。人や物の流れがなければ、せっかく作られた村もやがては寂れ、いつかは消えてなくなってしまう。
 要するに、今回の企画は村興しのためのものだ。

 ルールはこうだ。
 参加者は村の入り口をスタート地点とし周辺地域を走る、全長約20kmのコースを一周。最も早く村の入り口に戻って来た者に賞品と賞金が出る。
 細かい内容は以下のようになっている。

 ◆セブンリーグブーツなど、移動を補助する道具類の使用は禁止。
 ◆シフールの参加者や魔法を用いる者の飛行は、地上から2メートルの高さまでなら許可。
 ◆運営側の監視の手間などを考え、ペットの同伴は禁止。卵や荷物持ちの馬などでも不可。必ず棲家に待機させた上で参加すること。
 ◆移動距離を短縮しないのであれば、迂回路を通るなどコースの変更も可。コースを逆走して一周し、ゴールするなどの行為も認められる。
 ◆スタート時、過去のギルドや武闘大会での功績などの情報を元に各自にペナルティが設けられる。(参加者中、最もLvの低い者からスタート。以後、各自のLvに応じ、最初にスタートした者とのLv差×1分後にスタートとなる。)
 ◆マラソン中の所持品については装備品と携帯品のみとし、バックパックは村の方で預かることとなる。
 ◆コースは森の中を通る部分が八割。ただの平地が一割、急坂や小さな湖の沿岸など、その他の部分が一割といった内容になっている。

 以上がルールである。
 内容を見て驚いた者もいるかもしれないが、この競走、なんと他者への攻撃や妨害行為が禁止されていないのである。村側で神父を呼んでおり、治療は無償で行われることとなっているが、怪我をすれば痛いし、死ぬのは恐い。それが普通だ。
 必然的に、命知らずや腕自慢、相当の策略家などが集まることになると思われるが、それ故の面白さもあるというもの。
 さて、どうなるだろうか。

●今回の参加者

 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5728 濃 醤(33歳・♂・ファイター・河童・ジャパン)
 eb7544 王 寅(34歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb8808 マリー・カリーニン(38歳・♀・ウィザード・ジャイアント・ロシア王国)

●サポート参加者

マリウス・ゲイル(ea1553)/ アド・フィックス(eb1085

●リプレイ本文

 走る。
 果てなく続く森を、広大な大地を。
 風を受け、流れる汗を拭う。
 ただひたすらに走った、その先にある何かを求めて。

「頑張れよ、兄ちゃん達」
「面白い勝負を期待してるぜ」
「そこのお姉さーん、後で俺とデートしてよー」
 競技の開始が近づくにつれ、スタート地点には村人達が集まり、出発前の冒険者達へ声援を送っていた。村興しを兼ねているだけあり、周辺の地域から来た見物客や、それを良い機会と見た商人などが集まって随分と賑やかである。
「村の皆さん、初めましてで御座る。本日、この競技の司会、実況を務めさせて貰うことになった磧箭で御座る。監視役のシフール達から情報が入り次第、どんどん皆さんに伝えていくで御座る。なお、ミーのことは気軽に『かわや』と‥‥」
「‥‥って、ちょっと待つね!! 何でお前が司会してるね!?」
 集まった村人達の前で爽やかな笑顔で口上を始めた磧箭(eb5634)に、王寅(eb7544)が訊ねる。今回の競技、同じ武道家として磧をライバルと思い、彼との勝負を楽しみにしていた王にとって、今の磧の状況は見過ごせない事態であった。
「それには幼い頃に遊んだ近所の川よりも深い理由があるので御座る」
「何ね?」
「ミーの可愛いペット達が一緒に付いて来てしまったので御座る。ミーは失格で参加できないで御座る。やることが無くなって暇なので、こうして司会をさせて貰うことにしたで御座る」
 今回の競技はペットの同伴は厳禁。しかし、磧には狐と犬が付いてきてしまっており、競技の参加資格を失ってしまったのである。棲家に置いてくる時間が無かったためとのことであり、非常に残念な事情であった。
「‥‥仕方ないね。同じ河童として、お前の分まで俺が頑張るね」
 少し落ち込んだ表情の磧の肩を叩き、熱い眼差しで見つめる王。
「それはありがたいで御座るが、競技を始めたいので早く下がって欲しいで御座る。村人達も待っているので御座る」
「つ‥‥冷たい奴ね」
 そんな二人のやり取りも終わって、ようやく競技が開始となる。

 最初のスタートは、唯一の女性参加者であるマリー・カリーニン(eb8808)と、ファイターの濃醤(eb5728)の二人。
「皆さん、お強そうな男性ばかりですからぁ、お手柔らかにお願いいたしますねぇ」
「いやいや、こちとら女相手だろうと手は抜かねぇぜ。ま、お互い頑張ろうや」
 両者とも顔では笑っているが、頭の中では互いに様々な策を巡らせていた。最初にトップを走るのはこの二人のどちらかだ。ほぼ何でもありの今回の競技においては、罠の類も仕掛け放題。当然、二人とも先行組としてのそのアドバンテージは計算のうちに入っているし、後から出発する冒険者達も出発前からその可能性を考えている。スタートでどちらが優位に立ち、どのような罠を仕掛けるかが、後続の冒険者達にも大きな影響を与えることになるだろう。
「では、位置について‥‥スタートで御座る!」
 磧の声を合図に、まず身体が先に出たのは濃。対して、何故かマリーはスタート地点から一歩も動かない。
「何だか知らないが、そういうことなら先行逃げ切り狙わせてもらうぜ!」
 幸いとばかりに一気にマリーとの距離を空けようとする濃。しかし、このサバイバルマラソン、そう甘くはない。足を止めていたマリーの身体がぼんやりと輝くと、急に辺りの森の雰囲気が変わる。
「申し訳ありませんが、トップの座はわたくしが頂きます」
 そう言ってマリーはいきなりコースを外れ、村の前の森を迂回する動きを見せた。その理由は後ほど、すぐに明らかになる。
「さあ、次はおれね」
 最初の二人のスタートから一分。王が出発。
「おれは虎ね! 虎になるね!」
 そんな台詞を呟きながらという異様な走り方ではあったが、王の足は早い。実は今回の参加者の中で、遠距離走に最も慣れているのが彼だ。先に出た二人との差もそれほど大きくはない。逆転劇は起こるだろうか。

 最初の冒険者達のスタートから十分。ここで、司会の磧のところに連絡が入る。
「えー、今監視のシフール達から情報が入ったで御座る。現在の先頭はMissマリー。続いて、濃殿と王殿がほぼ同じ位置にいるそうで御座る」
 迂回路をとったはずのマリーが先頭を走っているという情報に、村人達は驚きの声を上げた。もちろん、そうなった理由はある。
「‥‥どうなってんだ? さっきから進んでも進んでも、同じところを回ってるようにしか感じねぇぞ」
「おれは虎ね! 虎になるね!」
 実は、濃と王は未だに村のすぐ近くの森の中をうろうろしていた。原因は、マリーが仕掛けたフォレストラビリンスの魔法。そう、彼女はスタート時、意味も無く止まっていたのではない。魔法の詠唱を行うために、それに集中する必要があったのである。
 ちなみに、このフォレストラビリンスの魔法の効果は一時間。その時間の間につく差を考えれば、マリーの優勝は既に決まったも同然の状態。
 そんな状況の中、まだ出発の時を待つ以心伝助(ea4744)は、
「おお、兄さん、面白いもの持ってるね〜」
「エチゴヤさんの印入り? 大きな店は考えることが違うなぁ‥‥」
「皆さん、この魅力が分かるっすか、そうっすか。いや〜、促販品とはいえ、これで質の方もなかなか‥‥」
 と、集まっていた村人や商人達と楽しく談笑しているところであった。
 冒険者の多くが足を運ぶ店、エチゴヤ。世界各地に店を持つそのエチゴヤが、これまた世界各地に広めたエチゴヤグッズと呼ぶべき促販品の数々。伝助はそのコレクターらしく、コートやマフラーといった衣類から、果てはスコップやカップといった園芸品や日用品まで、揃えられるものは全てエチゴヤ印の品で揃えるというマニアっぷりである。もちろん、それについて語ったところでレースで有利になる情報を村人達から引き出せるとか、そういったことは全く無かったが、彼自身は実に幸せそうであった。
「この石像とか肖像画なんか、ちょっと重くて運ぶのも大変なんすけど、あっしとしてはやっぱり手放せない逸品っすねー」
 もちろん、彼が自分の出発のその時まで、延々とその会話を続けたのは言うまでもない。そして、彼もまた‥‥。
「どうなってるっすか〜」
 と、フォレストラビリンスの罠に嵌ったのであった。

 競技開始から三十分が経過しようとしていた頃、司会の磧のところに新たな情報が入る。
「大変で御座る! 先頭を走っていたMissマリーが競技中に高熱を出して倒れたとの連絡が入ったで御座る!」
 既に優勝したも同然であったはずのマリーが、ここに来てリタイヤせざるをえない状況になったらしい。しばらくすると監視のシフール達が協力し、彼女を村まで運んできた。
「うぅ‥‥、残念ですぅ‥‥」
 何故、こんな状態になったのか。それは、この競技に参加する以前の彼女の行動に問題があった。実は彼女、テントや寝袋、防寒具はおろか、火をつける道具さえも持たずにキエフを出発し、この村までの四日間の道のりを過ごしてきたのである。当然、夜の寒さを耐え続けたその身体は健全な状態とは言い難く、重度の風邪を引いてしまっていたのであった。そんな状態でまともに走れるはずもなく、最初は何とかしたものの、すぐに限界が来てしまったのである。
 ともあれ、これでレースは振り出しに戻る。彼女のかけたフォレストラビリンスの魔法が解けた後、この戦いを制するのは誰か。

「先に行かせてもらうっす!」
 魔法の迷宮から解放された伝助、王、濃。ほとんど同じ位置からの再スタートとなった三人だが、最初に飛び出したのは移動力の最も高かった伝助。
「させないね!」
「‥‥うわっ!?」
 しかし、その伝助に王は全力疾走で追いつくと、背後から網を投げつける。伝助の動きが鈍って転び、トップは王に入れ替わる。
「くっ、でもすぐに追い抜いてみせるっすよ」
「わりいが、そうはいかねぇな」
 ここで伝助の受難は続く。彼の後ろにあったのはロープを手にした濃の姿。
「な、何するっすかぁ!?」
「やかましい、とっととお縄を頂戴しやがれぃ」
 まるで捕り物騒動であるが、濃にしてみれば、自分より速く動ける伝助を潰しておく絶好の機会。こうして、きつく縛り付けられた伝助は、その場でしばらく縄と格闘することになったのだった。

 競技開始より四時間と少し。ついに、決着の時が訪れようとしていた。
「今、情報が入ったで御座る。間もなく、先頭の選手二人が帰ってくるで御座る」
 待ち続けていた村人達の間に歓声が上がると、森の中から姿を見せたのは、王と濃の二人。
「ぜぇ、ぜぇ‥‥」
「‥‥と、虎‥‥虎に‥‥」
 二人とも、かなり疲労している。だが、ここからが最期の勝負である。
「負け‥‥るかぁ!!」
 ゴール前、百メートル。グンっと、最期の力を振り絞り、濃の身体が僅かに王より前に出る。
 九十、八十、七十‥‥。
「虎‥‥と‥‥ら‥‥」
 息が苦しい。足が思うように動かない。王の脳裏に敗北の言葉が浮かぶ。
 六十、五十、四十‥‥。
 だが、王は諦めなかった。全ては、自分の目指すもののため。それに近づくために、今、自分はここにいる。そう、彼が目指すそれは‥‥。
「‥‥とらぁっ!!!」
「なっ!?_」
 三十、二十、十‥‥そして、ゼロ。
「優勝は、王寅殿で御座る〜!!」
 高らかに、磧は勝者の名を告げた。

 しばらくして表彰式が執り行われ、冒険者達を集まった村の人々の拍手と歓声が包む。
「負けたっす〜。‥‥けど、いい感じの訓練になったっす」
「いやー、あんたら強いねぇ」
 互いの健闘を称え合う冒険者達。
「ミーも参加したかったで御座るよ‥‥。次の機会はあるで御座るかなぁ‥‥」
「うっ‥‥次はしっかりと旅の準備をしてきます」
 大きな反省をしつつ、次の旅に思いを馳せる冒険者達。そして‥‥。
「おれは虎ね! 虎になるね!」
 賞品と賞金を受け取り、勝利を噛み締めつつ、再び目標に向かって歩き出す冒険者の姿が、そこにあった。