強くなりたい!

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:01月13日〜01月20日

リプレイ公開日:2007年01月25日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 それは時に国の運命を左右するような出来事であったり、誰かの人生を変えてしまうような大事であったりもするのだが、中には誰かの暇潰しに過ぎないような依頼や、本人にとっては真剣でも周囲にとってはどうでもいいような依頼などもあり、実に多様である。

 その日、一人の青年がギルドを訪れた。名はアニーシム・ウェラード。彼はまだ駆け出しではあるが一端の冒険者で、ここキエフのギルドの依頼も何度か受けたことがあった。
「よお、アニーシム。元気そうじゃねぇか。仕事を探してるならあっちの方に新しい依頼書が貼ってあるぜ。見てきたらどうだ」
 顔馴染みなのだろう。受付のカウンターにいた男性係員の一人が、アニーシムにそう声をかけた。だが、どうも今日のアニーシムは様子がおかしい。
「実は俺‥‥もっと強くなりたいんです!」
 唐突に、彼は受付の男性係員にそう告げた。
「ど、どうしたんだ急に?」
 言われた係員は少し困惑した様子だったが、すぐに冷静さを取り戻し、
「まあ、そこの椅子に座ってくれ。話を聞こうじゃないか」
「はい‥‥」
 そこから、アニーシムの話が始まった。
「実は俺、最近悩んでるんです。ここで何度か依頼を受けさせてもらったんですが、もしかしたら、自分は冒険者に向いてないんじゃないかって‥‥」
「何故、そう思う?」
 これには係員の方が疑問を持った。というのも、この係員が知る限り、アニーシムが参加した依頼は全て無事に成功しており、何の問題も起きていなかったからだ。
「確かに、俺の参加した依頼は問題なく成功しているかもしれません。でも、それは俺が一人で成しとげたわけじゃないです。‥‥実のところ、俺は何をやっても中途半端な人間で、誰かの後ろについて、その人を手助けするのがやっとで‥‥正直、いてもいなくても一緒で‥‥」
 愚痴にも近いアニーシムの話。それを係員はじっと聞いていた。
「この国で冒険者としてやっていくには、もっと強くならなきゃいけないと思うんです。でなきゃ俺は‥‥」
「なるほど。一つ聞くが、どう強くなりたいかは決めてるのか?」
「いえ‥‥それは‥‥」
 係員の質問に即答できず、目を泳がせるアニーシム。
「よく分かった。いいぜ、お前の依頼、ギルドで引き受けてやるよ」
 こうして、一人の冒険者を強くするという、変わった依頼が出される運びとなった。

「ああいうのを若さっていうのかねぇ‥‥。まあ、誰かに何かを教えるってのは、他の奴らにとっても良い機会かもしれねぇが、さて、どうなるか‥‥」
 少し愉快そうに、その係員はギルドの冒険者達を眺めていた。

●今回の参加者

 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0826 ヴァイナ・レヴミール(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec0220 アメリ・カミュ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ ユキ・ヤツシロ(ea9342)/ リノルディア・カインハーツ(eb0862)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ デカンダ・ガンテンブリンク(eb5298)/ ルナ・ルフェ(eb9423

●リプレイ本文

 目指すものがある。
 手に入れたいものがある。
 守りたいものがある。
 見つけたいものがある。
 その想いの先に‥‥。

 ――ガッ!!
「くっ‥‥!?」
 剣を持つ両の手に感じるのは、攻撃を受け止めた重み。冒険者であるアニーシムにはその衝撃自体は慣れたものだが、どうにも慣れないものもあった。居合いへの対処である。
「ふむ‥‥。三回のうち二回は何とか反応できるといったところですか。しかし、見えても対応が追いつかないのでは意味がありませんね。さっ、もう一度」
 刹那に敵を切る抜刀術。常人の目では捉えられぬその一閃の主は夢想流の使い手、雨宮零(ea9527)。零は今、アニーシムと剣を交え、彼の実力を測っていた。
「まあまあ。その辺で一回休憩にしたら? あなたはともかく、アニー君の方はかなり疲れてるみたいだし、先は長いし」
 集中力を欠いてケガをする前にと、アメリ・カミュ(ec0220)が零を止める。
「それもそうですね。では、アニーシムさん。また後ほど‥‥」
「あ、はっ、はい。ありがとうございました」
 零は今回の依頼に参加した冒険者の中でも、一番経験の多い実力者だ。アニーシムから見れば完全に一段上の、達人の域にある剣。先の一撃にしろ、零がわざと受け止めさせようとしていなければ、アニーシムは確実に地に膝をついていたであろう。教える側としては実に頼もしい存在ではあるが、実力の差を見せ付けられ、アニーシムはやや肩を落としていた。
「強さか‥‥難しいものだな」
「器用貧乏という言葉があるで御座るが、ミーも常々悩んでいるで御座るよ。アニーシム殿のこと、他人とは思えないで御座る」
 少し離れたところでケイト・フォーミル(eb0516)と磧箭(eb5634)がそう言葉を交わしていた。今回の依頼に参加した冒険者達は、どうすればアニーシムに強くなってもらえるかを考える一方で、自分にとっての強さとは何かという問題にも直面していた。同じ冒険者として活動する者同士、共感するものがあるのだろう。
「でも、アニーシムさんの場合は、自分自身に求めるモノが多すぎて迷子になっちゃってるみたいな印象ですね」
 そう言ったのは狩人のグラン・ルフェ(eb6596)。今回、冒険者達はアニーシムと一対一で、あるいは複数人での模擬戦を何度か繰り返している。まずアニーシムの資質を見定めることが大事だと考えている者が多かったからだ。
「でも振り返って見ると、俺も自分のこと『強い』って全然思えないな‥‥」
 グランはどちらかと言えばアニーシムとは対照的に、射撃術という一芸を徹底して磨いてきた冒険者だ。努力の甲斐あって、その腕はかなりのものになっているが、それでも、彼には彼なりの悩みがある様子。
「そうですね。多くを求めるのは悪いことではありませんが、それで自分を見失っては意味がありません。今の彼は、まさに迷子なのだと思います」
 学者であり、教育者としての知識も多くあるメアリ・テューダー(eb2205)。迷わず、揺るがず、惑わず。真っ直ぐに自分と、そして相手に向き合う。彼女は既に、アニーシムに何を教えるべきかの答えを出しているようだった。ただ、それをアニーシムに話すには、まだ少し時間が必要でもあった。

 冒険者達とアニーシムの手合せは、それからも何度も続いていた。
「くっ、早い」
「そんな動きじゃ、俺には一撃も届かないよ」
 高速詠唱によって走りながら間合いを取ってディストロイを放ち続けるという戦法で、剣を持ったアニーシムを一方的に攻撃していったのはヴァイナ・レヴミール(eb0826)。本来であれば、戦闘の緊迫感から狂化していてもおかしくないヴァイナだが、その様子はない。実際の戦闘ではないからかもしれない。
「うっ‥‥参りました」
 これは勝ち目が無いと判断したアニーシムが、早々と降参した。
「まあ、そう落ち込むことは無い。はっきり言って俺は弱い。ただしそんな俺でもやり方次第では君に勝てる。それを見せたかっただけだ」
「なら、単に俺がもっと弱いってことですね‥‥」
 落胆の色を浮かべるアニーシムに、ヴァイナは言葉を続ける。
「いや、俺から見れば、君は弱くなどない。いいかい、大事なのは頭を使うということだ。俺の戦い方は見たな。では、どう戦えば自分が勝てるようになるか考えてみなよ」
「どう戦えば‥‥ですか?」
 言われて、アニーシムは考えを巡らせているようだった。それを見て、ヴァイナは彼の背をもう一押しすることにした。
「俺は強さとは、自分の信念を貫けるか貫けないかだと思っている。世の中には自分より強い相手に対し泣き言ばかりを並べて、大した努力もしないで勝つことを諦めてしまうような者もいるようだが、それに比べれば強くなろうという意志のある君は随分とマシだと思う。‥‥それにしても寒いね、この国は」
 そう言って、防寒具を着ていなかったヴァイナは急いで焚き火にあたりに行くのだった。

「降参です」
 何度目の模擬戦だったろうか。複数人での手合せの中、一番の実力者であるはずの零が、最初に剣を置いて負けを宣言したことがあった。
「さすがに、魔法使いの方とは相性が悪いです」
「えっへん。あたしだって、やる時はやるんだから〜」
「まあ、二人で一緒にかかりましたからね」
 アメリのグラビティーキャノンとメアリのプラントコントロールやアグラベイションといった、相手の行動の妨害ができる魔法の類は、耐性や対抗策の無い者にとっては脅威だ。連続で使用されれば、何もできないまま一方的に負けることも多々ある。先のヴァイナとアニーシムの模擬戦も、まさにこれと同じだった。
「あの零さんが‥‥」
 零の実力を既に知っていたアニーシムにとっては、驚きの結果だった。
 その様子を見て、ケイトは良い機会と見て彼に声をかける。なお、この際に声をかけるか止めるかでケイトが悩んだ数秒の間があったりする。
「と、突出した力は確かに強い。だが応用が効かん。自分も苦手な分野では役立たずだ」
 どちらかと言えば口数が少なく、周囲からは落ち着いて見える様子のケイトだが、自分の弱い部分を話すのは少し恥ずかしかったのかもしれない。何となく頬が赤かったように見えた。
「実際問題、一人で出来ることには限界があるで御座るからなぁ‥‥」
「‥‥っ!?」
「‥‥何をしているで御座るか、Missケイト」
「いや、し‥‥失礼。」
 自分の背後から突然現れた河童の磧に、つい驚いて大きく飛び退いてしまったケイトであったが、すぐさま何事もなかったかのように振舞う。少し動揺している様子なのは隠し切れていなかったが。
「さて、話を戻すで御座るが、多様性というのは大事なので御座るよ。ギルドには様々な依頼があるで御座るが、必要な能力を持つ者がいなくて苦労する事もあるで御座る。確かに何かに特化している御仁は戦力として魅力で御座るが、少し浅くとも幅広い知識をお持ちの御仁も、ミーから見れば同じように魅力的で御座るよ」
 そう言って、磧はアニーシムに微笑んで見せた。‥‥と、そこへもう一人。
「実際、アニーシムさんに助けられたという方も少なくないようですよ」
 ギルドでの聞き込みを終えて、グランが戻って来たところだった。
「あの、それはどういう‥‥」
「まあ、色々と聞いて回ったんですよ。ねえ、アニーシムさん。『誰かの後ろについて、その人を手助けする』アニーシムさんが、『いてもいなくても同じ』なわけないですよね? 少なくとも俺がそうしてもらったらとても心強いし、持っている以上の力を出せると思います」
 この時、グランの目には、何となくアニーシムの瞳に小さな光が生まれたように見えた。それは本当にまだ小さな光。
「でも、俺は‥‥」
「格闘術に秀でた人には格闘で、射撃術に秀でた人には射撃で、回避術に秀でた人には回避で及ばない。要するにそういう事ですよね?」
 アニーシムの言葉を拾うようにして、メアリが続けた。
「でも、それは当然です。あなたは、あなた一人と他の人達全てを比べているのですから。一人だけの力と皆の力を合わせた物とを比べた結果がどうなるかなど明白です。全てを合わせてしまえば、それは短所なんてない長所の結晶‥‥。それと比べて敵わないからといって、中途半端という事ではないのです」
 穏やかに、上品に微笑みを浮かべて、メアリはこうも付け加える。
「確かに秀でたものはないかもしれませんが、劣っているものがないという事も立派な長所です。多様性と柔軟性、それは何かに特化した人にはない長所です。自分を見据え惑わされない事、それが強さを見つける第一歩だと思います」
 メアリのその言葉を、アニーシムはじっと、そして真っ直ぐな瞳で受け止めていた。
 
 時の経つのは早いもので、この依頼の期間も、いよいよ最終日を迎えていた。
 見れば、アメリがアニーシムに、兄の話を聞かせているところだった。
「あたしとお兄ちゃんは双子で、おんなじ地のウィザードなの。興味があることも似てるから、できることもほとんど同じ。でも、あたしが精霊のことを専門で覚えようかなって言ったら、お兄ちゃんは『じゃあ私はドラゴンの方を学ぼうかな』って。そうすればお互いに得意分野ができて、一緒に冒険するときに幅が広がるんじゃないかって、ドラゴンの勉強を始めたの。ナルホドって思って、使う魔法もね、それぞれ別なのにしたの。あたしは攻撃系で、お兄ちゃんは補助とかそっちのタイプ。それでね、一人の時より二人でいた方が、強さは二乗三乗にもなるんだ♪」
 その話を聞いて、アニーシムはこう応えた。
「今回のことで思ったんです。自分が誰より強いとか、弱いとか、そんなのばっかりで、俺は周りの人達をちゃんと見てなかったんじゃないかって。自分一人でできることじゃなく、皆でできることを考えていかなきゃいけないんじゃないかって‥‥」
「ほう、言うようになったじゃないか」
 声のした方を見れば、ヴァイナが立って愉快そうに笑っていた。
「あ、次の模擬戦ですか?」
「いや、もう必要なさそうだ」
 アニーシムが荷物から弓矢を取り出そうとするのを見て、ヴァイナは首を振った。
「まあ、それでも引き分けくらいする自信は‥‥ん?」
「い、いつまで休んでるんだアニーシム。こっちはさっきから待っているというのに」
 ヴァイナの言葉を遮って、後から来たケイトが自分との手合せを促す。
「さぁ、学んだと思う全てを自分にぶつけてこい!」
「は、はい!」

 冒険者達は今日も己と、そして誰かと向き合う。迷わず、揺るがず、惑わず、真っ直ぐに。