吹雪の中に哂う者

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:02月06日〜02月13日

リプレイ公開日:2007年02月19日

●オープニング

「家が‥‥私達の家が‥‥!」
「ああっ、どうして、どうしてこんな‥‥」
 暗く冷たい闇の夜。凍てつく風が、全てを包む夜。
 自分達の目の前で起こっている現実を、ただじっと見ていることしかできなくて‥‥。
 燃え盛る炎だけが鮮やかに、そして残酷に、彼らの家を飲み込んでいった。
 そして、その様を見つめる存在がいた。
「ククク‥‥。いいね、いいね、あの顔。やっぱり、人間は絶望した時の顔が一番良い。さあ、もっとだ、もっと見せてくれ!!」


 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
「聞いたか、また放火だってよ」
「例の西の村か。これで四件目だってんだろ。犯人はまだ捕まらないのか」
「それが、噂じゃ何もなかったはずのところから突然火が出たって話でよ、性質の悪い魔法使いか、でなきゃ‥‥」
「幽霊か悪魔の仕業ってか。何にせよ、ろくでもない相手なのは確かだろうな」
 冒険者達の間で、ある村の話が広がっていた。そこは開拓されたばかりの比較的新しい村で、明るい住人達がいつも笑顔で訪れる旅人を出迎えてくれる、そんな村だった。
 だが、最近になってその村に放火魔が現れるようになった。ただ、未だ犯人を見た者は誰もいない。出火の場所や火事の状況から、明らかに何者かが火を放ったのだと分かっているだけだ。
 そして、そんな厄介な状況であるがゆえに、冒険者達の力を求める声が上がることとなる。
 集まった冒険者達に、ギルドの係員は簡潔に依頼の内容を述べる。
「依頼の内容は村を苦しめている放火魔の捕縛、あるいは退治です。相手の正体が分かりませんので、この判断は冒険者の皆さんにお任せします。犯人に繋がる手掛かりは今のところ、その姿を見た者が誰一人としていないという一点のみです。それ以上のことは、各自で実際の現場にて調査して下さい。では、よろしくお願いします」

●今回の参加者

 eb6954 ガラハド・ルフェ(42歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb9703 ラヴァド・ガルザークス(26歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb9925 アルーシュ・エジンスキー(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec0302 クレリア・マイルス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec0865 クレア・サーディル(28歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

クリフ・バーンスレイ(ea0418)/ 藤村 凪(eb3310)/ 稲生 琢(eb3680)/ 千住院 亜朱(eb5484)/ ミッシェル・バリアルド(eb7814

●リプレイ本文

 その小さな村を訪れた彼の者は、そこに生きる者達を憎んだ。
 幸せそうな笑顔。
 楽しそうな声。
 暖かな食事。
 全てが自分には眩しく、遠く、許されぬものであった。
 そして彼の者は、己の本能のままに破壊と絶望の声を望んだ。
 だが、全てが彼の思い通りにはいかなかった。
 白い雪の舞う日、救いを求める声を聞きつけ、彼の者の行いを止めるべく、その村を訪れた者達がいた。

 ――ザッ‥‥ザッ‥‥。
 一歩、また一歩と歩を進める度、静寂の中に雪を踏む音が響いた。ロシアの森は深く暗い。
「姿の見えない放火犯ねぇ‥‥なんともまぁ物騒な世の中になっちゃったもんだこと」
「火事は家だけでなく、そこに住んでいた家族の思い出も燃やしてしまいます。その火事を意図的に引き起こし楽しむ‥‥そのような者は許す事ができません」
 ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)の呟きに言葉を返したのは、馬上のクレア・サーディル(ec0865)。今回の依頼の敵には謎も多い。だが、いかなる理由があれ、罪も無い村人達を苦しめるその存在を彼女達は放ってはおけず、この依頼への参加を決めた。一刻も早く、人々を襲っているその脅威を排除したい。想いは強く、冷たい風を受ける身体を前へ前へと進める糧となっていた。
 だが、いかに想いが強くとも、上手くいかないこともある。早目に村に着くべく馬に乗っての移動を選んだクレアだが、少しばかり荷物が多かったか、普通に歩くよりは早いという程度にしか道を急げないでいた。
 一方、ルイーザは自分の幼い馬の手綱を引き、少しでも歩きやすいようにと誘導していた。本当なら駿馬のクピドの背に乗って少しでも早く村に向かいたかったが、連れてきてしまったものを途中で置いていくわけにもいかなかった。
 依頼の内容に応じて必要な物とそうでない物を分け、少しでも仕事の効率を良くするのも冒険者には大事なことだ。駆け出しの冒険者である彼女達も今はまだ少しばかり経験が足りなかったか、そこまでは気が回らなかったようだ。
「お疲れ様ですな。もう、ある程度の聞き込みは済ませておきましたぞ。色々と興味深い情報も得ております」
 二人が村に辿り着くと、先に着いていたアルーシュ・エジンスキー(eb9925)が二人を出迎えた。小さな村なので、誰か新しい者が辿り着けば他の者にもすぐに情報は伝わる。先行していた他の二人、マクシーム・ボスホロフ(eb7876)と瀬崎鐶(ec0097)も、すぐにこちらにやって来た。
「何とか手持ちの道具で出来る範囲で色々と罠も仕掛けておいた。後で場所やら何やら詳しく説明するが、ひとまず休憩だ。‥‥まあ、村人達の話を聞く限り、その罠もどこまで有効かは分からんがな」
「どういう意味です?」
 マクシームの言葉にクレアが聞き返す。
「放火魔の姿が見えないことについては、既に周知のことだが、実は火事のあった現場の周辺では、犯人のものと思われる足跡も特に見つかっていない。魔法による発光などについても目撃した者は皆無だ」
「ということは‥‥?」
 今ひとつピンと来なかったルイーザが訊き返すと、アルーシュが次のように説明を始めた
「相手は姿を消しつつ、おまけに空を飛んでいるものと考えられますな。魔法でもないなら、少なくとも犯人が人間であるという線は消えるので、やはり悪魔か幽霊の類でしょう」
「あ〜、なるほどねぇ〜」
「まあ、そういうわけで罠の類の効果は余り期待できない。せっかく、こっちの嬢ちゃんも手伝ってくれたんだがな‥‥」
 マクシームはそう言って鐶の方を向いた。
(「困ったな‥‥。どう反応したら良いのか‥‥」)
 見れば、鐶は会話についていけない様子である。それもそのはず。彼女はまだゲルマン語を覚えていないのだ。マクシームとの共同作業も、身振り手振りで意志の疎通に四苦八苦しながら、ようやくのことで進めていった次第だ。
「もぉ〜、駄目だよ。可愛い女の子が堅い顔してちゃ〜。ほら、笑顔、笑顔〜」
『‥‥は、はひふるほ〜?』
 見かねたルイーザが鐶の頬を引っ張って無理矢理に笑顔にさせていた。それを見て他の冒険者達もつい笑ってしまう。鐶にしてみれば迷惑だったかもしれないが、何となく彼女も場に溶け込めたような気がした。
「少しばかり計算を誤りましたね‥‥」
『やっと着いたか‥‥』
 次の日。遅れていたガラハド・ルフェ(eb6954)、ラヴァド・ガルザークス(eb9703)の二名が辿り着き、これでようやく全員が揃った。なお、ガラハドも本当は先行組に参加を希望していたはずだったが、彼が遅れてきた理由は先の女性冒険者二名同様、移動力の劣る驢馬を連れてきてしまったことと、馬に乗る重量で移動力が落ちてしまったのが原因である。
『ガラハドさん、早速で悪いけど、僕の方でも聞いておかなければいけないことがたくさんあるみたいだから、通訳をお願いして良いかな?』
 ガラハドを出迎えてすぐ、鐶がジャパン語でそう訊ねた。今回、ガラハドはゲルマン語とジャパン語の両方が話せる唯一の冒険者だ。
『そうですね。あらためて聞き込みをする時間も余り取れなさそうですし、こちらも一緒に説明を受けたいです』
 二人にとっては、数日振りに他者とまともに会話ができた瞬間だった。ガラハドはラヴァドと一緒に来たが、ラヴァドはラヴァドでスペイン語しか話せないため、通常の会話がほとんど成立しなかったのである。
(「さて、大まかな打ち合わせ自体はギルドで済ませておいたが、うまくやれるか‥‥」)
 そうして、ラヴァドも情報交換に参加するが、やはり言語の壁は厚かったらしく、身振り手振りを加えてもらっても、全員が話していたことのほとんどを正確には理解できぬまま終わってしまった。それに、彼一人のために他の者が余り多くの時間を割くわけにもいかなかった。村の警備、武器の手入れ、新たな罠の設置。行いたいことは幾らでもある。
(「む‥‥やはり、言葉が通じないというのは不都合が多いな‥‥」)
 駆け出しの冒険者に失敗はつきものだが、果たして、彼らは無事に依頼を果たすことができるだろうか‥‥。

 簡単な打ち合わせを経て、冒険者達は村に残っている各建物への警備についた。どの建物に敵が現れるかはアルーシュが規則性を見つけるべく頭を捻ったりもしたのだが、結論として法則性の全く無い無差別攻撃であることが判明しただけだった。冒険者達は戦力を分散させるをえなくなり、敵の発見方法についても、小さなかまくらの中に隠れて待ち伏せたり、耳を済ませたり、ひたすらに村の周囲を歩き回ったりと各自のやり方に任せる形になった。上手くいくだろうか、本当に犯人の正体を知ることができるのだろうかと、誰もが不安を胸に抱いていた。
 ‥‥が、ある一人の冒険者のとった行動で、犯人の正体は驚くほど簡単に判明することになるのである。
 ――バシャ!!
「ブハッ!?」
 突然に宙に浮いた発泡酒の入れ物目掛けて、着色された清水が投げつけられた。途端、ほとんど白一色に染まっていた世界の中に、黒いシルエットが浮かぶ。
「そこまでだ! 覚悟するがいい、この放火魔め!」
 そう叫び、魔力を秘めたダガーを投げつけたのは、マクシーム。彼は自分が警護にあたった家の前に発泡酒を置くことで、犯人がその酒を盗みに動くことを期待したようだ。
 投げられたダガーは鋭く犯人の腕を掠め手傷を負わせると、そのままマクシームの手に戻る。
「ちいっ、厄介な武器を!!」
 戦いの始まりに他の冒険者達もすぐに気付き、応援に駆けつける。最初に駆けつけ、攻撃に出たのはラヴァドだ。
『犯人め、おとなしくしろ!』
「ハッ、冗談!」
『ならば‥‥』
 ――キンッ!!
『何っ!?』
 自分のスペイン語を犯人が理解したことに、ラヴァドは少し驚いた。だがそれ以上に驚いたのは、彼が振るった剣の一撃を受けて、その犯人が傷を負わなかったこと。
「わらわらと湧いて出てきやがって‥‥。仕方ねぇ、まとめて相手してやるよ!!」
 バサリと犯人の背に広がるのは黒い翼。インプにも似ているが、長く伸びた禍々しい爪と、もじゃもじゃとした毛に覆われた姿は明らかに別のもの。
 ――ガッ!
「あー、やっぱり悪魔のお仲間?」
「ご名答。グレムリン様だ! 酒にはちと五月蝿いぜぇ、覚えとけ女ぁ!」
 繰り出した爪の一撃を篭手で受け流したルイーザに、グレムリンは醜い顔をさらに醜く歪ませて奇怪な笑顔を作り、そう言い放った。
「この悪魔、速い‥‥!?」
「邪魔するなぁ!」
 背後からクレアが投げつけたダーツを翼で弾き、グレムリンはそのままクレアの頭上へ飛ぶ。‥‥だが、グレムリンがルイーザから離れた、その瞬間を狙った者達がいる。
 ――シュ!
「何ィっ!?」
「‥‥好きにはさせません」
「確かに動きは速いが、狙えぬほどじゃない」
 飛来したのは鐶の短弓の矢と、アルーシュのダガー。どちらも魔力を帯びた武器での攻撃だ。
「ぐっ!」
 空中で体勢を崩し、高度を落としたグレムリンを待ち構えていた者達もいる。
「相手が悪魔ならば、この剣で戦うには丁度良い相手ですね」
「同じく。聖人の力、その身に刻んでさしあげます」
 ガラハドの大天使の剣、クレアの聖者の剣。二つの刃にその身を切り裂かれると、さすがの悪魔の表情からも余裕が消える。
「おのれ、人間ごときが! この俺に‥‥ぐぅ!」
 たまらず空へ逃げようとするグレムリンだが、そこをアルーシュのスターホイップが絡め捕る。
「どこへ逃げるつもりですかな? 多くの村人達への残虐な行い、大いなる父は大層お怒りですが」
「くっ、放せ!」
「良いよ〜。ただし、これを受けてもらってからね〜!」
 動きを封じられたグレムリンの視界に移ったのは、宝剣を手に駆け込んでくるルイーザの姿。
「な‥‥や、やめろーー!! ぐあああっーーーー!!!」
 マッネ・モショミの一撃がグレムリンを貫く。こうして、人々を苦しめた悪魔は最期の時を迎えたのだった。

 こうして無事に依頼を完遂し、冒険者達は白い雪の降り続ける村を後に、一路キエフへと戻るのであった。