牙の道
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月06日〜03月11日
リプレイ公開日:2007年03月18日
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●オープニング
キエフ冒険者ギルド。
ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
「ここに来るのも久しぶりだなぁ‥‥」
今回の依頼人は、町や村を回って物資の売買を行っている商人で、名をロランという。
過去にも何回かギルドで依頼を出しており、内容はいずれも物資の輸送に際しての護衛、あるいは障害の排除といったものであった。
おそらく今回もその関係だろう。もしかしたら、過去の依頼と関係のあることかもしれない。以前、彼の依頼を受け付けた時のギルド員がそのまま応対にあたった。
「ようこそロランさん。今回はどのようなご依頼でしょうか?」
「以前、開拓村に通じる道の一つに、狼の出る道があるって話をしたのを覚えているか?」
問われて、ギルド員は頭の中の過去の記憶を掘り起こす。
「ええ。確か、過去にロランさんの依頼を受けた冒険者の皆さんは、その道を通ることを避けたようですが‥‥」
狼は、群れによる狩りを行うことで知られている。彼らは獣でありながら、実に巧みな連携をとり、じっくりと獲物を追い詰める形の戦い方を得意とする。その素早い動きで相手を翻弄し、一瞬の隙を見つけ、その牙を獲物へと突き立てる。
「実はな、その狼が増えて、かなりの数になっている。正直、村一つくらい簡単に潰されるんじゃないかってほどだ」
「そんなに‥‥ですか」
「村側から俺のところに届いた手紙によれば、最低でも二十匹。実際のところ、その倍はいるんじゃないかと言われてる。まあ、目をつけられたが最期、普通の旅人や馬車はまず生きて森を抜けられない。おかげで、村の方はいつ襲われるかと不安で仕方ないらしいし、こっちとしても得意先が一つ無くなるのは困る」
そこで、ロランと村側との共同出資により、冒険者達に狼狩りを依頼したいということになったそうだ。
「ただの動物相手だと思って油断するなよ。数の暴力っていうのは意外と馬鹿に出来ないもんだからな」
果たして、冒険者達はこの依頼にどう挑むだろうか。
●リプレイ本文
無数の足音が大地を駆ける。
暗く冷たい冬の森。
待ち受けるのは、血に飢えた獣の牙。
「どう? 見えるかい?」
「‥‥ああ。これは助かる」
問題の森に入ってすぐのこと。リーン・クラトス(ea7602)は特別な視覚を得るインフラビジョンの魔法を自身とマクシーム・ボスホロフ(eb7876)にかけ、周囲の索敵にあたった。
「‥‥事前に聞いてはいたけれど、確かにこれは厄介そうだね」
「ざっと数えて‥‥三十五、六匹ってところか。森の食い物が乏しくなった時に、村がどうなるか分かったもんじゃないな」
魔法の力を得た二人の目に、木々の合間や物陰からこちらの様子を窺っている狼達の姿が見えた。ただ、それなりに近い距離に集まってきてはいるものの、今は目立った動きはない。
「狼達の様子はどうですか?」
後ろから声がかかった。二人が振り返って見れば、重武装の女戦士、クロエ・アズナヴール(eb9405)。
「向こうは様子見‥‥ってところかな。こっちの人数が多いので、警戒してるのかもしれない」
「なるほど。獣にしては、なかなか頭の回る相手というわけですか。こちらから仕掛けてみます?」
妖艶な笑みを浮かべてクロエは剣へと手を延ばす。
『わっ、ちょっと待って下さいー』
「え?」
クロエの手が剣を抜く前。可愛らしい山羊の柄が織り込まれた手拭いを頭に巻いて、両手には料理の盛られた皿という、緊迫した場には少し不釣合いな格好をした、細身の女性から声がかかった。
『今、お食事の用意が出来たところですから、戦いはご飯の後にしませんかぁー?』
彼女、野村小鳥(ea0547)が華国語で言う。彼女はまだゲルマン語を覚えていないため、仲間達との意志の疎通に大きな壁があった。ただ、内容を理解できる者もいたので、幸い大事には至っていない。その場で言語に長けたリーンが小鳥の言葉を訳し、仲間達に伝えた。
「心遣いは嬉しい。しかし、この状況で食事というのは‥‥」
「良いじゃないですか。食事はとても大切なこと。神聖な儀式にも等しいことですよ。見張りなら、私が代わりましょう」
渋るマクシームに言ったのは、ディディエ・ベルナール(eb8703)。
確かに現状、相手の動きは把握している。仮に急襲を受けたとしても、すぐに対処できるだろう。
『まあ、せっかくだ。僕は頂こう』
『本当ですかぁー。良かったぁ。ここだけの話、リーンさんには特別なのを用意してるんですよぉー』
自分の料理を一番食べて貰いたかったリーンが承諾してくれて、小鳥は心の底からほっとした。持ち歩いていた呪いの小柄のせいか、ここ数日の小鳥はどうにも運が悪かった。この寒い中に防寒着の用意を忘れ、両手で毛布を抱えて森の中を歩くはめになったことに始まり、料理をすれば手を怪我してしまったり、何もないところで他人を巻き込んで転んでしまったりと、周囲に迷惑をかける面もあった。それゆえ、僅かでも他人の役に立てることが本当に嬉しかったのだ。
つかの間の休息に憩う冒険者達。
「さて、美味しい食事も頂いたところで‥‥いざ狼退治と参りましょうか」
板金の鎧兜に、深紅のサーコート。手には獣殺しの力を持つ魔剣『ベガルタ』。実に騎士らしい出で立ちで、レドゥーク・ライヴェン(eb5617)は戦いの時を今か今かと待っていた。
「そう慌ててはいかんで御座るよ。リーン殿、狼達の様子はいかがで御座るか?」
そう訊ねたのは磧箭(eb5634)。こちらは聖なる加護を受けた獣皮の鎧兜に、銀の十字架の刺繍が胸に施された魔法の上衣。手には魔法の剣という装備。磧の職業は武道家なのだが、外見だけを見るなら、まるで神聖騎士のようである。
「きっちり付けてきてるが、まだ仕掛けて来るつもりは無いようだね。狩りに適した場所まで行くのを待っているのか、あるいは単に警戒心が強いのか‥‥」
「どうする? このまま進んでも、向こうの策に乗るだけかもしれないぞ」
マクシームが提言すると、リーンは進行方向のやや遠方へと視線を移す。
「‥‥この先に、少し開けた場所が見えるね。そこで仕掛けよう」
薄暗い森を、狼達は駆けた。
久しぶりの獲物の臭いに、心が躍る。
だが、焦ってはいけない。慎重に、確実に‥‥。
‥‥その時だった。風を裂いて、その金色の竜が飛来したのは。
――ズシャ!!
『ギャン!!』
狼の身が、その爪の一撃を受け、血を流しながら大地を転がる。
「ドラン、シャドゥボム!」
レドゥークの命令を聞き、その竜、ムーンドラゴンは魔法を放つ。近くに集まっていた一部の狼達の影が爆ぜた。
「良いですよ、ドラン。その調子でいきなさい」
普段、狩る者の側である狼達にとっては、空から強襲されるなどということは余り経験のないことだろう。先制攻撃という点では、ドランの働きは実に効果的だった。
「なかなかやるじゃないか」
「しかし、ペットだけに活躍されては私達の立つ瀬がありませんね」
「ああ‥‥始めよう」
――ヒュン!!
――ズゥンッ!! ボウッ!!
マクシームの矢、ディディエのグラビティーキャノン、リーンのファイヤーボム。次々に放たれる攻撃に、狼達は一匹、また一匹と森の中から姿を現す。
そして、今まで身を隠していたのが嘘のように、一斉に冒険者達へと駆けてきたのである。
「隠れていても無駄だと分かったようで御座るな」
すっと武器を構え、冒険者達は陣を組む。体力に優れた者は外側に、魔力に優れた者は内側に。互いを背に、狼達の牙と向き合う。
「数の暴力というわけですか。しかし、そう簡単にはやらせません‥‥ガルー!!」
クロエの声に、空から舞い降りる一羽の鳥。現れたのは白き翼、勇敢なるホワイトイーグル。そして、クロエの右手にあるのは、世を騒がす獣神を退治するために打たれたといわれる名刀『祖師野丸』。この剣が今より迎える敵は、無数の狼。
「さあ、本当の狩人はどちらか‥‥今から教えて差し上げます」
――ドシュ!!
冒険者達に向かってくる狼の一匹が、矢を受けて地面を転がる。だが、数十の中のたった一匹。
「出し惜しみをしている場合ではないか‥‥カルネア!!」
先のガルーとは別に、新たなホワイトイーグルが上空より飛来する。マクシームのカルネアだ。
『当たってぇ!』
――バシュ!!
オーラの輝きが弾丸となって狼達を襲う。小鳥のオーラショットだ。
『私にだって、これくらい‥‥わっ!?』
危険を感じて飛び退けば、側面から飛び掛ってきた狼の牙が肩を掠めた。
「ユンヌピエール!!」
――ドンッ!!!
ディディエが手に持つメダルに念じれば、動き出したのは岩の人形、スモールストーンゴーレム。その重い拳の一撃は、小鳥へ襲い掛かった狼を捉え、高々と吹き飛ばした。
「お互い、気をつけましょう。この狼達、数が多い上に、かなりすばしっこいですよ」
『あぅー‥‥本当にたくさんですぅー。あ、足手まといにならないようにしないとっ』
冷たい空気に凍える身を気力で奮い立たせ、姿勢を正す小鳥。
ここで何もしないで終わるわけにはいかない。
「‥‥ようやく片付いてきたで御座るな」
時間にすれば、ほんの十分程の戦いだったろう。磧の周囲には、もはや動かなくなった狼の骸があちこちに転がっていた。
「少しばかり手間取りましたが、思ったほどの敵ではありませんでしたね‥‥」
新たに一匹。狼を切り伏せ、クロエが言う。
余裕とも思えるその言葉は、彼女の素直な感想だった。それぞれに多少の手傷は負ったものの、冒険者達の中に、目に見えて大きな傷を負った者はいない。前衛を担う者達の多くが攻撃より防御に主を置いた重装備。また、魔法によって特別な視力を得たリーンの指揮や、心強いペット達の活躍などにより、戦いの流れは終始、冒険者達の優位にあった。
気付けば、狼達の数は半分程に減り、絶え間なかった攻撃の波も、最初の勢いをなくしていた。
勝てる‥‥冒険者達の誰もがそう確信した。だが、そのすぐ後に、彼らは予想外の落とし穴に嵌ることになる。
「くらえっ!」
――ドシュ!!
マクシームの矢が、狼達の中で特に良い体格をしていた、リーダーと思われる狼を仕留めた。もしかしたら、これが引き金になったのかもしれない。
生き残っていた狼達が、次々に逃げ出し始めた。
「これは‥‥くっ、カルネア!!」
すぐにホワイトイーグルに命じ、狼達の逃走の妨害を行おうとするマクシーム。すぐに、レドゥークやクロエも自分達のペットに同様の命令を出した。が、数が減ったといってもまだ十数匹も残っている狼達を、それも開けた地形で全て逃がさぬようにするのは非常に困難だった。何より、冒険者達の多くは移動力を犠牲にした重い装備の者がほとんど。狼の足の速さには全くついて行けない。
「‥‥しまった」
リーンが呟いた時には、もう残った狼達の多くが森に消えていた。
確かに、冒険者達の選択は負け難く、手堅い策だった。堅い装備に身を固めた前衛が、後衛を守り戦う。だが今回、敵は普通の獣なのだ。狼達には、最期の一匹になるまで冒険者達に立ち向かわねばならぬ理由はない。適わぬ敵と分かれば、逃げ出すかもしれない。それは十分に考えられたこと。しかし、冒険者達にはそれに対処する術を用意した者がいなかった。
「虱潰しに狩っていくには、ここの森は少し深い‥‥。困りましたね」
敗北ではない‥‥だが、成功でもない。ディディエは複雑な思いで、森を見つめた。
キエフに戻った後、多くの狼を狩ったことで、冒険者達に報酬は払われた。レドゥークなどは、倒した狼の毛皮を剥いで売り、商人からそれなりの金額を得もした。
ただ、数を大幅に減らしたものの、今も森の中には狼達が残っている。
しばらくは村が潰されるような事態はないだろうが、これから先のことは、まだ誰にも分からなかった。