魔の石像の試練

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月17日〜03月22日

リプレイ公開日:2007年03月31日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 また、冒険者が多く集まるこの場所は、ロシア国内の様々な情報が飛び交う場所でもある。

 ここ最近のことだ。冒険者達の間で、ある不思議な遺跡の存在が話題になっていた。
「キエフから二日ほどいった先、森の中に小さな遺跡が見つかったらしいんだが、これがまた妙な遺跡でな」
「ほう‥‥どういう遺跡なんだ?」
「ガーゴイルが遺跡の奥の部屋にズラッと並んでいるんだ」
 ガーゴイル。悪魔の姿を象った動く石像で、よく古代の遺跡の守りに使われていることがある、ゴーレムに非常に近い存在である。それ自体は特別珍しいものではない。
「それのどこが妙なんだ?」
「その部屋に入ると、部屋に入った連中と同じ数だけガーゴイルの像が動いて襲ってくるんだとさ。で、そのガーゴイルを倒すと、倒したのと同じ数だけ何かの宝が手に入るらしい。まあ、宝は武器だったり指輪だったりと色々あるって話だが、何が手に入るかは全く分からないそうだ。ちなみに、一人につきチャンスは一回きりで、一度その部屋を出たら、ガーゴイルを倒したかどうかに関わらず、二度とガーゴイルは反応しないんだとさ」
 話を聞いて、何人かの冒険者が考え込む。
「‥‥確かに変わった遺跡だな。まるで入ってきた者を試しているような‥‥」
「一部の連中の間じゃ、大昔の金持ちが趣味で作ったんじゃないかって話が出てる。もっとも、それを確かめる手掛かりはさっぱり無いらしいが」
「でも、面白そうじゃないか。一度くらい行ってみる価値はあると思うぜ」

 ふっと湧いて出た遺跡の噂。さて、何人の冒険者達がここに向かうのだろうか。

●今回の参加者

 ea9344 ウォルター・バイエルライン(32歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 eb3064 緋宇美 桜(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5584 レイブン・シュルト(34歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

これより始まるは戦いの儀式。
力を確かめんとする者、強き敵を求める者、戦の知恵を試さんとする者。
ここに集いて、守護者と戦うべし。

 暗く深い森の中、周囲を木々に取り囲まれたその場所に、ただ小さな入り口だけがあった。石を積み上げて作られたのだと思われる遺跡は、かなり長い年月を経てきたのだろうか。地下へと続く、いびつな形の石を並べた階段は、ところどころに亀裂が入っており、今にも脆く崩れそうで、足を踏み入れた者達に少しばかりの不安を抱かせる。
「うわぁ‥‥いかにも何か出そうな感じの遺跡だね‥‥」
 身体に染み付いた忍びとしての性質だろうか。緋宇美桜(eb3064)は目、耳、鼻と、可能な限り全ての神経を使い、周囲に危険が無いかを心配しているようだ。
 しかしながら、特に何かの罠などが仕掛けてある様子はなく、宝の眠る遺跡としては、何とも無用心な風にも見てとれる。もっとも、その宝のある場所には、しっかりと番人がついていることは、ここに来ている皆が既に知っていること。
「入った人数分だけ石像が動き、そいつらを倒した分だけ宝が手に入る、か‥‥ずいぶんと変わった遺跡だな」
「ですが、大いなる父の影響の強いロシアらしいとも言えますね」
 淡々と歩を進めていくロイ・ファクト(eb5887)とアシュレイ・クルースニク(eb5288)。周知のことではあるが、ロシアという国はジーザス教の『黒』の教義の影響が強く、自らの向上に努めることは美徳とされる。もっとも、それは近年における国王ウラジミール1世の改宗に伴っての影響であり、この遺跡が作られた古の時代においても同様の風潮があったかは定かでは無いが、もし仮に古代においても同様の文化があったとすれば、このロシアという国の大地には、人々にそういった影響を与える、何か特別な存在がいるのかもしれない。
「腕試しにはもってこい、といった所でしょうか。自分が今現在、どれ程の力量を持っているのかを計る良い機会となるでしょうね。無論、勝ちを追求しますが」
 普段は口数の非常に少ないウォルター・バイエルライン(ea9344)だが、今日の彼は少し饒舌であったように思われた。進む道の先には、ガーゴイルという強敵との戦いが待っている。自分の実力を試す絶好の機会。その戦いの中で、何を得、何を学べるかは分からないが、それでも、彼は今回の経験が明日の自分の糧になるものと信じている。
「どれほどの相手か分からないが、まあ、俺も負けるつもりは無い」
 レイブン・シュルト(eb5584)はガーゴイルと戦う際に、どのように戦うべきか色々と考えている様子ではあったが、余り良い案が浮かばないのか、どうも今ひとつ表情が優れなかった。
 そして気がつけば、彼は悩んでいる間に、ガーゴイルの像が並ぶ問題の部屋の前へと来てしまっていたのであった。

「では、一番手は私達がやらせていただきたいと思います」
「よ〜し、頑張ろうウォルターさん♪」
 最初に挑むことになったのは、どうにも早く自分の腕を試したくて仕方の無い様子のウォルターと桜のペア。早速、部屋の中に足を踏み入れようとして‥‥。
「おっと。その前に‥‥」
 ふと立ち止まって、ウォルターは精神を集中させ始めた。
「その手があったか‥‥」
 呟くロイ。ウォルターが使ったのは、自身の攻撃と防御を高めるオーラ魔法。
「部屋に入る前であれば、魔法の使用を妨害される恐れもありませんしね」
 戦いの前に能力を高めておけるというのは、その系統の魔法を使える者の強みである。
「じゃあ、始めようか〜♪」
 ポンっと飛ぶようにして、部屋へと踏み込む桜。続いてウォルターも足を踏み入れる。
 ‥‥その途端、今まで微動だにする様子の無かった石像が、石のこすれるような、妙な音を立てて動き出す。
「はっ!!」
 ウォルターはすぐに駆け出し、動き始めた石像へと一直線に走る。
「前は任せるね!」
 桜も後に続くが、幾分か距離を開けている。後方からの支援に徹するつもりのようだ。
 ――キィン!
 響いたのは、金属が石像にぶつかる音。ウォルターの小太刀「備前長船」の刃はガーゴイルの身に触れ‥‥弾かれた。
「くっ‥‥」
 反撃に繰り出されたガーゴイルの爪を、ウォルターは紙一重の差でかわす。
「なるほど、強いですね‥‥」
 全く予想をしていなかったわけではないが、それ故に、ウォルターは自分の置かれている状況がいかに危ないかを自覚していた。オーラパワーを付与してなお、自分の攻撃は通じず、今の一撃こそかわしたものの、ガーゴイルの攻撃は思った以上に鋭く、そう何度もかわし続けられるものではないだろう。そして、これは桜の方にも同じことが言えた。
「うわわわっ!? 来ないでよ〜!!」
 素早く動いて距離を保ち、遮蔽物を利用してガーゴイルの攻撃から逃げ続ける。それが桜の考えであったが、それは脆くも崩れ去った。何故ならば、ガーゴイルの機動力は桜の二倍以上。忍びの術の一つである疾走の術を使って、それでもなお、ガーゴイルの方が圧倒的に早く動いたのである。距離を詰められて弓の優位性は失われ、さらにはガーゴイルの堅い体には、桜の放つ矢は全く通じない。桜はすぐに弓を捨て、とにかくガーゴイルの攻撃から逃げることに集中する。この間に、ウォルターが片方のガーゴイルを倒してくれたなら‥‥。
「こうなったら‥‥腕の怪我の一つや二つ!」
 ガーゴイルの攻撃を受けるのを覚悟の上で、ウォルターはガーゴイルを引き付ける。爪に裂かれて左腕に激痛が走るが、構わず距離を詰める。
「でやあああっ!!!」
 弱点である可能性にかけて、石像の目に当たる部分へ小太刀を振るう。それは間違いなく、魔物の目に直撃した‥‥が、それはあくまで目の形に削られただけの石。成果はやはり、石像の身にカスリ傷を刻んだのみ。
「くっ‥‥!」
 その後の戦いはあっけないものだった。
 無茶をして手傷を負った代償は高く、ガーゴイルの攻撃をかわす足は鈍り、あっと言う間に、彼は瀕死の重態となって床に倒れる。残った桜も、二体のガーゴイル相手に逃げ続ける技量はなく、結果、まともに動けなくなった二人は、そのままガーゴイルの手によって部屋の入り口へと放り出されてしまった。
「おい、大丈夫か!?」
「お二人とも、気を確かに!」
 ロイとアシュレイが駆け寄って二人に声をかける。
「うっ‥‥」
 かろうじて意識はあるようだ。命を奪われずに済んだのは、やはり、ここが何かの試練の場として作られたものだからか。
 すぐに荷物の中のポーションを用いて、体力の回復を行う二人。しかしウォルターの重傷を治すにはヒーリングポーションの数が足りなかった。桜は河童膏を使おうかと提案したが‥‥。
「この程度の怪我であればキエフまで戻れます。貴重な薬を無理に使うことはありません。お気持ちだけ受け取らせて下さい」
 騎士としての誇りか。そう言って、桜の好意に甘えるのを良しとはしなかった。

 二番目にガーゴイルに挑んだのは、レイブン。先のウォルター同様にオーラで能力を上げた上での挑戦だ。
「さあ、来い」
 盾を構え、襲い来るガーゴイルを待ち構えるレイブン。彼は悩み悩んだ結果、下手に作戦を弄するのは無駄と考え、真っ向勝負に出ることを決めた。
 ――ザシュ!!
「ちぃっ!?」
 先の二人の結果を見るに、通常の攻撃は効きそうに無い。最初から、敵の攻撃に対しては全てカウンター狙いにした。それゆえにどうしても防御が甘くなったが、その分の反撃はきっちりと叩き込む。
 ――ゴッ!!
 砕けた石像の破片が宙を舞う。
「厄介な‥‥」
 自分と相手の負傷を比べてみる。互いに中傷といったところ。まさに互角だ。こうなると不利なのは、後手に回っているレイブン。二撃目、三撃目。全く同じ攻防を繰り返して、両者共に重傷。
「くっ‥‥石像ごときに!!」
 四撃目の攻防。かろうじてレイブンはガーゴイルの爪を受け流す。これが流れを変えた。
「これで‥‥終わりだ!!」
 ――ザシュ!! ドゴッ!!
 最期の爪の一撃で瀕死の状態になりながら、レイブンはガーゴイルに剣を振るう。石像の身はついに形を保てず崩れた。
 ――カラン。
「‥‥ん?」
 後方で何かの落ちた音がして、レイブンが振り返って見れば、部屋の奥。差し出されたガーゴイル像の手に、小さな指輪が一つ。それは勝者への報酬。
「指輪一つ手に入れるのに、この怪我‥‥。まだまだか‥‥」

 三番目。最期にガーゴイルに挑むのは、ロイとアシュレイ。
「‥‥行きましょう」
「ああ」
 二人の前に戦った者達は、全て瀕死の重傷。一筋縄でいかない相手であることは、はっきりしている。しかし、それでなお、二人の顔に不安な様子は無い。いや、彼らはむしろ、この状況を楽しんでいるかのようにさえ見えた。
 部屋へと入ると、動き出す石像。三人の冒険者を瀕死に追い込んだ敵を前に、ロイはこう呟いた。
「‥‥面白い」
 六枚の羽根飾りが施された魔法の槌矛を手に、敵へと走る。
 ――ガン!!
 石の爪を受け止める鉄の手袋の金属音が遺跡に響き渡る。
「アシュレイ、頼む」
「はい」
 ロイの後方より、妖精の杖を構えたアシュレイは魔法を放つ。詠唱を省略され、発動したのは神の束縛、コアギュレイト。
 ‥‥しかし、ガーゴイルの攻撃は止まない。
「これは‥‥」
 魔法の効果に抵抗されたのだろう。ガーゴイルは古の魔法使いが石像に魔力を付与することによって生み出された存在だと言われている。それゆえか、思った以上に魔法への耐性があるようだ。
「ちぃ!!」
 アシュレイを庇い、二体のガーゴイルの攻撃を受け止める盾となるロイ。受けきれず、一撃をその身に受ける。頑強な鎧に守られたその身に大きな怪我はないが、鈍い痛みが走る。
「ロイさん!」
「大した怪我じゃない。続けてくれ」
 二度目、三度目。アシュレイのコアギュレイトは確かに発動していたが、ガーゴイル達には全く通じなかった。さすがに二人も、これ以上続けても無駄と判断する。
「支援に努めます」
「頼む」
 言葉少なに意見を交わし、すぐに方針を切り替える。このあたりの融通が利くのは、幾多の経験を経て戦い慣れてきた冒険者という印象を受ける。
 ――ドガッ!!
 反撃に繰り出された鋭い槍の一撃が、光の線を描くようにガーゴイルへと突き刺さり、石の身を穿つ。
「回復を!」
「はい!」
 何度も傷を受けながらではあったが、二人は確実にガーゴイル達を追い詰めていった。確かな攻撃と、それを支える回復という連携。攻守においてバランスのとれた戦い方ができるというのは、やはり強い。
 長い攻防の末、ロイの槍に貫かれ、二体の石像はただの石の塊へと戻る。
 ――カラン。
 音のした方を見れば、勝者のための、小さな指輪が二つ。
「‥‥どうしました?」
 宝を取りに行こうとする素振りの無いロイに、アシュレイが訊ねた。
「宝などに興味は無い。俺は自分の実力を試すために来ただけだからな」
 そう言って、彼はそのまま部屋を出て行った。目的を果たしたその男の顔は、実に晴れやかに見えた。