その森の竜を守れ

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月13日〜04月18日

リプレイ公開日:2007年04月27日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
 その日、ギルドに持ち込まれたのは同じ村に住む人々からの、しかし、全く相反する二つの依頼だった。

「おかしな依頼だと思われるかもしれない。だが、頼む。村の近くの洞窟に棲むフォレストドラゴンを、どうか守ってやって欲しい」
 やって来たその男達は、少し遠慮がちに、ギルドの係員の反応を窺うように、そう言った。
「‥‥詳しく聞かせて頂けますか?」
「俺達の村から少し行った先、森の中に洞窟があってな。そこに一匹のフォレストドラゴンが棲んでいる。信じられないかもしれないが、この竜は俺達の村にとって守り神みたいなものになってる。この竜がいるおかげで下手な魔物は村の近くには寄って来ないし、竜自体も大人しいもんで、こっちが刺激しなけりゃ何の悪さもしない。最初は俺達も戸惑ったが、今では共存していけると信じてる」
 およそ半年前の話だ。
 まだ開拓予定の段階にあったに過ぎない自分達の村。件のフォレストドラゴンは、元々そこの地域一帯の主であった。そのため、冒険者ギルドに一つの依頼が出された。内容はもちろん、フォレストドラゴンの討伐。それが現在の状況になった原因は、その時に開発計画を任せた商人がとんでもないアイディアを思いつき、冒険者達に提案したこと。
『フォレストドラゴンは確かに強大な魔物ではあるのですが、これで比較的温厚な性格をしている魔物でして‥‥。周辺のどこかに適当な棲家を与えてやれば、他の魔物に対する牽制になるのではと思うのですよ。最近は、せっかく開発した村が魔物に襲われて全滅したなんて話もありますから。差し当たって‥‥そう、地図のこのあたりに手頃な洞窟があるのですがね‥‥』
 普通であれば、竜を利用するなど正気を疑う提案だった。しかし、何と冒険者達はこの商人の提案に載り、見事に依頼を成功させたのだという。以後、ここは人と竜が共に生きる珍しい地域になった。
「けれど、最近になって村の中で、あの竜を退治してしまうべきだって、そう騒ぐ奴らが出てきているんだ。色々と話し合いもしたんだが、連中、いよいよ人を雇って竜狩りをするつもりらしい。止めさせるには、こっちも人を雇うしかないと、そう思ってここに来たんだ」
 魔物が自分達の住む場所のすぐ近くに住んでいるなど、普通に考えればまず気持ちの良いものではない。それが強い力を持つ魔物であれば、なおさらだ。フォレストドラゴンは毒の息を吐く上、岩のように頑丈な身体を持ち、別名では鎧竜とも呼ばれている正真正銘の魔物である。それを、この男達は守って欲しいと、そう言うのである。
 仮に、守るための行動に出るとしても、相手は魔物だ。下手に近づいては、護衛の自分達にも攻撃をしてくるかもしれない。厄介な護衛対象である。
「確かに、あいつは魔物だ。でも、俺達にとっては大事な隣人なんだ。こんなことを頼めるのは、ここしかない。どうか、助けてやってくれ」
 係員はしばらく考える様子を見せたが、こう返事をした。
「分かりました。それでは、冒険者達に募集をかけてみましょう」

 こうして、フォレストドラゴンの護衛を目的とした依頼がギルドに出されることとなる。しかし、事態は思いも寄らぬ方向へと発展する。
 この時、別の係員がフォレストドラゴン討伐の依頼書を作成していたことに、こちらの係員は気付いていなかった。

●今回の参加者

 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5584 レイブン・シュルト(34歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ミィナ・コヅツミ(ea9128)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ クレムヒルト・クルースニク(eb5971

●リプレイ本文

 ぶつかり合う意志。
 相反する力。
 それぞれに理由を持ち、信念を持ち、力を持てばこそ。
 戦いは始まる。

「腹減ったな‥‥」
 この日、レイブン・シュルト(eb5584)はどうにも調子が悪かった。保存食を用意し忘れて満足に食事をとれぬままの冒険三日目であったことが原因だろうが、自分で蒔いた種だ。余り大きな声で文句も言えない。
「人の都合で移住させたドラゴンを、今さら怖くなったからといって殺してしまえというのは、あまりにも身勝手な話です」
「ええ。絶対に、あのドラゴンを退治させるようなことはさせません」
 ドラゴンの洞窟の手前。地形的には拓けた場所ではなく木々も多いが、ドラゴンの通り道とでも言うべきか、踏み固められた大きな獣道があり、護衛を任された冒険者の一員であるアシュレイ・クルースニク(eb5288)とメアリ・テューダー(eb2205)は相談の上、ここに陣取ることを仲間達に提案した。
「確かに、位置的にもここは押さえておかなければいけませんね。後は、向こうがどう出るかですか‥‥」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が周囲を警戒しながら呟く。視界の余り良い場所ではないが、元々、密林とも呼べるロシアの深い森の中では、障害物の全く無い戦場の方が少ない。何より、護衛の対象が魔物であれば、どうにもこちらで都合を合わせざるを得ない。

 襲撃側との最初の接触は、実に意外な形で起こった。
「戦いの前に、先に言っておきたいことがある」
 そう言って女の戦士がたった一人、森の中から姿を見せたのである。
「何かの罠かしらね‥‥?」
 アナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)は奇襲を警戒して魔法による探知をかけるが、他に反応は無い。警戒しつつ、クロエ・アズナヴール(eb9405)は自らの駆る馬を前に進ませる。
「窺いましょう」
 クロエがそう返すと、女戦士はこう話を始めた。
「竜に攻撃を加え、人に敵意を抱かせることが出来れば、それで竜を守ろうと言っている村人達も、この状況を放っておくことはできないだろう。私達の側にはそれを成す自信がある。だが、それでは人に踊らされる竜が可哀想だとは思わないか?」
 要するに取引がしたいと、そういうことらしい。
「取り返しのつかない事態が起こる前に、竜をどこか遠くへ移住させてやることが出来れば‥‥」
「お断りします」
 はっきりと、クロエは女戦士に否の声を返した。
「依頼を受けた以上、それを成功させるために尽力するのが私達の仕事です。ただの雇われの身で依頼人の希望に意見するなどというのは、思い上がりも良いところではありませんか。少なくとも、私はそんなことをするつもりはありませんね」
 自分達の依頼人はドラゴンに今まで通り村の守り神として側にいてくれることを望んでいるはず。とても呑める提案ではない。
「しかし‥‥」
「それに」
 反論しようとした女戦士に言葉を続けさせず、クロエは言葉を強める。
「貴女が嘘をついていないという保証がどこにあるのですか? 私達を騙し、竜を攻撃する機会を狙っていないという保証は? 以上です。まだ何か言いたいことはありますか?」
 これには相手もさすがに諦めたか、苦い表情を浮かべる。後退しようと後ろに歩を入れたところを、メアリが見逃さない。
「逃がしませんよ」
「くっ‥‥!?」
 使ったのは、植物を操る魔法。女戦士の足下に、木の枝が絡みつき、動きを封じる。
「悪いが、こっちも仕事でな。恨むんなら、不用意に説得なんて行動に出た自分を恨むんだな」
 剣を手に、レイブンとクロエが近づく。自ら飛び込んできた敵を見逃すわけにはいかない。一気に剣を振り下ろそうとした、その時。
「二人とも、気をつけて!」
 人の呼吸の音を探知し、危険を知ったアナスタシアが声を上げる。魔法で妨害に動きたいが、生憎、射程範囲上にはレイブン達がいる。
 ――シュッ!
「何っ!」
 飛来した矢がレイブンの肩に突き刺さる。
「今のうちに逃げるで御座るよ!」
 襲撃側の仲間か。緑色の肌をした河童の姿が見えた。
「この‥‥!」
「させません!!」
 矢を受けてなお、レイブンは剣を振るう。女戦士はそれを盾で受け流すと、渾身の力を込めた反撃の剣を繰り出してきた。受けきれず、レイブンはそれを受けてしまう。その次の瞬間には、クロエの剣が女戦士の胴を貫いた。一瞬の攻防で、二人の冒険者が命を落とした。
「まだよ! 離れて!」
 アナスタシアの一言で、クロエが攻撃のための道を開く。
 雷光一閃。放たれた魔法は河童を貫くが、そのまま河童は森の中へと姿を消した。
「逃がすか!」
「待って下さい!」
 追おうとしたクロエを、フィリッパが引き止めた。
 そのままクロエの前に進むと、フィリッパはクロエの進もうとした森の中にゆっくりと入り、あることを確かめる。
「やはり‥‥」
 見つけたのは、足を引っ掛けるように編みこまれた雑草などの、簡単なトラップの類。
「おそらく、他にもまだ色々仕掛けてあるでしょう。下手に深追いすれば、こちらがやられてしまいます」
「姑息な真似を‥‥」
 馬を駆っているクロエには、森の中に隠された足下の罠には対処し辛い。馬を降りても良いが、そうすると重い装備で動きが鈍る。どちらにせよ、追跡は難しそうだ。

 それからしばらくの間、先の河童は何度も自分達の前に現れた。
「そこね!」
 相手の呼吸を探知し、矢を射掛けられる前に、すぐに高速詠唱で攻撃の機会を潰していくアナスタシア。魔法の攻撃を受けると、河童はすぐに森の中に引き返す。
「‥‥随分としつこいのね」
 おそらく、一撃を受けるごとに下がって傷の治療をしているのだろう。
「くっ、歯痒いですね‥‥」
「どうにか出来ないものでしょうか‥‥」
 フィリッパやクロエは敵の罠にかかるリスクを冒して相手を追うことができず、アシュレイも魔法の届く距離まで近づけなければ、どうにも手が出せない。メアリは一度、木の枝を魔法で動かして河童を捕らえようとしたが、予想以上に見事な河童の体捌きの前に、全く通じる様子がない。
 何度目かの魔法を放ったところで、アナスタシアの表情が曇った。
「う‥‥魔法を使う力が無くなったのね‥‥」
 しかし、河童の襲撃は止まない。いや、妨害が無くなったことで、逆に一方的な状況になった。
「まずいですね‥‥」
 周囲の森の中から、何度も飛来してくる矢。どうやら防御の面で弱い者を狙っているらしく、馬も含め、重装備のクロエを除く全員が標的となった。仲間を庇うにも、クロエ一人で庇いきれるものでもなく、負担になるくらいならと、魔力が尽きて戦う手段を失ったアナスタシアは隙を見て戦線を離れた。それでも一同は耐えることを余儀なくされる。かろうじて新たな死者が出ないのは、アシュレイの神聖魔法による治癒の働きが大きい。それがなければ、周囲には大量の治療薬の瓶が散乱していただろう。
「くっ‥‥どうすれば‥‥」
 苛立ち、焦燥。ただ耐えるだけの状況というのは、精神的に大きな負担である。しかし、長く続いた忍耐の時も終わる。しばらくすると、河童の攻撃が止んだ。
「向こうも放つ矢が無くなった‥‥ということでしょうか?」
 アシュレイの魔力にはまだ余裕がある。どうやら耐え切れたようだ。
「なら、いよいよ姿を見せて仕掛けて来るでしょうか‥‥」
 あらためて、フィリッパは剣を強く握った。

「さあ、遊びの時間は終わりですよ!」
 一同の前に、金髪の騎士が姿を現した。間違いなく、ドラゴン退治の依頼を受けた冒険者の一人だろう。
「‥‥ようやく、まともに戦う気になりましたか」
 剣でも戦いならと、クロエとフィリッパが前に出る。
「夫の邪魔はさせません!」
「くっ‥‥」
 走り出したクロエ達の側面から、短弓を構えた女が一人。フィリッパが矢を受けたのを見て、後方にいたアシュレイとメアリも距離を縮めに動く。
 だが、これは相手の罠だった。
 ――ザッ!!
 木の枝がしなる音がして上を見れば、そこにあったのは高速で空を飛ぶ木臼と、それに乗った先の河童の姿。
「行かせません!」
 即座にメアリが高速詠唱で木の枝を操れば、河童はそれに叩き落されて落ちる。しかし、それだけでは止められない。河童は一気にドラゴンの洞窟へと走る。
「おっと、これ以上、彼の邪魔はさせませんよ」
 踵を返そうとしたクロエ達の前に、金髪の騎士が立ちはだかる。
「邪魔だ!」
「それが私の役割でしてね!」
 馬上から振るったクロエの剣は騎士の身を切るも、そのままクロエの手は騎士の剣の束で打たれ、クロエは武器を払い落とされてしまう。内心で舌打ちするクロエ。
「さあ、どうしま‥‥うっ‥‥」
「そこまでです」
 アシュレイの魔法が騎士の動きを封じる。
「そちらも、大人しくして頂きましょうか」
「くっ‥‥ここまでですか‥‥」
 同じく、メアリの魔法が弓を構えた女の身を木々の枝で押さえ込む。
「道を開けて貰いますよ!」
 クロエとフィリッパは躊躇い無く剣を振るい、騎士達の命を絶った。同じ冒険者でも情けはかけない。ここは、戦いの場なのだから。
「急ぎましょう」
 ドラゴンの洞窟へと駆け出す四人。だが、そこには意外な結末が待っていた。
「これは‥‥!?」
 四人が洞窟へ踏み入ろうとしたその時、入り口付近に、血にまみれた河童の死体が放り出されていた。おそらく、ドラゴンの手によるもの。持ち帰れということか、あるいは邪魔だと捨てたのか、真意のほどは分からない。ただ、敵であったとは言え、捨て置くには忍びなかった。

 戦いが終わった後、死亡した冒険者達は依頼人である村人達の手によって蘇生の手配がされることになった。雇った冒険者が全員死亡するという結果に、ドラゴンの討伐を依頼した村人達は複雑な表情を浮かべていた。フィリッパが今後のドラゴンの扱いについて様々に提案をしたが、どうにも返答も曖昧で、受け入れられたのかは分からない。ただ、言えるのは、フォレストドラゴンは今も無事に、あの洞窟に暮らしているということである。