森の中まで駿馬を追って‥‥
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月26日〜05月01日
リプレイ公開日:2007年05月08日
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●オープニング
キエフ冒険者ギルド。
ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
「いや、本当に参りましたね。どうにも困ったもんです」
その日、ギルドを訪れたのは一人の商人の男だ。行商を生業としているらしく、村から村、町から町へと渡り歩いては、あちこちで取引をしているらしい。国土の大半を深い森に覆われ、人の住む場所が点と線で構成されているような今のロシアにおいては、彼らのような商人には実に働き甲斐のある場所だろう。
「先日、森でオークに襲われましてね。護衛に雇っていた者達の働きで何とか追い払うことができたのですが、その時に問題が起きてしまいましてね」
「その問題というのは‥‥?」
「馬に逃げられてしまいました。ああ、馬車に使ってるような普通の馬じゃありませんよ。それはもう、毛並みの綺麗で足腰の鍛えられた上等な馬でして、俗にいう駿馬というやつですよ」
商人が言うには、その馬は色々な取引の関係で他の商人から商品として預かった品で、取引先の一つに届ける途中だったという。
「とにかく、我々のような商人は信用が第一ですからね。自分の物ならともかく、預かった品に万が一があっては今後に大きな影響が出るわけで、何としてもこれを取り戻したいわけなのですが‥‥」
しかし、これが実に厄介だった。元々が他人の馬で、言う事を聞いてはくれず、近づこうとすれば逃げ出し、加えて駿馬と呼ばれるだけあって足が早く、普通に近づこうとしても、まず追いつけないという。
「こちらにも立てておかなければいけない顔がありますので、さすがに逃げられましたとは言えません。先方には色々と言い訳をして納品を待ってもらっている状態です。しかし、長くは持ちません。どうか、よろしくお願いします」
●リプレイ本文
大地を駆ける白き馬。
誰よりも早く、どこまでも遠く。
いつかその背に、誰かを乗せて。
木々の合間を抜け、草の蔓を払い、一同は森の中を進んでいった。
「ふむ。なかなか簡単には見つからないものでがんすなぁ‥‥」
呟いたのは阿倍野貫一(ec1071)。遠くジャパンから武者修行のためにロシアを訪れている浪人だ。アオと名付けた馬に乗ってどんどん道を進んで行く彼だが、貫一が馬に乗り慣れていなせいか、あるいは、この森の中に潜んでいるという魔物達の気配に怯えているのか、アオの方は落ち着かない様子だった。
「大丈夫でがんすよ、アオ。そんなに恐がることは無いでがんす」
愛馬をなだめる貫一の様子を見て、イオタ・ファーレンハイト(ec2055)は静かに深い息を吐いた。
「馬は臆病な生き物だからな。こちらが緊張していては、警戒するのも当然か」
彼もまた、馬を同伴して今回の依頼に参加している。それも、連れて来たのは逃げ出した馬と同じく、駿馬と呼ばれる類の馬だ。付いた名はエリーゼ。この種類の馬は力が弱く、危険からもすぐに逃げ出す性格をしている。戦いには向かず、武装したイオタが乗った場合、エリーゼはその半分程度にしか機動力を発揮できない。しかし反面、伝令などに使うため、徹底して足の早さのみを重視して育てられたが故に、その速度は他の種類の馬からは圧倒的に抜き出ている。それだけに捕らえるとなると非常に難しい。
「貴重な馬で、高く売れますしね。買い手も多いでしょうし、商品としては良い部類に入るでしょうけど、それだけに逃がしてしまった時の損害も大きいでしょうね。まして、他の方と取引の決まっていたものとなれば‥‥同じ商人として信用問題に心を痛めるのが判ります」
頭の中で一連の商いの流れを思い描きつつ、マリエッタ・ミモザ(ec1110)は歩を進める。彼女も生業として商家を営んでいるからか、今回の依頼人の心情は自分のことのように理解できる。
「う〜ん、無事でいてくれると良いけど‥‥あ、見ぃ〜つけた!!」
ケリー・レッドフォレスト(eb5286)が少し先を指差せば、そこには一頭の白馬の姿。
切れた手綱を邪魔くさそうに払いながら、足下に生えた森の草を食んでいる。おそらく、依頼された駿馬と見て間違いないだろう。
「‥‥って、マズいよ!!」
ケリーの視線の先にあったのは、駿馬だけでは無かった。大きな槌を携え、豚の顔をした大柄の巨人のような姿の魔物、オーク。それが三匹。囲むようにして、駿馬に近づいていく。
「させるか!!」
叫んで足下の小石を拾い上げると、イオタは全力でオークの一匹に向けてそれを投げつけた。
『ブヒッツ!?』
大して効いた様子は無いが、それでも痛みは感じたのだろう。石をぶつけられたオークは声を上げ、イオタの方へと向いた。
「あぁ、馬さんが逃げちゃうよ!」
周囲の空気が変わったことを、駿馬の方も気付いたのだろう。自分に近づいてくるオーク達を視界に入れると、先ほどまでの大人しさが嘘のように、一目散に森の奥へと逃げていく。その逃げ足の速さはさすがと言う他なく、瞬く間にオーク達との距離が開く。ただ、冒険者達も、それを黙って眺めているわけにもいかない。このままでは再び見失ってしまう。
「やるしかなさそうだな」
「仕方ないですね。こっちは私達に任せて、二人は、あの馬を追って下さい」
「心得たでがんす!」
貫一とケリーは駿馬を追い、イオタとマリエッタはオーク達との戦いに挑んだ。
「さあ、お前達の相手は俺だ!」
騎士の助けとなるよう作られたという魔法剣、シャスティフォルがオークを切り裂く。確かな手応えと共に、オークの身に傷跡が刻まれる。
『ブフッ!!』
だが、分厚い脂肪に覆われた魔物の巨体はそれだけでは止まらない。反撃の戦槌がイオタの頭上から振り下ろされる。
――ガキッ!!
「少しばかり体が大きいからって、上から見下ろされるのは気に入らないな!!」
重い槌の一撃を盾で受け流し、黒色の法衣を翻して繰り出すのは武器の重さを載せたコナン流の一撃。先ほどの一撃より鋭く深く、オークの身を剣の一閃が裂いた。
「さあ、貴方達の相手はこっちですよ」
オーク達を挑発するように手を振りつつ、マリエッタは森を駆ける。実際には逃げ回っているという表現の方が正しいかもしれない。イオタがオークに囲まれぬように配慮してのことだが、体格の良さもあってかストームでは簡単には転倒せず、攻撃の動作は遅いくせに、移動する早さはマリエッタと同じ程度で、続いての呪文を詠唱する余裕を与えてくれない。仕方なく気を引くように動いているのだが、体力的には長く持たないかもしれない。
「これはまた、困ったものですね」
息が上がり、そろそろ限界が近くなってきたところで、イオタが声を上げた。
「こっちへ!!」
見れば、イオタと戦っていたオークが一匹、地に倒れていた。
「待ってましたよ!」
すぐにイオタの後方に回るマリエッタ。前衛の守りがあれば、魔法に集中できる。
「さあ、今までの分、きっちり返させてもらいますよ!」
淡い光がマリエッタの身を包み、その手から雷光が放たれる。響き渡るオークの悲鳴に、森が騒いだ。
イオタ達がオークと戦っている一方で、ケリー達も駿馬の捕獲に悪戦苦闘していた。
「ほら、恐くないでがんすよ〜。拙者は敵では無いでがんす〜」
貫一がアオに乗って近づいてみるが、やはり距離を詰める前に逃げられてしまう。
「この森は危険でがんすよ〜、逃げても良いことは無いでがんす〜。飼い主さんも心配してるでがんすよ〜」
色々と言葉を尽くしてもみるが、そもそも普通の馬が人語を理解できるはずも無く。
「やっぱり正攻法は通じないでがんすかぁ‥‥」
「う〜ん‥‥こうなったら強硬手段に出るしかなさそうだね」
がっくりと肩を落とす貫一だったが、ケリーは何かを決断したらしく、彼は貫一に何やら指示を出す。
「よし、頼まれたでがんす。任せておくでがんすよ」
そう言うと、貫一は大きく道を迂回し、反対側の方向から駿馬に近づこうと動く。これだけを見ると、先までと大差は無い。当然、駿馬は貫一の来るのとは違う方向に逃げる。
「まだまだでがんす」
それでも貫一は諦めず駿馬を追い立てる。しばらく繰り返したところで、木々の枝葉に身を隠していたケリーの側を駿馬が通る。
「馬さん、ごめんね。冷たい思いをさせちゃうけど、これ以上、馬さんを危険な目に遭わせないためには、これしか僕には思いつかなかったんだ」
発動するのは、氷の棺への封印。アイスコフィンの魔法。
走っていたままの姿で駿馬は氷つき、森の中に倒れる。ケリーは駿馬に謝ったが、氷の棺に包まれた体は派手に倒れても傷一つつかない。この魔法は下手に罠などを使うよりはずっと安全な捕獲方法だった。
しばらく後。
オークを無事に退治したイオタ達と合流し、貫一達は駿馬を連れての帰り支度を始めていた。
「あれだけ逃げ回っていたというのに、今は随分と大人しくなったでがんすな」
「さすがに観念したか。まあ、俺達が敵じゃないって分かってくれたのかもしれないな」
依頼人から預かった新しい手綱や鞍などを駿馬に取り付けながら、イオタと貫一はそう話す。
「寒かったでしょ? ごめんね。帰ったら風邪とか引かないように注意してって、お願いしてあげるからね」
ケリーは駿馬が大人しいのが逆に心配らしく、帰りの道中もあれこれと世話を焼くつもりでいるようだ。なかなか面倒見が良い性格なのかもしれない。
「さて、無事に連れ帰るまでが仕事です。‥‥ああ、訂正します。無事に連れ帰って報酬を受け取るまでが仕事です。さて、皆さん、もう一頑張りといきましょうか」
最期までお金のことを忘れないマリエッタに、一同は何だか可笑しくなり、つい笑ってしまったのであった。
こうして、冒険者は無事に依頼を終え、キエフへと戻ったのであった。