群がる死者
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:10 G 51 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月26日〜05月03日
リプレイ公開日:2007年05月09日
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●オープニング
キエフ冒険者ギルド。
ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
国王ウラジミール一世の国策で、大規模な開拓が進められるようになって数年。少しずつではあるが、人の暮らせる村や町が増えてきている。だが、それはけして順調なものではない。ここロシアには、その広大な森の中で生きてきた様々な魔物や蛮族が存在しており、それらによって滅ぼされてしまった開拓村なども、少なくはないのである。
「だが、一度滅ぼされた村を、そのまま放置しておくのは勿体ない」
その日ギルドを訪れたのは、新たな村の開拓計画を考えているという他国からの移住民達だった。今のロシアはまだまだ発展途上にある。新たな安住の地を求め、あるいは夢を求め、彼らのように他の国から流れてきたという者も多い。
「何せ、一度は村が作られて人が住んでた場所だからな。近くに水場の確保はされてるし、家を建てるための拓けた土地。立地条件としては申し分のない場所が多い。これを再利用しない手は無い」
しかし、一方で問題もある。
「今回の計画で面倒なのが、前の住人達でな‥‥」
「土地を巡って何か言い争いにでも‥‥?」
ギルドの係員が聞き返すと、移住民達は首を横に振った。
「口が利けるなら、説得もできるが‥‥全員、死んでるんでな」
「‥‥そういうことですか」
アンデッド。強い遺恨を残して死んだ魂が、何らかの影響で負の力を持ち、この世に復活したもの。通常の物質では傷つけられないという者も多く、その精神が崩壊しているが故に、精神に作用する魔法も一切通用しない。厄介な存在である。
「聞いた話じゃ、通りがかりの賊の一団に、かなり酷い殺され方をしたらしい。正直、口にするのも嫌になるほどのな‥‥。何十という村人がアンデッドになって、今じゃ完全に死人の村だって話だ」
「それを全て片付けるのが今回の依頼‥‥というわけですか」
「ああ。気持ちの良い仕事じゃないだろうし、何より危険な仕事だと思うが、どうか宜しく頼む」
●リプレイ本文
幾多の嘆きと悲しみと。
生まれた憎しみは、死してなお消えず。
その憎しみが、誰に向けてのものだったかさえ忘れて。
求めるのは、新たなる死。
太陽が地に光を差す。冒険者達が動いたのは明け方。薄暗い森を抜けた先に、かつては村であったはずの場所で、悪夢とも呼べる光景が広がっていた。
「神よ。彷徨える人々に‥‥どうか導きを‥‥」
若き聖職者であるユキ・ヤツシロ(ea9342)は、魔法を使うためではなく、純粋に神に祈った。徘徊する死人。飛び交う怨霊。入り口付近から見えるだけでも十‥‥二十‥‥。それらも元は村人であったはずの者達。どのような殺され方をすれば、これほどの数が、このような姿に成り果てるのか。それを思うだけで心が締め付けられる。
「酷いものです。村をこんな状態にした賊は未だに捕まっていないとか。浮かばれないのも分かる気がします」
魔法による探査をかけながら、言ったのはキルト・マーガッヅ(eb1118)。
「でもこっちにもアンデッドには負けられない事情があるんだ。ばっちり退治してやるぜ」
「しかしこの数‥‥。やはり、順次殲滅するしかないのでしょうね」
「全ク、ウジャウジャト。ナカナカ楽シマセテクレソウデス」
「では、早速始めるとするで御座るよ」
シュテルケ・フェストゥング(eb4341)とフィリッパ・オーギュスト(eb1004)が剣を手に歩き出せば、理瞳(eb2488)と磧箭(eb5634)はさらに前に出て、村のより奥の方へと駆けていく。身のこなしに優れた武道家二人は、囮役だ。敵の注意を引き、仲間達が陣形を組んでいる場所へと誘い込むのが役目。
「死霊相手に通常の兵法が役に立つかどうか心配していたが‥‥あまり関係なさそうだな」
陣を張る場所を考えていたカイザード・フォーリア(ea3693)が苦笑して呟く。村と言っても既に原型はほとんど無く、火でも放たれたのか、見えるのは焼け崩れた家屋ばかり。何も無いのとほとんど同じだ。
「魔法を使うには、遠慮せずに済みそうです」
ジークリンデ・ケリン(eb3225)が少し安心したように言う。出発前に、理が依頼人にこんな質問をしていた。
「冒険者ノ中ニ、アノじーくりんでイマス。村ゴト破壊デキルデス。許可デスカ?」
結果は肯定。依頼人達の望むのは拓けた土地であり、家屋については最初から大きな期待はしていなかったらしい。
「何かあれば、すぐに結界の中へ。この中であれば、死者達は手出しできないはずです」
今から始まるであろう戦いを前にセフィナ・プランティエ(ea8539)は聖なる結界を生み出し、作戦の成功を願う。
「村人達を早く眠らせてあげることが、何よりの供養になるでしょう。きっちりと仕事をして帰りましょうか」
クロエ・アズナヴール(eb9405)は退魔の力を備えた魔剣を、しっかりと握った。
始まった戦いは、さながら死者の宴のようだった。
「くっ、何という数‥‥!!」
「覚悟はしていましたが‥‥想像以上ですね」
「カイザード殿もMissクロエも、ケガをしたなら無理せず一度、結界の中に下がるで御座るよ。少しくらいなら、ミー達だけでも何とかしてみせるで御座る」
囮に誘われて集まってきた最初の敵は、冒険者達の予想通り、移動力の高いレイスの大群。その数およそ二十。ただし、これは最初に冒険者達に近づいた数だけで、戦いの音を聞きつけて、次々に他の死霊達も村のあちこちから冒険者達の元へと向かって押し寄せて来る。
まずは、間近にいるレイスの群れを片付けなければならないが、容易には進まない。達人級の身のこなしを持つ磧や理は、多少なら囲まれようともレイス達の手をくぐり抜けることもできるが、そうでない者達にとって、この悪霊は厄介きわまりなかった。何せ、この悪霊の攻撃には、どのような重厚な鎧も魔法の防御も意味を成さず、僅かにでも触れられてしまえば魂を抉られるかのような痛みが、その身を襲う。
「シブトイ‥‥」
魔法の薙刀を振り回しながら、理は焦りを覚えていた。実体の無いレイスなら耐久力も低く、すぐに殲滅できると思ったが、そうはいかない相手だったのだ。
クロエなどはアンデッドスレイヤーという強力な武器を用いてはいたが、それでも三回は斬りつけなければ、この死霊は消えなかった。
当然、時間がかかれば戦っている間に次も来る。集まってきたのは、口の中にぞろりと並ぶ牙を生やしたグール達。やはり、何十という数で押し寄せてくる。あれに囲まれては、いかに達人級の回避能力を持つ武闘家達とはいえ、長くは持たないだろう。
「このままだと、かなり良くない状況になりそうですね」
「落ち着いてる場合じゃないぞ! 何とかしないと‥‥」
キルトの言葉にシュテルケが結界から飛び出そうとしたところを、ジークリンデが止めた。
「任せて下さい」
ゆっくりと、片手で印を結び、詠唱を始める。それは、前衛の者達に迫る死人の群れへと送る、手向けの炎を生み出すためのもの。
――――ッ!!!!
その音をどう表現すれば良いだろうか。突如出現した巨大な火球が大地に放たれると、豪音と共に周囲一帯を巻き込んで大きく爆ぜた。それは常識を超越した破壊力の魔法。
しかし‥‥。
「‥‥まだだ。あの死霊達、まだ動くぞ」
前衛に迫っていたレイスやグール達は、ジークリンデの最大威力の魔法を受けても、まだ止まらない。それなりのダメージは与えているはずだが、さすがに一度死んでいるだけあって、そう簡単には消滅してくれないようだ。
「とにかく、助けに入るぞ。グール相手なら俺も戦える」
シュテルケはライトソードを手に、セフィナとユキの張っている結界から離れる。
「私も前の方々の側に‥‥ジークリンデさんは、向かってくる敵の増援をお願いします」
「分かりました。どうか、ご無事で」
キルトは前衛の側につき、ストームの風でグール達の接近を妨害し始める。しかし、転倒させられる確率は五分。半数でもかなり数だ。すぐに押されるのは容易に想像がつく。となれば、やはり距離の離れているうちから、可能な限り数を減らしにかからなければ状況は悪化するだろう。
「出し惜しみをしている余裕はなさそうですね‥‥」
ありったけの魔力の回復薬を荷物から出し、ジークリンデは再び魔法の詠唱に入った。
「はあっ!!」
オーラの力、ユキから借り受けた武器の持つ対アンデッドの力。相性の悪いレイスの数が少なくなると、カイザードには随分と戦いやすい状況となってきていた。グールの牙は鋭いが、それでもオーラの力で身を守ったことで、深い傷は負わずに済む。
「まとめて、吹き飛べぇ!!」
剣を振るい扇状の衝撃波を放ち、複数のグール達へと同時に攻撃するシュテルケ。
ジークリンデの火球を二度まで受けてもグール達は全く動きを鈍らせずに近づいてきたが、それ以上の体力は残っていないらしく、あと一撃を与えることができれば動かなくなった。
それでも、敵は次々に押し寄せる一方で、冒険者達に予断を許さない。
これまで何匹倒したかも分からないグールを新たに一匹斬り伏せて、クロエは一度、負傷を癒しに後退する。
「‥‥魔力はまだ持ちそうですか?」
「はい。こちらは何とか」
「私の方も、まだまだ大丈夫です」
血を見て狂化しないよう目を閉じながらのユキと、あくまで余裕のある態度を崩さないセフィナが答える。
クロエのような純粋な戦士にとって、敵に襲われることなく回復薬を使える聖なる結界はありがたい休憩場所だ。これがなければ、いつ死霊達に呑まれていたか分かったものではない。
「あと、もう少し‥‥」
倒したグールが動かなくなるのを確かめると、流れる汗を拭いながら、フィリッパは周囲の状況を見渡した。
ざっと見積もっても、とうに六十を超えるアンデッドを倒したはずだ。グール達は強敵だったが、それでもジークリンデの強力な魔法の連続や、磧の弓といった遠距離攻撃を持つ者達のおかげで、かなり有利に進められたように思う。残る敵のほとんどはズゥンビ達。
「最期ノ祭リデスカ。一匹残ラズ眠ラセテアゲマス」
そう言って、理は死人の群れの中で身を躍らせていた。
「さあ、一気にいくで御座るよ!!」
弓を放り出し、金属拳へと武装を変える磧。渾身の一撃に顎を突かれ、死人の体が空を舞った。
全てが終わった後、冒険者達は互いの無事を確認し、安堵の表情を浮かべた。かなりの激戦だった。疲労はあるが、やり遂げた達成感も大きい。
一部の冒険者達は村の様子を見て回っていた。
「畑の方は、かなり手を入れ直さないと駄目かもなぁ‥‥」
「植えるものも、どこかで良い苗を買い揃えてこないといけないでしょうね。土地は拓けていても、まだまだやる事はありそうです」
シュテルケとキルトが周辺の植物などを調べつつ話す。村づくりはこれからだ。新たな家が建てられ、家畜が飼われ、作物が作られ、人々が安心して暮らせるようになるのは、まだ少し先のこと。ただ、人の生きる世界が広がるというのは、何だか心が弾む。
「滅ぼされた村の再利用‥‥。この地では、どなたも逞しくおなりですわね」
仲間達を見回した後に、セフィナはこの村に暮らしていた者達への祈りを捧げる。
「明日を目指す者に光あれかし。死者には安らぎを」
こうして冒険者達は無事に依頼を終え、キエフへと戻ったのである。