影を操る者達
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月12日〜06月17日
リプレイ公開日:2007年06月24日
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●オープニング
現実問題としてロシアという国は、けして豊かな国とは言えないのが現状である。
近年、貿易国として発展しつつあり、森を拓いての開拓を進めてはいるものの、それも魔物や蛮族に阻まれ、キエフにおいては人口過密状態が続いており、人々の住居や必要物資の不足等、国として解決しなければならない課題は多くある。そんな現状に不満を抱き、先のラスプーチンの反乱に協力した者も多かった。
当然、貧しい暮らしを強いられる人々も少なくはない。中には、罪に手を染める者も出てくる。
「追え! 逃がすな!」
その日、夜の街を騒がせたのは憲兵達の声と足音。
「ちっ、しつこい連中だ‥‥」
「美しい女性にならともかく、男に追われるのは趣味じゃないんですけどねぇ」
追われていたのは二人組みの男達。追われている理由はしごく単純。彼らは最近キエフのある一帯を中心に活動している盗っ人で、今夜もひと働きしようとしていたところを見つかってしまったと、そういうわけである。
「さあ、もう逃げられんぞ!」
やはり数の差が厳しかったか。気付けば盗賊二人組は数人の憲兵に囲まれ、逃げ場を失っていた。しかし、その状況にあってまだ、二人はどこか余裕のある表情をしていた。
「かかれーっ!」
一人の号令で憲兵達が一斉に二人組みを取り押さえようとした、その時である。
「やれやれ‥‥」
夜の闇の中、突如として生まれた更なる闇が辺りを覆った。
時は移り、キエフ冒険者ギルド。
新たな依頼が張り出されていた。
「国からの協力要請だ。内容は二人組みの盗賊の捕縛。手段は問わないが、今まで盗まれた品物の在り処なども聞き出すため、あくまで生け捕りが条件だそうだ」
ギルドの係員が説明を始めると、何人かの冒険者から幾つかの質問が出てくる。
「ただの盗賊相手に国からの要請? そんなに危険な連中なのか?」
「危険かというと少し違うが、何でも、月の精霊魔法の使い手らしい。今まで確認されているだけでも、シャドゥフィールド、シャドウバインディング、ムーンシャドゥなど、逃げるために使われると厄介極まりない魔法ばかり使ってくるらしくてな。正攻法で捕まえにかかっても、どうにもならないらしい」
「風貌は分かっているのか?」
「いや、黒い覆面で顔を隠しているらしい。まあ、輪郭から判断する限りは細身で長身の男二人で、エルフか人間か、あるいはハーフエルフだろうって話だ」
「どういう風に盗みを働くんだ? 何か変わった特徴とかはないか?」
「典型的なコソ泥だな。窓なり扉なり、どこからともなく家の中に入り込んで金品を漁っていく。一人が中に入る役で、一人が外の見張りをする役だろう。見つかれば即座に逃亡。それだけだ」
夜のキエフを騒がせる二人組みの盗賊。
果たして、冒険者達はこの盗賊達にどう挑むのだろうか。
●リプレイ本文
夜の世界を駆け、闇から闇へと姿を消して。
陰に身を隠し、また何処かへと。
「ギルドから依頼を受けて参りました。ノルマン王国の騎士、ニーシュ・ド・アポリネールと申します。以後、どうかお見知りおきを」
優雅な身のこなしに、穏やかな笑顔。彼、ニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)は問題の一帯を管轄している憲兵達の元を訪れていた。目的は、憲兵達の持つ情報を引き出し、犯人捕縛に向けて彼らの協力を仰ぐためである。
「ご足労、痛み入る。認めたくはないが、我々の力が及ばぬばかりに盗賊達の勝手を許しているのが現状。これ以上の被害を防ぐためにも、どうか、皆さんのお力をお借りしたい」
「いえ、一人の騎士として、私にとってもキエフの街を騒がせる悪は許しがたい存在です。共に力を合わせ、事態の速やかな解決を目指しましょう」
協力の要請については、憲兵達は快い返事をくれた。もちろん他の公務もあるので四六時中冒険者の都合に合わせて行動するようなことは出来ないが、それでも可能な限りニーシュ達の要望には応えてくれるとのことだ。
「早速で申し訳ありませんが、皆さんがお持ちの盗賊達に関する情報、できるだけ詳しく教えていただけませんか?」
ニーシュが憲兵達に話を伺っている間、他の冒険者達は街中での情報収集に動いていた。
「どんなご時世でも泥棒さんは元気だにゃー。さっさととっ捕まえて何か美味しいものでも食べたいよー」
やれやれといった具合に苦笑を浮かべて歩いていたのはルイーザ・ベルディーニ(ec0854)。彼女は該当区域の家々へ話を聞きに回った。問題の盗賊達は、既に街でも随分と話題になっているらしく、街角でご婦人方の話の種になっていたほどである。
「例の泥棒、また出たんですって」
「まあ、最近多いわねぇ‥‥」
持ち前の明るさでその話題の中へと割り込んでみる。
「すいませーん、ちょっとお話聞かせてー」
一方、御門魔諭羅(eb1915)は被害に遭った家々に絞って聞き込みを行っていた。犯人達の狙った対象に共通する点がないかを調べるためである。
「どうでしょう? 何か、泥棒に目をつけられる心当たりなどはありませんでしたでしょうか?」
「そう言われても‥‥」
家人に直接尋ねてもみるが、反応は今ひとつだ。戸締りの不備があったかもしれないと聞かされたが、多少の鍵なら泥棒達は自力で外してくるという情報もあったので、それ自体は特に意味がないかもしれない。盗品に関しては、持ち運びのしやすい宝石や金貨などが主で、高級な食器、調度品などの類はほとんど持ち去られていないという。
その日の夕方には、散っていた冒険者達が一度集まって、日中にそれぞれが調べた内容に関しての意見交換なども行われた。
「ふむ。まだ断定は出来ないが、この様子からすると、犯人達が狙いをつけているのは宝石かもしれんな。だが‥‥」
マクシーム・ボスホロフ(eb7876)が確認するように仲間達に向かって呟く。
「それだけの情報では、狙われる家を絞るのは難しいかもしれませんね‥‥」
マクシームの後を繋ぐようにして言ったのはフィリッパ・オーギュスト(eb1004)。二人は被害にあった家の周辺の様子、家の造り、警備状況などについて調べていた。
「警備のしっかりしている大きなお屋敷などは狙われていないようです。大金持ちより、それほど警備の厳しくない小金持ちの家が主な対象となっているみたいです」
「加えて狙われやすいのは、人目の少ない通りに面している家が多いな。侵入や逃走路も最初から決めている印象があるのだが‥‥」
「問題は、それに該当する家がまだ何軒もあるという事実ですね。さてさて‥‥困ったものですねぇ」
「あまり困っているようには見えんぞ」
表情だけを見ると余裕のある風なニーシュに、そう言ったのはレイブン・シュルト(eb5584)。
「いえいえ、これでも結構悩んでいるんですよ。ただ私の笑顔は何というか、癖みたいなものでして‥‥」
「あ〜、あたしも分かるよー。何ていうか、そういう自分らしさって大事だよねー」
横にいたルイーザがうんうんと首を縦に振る。
「そういうものなのか?」
「まあ、そういうことにしておいて下さい」
訊ねたレイブンに、やはり笑顔でニーシュは返したのだった。
少しばかり話が逸れたのを、フィリッパが仕切りなおすように元に戻す。
「とにかく、明日はもう一度それぞれの家を回って、戸締りの強化を呼びかけましょう。皆さん、それでよろしいですか?」
「そうだねー。大体の目安がつけば何とかなるだろうし、とりあえず少しでも見張る家を絞れるように動いてみようかな」
「あとは、逆に犯人に狙われやすいよう、戸締りを緩めた家を用意して、犯人を誘い込むという方針で‥‥。私は、協力して下さる方を探してみますね」
ルイーザや魔諭羅が明日の互いの行動や段取りを確認していく。
「入念な下調べをしているのだと思うが‥‥。近くの宝石商でもあたってみるか‥‥」
マクシームが呟いた、何気ない一言。
この時、彼は気づいていただろうか。自分達の行動が、この事件に意外な結末をもたらす可能性があったことに。
調査に関して仲間達に任せきりで、ただひたすらに犯人の現れるのを待っていたレイブンは肩透かしを食らったような気分だった。
「どうなっている? 何故、連中は現れない?」
気がつけば、依頼は最終日を迎えていた。
冒険者達の準備は特に滞りなく進んだ。ニーシュが憲兵達に協力を依頼したこともあって、彼らの口添えで犯人の入りやすそうな状況作りに協力してくれる家も無事に見つかり、ルイーザの罠の設置も、魔諭羅のゴーレムの配置も終わっていた。後は、泥棒達が上手くこちらの狙い通りに動いてくれれば、月夜の大捕縛劇が行われるはずだった。
「どうも、この五日間の間に、急に泥棒達の動きが無くなったようですね」
「何でー? 訊いてた話じゃ、二日に一回程度は必ず事件が起こってるって話だったよー?」
フィリッパの言葉に、ルイーザは納得いかないという表情を見せる。
「もしかして‥‥」
「その、もしかして‥‥でしょうね。いやいや、今度こそ本当に参りましたね」
魔諭羅がニーシュの方を見れば、やはりいつもの笑顔ではあるが、笑顔が特徴のニーシュでも、今はそれが苦笑になっていた。
「見つかったら即座に逃げ出す‥‥か。盗みの現場に関してだけかと思ったが、どうも思った以上に用心深い犯人達だったようだ。少し、私達は目立って動き過ぎたのかもしれんな」
力なく吐かれたマクシームの言葉は、淡い月の光で照らされるキエフの街に溶けて消えた。
キエフを少し離れた森の中に、二つの人影があった。
「あ〜あ、残念ですね。もっと稼げると思っていたのですが‥‥」
「仕方あるまい。いつもの憲兵達だけならともかく、冒険者まで動き出して俺達を捕まえようとし始めているんだ。さすがに潮時だろう。無理に留まる理由もない」
そんな言葉を交わして、二人は森の奥へと消えていった。
後になって調べてみれば、泥棒の捕縛に冒険者達が動いたという噂は思いの他、広がっていたらしい。本人達に自覚は無かったかもしれないが、今回の依頼に参加した冒険者はいづれも実力者として知られるところには名が知られている冒険者ばかりだ。それが表立ってあちこちに泥棒の話を聞いて回ったり、家々に警備の強化を説いて回ったりと目立った動きを見せれば、それ相応に冒険者達の活動も噂として流れ、それが犯人達の耳に入るのはさほど長い時を要することではなかったと思われる。
マクシームが付近のとある宝石商の一つを訊ねた時のことだが、最近になって店の周囲によく姿を見せる男がいるとの情報があった。ただ、それも冒険者達があちこちの家に情報収集で聞き込みを行った翌日から、ぱったりと姿を見せなくなったというから、件の泥棒と何か深い関わりがあったのかもしれない。もちろん、今となっては確かめようもない。
結果を見れば、冒険者達の行動は捕縛の下準備というよりは、防犯活動と呼ぶに近い成果をもたらしたと言える。一時的に姿を消したのか、本当にこれで終わりなのかは分からないが、とにかく、しばらくの間この一帯で窃盗事件が起きなくなったというのは確かな事実である。
こうして、意外な結末で月夜の泥棒騒ぎは幕を閉じ、冒険者達は目的を果たせぬまま、依頼を終えることとなったのである。