黒羽を狩れ

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜08月29日

リプレイ公開日:2007年09月04日

●オープニング

 キエフ冒険者ギルド。
 ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。

 その日、ギルドを訪れたのは小さな村の住人達。
「頼む。俺達の村に来るカラス達を何とかしてくれ」
「カラス‥‥ですか?」
 確かめるように、ギルドの受付係は聞き返す。
 人に害を為す生き物の駆除というのは、魔物のそれと同じで冒険者への依頼は多い。だが、ただの鳥の駆除が冒険者に依頼しなければならいような仕事とは考え難い。
 そう思っていると、村人達の方もこちらの疑問に気づいたのか、こう言葉を続けた。
「カラスとは言っても、普通の奴じゃない。とにかく大きさが全然違う」
「せっかく育てた鶏や兎がそいつらに襲われて、かなり深刻な被害が出ているんだ」
 そう聞かされて、ギルド員には思い当たる魔物があった。
 ジャイアントクロウ。
 姿形は確かにカラスなのだが、通常のカラスの倍もの大きさのその動物は、こう呼ばれている。
 多くは人里から離れた山の中などに住んでいるのだが、屍肉を貪るために墓地の近くなどにも姿を見せることなどもある。今回は、おそらく村で飼われている家畜や作物に目をつけて、近くに住み着いてしまったものと思われる。
 身体が大きい分だけ力もある。動物というより魔獣の類と考えて良いだろう。放っておけば村の子供まで襲われかねないし、それでなくとも、しばらくすれば作物の収穫の時期もくる。家畜だけでなく、畑の野菜や果物まで荒らされれば、村人達にとっては死活問題だ。少しでも早く手を打つ必要がある。

 果たして、冒険者達は無事にこの依頼を遂行することが出来るのだろうか。

●今回の参加者

 ea9524 ジェラルディン・テイラー(21歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5638 ユージュ・ウォルター(28歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec3554 何 静花(19歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3662 ブラック・オールガ(19歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec3666 サノ・ヒロアキ(20歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 その空を舞うは黒き羽。
 時には死者の肉を喰らい、骸骨と戯れるという不吉の鳥。

「この国の自然は厳しいのだな。‥‥いや、どこも同じか」
 果ての見えぬ鬱蒼とした森を歩きながら、華仙教大国出身の陽小明(ec3096)はそう呟いた。
「確かに自然が厳しいというのもあるが、それ以上にロシアは国としての歴史が浅く、まだまだ発展途上にある国だからな。貿易国として発展しつつはあるものの、他国から流れてくる人々に国の成長が追いついておらず、キエフの人口は過密状態。少しずつでも、この森を切り拓いていかなければ、この国はいずれ、住む場所の無い人間で溢れかえってしまうだろうな」
 語るのは教師としての生業を持ち、また、僅かながら政治の知識もあるゼロス・フェンウィック(ec2843)。彼の言葉を確かめるように、冒険者達は顔を見合わせる。今回の依頼に参加した冒険者に、ロシア出身の冒険者は一人もいない。皆、どこか別の国から、それぞれの目的のためにロシアを訪れている者ばかりだ。
「あたし達が向かっている村も、より良い暮らしを求める人達が苦労して開拓した場所の一つなのよね。やっぱり、苦労したんでしょうね」
 言ったのはジェラルディン・テイラー(ea9524)。つい先日この国に来たばかりの彼女にとって、まだまだこのロシアは慣れない国だ。他の国では迫害を受けていたハーフエルフの身でも、この国では優良種として堂々としていて良いというのに、未だに髪や布で耳を隠してしまう習慣が抜けない。
『それにしても困ったものだ。依頼を受けておきながら、当日になって来ない者が二人も出るとはな』
 華国語で不満を口にしたのは、何静花(ec3554)。彼女の言うように、ギルドに貼り出されていた時は六人以上の参加を募集していた依頼でありながら、現実問題として、この場にいる冒険者は五人だけ。それほど危険の大きい部類の依頼では無いが、少し不安はある。ただ、それをわざわざ華国語で呟いたのは、他の者に分からぬようにというのではなく、今の彼女は、まだロシアの公用語であるゲルマン語を身につけていないためだ。もっとも、幸いなことに彼女を除く全員が華国語も理解でき、意思の疎通には特に支障は起きていなかった。ただ、今回のような例が珍しいことは何自身も分かっているので、本人としても、支障の起こる事態に遭う前に、ゲルマン語を身につけられるようにと計画してはいるらしい。
『野宿になるのに食料も寝袋もなしの誰かも、十分に困ったものだがな』
 ――バタッ。
 ユージュ・ウォルター(eb5638)が表情一つ変えず、その誰かに分かるように華国語で呟くと、何は平坦な道のど真ん中で盛大にこけていた。
『ふん、たまにはこんなこともあるさ』
 それは今、何もないところで派手にこけたことだろうか、あるいは旅に必要な物資を忘れてきてしまったことだろうか。
「まあ、その辺の物に関しては私の方で余分に用意があったから何とかなったが、これから先、寒さの厳しい時期になれば旅の準備不足はもっと深刻な事態も引き起こしかねないからな。他人事と思わず、自分も注意しておかねばなるまい。もっとも、そんな先のことより、今は目の前の依頼の成功を考えなければな」
 ゼロスはそう言って、自分達の進む道の先を見つめていた。

 村に辿り着くと冒険者達は早速、それぞれの作業にかかった。
 陽は村人達に、一時的に家畜達を家の中に入れてもらうべく頼んで回っている。ゼロスは畑の一角に罠を張る準備を始め、網やロープを荷物から取り出し思考するが、どういった罠が良いか決めかねていると、周辺の森に様子を探りにいったジェラルディンが戻ってきた。
「森の様子はどうだった、ジェニー?」
「そうね‥‥見たところ、特に異変がある感じじゃないわね。森で暮らしていけなくなったわけじゃなくて、食べ物が取りやすいって理由で村に手を出しているんだと思うわ」
 鬱蒼と茂った木々に覆われた森の中に比べれば、畑に並ぶ作物や平原に遊ぶ家畜達は、ジャイアントクロウにとっては皿の上に並べられた料理も同じ。後は人間の隙をついて奪っていくだけ。
「味をしめている分、油断して罠にかかってくれれば良いんだけど、あいつら頭いいから警戒して近寄らないかもしれないのよね」
 ジェラルディンが言うように、カラスという鳥は鳥類の中でも特に頭の働くことで良く知られている。仲間同士で連携を取り、学習能力が高く、目に見えるような罠には滅多なことでは近づかないという。数日間かけて設置しておけるのならば少しは成功率も上がるが、残念ながら、村で活動できるのは今日一日だけだ。
「まあ、やらないよりは良いだろう」
「そうね。一匹でもかかってくれれば、それだけでも違うし」
 ジェラルディンがジャイアントクロウが光り物を好むという性質を持っていると知っていたこともあり、ゼロスもそれを頼りに、金貨や銅鏡などの物品を利用した幾つかの罠を仕掛けていく。
「おい、そろそろ用意は済んだか? いつまでも畑の周辺をうろうろしていては、余計に奴らも警戒して近づいて来んぞ」
 作業を続けていたゼロス達のところに来たのはユージュだ。彼も又、彼なりに考えた罠を周辺の何箇所かに仕掛ける作業にあたっていた。
「あれ? 他にも何か用事があるって聞いていたけど、そっちはもう済んだの?」
「‥‥ああ。残念ながらな‥‥」
 村についてすぐ、ユージュは仲間達と行動を別にし、個人的な目的で村人達にある聞き込みを行っていた。彼が探しているのは、ずっと昔に生き別れた妹。その妹に会うために、ユージュはこのロシアを訪れた。だが、人の流れの激しい貿易国であるロシアにおいて、人一人を見つけるのは、簡単なようで難しい。この村の人々も、やはり彼の求める情報を知っている者はいなかった。
「‥‥ここも外れか」
 空を仰ぎ、少し肩を落とす。だが、立ち止まってはいられない。仕事をこなして報酬を得ることも、これから先、妹を探し続けるためには必要なことなのだから。

 冒険者達が罠を張った場所から距離を置き、身を隠してしばらく。
「来たわよ」
 段々と近づいてくるジャイアントクロウの鳴き声に、最初に気がついたのはジェラルディン。声のした方に目をやれば、大きな三つの黒い影。しばらくして村の上空に来るも、畑の様子がいつもと違うことに動揺しているのか、なかなか降りてこようとしない。
「やっぱり、見えるような罠では駄目なのかしら」
「確かに。‥‥だが、所詮は鳥。それ以上のことはできん。全員、攻撃の用意はできているな」
 ユージュの言葉通りに、一羽のジャイアントクロウが畑の一角に撒かれていた保存食に近づいていく。辺りには、その保存食以外のものは何も見えない。しかし‥‥。
 ――バチッ!
「今だ」
 そのジャイアントクロウの身体が不自然に跳ね、その黒い羽が飛び散ったを見て、冒険者達は一斉に走った。
 ライトニングトラップ。一定の範囲に踏み入ったものに強力な電気を走らせる、風の精霊魔法の一つ。目で確認できない罠であれば、警戒することも難しい。ユージュの仕掛けたこの罠には、警戒心の強いジャイアントクロウも流石に気付けなかったようだ。
 だが、仲間が罠にかかったことで、様子を見ていた他の二羽のジャイアントクロウはその場を去ろうとする。
『罠にかかった奴は私に任せろ』
 電撃のダメージが大きかったのだろう。苦しそうにもがいているジャイアントクロウには何が向かい、他の者達は逃げようとするジャイアントクロウへと攻撃をかける。
「貫け‥‥ライトニングサンダーボルト!」
 ユージュの放つ稲妻を受け、大きく体制を崩し速度の落ちたジャイアントクロウに、さらにジェラルディンとゼロスが追撃を加える。
「逃がすものか!」
「一羽だけでも、この場で確実に仕留めるぞ」
 鋭い矢の一閃が羽を射抜き、生み出された風の刃が身を切り裂く。
「これで、止めだ!」
 深手を負い、空より堕ちてきたジャイアントクロウへ向けて、地上で待ち受けていた陽の拳が突き刺さると、黒い鳥は完全にその動きを止めた。
『こっちも終わった。もう一羽は‥‥』
 何の方も先ほどのジャイアントクロウを無事に仕留め、急いで仲間達の方に駆け寄る。
「逃げられてしまった。さて、どうするかだな‥‥」
 一度に片付けるには少し厳しかったか、攻撃の届かぬ範囲まで離れた敵の後ろ姿を眺めながら、ゼロスは次の策を考えるのだった。

 しばらくして、冒険者達は森の中のジャイアントクロウの巣を捜すことに決めた。何人かは最初から巣の撤去までしていくつもりだったらしい。
「‥‥念の入った事だ」
 あれこれと文句を言いながら、ユージュも周囲を見回しそれらしいものを探す。だが、簡単には見つからない。
「ちょっとしたついでよ。それに、逃げた奴も探さないといけないしね」
 ジェラルディンが言うように、あのまま村の中で再び罠にかかるのを待っていても仕方ないというのが、皆で相談しての結論だった。学習能力が高く、一度かかった罠にはそう易々とかからなくなるのも、カラスの特徴だ。
「あれじゃないか?」
 一本の木の枝の上に、複雑に枝を組んだ何かが乗っているのを陽が見つけた。大きさ的にも一般的なカラスのそれより一回り大きく、ゼロスがリトルフライの魔法を用いて中を確認しに空へと浮かび上がる。巣の中を確かめるものの、繁殖期を過ぎているためか雛の姿などはなく、他には鏡の破片のようなガラクタの類が少しというところで、特に大きな発見はなかった。
 だが巣に手を出したことで、もっとも見つけたかった相手が自ら姿を現す。
『む‥‥危ない!』
 ゼロスの背に向けて、何が声を上げた。見れば、どこに隠れていたのか、先ほどのジャイアントクロウの最後の一羽が、かなりの速度でゼロスに襲いかかろうと飛来してきていた。
 何が足元の石を拾い投げて牽制すると、ジャイアントクロウは大きく迂回し、その隙にゼロスは地上に戻る。
「すまない、助かった」
 すぐに攻撃魔法の詠唱に入るゼロス。他の仲間達もそれぞれに攻撃態勢に入る。
 魔法と矢が飛び、二人の武道家が仲間達を守る盾となる。森の大地に最後の黒い翼が堕ちるまで、そう長い時間はかからなかった。

 こうして冒険者達は無事に依頼を終え、キエフへと戻ったのであった。