鎧竜と豚鬼王
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:11人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月31日〜11月05日
リプレイ公開日:2007年11月09日
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●オープニング
キエフ冒険者ギルド。
ここには様々な問題を抱えた人々が、冒険者達の力を借りるべく集まってくる。
キエフより徒歩で二日ほど行った先に、珍しい村がある。
そこでは開拓の当初より、ある一匹の竜を村の近くに住まわせ、他の魔物が村に寄り付かぬようにするという、他人から見れば正気を疑うような手段を用いて、村の平和を守っているのである。
その竜の名はフォレストドラゴン。元々、その地域一帯の主であったのだが、村の開発計画に携わった商人のアイディアと、それに乗った冒険者達の働きにより、今のような状況に落ち着いている。性格はドラゴンの中でも温厚で、下手に近づいたり余計な手出しさえしなければ、大きな害はないらしい。一度、このフォレストドラゴンを巡って村人同士の間で意見が割れ、冒険者を巻き込んでの争いなどもあったが、それも結果としては事なきを経ている。
しかし、そのフォレストドラゴンと、ドラゴンに守られた村に新たな問題が起こっているという。
「今から三日前だ。フォレストドラゴンの縄張りに、他所からオークの群れが入ってきて、フォレストドラゴンから森の主の座を奪ってしまった」
村人の話に、ギルドの受付嬢は一つの疑問を持つ。
「オーク‥‥ですか? その程度の魔物なら、フォレストドラゴンには到底、敵わないように思うのですが‥‥」
「群れの中に一匹、異常に強いのがいるんだ。オークロードとかいう奴らしい」
下顎から長い牙の突き出た豚の頭を持つ大柄のオーガ種、オーク。動きはやや鈍いものの、高い攻撃力を持つことが特徴の彼らの中で、最上級の力を持つのがオークロードである。
「見かけは他の奴と大差があるわけじゃない。だが、信じられないことに奴は、フォレストドラゴンの牙をまともにくらって平然としてやがったんだ」
戦いに敗れたフォレストドラゴンはその場を逃げ出し、住処としていた洞窟を離れ、その洞窟はオーク達がそのまま新たな住処として利用しているという。
「とにかく、いつオーク達に村が襲われるか分かったもんじゃないんで、奴らの退治を頼みたい」
「分かりました。すぐに手配しましょう」
「それと、注意しておいて欲しいんだが‥‥」
村人は、次のことを冒険者達に頼みたいという。
「実は、まだフォレストドラゴンは森の中にいるんだ。もう一度、森の主の座を取り戻す機会を待っているみたいでな。一度はオーク達にやられて逃げ出したが、受けた傷自体は大したことが無かったみたいだし、あんた達がオーク達と戦い始めたら、騒ぎの音を聞きつけて自分も姿を見せるかもしれない。その時は面倒かもしれないが、オーク達から守ってやって欲しい。俺達も、あいつにまた森の主に戻って貰いたいんだ」
●リプレイ本文
森に響くは戦の音。
剣が舞い、槌が大地を穿ち、竜の咆哮が大気を振るわす。
生き残るのは、人か魔物か。
「随分と寒くなったな‥‥」
「確かに、これは少し堪えます」
ギルドを出てすぐ。吹き荒ぶ冷たい風に、そのままでは身体を壊すと思い、ケイト・フォーミル(eb0516)とフローネ・ラングフォード(ec2700)は荷袋の中にしまっていた防寒具を取り出して着込んだ。ロシアの冬はまだ始まったばかり。もうしばらくすれば、目の前の森も雪に覆われて白く景色を変えるようになるのかもしれない。
「ほら、イオタもちゃんと着るにゃー。何なら、あたしが着せてあげようかにゃ〜?」
「ええいっ、やめろ! それぐらい自分で着られる!」
端ではルイーザ・ベルディーニ(ec0854)とイオタ・ファーレンハイト(ec2055)が仲の良い姉弟のように少し戯れていた。テント等の重い荷物は自分が運ぶと言って周囲の女性陣を気遣っているイオタだったが、周りを優先して考えたために、自分の武装選びを誤ったか、そのまま防寒具をつけると身体の動きが鈍くなることに気付く。渋々ながら、少し持ち物を減らすことにしたようだ。
「何だか、苦労してる人もいるのね。それに比べると、こっちは楽しそう」
「‥‥あの、これはけして遊んでいるわけではありませんよ。魔物達に気持ちで負けないためのものです」
ピリル・メリクール(ea7976)が見つめるのは、恐ろしいというよりは面白いという言葉の似合いそうな、オーガの着ぐるみに身を包んだアカベラス・シャルト(ea6572)。周囲から見ると仮装以外の何者でもないのだが、これで防寒能力は普通の防寒着の倍と機能面でも優れており、アカベラス自身も実に堂々とした立ち振る舞いである。
「まったく、これから魔物の群れとの戦いに向かおうというのに、少し緊張感に欠けるのではないかしら」
「ご、ごめんなさい‥‥」
アクエリア・ルティス(eb7789)が食料の用意を忘れてきたというイコロ(eb5685)に、自分の保存食を分け与えながら、そう呟く。叱られたイコロが小さくなって謝っていると、隣で見ていたニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)がクスリと笑っていた。
「何かしら?」
「いえ。何だかんだ言いながらも助けの手を差し伸べるあたり、アクアさんって、お優しい方だなと思いまして」
一見、気位が高そうで少し近寄り難い印象のあるアクエリアだが、その内面は違うようだ。彼女はまるで食料を忘れる者が出ることを予測していたかのように、かなり多目に用意をしてきていた。
「‥‥か、買い被り過ぎよっ」
ぷいっと顔を背けたアクエリアの頬が少し紅かったように見えたのは、気のせいだろうか。
「なかなか賑やかな旅になりそうですね」
「そうですね。今回の依頼は、お互いの協力が重要になるでしょうし、絆を深めておくのも良いことだと僕は思います」
ディディエ・ベルナール(eb8703)とキリル・ファミーリヤ(eb5612)が仲間達の様子を見ながら、そう言葉を交わす。
「それにしても、ドラゴンによってもたらされる安寧の下で暮らしている人々ですか〜。少々、驚きです」
「はい。‥‥ですが、ドラゴンさんとの関わり方を考えていくと、難しい問題ですよね‥‥。人と魔物。本来であれば、互いに相容れるはずのない存在同士が共に生きるというのは‥‥」
常であればドラゴンの退治を依頼されることこそあれ、それを守れなどという依頼は、冒険者達にとっても異例のもの。ドラゴンという種の危険性を考えれば、キリルとしても少し受け入れ難い側面がある様子だった。
「ですが、うまくいっている間は変える必要も無いのでしょうねぇ」
「‥‥確かに。今はそれで良いのかもしれません」
ディディエの言葉に、キリルは肯いて応える。自分達を頼り、ギルドを訪れた村人達の願いを叶えてあげたい。それが、今の自分達の素直な気持ちであることに、間違いはなかったのだから。
「では皆様、始めましょうか。全てに平穏な眠りを呼び戻すために」
その目に敵の姿を捉え、アカベラスは韻を紡ぐ。
『ブヒッ!?』
突然の襲撃に、オーク達は慌てふためいた。
戦いの始まりを告げたのは重力の波。そして吹雪と陽の熱閃。冒険者達の魔法による攻撃だ。
「豚が一杯‥‥っていうのは、もう少し可愛いのを想像してたんだけどにゃー。現実は悲しいにゃー」
呟くルイーザの視線の先にあるのは、大きな槌と共に迫り来る、弛んだ肉壁の波。
「ほら、ボヤっとしてる暇は無いわ!」
「ああ、分かってる!」
「数は向こうが上だが、皆で協力すればきっと何とかなるはずだ。行こう!」
その身にオーラを纏いて、アクエリアは雄々しき天使の翼を模した魔剣を振るう。傷を受けて怯んだオークの横をイオタやケイトが抜け、共に一匹のオーク戦士へと狙いを定めて駆けた。身につけたコナン流の技をもって武器を振り下ろせば、分厚い脂肪に覆われたオークの身体が大きく揺らぐ。それなりの深手のはずだが、さすがは戦士と呼ばれるだけの魔物。すぐに反撃の槌を振り下ろしてくる。
「‥‥くっ、そう容易くはいかないか」
イオタが盾で受け止めるが、そこで安心は出来ない。何せ、周囲は敵だらけで、いつ横から別の槌が振るわれてくるかも分からない状況だ。
「二人は出来るだけ攻撃に集中して、周りはあたし達に任せるにゃー!」
オーク達の攻撃の波を抜けて、ルイーザがイオタ達の背後のカバーに入る。その身のこなしは今回の依頼に参加した冒険者達の中でも群を抜いているルイーザ。彼女は流れる風のようにオーク達の間を駆け抜けながら、両の手に持つ得物を振るう。
「はっ、雑魚ばかりですね!! さあ、次は何方ですか!?」
付かず離れず、冒険者の多くが互いにある程度の距離を保っている中、自らオーク達の中に飛び込んだのはニーシュ。戦闘時の緊迫感を引き金として狂化が起こる彼の場合は、逆に仲間達の側にいることの方が危険だというのもあったが、理性はなくとも身体は戦い方を覚えているのだろう。槌の連撃を潜り抜け、その手の刃でオーク達を切り裂いていく。
「はああっ!!」
淡い光の放たれた後。ふいに傾いたオーク戦士の隙を逃さず、キリルとフローネはその手にした魔剣で一閃。血の飛沫が跳ね、ピリルの魔法によって眠りの淵に囚われていた魔物は激しい痛みに目を覚ます。しかし、体勢を立て直す前にディディエが地の魔法でその手の槌を操れば、魔物の反撃は大きく外れて大地を打つ。キリルとフローネの追撃の太刀を振るい、オーク戦士の息の根を止める。
「少しくらいなら時間も稼げます。今のうちに傷の手当を」
「はい!」
アカベラスが迫るオーク達を魔法の吹雪で牽制すれば、その隙にフローネは治癒の魔法で自らが受けた傷を癒す。オーク達の巨躯が繰り出す攻撃は単調ではあるが、重い。加えて、その体力の高さから並の攻撃では倒れてはくれない。
「持久戦かぁ。やりにくい相手かも‥‥って、あれはっ!?」
離れた位置からサンレーザーでオーク達を狙い打つイコロ。その目に、森を掻き分けて進む、ある巨大な影が飛び込んできた。
それは、この地の本来の主。岩のような緑褐色の肌に、鱗と刺に被われた長い尾を持つ森の竜、フォレストドラゴン。
「来ましたか。‥‥皆さん、気をつけて下さい!」
キリルが仲間達に呼びかけたのと同様に、オークの一匹が大きな鳴き声をあげて他のオーク達に警戒を促す。現れた竜の大きさにほとんどのオークが怯えて足を止めるのとは逆に、それに向かって動く数匹のオーク戦士達。
「させるかっ!」
フォレストドラゴンを守るべく、冒険者達も一斉に動く。
「頼んだわよ、ピリル!」
「が‥‥頑張るよ!」
後方のピリルに声をかけて、アクエリアも助走をつけて敵の群れへと突撃していく。それを見送り、緊張を鎮めるために大きく息を吐いて、ピリルはテレパシーの呪文を詠唱し、発動させた。
『ドラゴンさん、聞こえる?』
『‥‥人間‥‥か?』
何とかこちらの想いが通じることを願い、ピリルはフォレストドラゴンへの説得を試みる。
『私達はこのオーク達を倒しに来たの。ドラゴンさんの味方。だから、ドラゴンさんがオーク達を倒しにきたのなら、私達には攻撃しないようにして欲しいの』
――ゴッ!!
鈍い大きな音が、森に響く。見れば、フォレストドラゴンの尾の一撃を受け、オーク戦士の一匹が大木の幹に叩きつけられていた。
『邪魔になるなら、こいつらと一緒に潰す。邪魔でないなら、どうでもいい。勝手にしろ』
「えっと、つまり‥‥」
どうやら、自分はオークを優先して攻撃するので、その邪魔をしなければ冒険者達への攻撃はしないということらしい。とりあえず、こちらの意志は伝わったと見て良さそうだ。
「では、邪魔なオーク共はとっとと片付けてしまいましょう」
ディディエが放つ高威力のグラビティーキャノンを受け、オーク戦士達の足並みが大きく乱れる。そのオークの群れの中に、重厚な鎧を身に付けたものが一匹。その一匹こそが、ロードと呼ばれる存在。
「貴方達、邪魔なんですよ!」
「どきなさいっ!」
ニーシュとアクエリアが周囲のオーク戦士達へと攻撃をかけると、すかさずルイーザがオークロードの元へと開かれた道を走る。
――ゴォッ!!
「させないにゃー!!」
『ブヒィイ!?』
オークロードが大きく槌を振り上げれば、ルイーザはその懐に飛び込む。密着したルイーザに対して上手く攻撃の狙いを定められず、オークロードは離れようと足掻くが、ルイーザはけして距離を開けさせない。
そして、身動きのとれない状態のそのオークロードへと迫るのは二つの剣。ケイトとイオタの、全ての力を込めた渾身の一撃。
「これで‥‥!」
「‥‥終わりだ!!」
アカベラスの魔法によって剣に宿された炎。それが真紅の軌跡を描いて輝けば、森に響き渡った音は、その輝きに身を裂かれた魔物の断末魔の叫び。
頭を失ったオークの群れは統制を失い、冒険者達によって瞬く間に駆逐された。
「ようやく片付いたにゃー。‥‥暫く豚はいいにゃー‥‥」
戦いが終わり、ルイーザがフォレストドラゴンを眺め見れば、竜は何事もなかったかのように洞窟の中へと戻っていくところだった。
「村人からも愛されているドラゴンっていうのも、素敵なものね」
これからも森の主として村人達と暮らしてくれることを願いつつ、アクエリアは竜の背を見送る。
人と魔物の関係。それは、何もかも都合良くはいかないかもしれない。けれど、もし互いを理解し、相手を敬う心があるのなら、この土地に住む村人達と竜のように、またどこかで新たな人と魔物の関係が築かれることがあるのかもしれない。