【黙示録】水の姫と邪蛇の魔剣士

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月10日〜12月15日

リプレイ公開日:2008年12月23日

●オープニング

 訪れた冬。
 厚い雲に覆われたロシアの空。
 全てが色褪せたかのような世界。
 だが、暗い森の奥深くに、その泉はあった。
 清き水を蓄えた、美しい湖。
 水面に立つ、一人の少女の姿があった。
 厳寒の中、白の衣一枚のみを纏い、素足で水面を歩く乙女。
 それが人に非ざる存在であることは、一目瞭然だった。
「‥‥‥‥」
 ふと、彼女はその小さな手を、彼方の方角へと向けた。
 一瞬に放たれたのは、水弾。
『ギイィ!!』
 声を上げたのは、その直撃を受けた黒い影。インプと呼ばれる小悪魔だった。
 悪魔は忌々しげに少女を睨むも、すぐにその場を逃げ出した。
「‥‥ついに、ここまで‥‥」
 悲しげに、その少女‥‥水の精霊フィディエルは呟いた。

 同刻。
 キエフ遠方、とある開拓村にて。
「な‥‥なんだ、ありゃあ!?」
 天空に、その巨大な鳥の姿が現れたのは、突然のこと。
 それを見上げる村人達は、何事かと困惑するばかり。
 だが、その鳥の姿はどこか神々しくもあり‥‥。
 金色に輝く翼の主。それは、ホルスと呼ばれる陽の精霊。
『東の森の奥深く‥‥清き泉の姫。水の守護者に危機が迫っている。伝えよ、闇に抗する者‥‥冒険者に』
 それだけを告げて、ホルスの姿は現れた時と同じく、突然に消えた。
 この不可思議な一件はすぐにキエフへと伝わり、冒険者の耳に届くこととなる。

 ――時は移る。
 暗い森の一角に、泉より逃げ出したインプの姿があった。
『オティスさま、オティスさま!!』
「あァ? んだよ、うっせぇな。そんなデケぇ声で呼ばなくても、聞こえてるっつうの」
 ぶっきらぼうに応えたのは、長剣を携えた男。だが彼が人間でないことは、その頭に生えた二本の角と、その口を開いた時に見える鋭い牙が証明していた。
『みつけた!! フィディエル、フィディエル!!』
「おっ、そうか。‥‥んじゃ、そろそろ動くとするかねェ‥‥」
 オティスと呼ばれた男は、うっすらと笑みを浮かべると、己が剣を掲げる。
 周囲の森の中には、無数の黒い影が蠢く。その全てが、彼の配下の悪魔達。
「さあ、行くぞテメェら!! 楽しい狩りの始まりだ!!」
 湧き立つ喧騒に木々が揺れ、邪悪な者達の歓喜の叫びが森に木霊した。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8588 ヴィクトリア・トルスタヤ(25歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)
 ec0199 長渡 昴(32歳・♀・エル・レオン・人間・ジャパン)
 ec4567 アクア・リンスノエル(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114)/ 御陰 桜(eb4757

●リプレイ本文

 清き水は、命の源。
 人を、草を、木を、魔物さえ。
 全ての命を支え、守り育むもの。
 そして又、それは人が守り、未来へと繋ぐべきもの。

「あれでしょうか‥‥」
 その騎士、ディアルト・ヘレス(ea2181)は眼下に湖を見つけると、天馬の手綱を操り、下降の指示を出した。
「うわぁ、綺麗なところねぇ」
 ディアルトの背から顔を覗かせて、シャリン・シャラン(eb3232)が感嘆の声を漏らす。水の緩やかな波は陽の光を受けて輝き、清き水は周囲の木々と空を映して、まるで鏡のよう。
 だから、その水面に攻撃的な淡い光が見えた時は、残念でならなかった。
「くっ!」
 咄嗟に、高速詠唱を用いてディアルトが結界を張る。水弾はそれを破って天馬を撃つが、幸い、結界のおかげで大した威力は残っていない。
「あたい達は敵じゃないわ。フィディエル、あなたを助けに来たの」
 水の精霊の加護を持つとされるリボンを手に持って振り、連れてきた妖精にも顔を出させるなどして、シャリンが敵でないことを訴えかける。
 だが、フィディエルは水中に身を隠したまま、全く姿を現そうともせずに再び水弾を放つ。明らかに警戒されていた。
「私達はあなたを悪魔達から守るために来たんです! 話を聞いて下さい!」
 ディアルトも呼びかけるが、それに反応した様子はない。天馬の姿を見せれば悪魔の手勢ではないことを分かってもらえるかもしれないと期待していたが、そもそも悪魔は姿形を自在に変えるし、聖なる結界たる名を持つホーリーフィールドにしても、悪魔の中で使えるものが存在する。加えて、ペガサスや妖精といえど、悪魔の配下として操られる可能性が無いわけではない。
「ここは一旦、退くしかなさそうね。無理に近づこうとすると、きっと余計に印象を悪くするわ」
 二人は説得を諦め、その場を離れた。

 ディアルト達より少し遅れて、他の冒険者達も森に辿り着く。
「すみません、皆さん。ご迷惑をおかけしまして」
 休憩のために腰を下ろした仲間達に、ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)が頭を下げたのには訳がある。
 よく見れば、数人の冒険者の馬に分けて、大量の書物が積まれていた。全てヴィクトリアの本であるが、当人が棲家に置きに戻るつもりだったのを、冒険者達は皆で荷を分けて、迅速な出立を優先していた。
「大丈夫だよ。皆で何とか出来たんだから。大事なのは、もう二度と同じ失敗をしないことだよ」
 多大な迷惑をかけて落ち込むヴィクトリアに声をかけたのはイルコフスキー・ネフコス(eb8684)だ。
「ところで、その子どうするの?」
 アクア・リンスノエル(ec4567)の視線の先にいたのは、肉食獣の虎。ヴィクトリアのペットである。アクアの愛馬が距離をとって警戒していた。
 この先、森の奥へと進むに際し、どのような危険が待っているかは分からない。ホルスの言葉を信じるなら、水の精に迫る闇というのが意味するのは、死霊か悪魔の類やもしれない。危険なので、それらの敵との戦いに向かないペット達は上手く囲うようにして守りたいところだが、馬達と虎をすぐ側にするのは不安があった。仮に虎が平気でも、馬が怯えて暴れかねない。飼い主のヴィクトリアは魔力こそ高いが、武術の心得は無く、一人で離れさせるには危険が大きい。
「私が協力しましょう。そうすれば戦力になると思います」
 長渡昴(ec0199)は、他者にオーラの力を付与できる。それには対象に接触することが必要になるが、虎の爪に触る程度の事、彼女にはどうということはないのか、堂々としたものだ。傍につくという。
 そのまま森の奥へと進むと、先行していたシャリン達に合流した。フィディエルの説得に失敗したことを聞く。
「言葉だけでは説得が難しいとなれば、やはり態度で示すのが先のようですね」
「ええ。私達の手で、必ずフィディエルに迫る危機を退けてみせましょう」
 フォン・イエツェラー(eb7693)とセシリア・ティレット(eb4721)が剣を振り上げていう。まだ見ぬ敵に、いつでも来いと言わんばかり。
「意気込むのは良いが、とりあえず敵の姿はまだ無いぞ。危ないから剣は納めておいてくれ」
 エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)に言われて、正義に燃える純朴な騎士達は恥ずかしそうに突き上げた腕を下ろすのだった。

 そして、戦いの時はすぐに訪れた。
 最初に目についたのは上空に見える多数の巨大な禿鷹の姿。魔鳥アクババである。
「やはりホルスの助言‥‥フィディエルに迫る危機とは悪魔達のことでしたか」
 歩く度、耳のピアスが澄んだ音を奏でるのはオリガ・アルトゥール(eb5706)。ロシアで活動する悪魔達と幾度と戦ってきた冒険者の一人。今回の悪魔の襲撃も今までの悪魔達の行動と何か関係があるのだろうと、思案を巡らせていた。
「さて、フィディエルに会う前に、まずは不躾な悪魔達にオシオキが必要ですね♪」
 その微笑みの中に、静かな闘志を秘めて。紡ぐ呪文は、水の精霊力に。放たれるは天を揺らす猛吹雪。アクババ達の多くに深手を負わせる。
「‥‥ンだ、ありゃあ?」
 配下を悪魔達を引き連れ、地上を歩いていたオティスは地上から空へ昇る凄まじい吹雪を見て、驚いた様子を見せる。だが、そのすぐ後に浮かべた笑顔は、まるで珍しい獲物を見つけた狩人のそれ。
「楽しい仕事になりそうじゃねぇか」
 まずは空の敵との攻防が続いた。オリガの魔法をもってしても、巨大なアクババ達はさすがに一撃で倒すには至らない。だが、空の魔物と戦えるのは、彼女だけでは無い。
「か弱き女性を護るのが私の使命。先へは進ませませんよ」
「燃え上がれ、炎の翼よ!」
 ディアルトが天馬の背で魔剣を振るい、沖田光(ea0029)は火の魔法力をその身に宿し、天を駆ける。アクババ達は彼らの攻撃を回避できず、一羽、また一羽と大地に墜ちていく。エルンストやシャリンが後方から雷光と陽光の魔法での支援もあり、冒険者達は完全にアクババの群れを圧倒した。
 その間に、地上の悪魔達はオリガ達の位置とは別の方向から湖に接近を始める。痛手を受けたアクババ達を戦力として切り捨てて、そのまま囮としたか。
 もっとも、冒険者達にとっては予測の範囲だったようだ。雷撃に身を焼かれた悪魔の叫びが森に木霊した。罠の仕掛け主はヴィクトリア。当人はイルコフスキーの結界の中で他の冒険者と共にアクババと対峙している。アイスコフィンの魔法は抵抗力の高いアクババ達には上手く効果を発揮しないことが多かったが、下準備のライトニングトラップは有効に働いたようだ。
 湖の側で待ち構えていた冒険者らは、一斉に声の方角へ集まる。
「これ以上、行かせません!」
 薄闇に淡く光る耳飾りと共に、閃くのはフォンの聖者の剣。翼持つ黒豹の悪魔、グリマルキンの牙へと立ち向かう。
「水のお姫様に手出しはさせないんだから!」
 アクアの鞭がクルードを捕えて、桜色の刃が切り裂いた。
「何故こんなことを‥‥。水の守護者を襲って、貴方達は何をしようというのですか!?」
 押し寄せる毛むくじゃらのグレムリン達を切り払い、声を上げるセシリア。その前に、あの悪魔が現れる。
「ククク‥‥知りてぇか?」
 道を開けるように、身を退く下級悪魔達。その先に、剣を携えた大男の姿。殺気に満ちたオティスの危険な雰囲気に、他の悪魔とは一線を画す力を感じて、セシリアは警戒を強める。
「貴方が、この悪魔達を率いる者ですか?」
「ああ」
 フっと、オティスの足が動いた。
(「速い!」)
 セシリアがそう思った時には、両者の剣は既に音を立てて交わっていた。重そうな剣を携えながら、実は何も持っていないかのような動きだ。
「受け止めたか! やるじゃねえかオンナぁ!」
「くっ‥‥」
 上空からその様子を見た光は、急下降して援護に入ろうとする。
「これ以上、好きにはさせません!」
「ちィッ‥‥インプども!」
「何っ!?」
 オティスの命令で、インプの群れがその身を壁にするように光の前に立ち塞がる。数に押されて突破できない。
 インプ達だけではない。数で冒険者を圧倒する悪魔達の群れをさすがに抑えきることが出来ず、一匹、また一匹と、悪魔達は冒険者の包囲を抜けて湖の上へと飛んでいく。
 状況は、冒険者達に不利に見えた。
「仲間を犠牲にするなんて‥‥!」
「ハッ、どうせ仮の肉体だ! 悪魔にとっては、この世界での死なんて、ほんの一時的なもんでしかネェんだよ!」
 フォンの呟きに、オティスは笑って答え、セシリアへの攻撃を続ける。
「なかなかの強さですね。この地に存在する悪魔の中には、あなたより強い者もいるの? 最強なのは、どこの誰?」
「最強の悪魔? 気になるか? そんなに気になるなら、冥土の土産に教えてやるよ! 俺達の王の名はアラストール!! 憤怒の化身、破壊と殺戮、復讐を司る大悪魔だ! それが復活した今、この地に俺達の恐れるものなんざ無ェ! あとは邪魔な人間どもや精霊どもを掃除するだけってわけだ!! ヒャハハハハッ!!!」
 これ以上に無いほど愉快そうに、声を上げる
「じゃあ、フィディエルも‥‥」
「オウよ! 俺様は未来を見る力もあってなァ! 近い未来、ここにいる精霊が俺達の妨げになる姿が見えた。だから、殺しに来たんだよッ!!」
 訊ねるアクアに、オティスが返す。
 その時‥‥。
「それだけ聞ければ、十分ですね」
 ――ギン!!
「なッ‥‥!?」
 防戦一方に見えていたセシリアの剣が、攻撃に転じた。
「私の剣が、本当に貴方に劣っているとでも思いましたか?」
 状況を変えたのは、それだけではない。
 突如、凄まじい咆哮が周囲に響いた。
「何だッ!!」
 湖の上、包囲を抜けたはずの悪魔達が動きを止める。それを貫いたのは、同時に放たれた複数の月の矢。続けて水面より姿を現したのは一人の美しい少女。そして、森の中よりリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)も姿を見せる。
『貴女の話、聞いて良かった』
「ありがとう。ここからは、私達に力を貸してくれる?」
『ええ。もちろん』
 リュシエンヌは密かに、テレパシーでフィディエルの説得にあたっていた。側には彼女を守るために戦う冒険者の姿。それに、調子づいて喋り過ぎのオティス。これほど敵味方の分かりやすい光景は無かった。
 水上で動きを止められた悪魔達を襲ったのは、リュシエンヌの魔法矢だけではない。
「はあっ!!」
 渾身の力を込めた衝撃波を放つのは、魔術師達の側で護衛についていた昴。それが意味するところはつまり‥‥。
「向こうは片付いた。残るは、お前達だけだ」
 エルンストがそう言うと、オティスの表情から笑みが消え、その瞳に浮かぶのは怒り。そして‥‥。
『人間風情が舐めやがっテ‥‥。俺ガ‥‥オレサマが、キサマラゴトキニ!!!』
 その身を大蛇に変えて、巨大な牙を冒険者達へと向けるオティス。
「神様‥‥おいら、がんばるから力を貸して。おいらに‥‥ううん。おいら達に、あいつに勝てる力を‥‥」
 白の神へと祈りを捧げて、イルコフスキーは仲間達へと、神より授けられた、その加護を分け与えた。

 戦いは、冒険者達の勝利で終わった。多少の苦戦もしたが、受けた傷もイルコフスキー達の治癒魔法で完治できる程度のもので済んでいる。さすがは歴戦の勇士達といったところか。
『‥‥地獄デマッテイルゾ、ボウケンシャドモ‥‥』
 その身の消え去る間際に、オティスの残した言葉である。地上における悪魔の肉体は仮初だと彼は言った。だとすれば、真なる彼の存在も、地獄の底にあるということだろう。
「初めまして。会えて光栄です。フィディエル」
 オリガから順に、冒険者達はフィディエルへ挨拶をする。
『助けてくれて、ありがとう』
「ねぇ、フィディエル、聞いてもいい?」
『‥‥何かしら?』
 礼を述べるフィディエルに、アクアは次のように訊ねた。
「ここにいること、デビルに知られちゃってるみたいだし、どこか他の場所に移ることってできないの? 例えば‥‥う〜ん‥‥え〜と‥‥」
『心配してくれてありがとう。けれど、私はここの守護者として存在しているの。他の場所に移ることは出来ないわ』
「でも、それじゃ‥‥」
『いいえ。ここの守護者を止めることはしないけれど、でも、一時もここを離れられないというわけでもないの。だから、貴方達の中で誰か、私と一つの契約を交わしては貰えないかしら』
「契約?」
 妖精と勝利の喜びをテーマに即席の振り付けで踊っていたシャリンが、興味深そうな反応を見せた。
『共にある、という契約。世界は、貴方達の見える世界だけでは無いの。その契約があれば、私はここにいながら異なる世界を通じて契約者の側に飛ぶことが出来る。私に何かあれば、すぐに契約者に助力を願うことも出来る』
「なるほど‥‥。で、誰と契約します?」
 ディアルトが訊ねると、フィディエルは次のように言った。
『そうね‥‥。湖から頻繁に離れるわけにもいかないし、出来れば私に頼らず何事も自分の力で成し遂げようと努力する人が良いわ。かと言って、周囲と協調することを良しとしない人も嫌。使いもしない余計な荷物をゴチャゴチャ持ち歩く人も嫌。だらしなさそうだし。それから‥‥』
「まだ続くのか?」
「もしかして、オティスよりおしゃべりなんじゃ‥‥」
「な‥‥何か想像してたのと違う‥‥」
 数人の冒険者から、げんなりした表情が見えた。
『‥‥そうね、貴女』
「え? え? 私‥?」
 皆の視線が、一斉にセシリアに向く。
『ええ。貴女と契約したいわ』
 その言葉に、セシリアは最初こそ戸惑ったものの、すぐに了承の返事をした。
「私で良ければ」
『決まりね』
 微笑んで、フィディエルはセシリアの頬に触れる。
『でも、覚えておいて。この契約は、私の意思一つで簡単に解消できる。貴女が必要もなく私の力を使おうとしたり、貴女の振る舞いが契約者にふさわしくないと思えば、私はすぐに貴女を見限るわ。けれど、貴女が世界のために正しくあるなら、私は全力で貴女に協力するわ』
「はい」
 その言葉に強い決意を込めて、セシリアは頷くのだった。