【黙示録】雷と牙の襲撃者
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月15日〜02月22日
リプレイ公開日:2009年03月04日
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●オープニング
地獄の門にてケルベロスが討たれ、冒険者達によるディーテ城砦攻略戦が始まろうとしていたその頃のこと。
チェルニゴフ公国の一端に姿を現し、瞬く間に大きな街とその周辺地域を支配下とした魔王アラストールの軍内部での出来事。
『あ〜あ〜、面白い、面白い』
言葉とは裏腹に、明らかに不満そうな様子で街を眺めるデビルがいた。胴だけは人間のそれに見えるが、鹿の頭と下半身。背には蝙蝠の羽。その隣に、象のような巨体の悪魔がいた。ゆっくりとした動きで、鹿頭のデビルの顔を上から覗きにきた。
『フュルフュール、なにかおこってる?』
『いや。全然、怒ってないぞ。心配してくれて感謝するぞ、ベヒモス』
またしても言葉とは反対に、フュルフュールと呼ばれた悪魔の顔は、明らかに怒りで歪んでいた。
『フュルフュール、いつもウソしかいわない。ベヒモスでもしってる。だから、すごくおこってる。なにをおこってる?』
訊ねるベヒモスに、フュルフュールは突然に雷の魔法を放った。
『イタイ』
そう言いながらも、ベヒモスは大きな怪我を負った様子は無い。その巨体のとおり、攻撃力や体力に秀でているのがこの悪魔の特徴だ。並の攻撃はカスリ傷にしかならない。
『俺は野蛮なことや暴力を振るうなんてことは大嫌いなんだ。人間を狩って楽しむなんて趣味は全く無い。のんびりしているのが大好きだ。どういうわけか、魔王様が人間どもの力なんぞを警戒して、慎重になられているのが大変に好都合だ。‥‥さてさて、ベヒモス。お前には俺の気持ちが分かるな? なあ?』
『う‥‥』
どう返せば良いのか、言葉に詰まるベヒモス。
『ああ。こうして話していると、何とか我慢できそうだ。なあ、ベヒモス。最低の食事にいこう。人間達を讃え、愛し、この両の手で魂ごと抱きしめてやるのさ!』
時は移り、キエフ冒険者ギルド。
先の冒険者達によるアロセール討伐の後、地獄よりの悪魔の侵攻は、その勢いを衰えさせたものと思われていた。だが、まだ終わってなどいなかった。
暗黒の森より突如出現した多数の悪魔がキエフに向かってくるとの報に街はざわめき、人々に動揺が走る。
幸いにして、敵がキエフに着くまでには今少しの時間がある。今なら、止められる。いや、止めなくてはならない。
国からの要請が届く。誰にか。
決まっている。悪に抗う勇気を持ち、闇を払う光を宿せし者達。
そう、冒険者に。
●リプレイ本文
薄雪積もる森の中。
静かな闇夜に小さな灯りが揺れる。
訪れる朝を待って。
「ふん、ふふ〜ん♪」
鼻歌交じりに、ふわふわと柔らかな手袋で雪像作りに興じる女性の姿があった。美しい金色の髪が、白く染まった世界で輝き、風に流れる。
「‥‥ハッ!? べ、別に遊んでるわけじゃないんだからね!!」
「え、いえ、あの‥‥僕は何も‥‥」
雪焼けしたか、もしくは照れたのか、頬を赤くしたシャリオラ・ハイアット(eb5076)に、近くで雪像作りを行っていたフォン・イエツェラー(eb7693)は急に声をかけられて困惑した。
「おかしいですね。こう、熱い何かを感じたのですが」
「えっと‥‥あれじゃないですか?」
サクラ・フリューゲル(eb8317)の指さす方向。
そこに、熱いモノがあった。
「ふふっ‥‥。鎧越しだけど、こうしていると、ちゃんと貴方の温もりが伝わってくるわ」
「そっか。リリーさえ側にいてくれたら、俺はそれだけで‥‥」
リリー・ストーム(ea9927)とセイル・ファースト(eb8642)。愛し合う二人は頬を寄せ合って焚き火の前で休息をとっていた。雪像作りの最中で、身体が冷えたのを温めているようだ。
「雪原の戦場で、決戦を前に寄り添う夫と妻。素敵な光景ですね」
「‥‥羨ましい限りだ」
恋物語に心躍らせる少女のような眼差しで二人の背を見つめるセシリア・ティレット(eb4721)の隣で、絶賛恋人募集中のエル・カルデア(eb8542)は寂しそうに背を向けていた。
「全く、人目も憚らずによくやる。せっかく作った雪像が解けたら、二人のせいだな」
「ハハハ。まあ、良いじゃないですか。今のうちですよ」
茶化すレイア・アローネ(eb8106)の横では、ルーフィン・ルクセンベール(eb5668)が、戦いの前だからこそ心の余裕も必要だと笑っていた。
そうこうしているうちに、偵察に出ていた春咲花音(ec2108)が戻ってくる。
「ただいま‥‥って、わあ〜っ! いっぱいる〜っ!!」
花音の目に映ったのは、皆が用意した多数の雪像。そして、冒険者達自身の姿をした、魔法の盾により生み出された分身達。
「そろそろ来ますか?」
「うん。準備の方は?」
「見ての通り。いつでもいけますよ」
花音の問いに、フォンが笑顔で応える。
さて、彼らのしていた雪遊びの意図は‥‥。
『いやはや、これは‥‥』
進む悪魔の大部隊。先頭を歩くは鹿頭の悪魔、フュルフュール。
『フュルフュール、どうした?』
傍らの犬が声を発して訊ねる。ベヒモスの変身。
『あれだがな‥‥』
言って、何もない明後日の方向を示すフュルフュール。勝手が分かっているベヒモスはその反対方向を見る。これで良く部隊の指揮が務めるものだという話だが。
『こんなところに、にんげん?』
霧がかった空間に、人影らしきものが幾つか。それに、何やら声がする。
『ああ。私達と逢えるなんて実に幸福な者達だな。きっと、私達を盛大に歓迎して祝ってくれるだろう。まったく、素晴らしい人間達だ。では‥‥クルード達よ』
――ザッ。
前に出てきたのは、耳まで裂けた大きな口の、鼠に似た醜い小悪魔。水の魔法を使い、霧の中でも視界に制限を受けない能力を持つ悪魔。それが、邪笑を浮かべて森を駆けた。まさに獲物に群がる鼠そのもの。そして、一匹のクルードが霧の中の人間に噛みついたその時‥‥。
――ゴゴオオオオッツ!!!
『なんだ、なんだ!?』
森の木々を薙ぎ倒して、どこからか現れた巨大な力の波がクルード達を襲う。突然の出来事にベヒモスは唖然としていた。
その間にも次の攻撃が来る。飛来する矢と魔法が重傷のクルード達に追い打ちをかけ、そこに森より姿を現したのは、白銀の戦乙女と竜鱗の剣士。雪に足を取られることなく、その身を宙に浮かせたリリーとセイル。さらに、レイアとサクラが続く。
「喰らえ!」
セイルの剣より放たれる衝撃波。弱っていた数匹のクルードを一太刀にて薙ぎ払う。
『全員、一か所に固まれ! 一点突破で奴らを迎え討つ!!』
フュルフュールの号令。悪魔達は一斉に散会し、四方八方より冒険者達の周囲を取り囲むように動いた。
「何故? 一点集中で来るのではないのですか?」
「おそらく、あの鹿頭の悪魔‥‥フュルフュールがこの部隊の指揮をとっているのでしょう。あれは嘘しか言わない悪魔。言葉に惑わされてはなりません」
悪魔達の動きが解せないという表情のサクラに、エルが己の知識より助言を行う。
「なら、このまま一気に‥‥!!」
リリーがクルード達を押しのけて、その真っ只中を突っ切る。魔力を秘めた鎧兜や指輪によって生み出される強固な守りは、並の攻撃を寄せ付けない。
『グリマルキンども!! 地上に残って、俺と一緒にあいつらから逃げるぞ!! 』
その声に応じ、空へ飛ぶ黒き豹の悪魔が十匹。
「分散は避けたいところでしたが‥‥」
嘘だろうが、本当にそのまま逃げられる可能性が無いわけでもない。仕方無く、セシリア、セイル、リリーら、ウィングシールドを持つ冒険者達も空へ上がる。
「何と言うか、いちいち紛らわしい悪魔ですね」
シャリオラが空へ飛んだフュルフュールへとブラックホーリーを放つ。しかし、周囲のグリマルキン達が同じ魔法を撃ち、これを相殺した。
「むっ。生意気です」
魔法に限った話ではないが、このグリマルキン達は空へ上がった冒険者達にとっても厄介な相手になった。
「ちいっ、こいつら!!」
距離を取りながら右往左往し、離れて魔法を使ってくるグリマルキンらにセイルは苛立つ。空を安定して飛びながら剣を振るえるフライは優秀な魔法だが、こと飛行速度という点においては、元から空を飛ぶ多くの生き物達に劣る。グリマルキンやフュルフュールも、フライで飛ぶ冒険者達よりずっと速く飛ぶことが可能であり、思うように攻撃の射程範囲に入ってこない。一方で、先にも見せつけたリリーらの防御力は圧倒的で、多少の攻撃魔法など通じない。サクラやエル達が対悪魔や対雷の防御魔法を使っていればなおのこと。故に、空中戦で両者はどちらも決め手にかけていた。
先に戦局が動いたのは森の中。
「それで隠れているつもりかっ!!」
レイアの振るう悪魔殺しの霊剣から生まれる衝撃派が、姿を消したままのアガチオン達を、薙ぎ払う。この悪魔は空を飛ばない。足元の雪が、冒険者達に味方した。
「大勢のデビルなんて、少し前までは考えられないことでしたけど‥‥」
寒さに凍える身体を気力で支えて、フォンは目の前のインプを切り払っていく。彼だけは防寒対策をしておらず、また身につけた慈愛の指輪が、悪魔とはいえ他者を攻撃するというフォンの行動を嫌い、行動に制約を与える。
(「しかし、何でこう自分の苦手な暗い場所で戦う依頼なんて受けたんでしょうね、私‥‥」)
心の中で自問自答するフォン。もしや、自分を痛めつけることに快感を覚える性癖でもあるのか。少し考えたが、首を振って忘れることにする。
「さあ、次はどなたですか?」
元が優れた剣士である彼は、本来の力を発揮できなくとも十分に戦力として力を振っていた。
「そんな攻撃!!」
サクラの張った聖なる結界が、黒き翼の悪鬼、エフィアルテスの爪を阻む。狙った相手に憑依し操るのがこの悪魔の得意とする戦い方で、多くの冒険者によっては厄介極まりないが、サクラのように優秀な神聖魔法の使い手の前では、ただの子鬼に過ぎない。
「まあ、並の悪魔ならどうということはありませんね」
シャリオラの放つ黒き光が、そのエフィアルテス達を次々に駆逐していく。グリマルキン達には防がれたが、多くの悪魔にとって神の力はやはり脅威だ。
『ニンゲンガ、スキカッテニ‥‥。ベヒモス、ユルサナイ』
「なっ‥‥!?」
サクラの探知魔法が、近づく巨大な悪魔の存在を感知した。
『ユルサナイ!!』
変身は解かれた。黒い霧を纏い、現れたるは山を連想させる巨大な悪魔。太い腕が一本の木をへし折る。その木が倒れる先は、サクラの張った結界。
「危ない!」
側にいたシャリオラの身体を掴んで、雪の大地を転がる。大きな音がして、冒険者達の注意も一斉にそちらに集まる。一見にして、他のデビルと一線を画す力の持ち主だと感じる。
「でも、後ろがお留守ね」
「それに大きな的だ」
魔法で背後に回り込んだ花音が聖なる杭を突きたて、そして彼女の攻撃に合わせてルーフィンが矢を放つ。
『ウルサイ!!』
「っ!?」
ルーフィンの矢は宿した魔力が弱いか、ベヒモスの身体を傷つけることなく弾かれた。花音の杭は手傷を負わせるに至ったが、適確な急所を突けず、深手を負わせるには至らない。反撃の牙で重傷を負い、足元の雪が赤く染まった。
「いけないっ!」
「不用意に近づいては駄目です!」
走って助けに向かおうとしたサクラをフォンは止めると、オーラパワーの詠唱に入る。寒さで意識の集中に邪魔が入る。時間を要しそうだが、並の魔法武器のままでは、あの悪魔には通じない。シャリオラの攻撃魔法も弾かれた。
ベヒモスの気を引いたのはレイア。
「さあ、どうしたウスノロ!! こっちへ来い!!」
『ウガアアッ!!』
――空。
こちらでは、今だ冒険者と悪魔達が睨み合いにも等しい追いかけっこを続けていた。
『面白い冒険者どもだ! もっと俺を楽しませろ!!』
「あれの反対の意味ってことは‥‥こっちの台詞だっ!!」
さすがに、いつまでもこの状況が続くのは避けたいセイル。下の森で戦う仲間達の戦況が見えないが、何やら騒がしく仲間の声がしたのは聞こえた。仮に、優勢であったとしても、その時は、この悪魔達は自分達から逃げてキエフへと向かうかもしれない。逃亡に徹されては追いつけない。
「このままにはしません」
セシリアが一枚のスクロールを広げた。リリーに守られつつ唱えるは、合成魔法ボォルトフロムザブルー。天空と大地を結ぶ稲妻がフュルフュールへと‥‥否。グリマルキン達のニュートラルマジックが打ち消す。
「くっ、駄目ですか!」
『さあ、もっと足掻け冒険者!!』
その時‥‥。
――ドッ!!!!
『ヌガアアッ!?』
大地を走る巨大な魔力が悪魔達を捉え、空を飛び回っていたグリマルキン達が深手を受け、一斉に空中で動きを鈍らせた。
「今です!」
術を発動させたのは、森の中にいたエル。激しく飛びまわる上空の敵味方になかなか狙いが定まらなかったのだが、ようやく敵だけを狙うことが出来た。膨大な魔力が悪魔達の戦線を一気に崩壊させる。
「はあああっ!!」
秘めていたオーラの力を全開にしたセイルがリリーと共に、フュルフュールへ駆ける。
『速い、速い!!』
「いいえ!」
距離をあけようとする悪魔の動きを、エルの魔法が封じ込める。ならばと、撃ち放たれるは牽制の雷光。
「そんなもの!」
リリーが受け、その脇をセイルが飛ぶ。
「うおおおおっ!!」
果たして、その剣は‥‥届く!!
『グォアアアアッツ!!!!』
叫びを上げ、雷の悪魔は空に消えたのだった。グリマルキン達が残っているが‥‥。
「はあっ!!」
セシリアの剣が、手負いの黒豹達を次々に狩っていく。統率を失い混乱した悪魔達は、もはや恐れるに足る相手では無かった。
「一匹たりとも、キエフへは行かせません!」
一方、森での戦いも決着の時が来ていた。
――ザンッ!!
「終わりだな」
『フュル‥‥ゴ‥‥メ‥‥』
レイアの霊剣。そして、サクラの聖剣が同時にベヒモスの巨体を切り裂いていた。高い防御と一撃の重さが厄介な悪魔だったが、動きは鈍く適切な攻撃さえ出来れば、百戦練磨の冒険者達の連携で崩せない相手ではない。残っていた周囲の悪魔達も、ルーフィンの矢が掃討している。深手を受けた花音も魔法の治癒を受けて、すぐに戦線に戻っていた。
『ニン、ゲン‥‥ナゼ、アガク? オマエ‥‥タチ、カテ‥‥ナイ‥‥マオウ‥‥サマ、ニハ』
「いいえ。世界を悪魔の自由になんてさせない。どんな敵が来たって、必ず私達が止めてみせる」
最後に、ベヒモスの胸を花音の聖杭が貫いて‥‥その巨体は、幻であったかに霧散した。
悪魔の軍を討った冒険者達は、キエフへの帰途につく。
帰り支度の際、一つ騒ぎがあった。エルの連れて来たアースソウルがいなくなっている。皆で探したが、見つからない。元々絆が浅く、エルの言うことを半分も聞かなかったという。知らぬうち、悪魔との戦いに巻き込まれたか。
「仕方ないですね。森のどこかで元気に暮らしてくれるなら‥‥」
依頼を達成した後だというのに、エルの表情は寂しげだった。