迷い込んだ野犬達
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月11日〜11月16日
リプレイ公開日:2004年11月20日
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●オープニング
その日、慌ててギルドに駆け込んできたのは、フリーウィルに通う学生達。
皆、年齢も様々で、男子も女子も混じっている。
「お願い! ワンちゃん達を助けて!」
「早くしないと、殺されちゃうかもしれないんだ!」
「お金なら払うから、急いで!」
受付の前に来るなり、彼らは一斉に係員の女性に詰め寄った。どうやら急を要する依頼らしい。
「皆、ちょっと落ち着いて。 ‥‥何があったかゆっくり話してくれる?」
係員の女性がそう言って学生達を落ち着かせると、彼らの中の一人が、順を追って事情を説明してくれた。
話はこうだ。
実は今、フリーウィルの敷地内に野犬の群れが迷い込んできているのだという。
ケンブリッジは『タウン・オブ・ツリー』と称される、多くの緑地に囲まれた町。
そのため、森で暮らしている動物達が学校の敷地内に入ってきてしまうのも、それほど珍しい事ではない。
野犬が一匹や二匹紛れ込んだくらいは大した問題ではないのだが、今回はかなり数が多いらしい。
そのため、フリーウィルの教師の何人かが集まって、生徒に怪我人が出る前に、野犬達を駆除しようという話が出始めた。
けれど、いくら野犬とはいえ、殺してしまうのは可哀想だと、学生達の何人かが教師に反対しているらしい。
そこで、野犬達を森に帰してやって欲しいとギルドに依頼しに来たとの事。
「随分と優しい子供達よね‥‥。まあ、そういうわけだから、あの子達のためにも、ワンちゃん達のためにも、しっかり頑張ってきて頂戴ね」
●リプレイ本文
彼らに罪は無いだろう。
少なくとも、今はまだ‥‥。
だが、罪を犯すかもしれない。
それだけで、彼らは命を奪われるかもしれない‥‥。
その行為は、許される事か否か‥‥。
例え、彼らが獣であったとしても‥‥。
「ほら、こっちだよ、急いで!」
依頼を受けた冒険者達は、学生達に引っ張られるような形でフリーウィルを訪れた。
案内された教室の窓から外を見ると、視界に入ったのは、フリーウィルの学生達が模擬キャンプ訓練などで使う野営地を模したグランド。
「うわっ! 本当だ。たくさんいる〜!」
大きな声を上げたのは、ファム・イーリー(ea5684)。
見れば、そこにはグランド内で好き勝手にしている七、八頭の野犬達。
それぞれに仲間同士でじゃれあったり、気持ち良さそうに草のベッドに寝転がったりしている。
「あぁ‥‥、何だか見てると癒される〜。確かに、こんな可愛い犬達を駆除するっていうのは可哀想だね。私、頑張るよ」
ぐっと拳を握りながら、学生達に微笑んで見せたのは永連零(ea7443)。
絶対に、この野犬達は自分が助けてみせる‥‥と、決意をあらたにしたようだ。
「ところで、少し確認したいのじゃが、教師達が駆除に乗り出すまでの時間はどれくらいあるのじゃ?」
十八歳という年齢にはやや不釣合いな独特の口調で、水琴亭花音(ea8311)は側にいた学生にそう訊ねた。
「はっきりとは分からないけど、日が沈む前には片付けるって言ってたよ」
今は丁度、昼を少しまわったくらいの時間帯。
長くみても、教師達が動き出すまでは、三、四時間というところだろう。
「‥‥となると、本当に時間がありませんね。できれば、皆さんにも少し手伝って貰いたいのですが、よろしいですか?」
今回の依頼を受けた者の中では、黒一点‥‥。いや、灰一点とでも言うべき老齢の男性、サイザル・レーン(ea7214)が子供達に協力を依頼したが、これは即座に却下されてしまう。
「ごめんなさい。僕達、先生から『あの野犬達には絶対に近づかないように』って言われてるんだ」
続けて別の生徒が言うには、
「私達も、先生に皆さんのお手伝いがしたいって言ったの。でも、『本物の冒険者なら、自分達の力だけで何とかするはずだ』って‥‥」
確かに、今回の野犬達の駆除を言い出した原因も、元はといえば学生達に危害が及ばないようにするためである。それなのに、わざわざ学生達を野犬の元に近づけては本末転倒。
それこそ、わざわざ冒険者達が雇われた意味がない。教師の言い分も、ごもっともである。
「捕まえて、動きを封じたのを運ぶ手伝いだけでもしてもらいたかったのじゃが‥‥。それはそれで危険もあるかのぅ‥‥。では、荷車と紐を貸してはもらえぬか?」
学生達自身の協力は得られなかったが、花音のこの要請はあっさり通り、すぐに生徒達がどこからか荷車を運んできてくれた。この荷車はフリーウィルの備品。ロープは生徒達が自前で用意してくれた。
「後は‥‥誰か、犬達の注意を引ける笛など持っていませんか?」
言ったのはサイザル。
これに対し、学生達はかなり疑問の表情。
「普通の笛なら持ってるけど、こんなの吹いたって、犬さん達反応してくれないと思うよ」
何人かが持ってきてくれたのは、木や竹をくりぬいて作られた、いたって標準的な横笛。
「それに、そういうのって、すごく訓練された犬相手じゃないと無理なんじゃないかなぁ‥‥?」
「あ、でも、凄腕の犬専門の調教師さんなら、出来るかもしれないよ。冒険者さん、もしかしてそういう人?」
期待を込めた眼差しでサイザルを見つめる学生達。
果たして、彼の返答は‥‥、
「‥‥すいません、やっぱりやめておきます」
どうやら学生達の疑問は、そのまま彼への駄目だしになってしまったようだ。
「さて、時間もないし、急がないとね‥‥」
そんなサイザルを尻目に、零は早速教室の外へ。
何はともあれ、いよいよ作戦開始だ。
数分後。
グランドの一角では、犬達を説得するためにファムがテレパシーでの会話を試みていた。
だが、しばらくして戻ってきたファムの表情は随分と複雑そうだった。
「どうだった?」
訊ねたのは零。
「うん‥‥あのね、あんまり上手く会話できなかったの。意志は伝わったと思うんだけど、何て言うか、こっちの言う事が通じなくて‥‥」
「どんなお話をしたの?」
「えっと‥‥あんまり難しいお話は通じなくて、最後には単純に『ここから出てって』って言ったんだけど、向こうに『嫌だ』って言われただけだったよ〜」
テレパシーで多少の意思疎通ができたとしても、相手は野犬。所詮は獣なのだ。まともに会話できなくて当然である。
それでなくても、人間と関わる事なく、自然の中を自分達の力だけで生き抜いてきた野犬達に、こちらの都合を理解してもらおうなんていうのは、いささか無茶な話である。
ちなみに、テレパシーで意志を伝えながら、つい癖で身振り手振りを加えて野犬達との会話を試みたのだが、これもやはり通じなかった事に、ファムはちょっとだけ落ち込んだりもした。
「では、やはりこれしかないのぅ‥‥」
花音がそう言いながら荷物の中から取り出したのは、保存食として使われる干し肉。
「う〜ん‥‥背に腹は変えられないっていうしね‥‥」
ちょっとだけ勿体無いかな‥‥と思いながら、零も荷物の中から餌として使えそうな物を用意した。
野犬達の近くに餌を撒いて数分。
最初は警戒していたものの、野犬達は徐々に餌のある場所に集まってきた。
「背に腹は変えられんのは、こいつらも同じか‥‥にしても、えらい食欲じゃのぅ‥‥」
花音の言葉通り、野犬達はばら撒かれた餌の側まで来て、それが食べられる物だと分かると、もの凄い早さでそれを食べ始めた。冒険者達の数日分の食料に相当する量の干し肉が、みるみる野犬達の口の中に消えていく。
野犬達が全て集まったのを確認すると、花音は何やら呪文の詠唱を始めた。
「よっぽどお腹が空いてたんだねぇ‥‥」
一方で、ファムは呆然と野犬達のその様子を眺めていた。
自分が大食漢ではないごく一般的なシフールだというのもあるが、あの早さであの量を平らげるのは無理そうだ。
彼女の心の中には、そういった驚きが半分と、そんなにお腹が減るほど何も食べられない生活を送っている野犬達への憐れみが半分。
「もしかしたら、森の中で彼らの食料になる物が少ないのかもしれませんね。それだと、森に帰しても、食料を探しに、またこちらに来てしまうかもしれません。どうしましょうか‥‥?」
サイザルは野犬達の様子から、今後に関する問題点に気づいた。
だが、気づいたからと言って、今の彼にそれを何とかするための策はない。
とりあえず、この事を後でケンブリッジの生徒会にでも報告しておくぐらいしかできないだろう。それで生徒会が何らかの対策を考えるか分からないのも問題ではあるが‥‥。
「それでも今は、森に帰してあげるしかないよ。私達にはどうしようもないもん‥‥」
サイザルの意見に共感を覚えながらも、今は自分がやらなくてはいけない事、自分にできる事だけを精一杯に頑張ろうと、零は自分に言い聞かせた。
そして、零達がそんな会話を交わしている間に、野犬達は花音の『春化の術』で次々に眠りに落ちていった‥‥。
「これで全部‥‥。ぎりぎり間に合ったかな?」
眠っている野犬を抱きかかえて、ゆっくりと荷台に乗せ、ロープでその足を縛り、胴体を固定すると、零は辺りを見回して、そう呟いた。
「では、行きましょうか。荷車は私の馬に引かせますね」
近くに繋いでおいた駿馬を、手綱を引いて誘導するサイザル。
「問題はどこへ運ぶかじゃが‥‥」
「それだけど、生徒さん達が言うには、このワンちゃん達、向こうの森の奥の方に連れていってあげたらどうかなって‥‥」
できるだけ遠くの森へ‥‥と考えて花音に、ファムがとある方向を指差しながらそう言った。
ファムは力仕事には向かなかったため、他の三人が犬達を荷台に乗せている間に、何かできる事はないかと、フリーウィルの生徒達のところに戻って、野犬達の処遇について、いい案がないか訊ねてきたようだ。
何でも、そこが野犬達のやって来た方向の森なのだという。別の森の方がいいのではないかとも提案したのだが、それでは他の魔物や動物達の生活を乱す原因にもなりかねない。
加えて言うなら、このグランドが犬達にとって住みやすい場所かと言えば疑問が残るし、たまたま迷いこんだだけのようだから、住み慣れた場所に帰してやれば、戻ってくる可能性はそれほど高くはないだろうとの結論に達したそうだ。
「さっきお話した時に聞いたんだけど、別に前に住んでたところが嫌になったわけじゃないみたいだよ。だから大丈夫だと思う」
と、付け足すファム。
やや疑問は残るものの、他に良い選択肢も無かったので、一同はそうする事にした。
数時間後。
冒険者達が森の奥へと野犬達を帰し、再びフリーウィルへと戻ってくると、そこにはまだ帰らずに残っている学生達の姿があった。
「皆、こんな時間まで残ってどうしたのじゃ?」
周囲がすっかり暗くなってしまっていたので、花音が訊ねると、
「だって、ちゃんと冒険者さん達が帰って来てくれるか心配だったんだもん」
「ワンちゃん達、ちゃんと森に帰れたの?」
この質問に答えたのは零。
「うん。もちろんだよ」
その言葉に安心したのか、生徒達は顔を見合わせると、冒険者達にこう言った。
『ありがとう』と。