【妖精王国】ジャックの放つ光の球

■ショートシナリオ&プロモート


担当:永倉敬一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2005年10月01日

●オープニング

「うぬう、あと少しというのに、小ざかしいハエどもが」
 ゴグマゴクの丘。ギャリー・ジャックは伝説の巨人ゴグマゴクの復活をさせるべく、中央の祭壇に向かって上ろうとしていた。
 ケンブリッジ側も、それを阻止しようと複数のチームを派遣する。彼らは扇状に広がり、ゆっくりとギャリー・ジャックとの距離を詰めていく。
「さて、どう迎え討つか‥‥」
 ギャリー・ジャックは考えた。祭壇前を部下で壁を作って対処するか、散開させて今のうちに時間を稼ぐか。
 流石に一度冒険者達に倒されているだけあって、彼自身も完全に守りきれるとは考えていない。ただ、あと少しだけ時間があれば、形勢は圧倒的に優位なものと変わる。
「ゆけ! 奴等を叩きのめしてやるのだ!」
 彼の取った選択は後者の方だった。彼の部下達は少数を残して冒険者達の方へ向かって行った。

「来たか」
 冒険者の一人がその様子を見て言った。彼のチームは、ギャリー・ジャックを守る手下を一匹でも多くおびき寄せる役目を担っていた。
 そして彼らの元にやってきた妖精、それは。
 ウィル・オ・ザ・ウィスプ。
 その青白く光る球体は、いかにも触られるのを嫌うかのようにパリパリと雷をまとわりつかせて、それでいて、触れるものなら触ってみろといわんばかりに、ふらふらと揺れながらこちらに迫ってくる。
「これは、随分と楽しめそうな相手だな」
 彼はそう言って、今回本隊になれなかった事に少し感謝した。

●今回の参加者

 ea3573 ヴァレリア・フェイスロッド(34歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea9454 鴻 刀渉(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0606 キッシュ・カーラネーミ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3412 ディアナ・シャンティーネ(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3579 カミーユ・ライトブリンガー(29歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「こんなものか」
 ネフィリム・フィルス(eb3503)は、等身大の人形をいくつか立てて満足げにパンパンと手に付いた埃を払う。
「これは何のおまじないでしょうか?」
 御門魔諭羅(eb1915)は不思議そうな表情でそれらを見つめる。他のメンバーも口には出さないが、皆疑問に感じていた。
「ああ、あたし達の役割は陽動だろ? それならこちらの方に多くの兵が集結しているように思わせれば、ジャックも戦力を割かねばならなくなる訳だ」
「ふむ、我々が引きつければ引きつける程、祭壇破壊チームの負担が減るということだな」
 ネフィリムの説明を聞いてヴァレリア・フェイスロッド(ea3573)は納得する。
 自分達の働き如何で本隊の成功度が左右する。決して軽くはないその役割の重要さを再認識する事で皆の表情が一層引き締まる。その中でディアナ・シャンティーネ(eb3412)が重い表情でうつむいていた。
「一度にたくさん呼び寄せて、果たして私たちが倒せるのでしょうか?」
 不安のあまり、思わず言葉が漏れる。彼女はハッとそれに気がつくと、ごめんなさい、と深々と頭を下げた。そんな彼女の肩に、カミーユ・ライトブリンガー(eb3579)がポンと手を乗せる。
「大丈夫ですよ。何も全部倒さなくても、祭壇が破壊されればきっと戦闘も終わります」
「は、はい」
 気休め程度にしかならないとはわかっているが、それでも何も言葉をかけないよりはいくらかましだろう。
 それっきり誰も言葉を発しないまま、しばらく経った頃。
「んー、せめて敵が美少年ならやる気も出たのにっ」
 突然キッシュ・カーラネーミ(eb0606)がキーっと愚痴りだす。
「僕はそんな事ないですよ、こんな魅力的な女性ばかり集まって、もうやる気満々です」
 対照的に鴻刀渉(ea9454)はニコニコと顔を緩ませる。
「何のやる気だい? もうちょっと真面目にやってくれんかね」
 二人の会話を聞いてリスティ・ニシムラ(eb0908)はキッと睨む。元々異性に不信感を抱いてる彼女にとって、鴻の言葉は特に癇に障ったらしい。それを見たキッシュは慌てて弁解する。
「あははっ、じょーだんじょーだん。緊張してばっかじゃ、余計な力入っちゃうでしょ? 重要な任務だからこそ、よ。‥‥あたしたちが握ってるのは、未来の欠片、なんだから。」
 それを聞いて皆コクリと頷く。先程の重い空気は消え、戦闘への心の準備は整った様だ。

「あちらさんのお出ましですねぇ」
 鴻が言い終えると同時に全員一斉に身構える。少し離れた先に光の球が二つ、ゆらゆらと揺れていた。
「ウィル・オ・ザ・ウィスプ! 確か金属や素手で触ると危険だったはず」
 博識なキッシュはとっさに名前と特徴を思い出す。
「やれやれ、厄介なこって」
 面倒くさそうにフレイルを構えるリスティ。彼女以外の前衛もウィル・オ・ザ・ウィスプに対する備えは万全で、皆手に触れる部分が非金属製の武器を構えていた。
「ムーンアローは使えませんね」
 ムーンアローを当てるには、対象を特定できる特徴が必要となる。しかし、二体の敵を見分けるような特徴は見当たらない。主力の武器が使えない魔諭羅は唇をかみ締める。
 ディアナは目を閉じ、ぶつぶつと作戦の成功を神に祈る。そして祈りが終わると、フウ、と大きく深呼吸をした。その時だ。
 彼女をかすめるように二本の光の筋がバリバリと音をたてて通り過ぎていく。
『うわぁぁぁっ!!』
 複数の悲鳴が同時に聞こえる。
 ディアナとヴァレリア以外のメンバーは二体から放たれたライトニングサンダーボルトを食らってしまった。キッシュに至っては丁度ラインのクロスする部分にいたために二つの電撃を受けてしまう。
「大丈夫か!?」
 ヴァレリアはカミーユに駆け寄る。電撃を受けた者の中では彼女が一番ダメージが大きい。
「何とか‥‥。あいつ、目に物を見せてくれる!」
 電撃を受けて逆上したのか、カミーユはディアナの治療を待たずに敵に回り込む形に移動。そしてすぐさま一本の矢を放つ。矢はウィル・オ・ザ・ウィスプに命中し、一瞬光の球が小さくなるが、すぐに元の大きさに戻って突き刺さった矢を焦がしていく。
「あはははは! その程度かい! あたしと殺りあおうなんざ100万年早いさ!」
 カミーユに続いてリスティも狂化する。彼女は自分を攻撃したウィスプ目掛けて一気に走り出す。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 それを見た鴻は慌てて後を追う。
「それならあたし達はあっちだ。三人で攻撃を集中させれば早い」
 ヴァレリアとディアナはコクリと頷き、もう一方のウィスプに向かって走って行く。
 二体のウィル・オ・ザ・ウィスプは、先程の電撃があまり効果が無かったと思ったのか、前進して接近戦をする構えを見せる。
「ありがたい!」
 リスティはそれを好機と見てスマッシュを仕掛ける。しかし、これは避けられる。
「大振りせずに確実に当てていきましょう」
 鴻は間に割って入るようにウィスプに突きをかますと、牽制するかのようにロングロッドを突きつけて間合いを取る。だが、ウィスプは意に介さず体当たりをしてくる。
 すかさずロッドで受ける鴻。一撃は受けることが出来たが次の攻撃に対しては体が動かなかった。
「うわぁぁぁっ!」
 ウイスプの体に流れる電気をモロに受けて思わず体がのけぞる鴻。ウイスプは少し間合いを取って次の攻撃に備える。その時、ウィスプに二本の矢が同時に突き刺さった。
「ふん! 意外としぶといわね」
 矢を放ったのはカミーユ。彼女は更に二本同時に矢を射る用意をする。
 もう一方の方でも、集中攻撃は行われていた。
 ウィスプはネフィリムとヴァレリアに交互に攻撃をするが、二人の構えた盾にことごとく阻まれる。
「よし、一気にたたみかける! 魔諭羅は向こうに魔法をかける準備を!」
 一見冷静に見えるヴァレリアだが、その言葉に根拠は無い。ただ、密かに燃える心が彼女を突き動かしていた。
 そして、一瞬の隙を見て木剣をウィスプ目掛けて叩きつける。そこに間髪入れずネフィリムの一撃が繰り出される。更に割って入るようにディアナが槍を突きつける。
「どうだ!?」
 三人の見事なまでの連携攻撃。ネフィリムは様子を伺うが、ウィスプはまだ動きを止めない。
「くっ、しぶとい!」
 思わず悪態をつくネフィリム。そんな彼女の脇をすり抜けるように水の塊がウィスプ目掛けて飛んでいく。キッシュの唱えたウォーターボムだ。水球をまともに食らったウィル・オ・ザ・ウィスプは、まるで水に溶けていくかのようにバチバチと音をたてて消滅していく。
「やった!」
「やりました!」
 ヴァレリアとディアナは喜びのあまり思わず武器を高く掲げる。
「光の欠片よ、鏃となりてウィル・オ・ザ・ウィスプを穿て!」
 片方のウィスプの消失を確認した魔諭羅は満を持してムーンアローを唱える。光の矢は迷うことなくもう一方のウィル・オ・ザ・ウィスプに命中した。
「片方は倒しましたか。これなら、何とかなりそうです!」
 かろうじてウィスプの攻撃を受け流している鴻の心に希望の光が見え始めた。一方、リスティはというと、
「くっ、先を越されたみたいね。あんたがもたもたしてるからよ! 鴻」
 と、共に奮戦してる鴻に責任を擦り付ける。もはや戦闘前と比べると全くの別人となっていた。
「とどめは頂いたわ!」
 茂みの中からカミーユは先程同様矢を二本同時に撃ち、命中させる。それでもウィスプは動きを止めずに鴻に体当たりを試みるが、もはや最初の機敏さは全く見られない。
「残念ね、とどめはあたしの物よ!」
 リスティはそんなウィスプに不敵な笑みを浮かべ、スマッシュを見舞う。流石にこれは命中し、フットボールの球のようにウィスプは飛んでいきながら消滅していった。
「よしっ!」
 リスティは小さくガッツポーズ。鴻とカミーユは負傷の痛みが出てきたのか、はぁー、とため息をつきながらその場に座り込む。
 
「結局二体しか倒せなかったか」
 ネフィリムは持ってきた人形をコンコンと叩きながら残念そうにつぶやく。
「ですが、これ以上はかなり危険でした」
 ディアナは負傷者の治療を順番にこなしていた。特にひどかったのは鴻とカミーユ。これ以上食らっていたら戦闘どころではなかっただろう。
「お役に立てなくて申し訳ありません。もっと、私に力があれば‥‥」
「気にする事ないわ、ほら、見て」
 申し訳なさそうに頭を下げる魔諭羅の背中にキッシュはそっと手を当てて、丘の方を指差す。
「あれは、ギャリー・ジャック?」
 かすかにだがギャリー・ジャックが冒険者達と戦っているような光景が見える。
「部下がいないように見えるな」
 ようやく落ち着きを取り戻したリスティ。いくら目を凝らして見てみてもジャックの部下の姿を見ることは出来ない。
「全部倒したか、あるいはこの辺をうろついているか。いずれにしても我々の作戦が成功していると考えていいだろうな」
 ヴァレリアの分析に、皆の表情が一瞬ほころぶ。間接的な関わりであるにしても、ケンブリッジの危機を救った事には変わりはない。
「あとは、祭壇の破壊がうまく行けばこの戦いも終わるわけですね」
「まあ、ジャックがあんなところにいるんだ。時間の問題だろう」
 祭壇はここからは見ることが出来ないが、鴻の言葉にネフィリムは腕組みしながら答える。 
「この程度で世界をどーこーできると思ってんなら、あんた御伽噺の読み過ぎよ」
 つぶやくキッシュの目に、誰かの光輝く剣に貫かれるギャリー・ジャックの姿が映っていた。