【妖精王国】番外編・風呂掃除
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:永倉敬一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月29日〜10月04日
リプレイ公開日:2005年10月07日
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●オープニング
お風呂!
お湯に浸かって体の疲れを癒すなんて行為が出来るのはイギリス中探してもここケンブリッジだけです!
入浴の習慣のあるジャパンの文献にもこんな会話があります。
『お帰りなさいませ、お風呂が沸いております』
『おお、戦のあとに風呂とは、こりゃなんとも最高の馳走じゃのう。早う支度せい』
これこそ、ジャパンの人にとってお風呂は食事代わりといっても過言じゃありません!
「‥‥ああ、そうだな。で、何が言いたいんだ?」
ケンブリッジ生徒会長のユリア・ブライトリーフは、生徒会員のミア・トンプソンの熱弁を一蹴するかのように冷たくあしらう。
それもそのはず。今までのは単なる前フリで、この後妙な企画が持ち出されるという展開がミアのいつもの手口となっていたからだ。それを見越してのユリアの冷たい反応。普通の人間ならここでかなりの重圧となるなずだが、ミアは全く気にかけるそぶりもない。
「妖精王国の救済に命を張って戦ってる人達がいるじゃないですか。で、ここに残った人の中にはきっと戦えないけど何か力になりたい! とか、あの時参加しておくべきだった! とか嘆いてる人が結構いると思うんですよ」
「さっきの話との接点がわからんが、まあそうだろうな」
ミアの説明はいつもまわりくどく、結論が後回しになる傾向がある。
「そこでですね、せめて戦って帰って来た人達に最高のご馳走をプレゼントさせるんですよ」
「風呂‥‥か?」
ユリアの問いにミアはコクリと頷く。
「つまり、戦いに出られなかった人達が風呂掃除をしたり、癒しの何か仕掛けを作ったりして、戦いから帰って来た人達のために一肌脱ぐんですよ」
ふむ、とユリアはしばらく考え込む。
今までのミアの提案といえば、ドラゴンパピィを飼ってドラゴンの生態を調べましょうとか、課外授業で山賊退治とか、無茶なものばかり。もちろん、いずれの提案もユリアによって全て却下されているが、それを思えば随分成長したもんだ。
「まあ、いいだろう。許可するよ」
「本当ですか!?」
ミアにとって初の快挙。彼女はお礼もそこそこに、早速ギルドの方に出て行った。
「本当なら、掃除当番にでも頼んでおけばいいんだが、まあ、ようやくまともな提案をした褒美だな」
ユリアは窓の外で勢いよく走っていくミアを見ながらつぶやいた。
●リプレイ本文
「よっと」
カッツェ・シャープネス(eb3425)が、浴槽の側面に取り付けられた排水溝の蓋を上げると、だばだばと音をたてて水が勢いよく排出されていく。
「西洋にもお風呂ってあるんだねぇ。そういえばぁ、昔ぃ、温泉いったときはよかったなぁ」
大宗院亞莉子(ea8484)は、ケンブリッジに来て結構日にちが経っているにもかかわらず、風呂の存在を知らなかった様子。彼女はジャパンの温泉での最愛の夫とのひと時を思い出してのろけていた。
腕には、何故か近くに置いてあったクマのぬいぐるみが抱きかかえられている。
「妖精王国を巡る依頼は、本当に激しいものばかりでした。お風呂をピッカピカにして皆さんの疲れを癒してあげたいですよ」
過去の思い出にふけているのがもう一人。ソフィア・ファーリーフ(ea3972)だ。但し、彼女の場合は最近の思い出。ソフィアは妖精王の救助やギャリー・ジャックの陽動と、今回の一連の騒動で活躍した者の一人だ。
「おまえ、本来なら癒してもらう立場だろう?」
カッツェは、本当なら癒してもらう筈の人がここにいるのが少々不思議だったが、当のソフィアはそんな事はお構い無しに、モップ片手に腕まくりをしていた。
「皆さん、錬金術の素晴らしさを体験できるよい機会です」
エリス・フェールディン(ea9520)が何か四角い物体を持ってくる。
「何だい? それ」
カッツェは、興味津々にそれを指で押してみたり、匂いをかいでみたりする。
「石鹸というものです。こうして泡立てれば頑固な汚れもたちどころに綺麗になりますよ」
エリスはそう言いながら、軽く水をつけて泡立てて見せる。
「へえ、先日園芸部で栽培してるハーブを採りに来たのはそのためだったんですか。お役に立てて何よりです」
「え、ええ、そうですね」
ソフィアは部活で栽培しているハーブが役に立ってうれしそうだが、何故かエリスは引きつった笑顔で返す。
(「まさか、丹精込めて育てたハーブを灰にして使ったなんて、とてもじゃないけど言えませんね」)
石鹸は動植物の油と木灰や海藻灰といった灰から作られる。今回エリスはアブラナの種から絞った油と、ハーブの木を燃やして出来た灰から作ったのだが、どちらも食糧という本来の用途から考えると、非常に勿体無い贅沢品だと言える。現にそれなりの出費を強いられた。
これもひとえに錬金術のすばらしさを伝えようとするエリスの思いがあってこそなのだが、流石にどうやって作ったかは言えなかった。
「あの〜」
「きゃっ!」
突然、クマのぬいぐるみが動いたので亞莉子は驚いてクマを手から離してしまう。クマは何とか着地に成功して、顔を上げる。
「皆さん気付いてなかったデスぅ? 今日一緒に掃除するエンデデスぅ」
ぬいぐるみの正体はエンデール・ハディハディ(eb0207)だった。亜莉子があまりにも自然に抱いていたために誰も気付かなかったようだ。
「もう、脅かさないでくれるぅ? それで、どうしたの?」
いまだ興奮冷めやらぬ亜莉子。そんな彼女の質問に、エンデールは気を取り直して答える。
「おフロって何デスぅ?」
『ええっ?』
じゃあ何しに来たんだ? と、皆は心の中で思いつつ、風呂の水が抜け切るまでの間にエンデールにお風呂についてのイロハをレクチャーする事になった。
「大体わかったデスぅ」
「よろしい、それでは水も抜けた事ですし、お掃除を始めましょう!」
エンデールがお風呂についての知識をそれなりに得たところで掃除の開始となった。ソフィアは高々とモップを掲げて意気揚々と水のない風呂の中へ踊りこんでいく。他の皆も生徒会が用意してくれた掃除道具を手にして後に続く。
「フンフンフフ〜ン♪」
石鹸の泡立っていく姿が新鮮なのか、ソフィアは鼻歌交じりに気持ちよくモップで床を磨いていく。
「高いところは任せてくれ! って言っても大した深さじゃないな」
カッツェは身長を生かして高いところまで掃除をするつもりだったが、ここにはそれほど身長を必要とする物はないので少々残念そうだ。だが壁面の掃除では、長い腕が結構役に立っていた。
それらを眺めて、エリスは満足そうに微笑む。
「これぞ、錬金術の賜物です。しかし、あなたは何をしてるんです?」
彼女の目には、雑巾を足に巻いてる亞莉子の姿があった。
「ふふ、見ててってカンジィ」
そう言って亞莉子は足に巻いた雑巾に石鹸を付けると、浴槽の床を器用に滑って行く。
「わ、面白そうデスぅ」
亞莉子があまりにも楽しげに滑っているのでエンデールも負けじと、ぬいぐるみに満遍なく石鹸をつけてスライディングをする。流石に亞莉子ほど滑らないが、それでもエンデールを楽しませる程度には滑ってくれる。
「ちょっと、折角作った石鹸で遊ばないでよ!」
なんとなく錬金術を馬鹿にされた気分で、エリスは不愉快になる。
「えー? こう見えてもぉ、真面目にやってるってカンジィ」
亞莉子はそう言って滑るのを一旦やめる。その時、
ゴンッ!
いい音がした。音のした方を見ると、エンデールが頭を押さえてうずくまっている。
「ふぇ〜ん、痛いデスぅ」
泣き喚くエンデール。どうやら調子に乗って滑ってるうちに頭をぶつけたようだ。
「何やってんだい、全く!」
カッツェは呆れ顔でエンデールをひょいと持ち上げて、浴槽の外に出す。
「しばらくそこでじっとしてな」
「ふぇ〜ん、ぐちゃぐちゃして気持ち悪いデスぅ」
カッツェに釘を刺され、大人しくいつもの服に着替えて、頭を冷やすエンデール。
そんなこんなで、一人リタイヤしたものの、何とか掃除は終了の目処がついた。
「皆さん、お疲れ様でーす!」
それを見計らったようなタイミングで生徒会員のミア・トンプソンが様子を見に来る。
「張り切ってますねー。今、丁度掃除が終わったところですよ」
「えへへ、私の考えた企画ですもの、絶対成功させますよ」
ソフィアに感心されて、ミアは照れくさそうに答える。
「あ、その脂身の塊みたいなの何ですか?」
ミアはエリスの持っている石鹸に興味を惹かれたようだが、物の例えの悪さにエリスは少々カチンと来たか、思わず握りこぶし。
「私が錬金術を用いて作ったんですがこれを使うと汚れが良く落ちるんですよ」
それでもめげずに説明するエリス。『錬金術』の部分が若干強調されてるのは言うまでもない。
ミアは石鹸を珍しそうにまじまじと見つめ、あることを思いつく。
「これって、何にでも使えるんですか? 例えば、人の体とか」
「多分使えますが、まさか‥‥」
まだ最後まで聞いてないが、エリスには大体の察しがついた。いや、エリス以外のメンバーもおおよその見当はついていた。
「つまりは、石鹸で人の体を洗ってやれと」
カッツェがそう尋ねると、ミアは笑顔で頷く。
「マジでぇ? 私ぃ、旦那がいるってカンジィ」
既婚者の亞莉子は夫以外の人の肌を洗うのは少々抵抗があった。そもそも、ケンブリッジの風呂には体を洗うという概念すらない。
「ピッカピカのお風呂に入って、体もピッカピカになるなんて素晴らしいと思いますよ」
そんな亞莉子とは逆にソフィアはずいぶんと乗り気だ。他の者も大した反対意見もないので、入浴者たちの体を洗う方向で決定した。
浴槽にミアの用意してくれたお湯が張られ、いつもの浴場の風景が姿を現す。
「ふふ、園芸部の本領発揮ですよ」
ソフィアは持ってきたハーブを湯の中に入れる。すると、湯気の中にほのかにアロマティックな香りが漂ってくる。
「いい匂いデスぅ」
いつの間にか現場復帰したエンデールは、再びクマのぬいぐるみに身を包みながら、ハーブの香りを堪能する。
「はいそこ、飲み物持って来ない!」
「なんで? 風呂上がりの一杯は最高じゃん! ビバ、酒!」
カッツェは屋台を作って飲み物を用意しようとしたが、生徒会員、ミアのチェックに引っかかる。
「こんなところで酒盛りしないで下さいよ。学食まで我慢我慢!」
変な企画をよく提案するミアだが、風紀を取り締まる身分だけあって、その辺は厳しい。しぶしぶカッツェは屋台を片付ける。
それがあって、ミアを含めた六人で企画の打ち合わせをして、いよいよ妖精王国で戦った人達を迎え入れる事となった。
一度に全員は入れないので、男女別々に数回に分けて入れることにした。
ここでもやはりエリスの石鹸は注目を浴びていた。
「へえ、どうやって作ったの?」
「えーっと、それは‥‥わ、わたくしがそう易々と作り方を教えると思ったら、大間違いですわ!」
異性に囲まれて狂化してしまうエリス。彼女はその後、ミアに強制退場させられてしまう。残念ながら、錬金術の素晴らしさが認められるのはまだまだ時間がかかりそうだ。
「お背中お拭きしましょうか?」
そう言って、ソフィアは一人の青年を捕まえて、浴槽脇で背中を流す。
異性の体を拭くのはエルフであるソフィアといえども初体験。勿論、背中を拭かれる方も初体験。その彼の背中をソフィアが拙い手つきで拭くものだから、彼の純情な心はヒートアップし、血液は否応無しに下半身へと流れ込んでいく。
当然、青年は前かがみ。
「どうしました? お腹が痛いんですか?」
「いやや、な、な、何でもないです」
心配して覗きこもうとするソフィアを制止ながら、青年はあとずさり。
「うわっ!」
ドボーン!
青年はそのまま浴槽に転がり落ちた。それらを見ていた他の男達は、俺も俺もと浴槽から出てくる。
「よっしゃ! 野郎ども、並びやがれ! 洗ってやるぞ!」
濡れた手ぬぐいをスパーンと鳴らしながらカッツェが男達の前に立ちはだかる。
その巨体を前に萎縮する男達。彼らは大人しく洗われていった。
「ねえ君、この後ヒマ? もしよかったら‥‥ぐう‥‥」
「生憎ぅ、夫以外にぃ、興味無いってカンジィ」
何だかんだ言って男の背中を流してる亞莉子は、言い寄ってくる男に容赦なく春花の術で眠らす。
「皆さん、寝ちゃったデスぅ」
エンデールの声にあたりを見回すと、すやすやと寝息を立てる男達の姿があった。亞莉子ははっと気付く。春花の術の効果範囲がこの浴場を覆えるぐらいだという事を。
「し、知らないってカンジィ」
亞莉子はそそくさと浴場を後にした。