貴族と盗賊

■ショートシナリオ&プロモート


担当:永倉敬一

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2005年10月19日

●オープニング

「父さん! 起きてよ! 大変なんだ!」
「どうした? チャーリー、朝っぱらから騒々しい」
 子供の呼ぶ声に、眠い目をこすりながらゴードンが扉を開けると、息子のチャーリーが壁の一点を指差してこちらを見ていた。
「まさか、そんな!」
 息子の指差してる方向を見てゴードンは一気に青ざめる。昨日までそこにあったはずの剣が無くなっていたのだから。
 ゴードンは無駄だとわかっていても、部屋中をくまなく探してみる。だが、やはりそれは無駄でしかなかった。
 愕然とするゴードン。
「わしの、大事な剣が‥‥。高かったんだぞ‥‥。最近、下級貴族を狙った賊が出るという噂を聞いてはいたが、まさかウチにも来るとは‥‥」
「父さん‥‥」
 その場にぺたりとしゃがみ込んで、ぶつぶつと呟く父に、チャーリーは何か気の利いた言葉でもかけてやりたい気分だったが、何も浮かばず、ただ父を見つめるだけしか出来なかった。
「そんな時は冒険者だよ! 父さん」
「トビー!」
 扉のところには、いつの間にかチャーリーの弟のトビーが立っていた。
「冒険者ならきっと盗賊を捕まえてくれるよ」
 トビーは大の冒険者好きで、いつかはケンブリッジに行く事を夢見る少年。そんな彼だから、ここぞとばかりに冒険者を雇おうとする。だが父の反応は冷たい。
「冗談言うな。今まで捕まってない盗賊を冒険者が捕まえられるわけないじゃないか」
「そうだぞトビー。大体何日雇うんだよ? 金だって馬鹿にならないぞ」
 当然のように父と兄は猛反対する。だが、トビーも簡単には諦めない。
「別に犯人の捜索までやってもらわなくても、ここにまた来るようにおびき出せばいいんだよ。『ゴードンさんたら、また懲りずに高価な剣を買ったそうだよ。使わないのにね』みたいな噂を立てればきっと来るよ」
「まあ確かに、あの盗まれた剣も買った時にいろんな人に自慢してたしなあ。ねえ父さん、このまま誰かが捕まえるのをただ待ってるのも悔しいよ。何かあいつらにギャフンと言わせてやりたいよ」
 トビーの考えを聞いて、突然チャーリーも考えを変える。内心は悔しさでいっぱいだったのだろう。
 ゴードンはううむ、としばらく考え込む。そして膝をポンと叩くと、
「よし、やろう。折角家宝にしようと思ってた剣を盗む輩をとっちめてやらんと、こっちの気がおさまらんわい」
「父さん!」
「父さん!」
ゴードンの決断に二人の息子も喜びの色を隠せない。
早速ゴードンは、妻と子供を連れて冒険者ギルドに足を運んだ。

●今回の参加者

 ea4449 ロイ・シュナイダー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb0836 琴吹 志乃(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1171 レザード・リグラス(30歳・♂・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3512 ケイン・コーシェス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

西中島 導仁(ea2741

●リプレイ本文

「金持ち貴族から盗むならまだしも、貧乏貴族から盗むなんて最低よね!」
 屋敷にて。依頼主のゴードンから一通りの説明を聞いたところで、イシュルーナ・エステルハージ(eb3483)はついつい心に思ったことがポロッと出てしまった。
 その言葉に一同、凍りつく。
「随分、はっきりと言ってくれるな。まあ、否定はせんがね。自ら下級貴族というぐらいだからな」
 そう言ってゴードンは肩すくめる。その言葉から怒ってる様には見えないが、それでも印象を悪くしたのは確かだ。
 辺りに流れる気まずい空気。それらを打破するかのように琴吹志乃(eb0836)が笑い出す。
「あはは! 取られたお宝の仕返しに盗賊呼び戻してとっちめようなんて、根性ある〜。ぜひお手伝いさせてもらうね♪」
「違うよ、おねーちゃん。仕返しじゃなくて取り返すんだよ。ね? 父さん」
 ゴードンの次男、トビーは本物の冒険者とご対面とあって少々興奮気味。何とか会話に入ろうと少々前傾姿勢になりながら父の側で立っていた。
「おっ、元気だね。ひょっとして冒険者に憧れてる子って君の事かな? あとでおねーさんが訓練してあげようか?」
 志乃がそう言うと、トビーは満面の笑みを浮かべてはしゃぎ出す。
「本当!? 絶対だよ! 約束だよ!」
 その光景を見てゴードンは、この先話の邪魔になると思ったのか、やれやれといった表情でトビーを部屋から出るよう促す。意外にもトビーは素直にそれを聞き入れ、志乃に親指を立てて部屋を後にした。
「‥‥大丈夫なのか‥‥? あんな約束をして‥‥」
「大丈夫だと思うよー。んじゃ、まず何しよっか?」
 ロイ・シュナイダー(ea4449)が物静かに尋ねると、志乃はあっけらかんとした表情で即答する。しかも何気にこの場を仕切ってる。
「まあ、まずはデマを流す事だろう。盗賊が来てくれないと話にならないしな」
 ケイン・コーシェス(eb3512)が冷静に事態を分析する。前日に友人から戦術指南を受けてた事もあって、作戦会議には一層力が入る。
「そうですね‥では近くの酒場でそれらしい会話をしてみましょうか?」
 情報操作にはレザード・リグラス(eb1171)とケイン、それにロイが行く事になった。志乃も行きたかったが、そうするとトビーも一緒に行きたがるだろうからやめておいた。
「私も、見ての通りコムスメですから、ここで待ってます」
 イシュルーナも遠慮がちにそう言って、トビーの所へ向かっていく。
「‥‥それでは‥‥頼んだ‥‥」
 ロイ達は二人に留守番を頼み、三人別々の道のりで酒場へ向かって行った。

「今度の依頼主のゴードンって奴がさ、大した貴族でもないくせに、分不相応にエライお宝の剣を手に入れたとかでさ。ちょっと前に別のもん盗まれたばかりだってのに、懲りもせず。冒険者雇えば何とかなると思ってやがる」
「‥そのおかげで、仕事にありつけるんでしたら‥‥多いに結構なんじゃないです?」
「しかし、これが、揃えた護衛といや、俺以外はまった使えない奴ばかりときたもんだ」
 酒場で三人が揃うなり、テーブルを囲んでケインがわざと人に聞こえるように話し始め、レザードもそれに合わせて相槌を打つ。
「‥‥それで‥‥お前はなぜここにいる‥‥?」
「あいつらと扱いが同じと思うと、なんだか馬鹿らしくなってきてよ。ちょっと休憩ー」
 ロイの問いかけに、ケインはだるそうに答える。彼の身振りがあまりに大げさなので、二人は少々不安にかられた。
 会話が一区切りしたところで、ふといつの間にか隣のテーブルに座っていた二人組みが席を立つ。そして三人を一瞥して店から出て行った。
「‥‥奴等か?」
「‥かもしれません。追いますか?」
「いや、今追っても無駄だろう。違うかもしれんからこのまま続けよう」
 気になる存在ではあるものの、確証が持てない今はどうする事も出来ない。三人は本来の目的である情報操作を徹底する事にした。

 ゴードンの屋敷の庭では、志乃がトビーを訓練と称して走らせていた。イシュルーナもそれに付き合う。
「この長い布は何なんですか?」
「あはっ、これを地面に付けないように走ってね」
 トビーとイシュルーナは言われたとおりに長い布をつけて、ずるずるひきずりながら走り回る。
「あら?」
 ふと、イシュルーナは何かに気付いて立ち止まると、その後ろを走っていたトビーが止まりきれずにぶつかってしまう。
「もー、急に止まらないでよー」
 怒るトビーにイシュルーナはごめんなさいと謝るが、視線は塀の方を向いたままだった。
 志乃も気になって同じ所を見てみるが、何も見あたらない。
「イシュルーナさん、どうしたの?」
「いえ、何か人影のようなものが‥‥。見間違えかも知れませんが」
「それってまさか‥‥?」
 思わずトビーはイシュルーナに抱きつく。
「どうやら、男性諸君はちゃんとやってくれたみたいだね」 
 志乃は不安というよりも、どこか楽しそうにつぶやいた。

「‥‥後は、どう迎え討つか‥ですね」
 夜、全員揃ったところでレザードはそう言いながら見回すと、ケインがごそごそと、儀礼用の短剣を取り出した。
「何も無いってのもなんだから、とりあえずこれを飾っておこうか」
 居間とはいえ、結構殺風景な部屋。何か置かないと普通の部屋と間違えられる事請け合いだった。
「では私は、簡単な罠を仕掛けておきます」
 イシュルーナは逃走経路を塞ぐ考えのようだ、志乃もそれに応じて罠を仕掛け始めるが、こちらは敵の侵入を察知するための物らしい。
「‥‥準備は整ったな‥‥」
 罠をはるのを手伝っていたロイは、作業が終わったのを見計らって、確認を取る。皆無言で頷き、それぞれ所定の位置についた。

 夜中。ゴードン一家はすっかり深い眠りについており、屋敷には虫の音が心地よい音色を奏でている。
 志乃とレザードが部屋の物陰で待機。ロイとケインは逃げ道になりそうな廊下で、イシュルーナは外で、それぞれ待機し、三段構えで捕まえる戦法に出た。
 ふと、レザードが急に聞き耳を立て始める。
「どうし‥‥」
「しっ!」
 志乃が声をかけようとすると、レザードはすぐにそれを制する。
「足音が‥二つ!」
 恐ろしいほどに聴覚の優れているレザードは、忍び足で来る足音を聞き逃さなかった。その直後に志乃の仕掛けた鳴子がカラカラと小さく音を立てる。
「先をこされたー」
 自分の罠がレザードに遅れをとったので志乃は残念そうにつぶやく。
 やがて静かに扉は開き、人影が二つ、中にゆっくりと入って来る。
「なんだこりゃ、見張りがいないでやんの」
「まあ、所詮は昼間にサボってたり、ガキと遊んでるような奴等だしな。ちょろいもんだぜ」
 ヒソヒソと話しながら短剣の所へ歩み寄っていく盗賊達。完全に油断しているようだ。
「そこまでです‥」
 盗賊達が入ってきた扉を塞ぐように、志乃とレザードが立ちはだかる。
「ちっ、罠か! 逃げるぞ!」
 毒づく盗賊。彼らはこの屋敷の構造を覚えていたらしく、真っ暗な中、一直線にもう一つの扉の方へ走っていく。
 すると、彼らの逃げる方向から光が差し込んでくる。
「おっと、どこへ行くつもりだい?」
 屋敷から借りたランタンを片手に、ケインがニヤニヤと笑みを浮かべながら道を塞ぐ。
 盗賊達は剣を構え、突破口を探る。不意に、ロイが剣も構えずに間合いを詰めていく。
「おい、何やってんだ? いくらなんでも無謀だぞ!」
「‥‥これでいい‥‥」
 ケインの制止も聞かずに、盗賊達の方に歩み寄っていくロイ。
「随分と舐められたもんだな!」
 一人がロイに斬りかかる。するとロイは両手で剣を挟みこみ、ひょいと捻って剣を奪ってしまった。
「何やってんだ!? あ、あれ?」
 もう一人の方が斬りかかろうとしたが体が動かない。
「‥何とか間に合いましたか」
 ロイとケインが道を塞いでる一瞬の隙を突いてレザードのシャドウバインディングが盗賊を縛り付けていた。
「さあ、観念したら?」
 志乃の降伏勧告。しかし、動ける方は諦めない。
「許せ!」
 もう一人をロイの方へ突き飛ばし、一気にケインの脇をすり抜けて部屋の外へ飛び出していく。
「何てやつだ!」
 ケインの口から思わず悪態が出る。レザードとケインは部屋を出て後を追う。
 廊下では、イシュルーナの罠に躓きながらも、何とか出口の扉に指しかかろうとする盗賊の姿があった。
「‥まずい!」
 レザードは時間を止めたい気分。だが現実は残酷で、扉はバン! と開かれ、盗賊は外へ逃げていこうとする。すると、
「ヒヒヒヒーン!」
 扉の外で馬が前足を高々と上げて、盗賊は危うく踏み潰されそうになる。盗賊は、その場にぺたりとしゃがみこんでしまった。
「驚いた、急に人が出てくるんですもの」
 馬に乗っていたのはイシュルーナ。いざという時のために馬に乗って待機していたのだが、突然出てきた盗賊に馬が驚いて、偶然にも威嚇した格好になったようだ。
「観念しな。泥棒」
 ケインはそう言って、剣を突き立てると。盗賊もさすがに諦めて肩を落とし、大人しくロープで縛られていった。
「‥何もそこまで‥」
 部屋に戻ってきたレザード達は、志乃によってボコボコにされたもう一人の盗賊がロープでぐるぐる巻きにされていた。
「あなたもこうなりたくなかったら、大人しく盗った物を返そうね〜」
「わ、わかった」
 不気味に微笑む志乃に、盗賊は目をそらしつつ答えた。

「おお、確かに盗られた剣だ! ありがとう!」
 ゴードンは久しぶりに手元に返って来た剣を手にご満悦だ。
「すごいや! 見たかったなー、泥棒を捕まえるところ」
 トビーも冒険者達の功績に目を輝かせる。
「へへー、トビー君も頑張ればいつかは私たちみたいになれるよ」
「うん! 僕絶対冒険者になるんだ!」
 この日の出来事は、将来トビーが冒険者になるきっかけとして、彼の口から何度も語られる事だろう。
 一行は、ゴードン一家に温かく見送られながら屋敷を後にした。