【部活対抗】料理大会
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:永倉敬一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月18日〜10月23日
リプレイ公開日:2005年10月29日
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●オープニング
部活! それは青春の証!
目標に向かって突き進み、ライバルと出会い、戦い、お互いの健闘を称え合う。
その時の汗の美しさといったら、どんな絶景も敵わないでしょう!
「ハロウィンの準備で忙しいから手短にしてくれないか?」
生徒会長のユリア・ブライトリーフの私室に入るなり、突然部活について熱弁するのは、生徒会員のミア・トンプソン。
「要するに部活対抗で料理大会をするんですよ」
「却下」
冷たくあしらうユリア。
「ちょ、ちょっと待ってください。説明を聞いてからでもいいでしょう?」
ミアは慌てて、部屋から出て行こうとするユリアの手をつかんで引き止める。
「ハロウィンを控えてるって言っただろう!」
「料理大会で部活を盛り上げればハロウィンも去年以上に盛り上がりますって!」
ユリアはミアを引き剥がそうとするが、ミアは頑張ってしつこく食い下がる。やがてユリアは諦めて椅子に腰掛けた。
「なんで料理大会なんだ?」
「シフールが参加しても公平に争える競技を考えた結果です。今回はより多くの人に参加してもらうために、部と名の付くものに属した人全員を対象にしてあります」
「それなら、部活対抗じゃなくても全員参加にすればいいだろう?」
ユリアの鋭い指摘。だが部活を盛り上げたいと思ってるミアにはどうしても部活対抗の部分は譲れない。
「大丈夫、考えてあります。部に所属してない人は帰宅部として参加させます」
「学生じゃない人だって参加したいはずだ」
少々意地悪にも思える意見にもミアは顔色一つ変えずに答える。
「学生じゃない人は、言い換えれば『外部』の人なので大丈夫です!」
「はあ‥‥」
ユリアは頭を抱えてため息をついた。この先どんな質問をしても、ミアはきっと強引な回答をしてくるだろう。そもそもユリアはこんな議論をしている暇などない。そう考えるとだんだん面倒になってきた。
「いいだろう、ただし、お前が責任を持ってやるんだ。私は関知しないからな」
「分かりました! でも審査員はやって下さいね」
ミアの粘り勝ちともいえる承認。素直に喜ぶミアには目もくれずユリアはさっさと部屋を立ち去って行った。
「さて、そうと決まればのんびりしてられませんね!」
ミアはいてもたってもいられず、走って部屋を飛び出した。
「料理と言っても何でもありにしたら審査がしにくいから、何か食材を決めないと‥‥」
ぶつぶつとつぶやきながらミアは廊下を走る。生徒会の人間としてはあるまじき行為だ。だが、今の彼女はそれを忘れるぐらいに考えにふけっていた。
「確か、キャメロットのとある酒場には‥‥」
丁度食材が決まったあたりで、彼女は階段の存在に気付いた。
「リンゴォォォォ!」
そう言いながら、ミアは階段を転げ落ちて行った。
●リプレイ本文
「さあ、いよいよ始まりました部活対抗料理大会! 今回はここ学生食堂の一角をお借りしての開催となります!」
昼の忙しさを終えてひと段落し、人もまばらな学生食堂に生徒会員のミア・トンプソンの声が響き渡る。居合わせた人は付き合い程度にパラパラと拍手をしてくれる。
「では、今回参加してくれた選手はこの三名! 園芸部代表ソフィア・ファーリーフ(ea3972)! 笛部代表カンタータ・ドレッドノート(ea9455)! そして最後に‥‥えーっと‥‥特別参加の教師代表エリス・フェールディン(ea9520)!」
エリスの所属に一瞬戸惑ったが、とっさの機転でミアは名前を呼び上げていく。名前を呼ばれた者は順に頭を下げ、各自持ち場に着いた。
「夕方のタイムリミットまでに仕上げてください。それでは、調理スタート!」
合図と共に三人はぎこちない手つきで調理を始める。全員料理経験は無いに等しいので、見ている者にとってはかなりスリリングは光景が展開されていた。
「カンタータさんは結構下ごしらえに手間をかけたようですね」
「はいー。料理経験のないボクが時間内にこれを完成できるとは思えないですよー」
カンタータのテーブルには事前に下ごしらえを済ませておいた材料が点在していた。
パイのような生地、そしてリンゴと蜂蜜を煮た物。おそらく彼女はプティングの様に仕上げるつもりだろう。
カンタータは厨房から型を借りてバターを塗る。
「おや? ここにバターを塗るとどうなるのでしょう?」
「よくわからないですが、これをやるみたいですよ」
さすがに料理経験がほとんどないだけに、事前にレシピを頭に入れておいても根拠とかは覚えきれない。ミアの質問に思わずカンタータは苦笑いをする。
型に生地を合わせ、そこにリンゴと蜂蜜を煮た物、さらにナッツを細かく砕いたものを加えて蒸し焼きに入る。
蒸し焼きには大体二時間半かかる。冷却の時間を考えると、間に合うかどうかといったところ。おそらく、カンタータにとって蒸し焼きの時間は気の遠くなるほど長く感じる事だろう。
「おや? こちらはリンゴをくりぬいてますねぇ、一体どうするのでしょう?」
「は、話かけないでください」
リンゴをくりぬいて器を作ろうとしているソフィア。だが実際にやった経験がないためにかなりの苦戦を強いられている模様。少しでも集中力を欠いたら失敗してしまいそうなだけに、ミアの質問に答える余裕は全く無かった。
「ふう」
何とか成功したようで、ホッと胸を撫で下ろす。
「あっ、リンゴで器を作ったんですね」
「はい、でも形については気にしない方向でお願いします」
中身がくりぬかれたリンゴはかなりいびつな容器となっている。容器の中には傍らに据えてあるヨーグルトが入るだろう。
続いてくりぬいた中身を鍋に移し、砂糖と一緒に煮始めた。
そんな中、エリスは一人だけ料理と言えなさそうな事をしていた。器具も錬金術で使うものばかり。
「あのー、料理ですよね?」
恐る恐る聞いてみるミア。エリスは何かの実験のようで、眉間にしわを寄せながら液体を凝視していた。
「え? ああ、料理ですよ。見ていてください、あなたも錬金術の素晴らしさが分かる事でしょう」
自信満々に答えるエリスだが、ミアには不安しか感じられなかった。ふと、テーブルを見ると、何か酒の様な物が目に付く。
「シードルは中々手に入らないんですから、大事に使ってくださいね」
シードルとはリンゴの果実酒の事。滅多に手に入らない代物だが、たまたま祝杯用に生徒会がとっておいた物を、エリスは必死の説得の末に相当の金額を払う事で特別に譲ってもらっていた。
そしてその貴重なシードルをエリスは躊躇することなく実験に使用していく。ミアにはそれがものすごく勿体無く感じた。
そんなミアの気持ちをよそに、エリスは作業を続けていく。
エリスはようやくリンゴに手をかけ芯をくりぬくと、そこにバターを入れて実験器具で器用にリンゴを焼いていく。
見た目は異様だが、焼きリンゴを作っているようだ。
「そろそろですかね?」
オーブンの前に張り付いて焼き加減に耳を傾けていたカンタータは、オーブンを開けて中のプディングを取り出す。
「どうですか? 上手く焼けてますか?」
ひょいとミアが覗き込んでくる。
見た目は少々焦げ目がついてていい感じに仕上がってるようにも見える。
「後は時間まで冷ましますよ」
そう言ってカンタータはプディングを冷ますのに適した場所を探して置いておいた。
「結局、カンタータさんは待ってるだけでしたね」
「それは考えてはいけませんよー」
鋭いところに目をつけるミアを、カンタータは笑って誤魔化した。
日も傾き始め、タイムリミットとなった。学生食堂内にはリンゴの香ばしい香りが漂っていて、夕食と勘違いした気の早い学生がちらほらとやってきて、大会を観戦していた。
厨房ではすでに夕食の準備が始められていて、リンゴの香りはすぐに他の匂いに変わる事だろう。
「そろそろかい?」
生徒会長のユリア・ブライトリーフが学生食堂に入ってくる。彼女はハロウィンの準備で忙しいのだが、その合間を縫って審査員をやってくれる手はずとなっていた。
辺りに緊張が走る。
「それでは審査を始めたいと思います。選手の皆さんは作品をテーブルに出してください」
三人は料理をユリアの座るテーブルへ運んでいく。
カンタータのプディングはそのままだと大きすぎるので小皿に切り分けての提出となる。緊張の面持ちでナイフを立てると、中からリンゴの香りが一気に広がっていく。どうやら上手く焼きあがっていたようだ。
「いい匂いだ。まずはこれから頂くとしよう」
香りに惹かれてユリアはまずカンタータのプディングを食べ始める。
「ど、どうですか?」
固唾を呑んで見守るカンタータ。
「少し表面がパリパリしているか? だが、その壁を越えるとリンゴの香りと甘味、つまりは嗅覚と味覚が一気に刺激されて心地よいハーモニーを奏でている。うん、料理経験がないにしてはよく出来ている」
刺激的なのか、まろやかなのかよくわからないが、とにかく気に入ってはもらえたらしい。
「ありがとうございます」
料理を食べてもらえる喜びを初めて知ったカンタータは満面の笑みを浮かべる。
続いてソフィアの料理に移る。リンゴをくりぬいて作った器が、ちょんと置いてあった。
「園芸部のリンゴを使ったらしいね。自らが育てた食材をどう使ったか楽しみだ」
「よくご存知ですね」
先程のカンタータの料理経験の有無といい、いつの間に調べたのかと感心するソフィア。やはり上に立つ人は違う、と思った。
「どうぞヘタをつまみとって、スプーンで食べてください」
言われるままにユリアはヘタを取る。するとリンゴのジャムをかけたヨーグルトが顔を覗かせた。それをスプーンですくって口に運ぶ。
「うん、お互いの酸味が邪魔することなく引き立てあってる。リンゴの味には個体差があるようだけど、中々の素材選びが出来ているみたいだ。だけど、ヨーグルトは学生食堂のものをそのまま使っているみたいだね。そこに一工夫あればよかったと思うよ」
「あぅ、厳しいお言葉です」
苦笑いを見せるソフィアだが、部で育てたリンゴをおいしそうに食すユリアの姿には、感慨深いものがある。ソフィアはこみ上げてくるものを抑えながら、完食するまでじっとユリアを見つめていた。
「さて、これはあそこにある器具で作ったみたいだが?」
「ええ、錬金術の素晴らしさを教えるいい機会ですので」
最後にエリスの料理の審査となった。さすがに普通でない作り方をしただけあって、ユリアは少し不安になる。だが当のエリスは自信満々の表情だ。
「見た目は普通の焼きリンゴだ。このソースみたいなものは‥‥例の?」
「はい、シードルです。アルコールは飛ばしてありますのでお酒がダメな人でも召し上がれますよ」
説明を聞いて少し安心したのか、ユリアはようやく決心がついて料理を口にする。
「うん、アルコールを飛ばしたといっても少し苦味が残るようだね。でもそれが上手く焼きリンゴの味と合わさってておいしいよ。こうなることを計算して作ったのかい?」
「勿論」
エリスはその後に心の中で、偶然ですよ、と付け加えた。実際のところ、彼女の実験のようなものは失敗に終わり、副産物としてアルコールの飛んだシードルが出来て、奇跡的にもプロ顔負けの味わいの焼きリンゴが完成してしまっていた。しかしエリスはそんな事を顔には出さない。
「どうすか、錬金術の素晴らしさがわかりましたか?」
してやったりといった表情のエリス。この後は錬金術の説明ばかりで料理の事はもはやそっちのけだった。
「さて、結果発表ー! 会長、お願いします」
審査を終え、いよいよ結果発表となった。ミアに案内され、ユリアは用意された踏み台の上に立つ。
「うん、カンタータは短い時間で本当によくやったと思うし、ソフィアは自家栽培の食材の味をよく引き出せていた。でもやはり未知の世界を見せてくれた、エリスの錬金術の焼きリンゴが一番だった」
優勝者の発表に、いつの間にか増えていた観客が拍手と歓声を上げる。
「それでは、優勝者の教師、エリスさんに賞金と、愛情の証のラブスプーンを差し上げます」
エリスは、ミアの差し出した賞品を高々と掲げる。
「次は負けませんよー」
「ええ、また再戦です」
「ふふ、錬金術の前に果たして勝つ事ができますか?」
三人は互いの検討を称えあい、握手を交わす。
「さて、皆さん。料理大会はこれで終わりですが、もうすぐハロウィンが開催されます。まだまだ盛り上がって行きましょう! 最後に、料理は?」
『愛情ー!!』
いつ打ち合わせしたのか分からないが、ミアの掛け声にその場にいた全員が答え、その後絶え間ない拍手が包み込んだ。
参加者三人にも関わらず、ミアは大会を開いてよかったと、心の底からそう思った。