貴族と山賊

■ショートシナリオ&プロモート


担当:永倉敬一

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月28日〜11月02日

リプレイ公開日:2005年11月07日

●オープニング

「山賊だって?」
「ああ、おかげで一山越えたところの村まで物を運ぶのが一苦労さ。まあ、強固な警備をつければまず襲われないがね。だが毎回となると費用がばかにならないし、全くどうしたものか‥‥」
 下級貴族のゴードンは、アフタヌーンティーを楽しもうと知り合いの商人を招いたが、商人はどうも楽しむどころではなさそうな雰囲気だった。
「ううむ、やはり退治してしまうのが一番だろうが、話を聞くに敵も中々考えてるようだな」
 まるで自分の事のように考えてしまうゴードン。別にそこまでするほどの付き合いではないのだが、彼の正義感と、人に感謝されたいという欲求が、彼の心を大きく動かしていた。
「そんな時こそ冒険者だよ!」
「トビー!」
 いつの間にかゴードンの息子、トビーが部屋の中にいた。
「冒険者ならきっと山賊を退治してくれるよ!」
 トビーは目を輝かせながら商人に熱弁する。だが、商人はやれやれ、と言った感じでため息をつく。
「坊や、私が護衛につけている人も冒険者なんだよ。でも退治してくれそうなのはいなかったなあ」
「そんな事ないよ! 冒険者はすごいんだ! この前も泥棒を捕まえてくれたんだよ!」
 商人の暗い表情を照らす太陽のように、トビーの熱弁は続く。勢いのあまり、この家の汚点になりそうな事まで話してしまったのはご愛嬌といったところか。
「トビー! 家に泥棒が入った事まで話すんじゃない!」
 慌ててトビーを黙らせるゴードン。商人もそれには苦笑いをする。
「だがしかし‥‥」
 ゴードンはすぐに気を取り直し、真剣な表情で商人に話しかける。
「冒険者に我が家の家宝を取り戻してもらったのは事実。どうだろう、今回の護衛はわしに雇わせてはもらえんだろうか?」
 商人はしばらく考え込んだ。もし、失敗したら大損となる事請け合いだ。だが、父子の真っ直ぐな瞳についに商人は折れた。
「そこまで言うんならお願いしよう」
 二人は固い握手を交わし、冒険者ギルドへ使いを出した。

●今回の参加者

 ea3104 アリスティド・ヌーベルリュンヌ(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4449 ロイ・シュナイダー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2621 フレイア・エヴィン(30歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2658 アルディナル・カーレス(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

飛葉 獅十郎(eb2008)/ エリエルレイン・アイーズ(eb3363

●リプレイ本文

「スカートの女の子がおらんじゃと? わ、わしの楽しみがぁ‥‥」
 今回の依頼に集まったメンバーを見てカメノフ・セーニン(eb3349)はうなだれる。
「以前、別の依頼でカメノフ殿がスカートめくりをする事を知っているからな、当然だ」
 フレイア・エヴィン(eb2621)は、カメノフに冷たい視線を送る。
 そこへアルディナル・カーレス(eb2658)が少し遅れてやってくる。
「お待たせしました。友人に頼んで色々探ってもらったら結構わかりましたよ」
 そう言って彼は道中のおおまかな地図を皆に見せる。
「この印のついてる部分が出現地点って事?」
 サイレント・ラストワード(eb3730)は真剣な眼差しで地図を見つめる。
「そう、大体この山の頂上から少し降りた辺りでよく襲われるみたいです。数は四人」
「四人か‥‥、こちらは六人。数では勝っているな」
 それを聞いたアリスティド・ヌーベルリュンヌ(ea3104)は戦力分析に入る。
「‥‥あまり過信するな‥‥、痛い目を見るぞ‥‥」
「わかっている、ただ相手を生け捕りにするのは殺すよりも難しいからな数で勝っているなら少しはやりやすくなるだろう」
 ロイ・シュナイダー(ea4449)に釘を刺され、アリスティドは慌てて弁解する。
「だが、今回はあまり強くても敵が襲ってこなくなるから駄目なんだろう? 上手く私達が弱いように見せないといけないな」
 今回の敵は弱そうな隊商のみ襲うだけあって、外見をどうするかが悩みのタネだった。フレイアの言葉に皆、それぞれ考え込む。
「ほっほっほ、わしはこのままで大丈夫じゃな。見ての通りじゃからな」
 そんな沈黙を吹き飛ばすようにカメノフは陽気に振舞う。さすがに誰も否定はしないが、それよりも肌寒さを感じてきた時期に、いまだに襟の大きく開いたシャツに半ズボンという格好の方が大丈夫だろうかという気にさせる。
 各自思い思いの格好に着替えた後、かくして一行は商人達の二台の荷馬車を囲うように陣取って出発した。

 山の頂上付近では、四人の男達が物陰に隠れて何やら相談していた。
「おい、来たぞ。荷馬車が二台と護衛が‥‥護衛なのか?」
「わからんが、側を歩いてるのは六人だな」
「ああ、ジジイとその付き添いが二人、何だか派手なマントつけてる奴が一人、旅人っぽい女が一人と、後は下っ端の商人が一人か‥‥何か愚痴ってるみたいだな」
「金が無いから人が雇えないとか言ってるな。そうなると他の奴等はただついてきてるだけって事か」
「戦力的に考えればジジイの付き添いの二人ぐらいか? って言っても一人は何か震えてるし、あれじゃあ護衛とは呼べないな」
「だな、派手なマントはどっかのボンボンだろ、旅人もたいして武器になる物は持ってなさそうだし。親分、どうします?」
「へっ、言うまでもねえ、こんなおいしい獲物を見逃したら山賊の名が廃るってもんよ。行くぞ! 先回りだ」
『へい!』

「‥‥うん?」
「どうした? アルディナル」
 山越えも頂上付近に差し掛かった辺りで、アルディナルが何かに気付いて足を止める。隣を歩いていたアリスティドも彼の見ている方向に目をやるが、特に変わった様子もない。
「いや、何か動いたような気がしたんだが‥‥」
「敵か!?」
 フレイアの声で全員緊張が走る。
 だがしばらく立ち止まって様子を伺ってみても、何も来る気配は無い。
「まさか、変装がばれてしまった?」
 サイレントの脳裏に一抹の不安がよぎる。荷物を無事届けるだけでも報酬はもらえるが、やはり山賊退治のために集められた身分としては、敵に逃げられるのはあまり気分のいいものではない。
「ほっほっほ、まだそうと決まったわけではないぞ」
 突如カメノフの明るい声が響き渡る。ちなみに今は防寒服を身に着けている。さすがにシャツに半ズボンは寒かったのだろう。
「‥‥どういうことだ‥‥?」
 問いただそうとするロイに、カメノフは聞こえる最小限の声で答える。
「わしのブレスセンサーで調べてみたんじゃがの、それらしいのがこの先に潜んでいるんじゃよ。奴らがどう出るかはわしらのアピール次第じゃな」
「さすがはご隠居!」
 既に演技に入ったのか、突如アルディナルはカメノフをご隠居呼ばわりし始める。
 他のメンバーも思い出したように、打ち合わせどおりの役回りで思い思いに行動を再開するが、やはり緊張の色は隠せない様だった。
 山を下って行くと、四人の男達が道を塞ぐように立っていた。
「よう、この山は俺たちの物だ。通行料として、そうだなあ、その荷馬車二台を中身ごと渡してもらおうか」
 男達はへらへら笑いながら荷馬車を囲んでいく。
「早く、荷馬車の中へ」
 フレイアは商人達が巻き添えを食わないように避難させる。サイレントもそれを手伝いながら、戦闘員の皆にフレイムエリベイションをかけていく。通常なら呼び止められそうな行為だが、台帳片手に回るサイレントの姿は山賊達には護衛をお願いして回る商人に見えたようだ。
「ごっごご、ご隠居、お願いしますよ」
 アルディナルはあたふたとカメノフの元に駆け寄る。山賊を油断させるための演技なのだが、慣れないせいかどうしてもオーバーアクションになってしまう。カメノフはアルディナルの肩をポンと叩き、
「ほっほっほ、アルさん、アリさん、やってしまいなさい!」
 と山賊達を指差した。これには山賊達から笑いが漏れる。
「はっはっー、こりゃ傑作だ! どっちも自分で戦う気が無いと来た。どうする? 逃げるんなら今のうちだぜぃ」
 嫌味たらしく叫ぶ山賊の一人。その男の前に、派手なマントを着たロイがずずいと寄ってくる。
「何だお前? やる気かコラ!」
 男はスルリと剣を抜いてロイの前に突きつける。他の仲間たちも一斉に剣を抜き始めた。
「‥‥来い」
 クイっと手招きするロイ、彼は武器を持たずに素手で戦うつもりらしい。
「っの野郎! なめやがって!」
 ロイの挑発とも言える行動に怒った男は、渾身の力を込めて斬りかかる。が、ロイは刀身を素手でキャッチすると、軽く捻って剣を奪ってしまった。
「‥‥降参しろ」
 分捕った武器を構え、降伏勧告するロイ。だが他の仲間が黙ってはいない。他の三人も目の前の敵目掛けて襲い掛かる。
「成る程、これなら手加減しても勝てる」
 アリスティドは槍で数回相手の攻撃を受け流したところで大体の敵の戦闘力を見切ったようだ。
「アリの分際で何を言ってやが‥‥ごふぅ!」
 先程のカメノフの言葉を思い出した山賊が、アリスティドをけなそうとした瞬間、彼の一撃を腹に食らってしまう。槍の柄の部分で攻撃したので死には至らないが、もがき苦しむには十分の一撃だった。
「どうなってやがる? こいつら強いじゃねえか!」
「今更わかったみたいですね」
 アルディナルは戦闘が始まった途端、素に戻って日本刀を手に余裕しゃくしゃくの動きを見せていた。
「スキあり!」
 敵が斬りかかるに合わせて、カウンター気味に力任せに切りつける。
「ぐわあぁぁぁ!!」
 よほど効いたのか、男はぱたりと倒れて動かなくなってしまった。
「また、つまらぬ者を斬ってしまった‥‥」
 刀を鞘にしまいながら哀愁漂う表情でつぶやくアルディナル。どうやらいまだにさっきまでのノリが抜け切れてないらしい。
 一人、また一人と降参していく中、フレイアは苦戦していた。持っている武器がクルスダガーのため、なかなか懐に入りこめないでいた。荷馬車の中では商人がフレイアのクルスソードを渡そうと構えているが、その機会も与えられない状態が続く。
「わしを忘れてないか?」
 カメノフの声と同時に、岩が山賊目掛けて飛んでいく。不意をつかれた山賊は避ける事が出来ずに食らってしまう。
「今だ!」
 フレイアは大胆にもダガーを地面に放り、素手で山賊の剣を叩き落とす。
「剣を頂戴!」
 すぐさま商人から剣を受け取りに行く。その間、カメノフは再びサイコキネシスで岩をぶつけて牽制に入る。
「さあ、降参しろ!」
 剣を受け取ったフレイアは、間髪入れずに剣を抜いて盗賊の目の前に突きつける。盗賊はガグリと膝をついて降参した。

「アルディナル、痛めつけるにも程があるぞ」
「一応、手加減したんですが、カウンターが綺麗に決まってしまいまして‥‥」
 アルディナルが倒した相手は、かなりのダメージを被ったようで、フレイアの治療を必要としていた。当然の事ながら山賊達は、ロープでぐるぐる巻きにされて荷馬車の空いてるところへ厳重に警戒されながら放り込まれていた。
「この人達どうしよう?」
「街の衛兵に引き渡せばいいんじゃないか?」
 サイレントとアリスティドのやり取りを聞いて、山賊達は怯えだす。
「そ、それだけはご勘弁してくだせえ」
「駄目よ、自業自得ね」
 一見優しそうに見えるサイレントだが、結構厳しい。にっこり微笑む彼女に山賊達は、ひいぃぃと悲鳴を上げる。
「ほっほっほ、これにて一件落着じゃな」
「いよっ、ご隠居さすがです!」
「‥‥まだやってたのか‥‥」
 すっかり意気投合した感のあるカメノフとアルディナルを見て、ロイはため息をついた。
 その後、荷物は無事村まで到着し、山賊達は街に戻るとすぐさま衛兵に引き渡された。そして街道の治安が元通りになった事で、街道は以前の往来を取り戻したという。