まごころを冒険者に乗せて
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:永倉敬一
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月25日〜07月30日
リプレイ公開日:2005年08月02日
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●オープニング
「依頼をお願いしたいのですが」
その声に受付係はあたりを見渡すが、それらしき人影はない。
「こっちこっち」
声はカウンターの下から聞こえた。覗いてみると、その体には所々に包帯が巻かれ、羽根もボロボロのシフールの少女が立っていた。
「あれ? あなたは確か、飛脚の‥‥」
「カーナです」
そう名乗る彼女は、シフール飛脚として度々書簡をギルドに配達していたため、受付係には顔見知りでもあった。
受付係は丁重に彼女をカウンターの上に運ぶ。
「どうしたんですか? その傷」
「配達中に鳥とぶつかりそうになって、それを避けたら木にぶつかってしまって」
カーナは照れくさそうに話す。
「スピードの出しすぎですよ。もうちょっと余裕をもって飛んだ方がいいんじゃないです?」
受付係の言葉に、ぶーっと頬を膨らませるカーナ。彼女はシフール飛脚の中でも結構な飛ばし屋で、そういった事故を度々起こしていた。
「で、依頼内容は何なんです?」
話がひと段落ついた所で本題に入る。
「私をこの手紙の宛先の家まで運んでほしいんです」
手紙に書かれた住所は、人の足で二日歩いた所の村にある家だった。
「他の飛脚に頼むとかはできないんですか?」
受付係の言葉にも一理ある。確かに、手紙を届けるだけならわざわざ冒険者を数人頼むほどでもない。
「これには理由があるんですよ」
カーナは、何やら思いつめた表情でいきさつを話し始めた。
彼女は一年前にも事故を起こしていた。そして、それを助けたのが今回の手紙の宛先に住んでいる人。
それが元でそこの家の家族と仲良くなり、彼女は度々通うようになっていた。
しかし最近その家の主人が仕事でしばらくの間、家を空けなければいけなくなり、そこで迎えたのが娘の十歳の誕生日だ。
早速、主人はカーナを指名して手紙と髪飾り、そしてカーナ自身の祝いの言葉を娘に送ろうとした。
「‥‥だから、今回は飛脚としてじゃなく、メッセンジャーとしてもその家にいかないといけないんです」
そう語る彼女の目から決心の固さは見て取れた。
「わかりました。シフールの徒歩の旅なんて相当危険ですもんね。募集は多めにしておきますか?」
「はい、金に糸目はつけませんよ。ふふ、大勢で『おめでとう』って言ったら、あの子びっくりするでしょうね」
受付係が依頼書を作成する傍らで、カーナはくすくすと笑いながら物思いにふけっていた。
●リプレイ本文
「皆さん、カーナさんを運びたいですか? 私は運びたいです」
出発前のこと。レナフィーナ・フリーア(ea8009)の言葉で、まずは依頼主であるカーナを誰が運ぶかの話し合いになった。
「私はモンチに乗ってもらいたいな」
クララ・ディスローション(ea3006)はそう言いながら、愛犬の背中をポンポン叩く。
「驢馬じゃないんですか?」
「うん!」
サイズ的に問題ないとはいえ、振り落とされやしないかとカーナは不安になるが、クララはお構い無しだ。
「私も運びたいです」
雰囲気はおっとりと、しかしはっきりとした口調でリア・サーシャ(eb2971)も名乗り出る。
「途中で私にも交代して欲しいな」
少々照れ混じりに言うのはシルヴィア・エインズワース(eb2479)。ナイトという身分だがその辺は年頃の女の子。人形のようなシフールを抱きかかえたい気持ちは抑えられない。
「おいらは休憩の時に遊ばせてもらえればそれでいいだ。道中は見張りに徹するだよ」
「私も後ろの方で護衛してます」
道中何が起こるか分からない。カーナの運搬もさる事ながら、護衛も重要な仕事の一つだという事をジーン・アウラ(ea7743)と郭無命(eb1274)は理解していた。
さて、全員がカーナに興味深々かといえば、そうでもない。
「はぁ、護衛か‥‥、めんどいなあ。でもボロボロで歩いてるシフール見かけて興味持ったボクが悪いね」
と、依頼を受けていながら文句を言うのは光城白夜(eb2766)。彼としては早く出発したいところだが、話し合いが中々まとまらないので少々イライラしている様子だ。
「あんまりだらだらしゃべってるとボク、置いてっちゃうよ?」
「それじゃあ依頼の意味がないですよ」
白夜は痺れを切らし始めるが、無命がなんとかそれをなだめる。
虞百花(ea9144)は、話し合いに参加せず、かといってイラついた様子もなく、ただ成り行きをだまって見ていた。
話し合いの結果、レナフィーナ、クララ、リア、シルヴィアの四人が交代で運ぶ事になり、ようやく出発となった。
「配達では飛ばし過ぎてよく事故るんだって? 私も昔はよく乗馬中に木の枝に額をぶつけ‥‥いや、今は関係ないな、うん」
カーナを運搬する人達は、皆それぞれの順番になると彼女を退屈させないように色々と話しかける。今はシルヴィアの番。
「やはり手紙を預かったからには、少しでも早くそれを待ってる人のもとへ届けたいじゃないですか。だから私はとにかく早く飛ぼうと決めてるんですよ」
事故る事に対してはあまり悪びれた様子も無く、己の信念を語るカーナ。
「無理はなさらずに、折角早く飛んでも結果として余計に時間をかけては意味がないのですから」
レナフィーナが横から割って入る。
「そうですよ、無茶をしてはいけませんよ。きっと、これからから会いに行く家族の方は、すごく心配すると思うから」
いても立ってもいられず、リアも会話に参加する。
「うーん、じゃあ今度から速度を抑えながらやってみます」
カーナは頭をポリポリ掻きながら答える。さすがに複数の人間に言われると、反省する気になったようだ。
途中、クララの愛犬のモンチの背中にカーナが乗ろうとして落ちるといったハプニングがあったものの、道中は概ね順調に進んで行く。
休憩になると、ジーンが待ってましたとばかりにカーナを抱き上げる。
「ねえ、カーナいろんな人と会うんだよね。いいなー友達いっぱいいるんだ、おいらとも友達になりたいだよ」
「いいよ。よろしくね、ジーン」
ジーンはカーナを降ろすと二人は握手を交わし、互いの友情を誓った。
夕方、一行は野営の支度に取り掛かる。
「夜の見張りはどうしましょう?」
食事が終わったところで無命が皆に尋ねる。そこに意外な人物が意見を述べる。
「接近戦‥は‥‥シルヴィア殿と‥光城殿‥‥三隊に‥分けるのは‥危険‥‥」
声の主は百花。突然の事で一同は目を丸くして驚く。
その後彼女はしばらく考え込むと、クララ、白夜、無命、リアの班と、レナフィーナ、ジーン、シルヴィア、百花の班に分ける事を提案した。
普段話さない彼女の意見とあってか、その言葉には何か重みがある。一同、返す言葉もなく班分けは決まる事となった。
そして夜も更け、クララ達の班が見張りをしている時。クララの側で大人しく寝ていたモンチが急に起き上がり、一点を見つめてウゥーっと唸る。
「どうしたの? モンチ」
クララも目を凝らして見てみると、暗闇の中にうっすらと草が不自然に揺れているのが分かる。
「敵か?」
あまりに平穏な道中に退屈していた白夜。不謹慎ながら敵襲の報に思わず心が弾む。彼は剣を抜いてゆっくりと歩いて行く。
「皆を起こしましょう」
「ええ」
無命とリアは寝ているメンバーを起こしにテントに向かう。その間も敵は距離をつめてくる。
「一、二‥‥八匹も!」
レナフィーナはテントから出ざまに状況を確認。野犬が八匹、既に半分囲まれてる状態になっていた。
「槍は間に合わない」
接近されてから槍を使おうと思っていたシルヴィア。しかし予想以上の敵の数を前に、驢馬までの数歩が恐ろしく遠く感じる。彼女は意を決して矢を構えた。
「こっちです、カーナさん」
無命はカーナを側まで呼び寄せると、ホーリーフィールドで結界を張る。
「これで少しの間は襲われても大丈夫です」
彼は呪文を唱え終えると、そう言って少しでもカーナの不安を取り除こうとする。
結果として今前に出られるのは白夜だけとなった。
その彼は一人だけ突出して前に出ていたため、結果として四匹の野犬を相手にする格好となっていた。残る四匹は、激しく吼えるモンチに対し、じりじりと間合いを詰めている。
白夜はまず保存食を取り出し、犬達の眼前に振りかざす。すると犬達は警戒しつつもそれを見つめる。しめた、と思い彼は保存食を犬達の後方に投げると、四匹はそれめがけて走る。
それを見た百花もそれにならってもう一つ保存食を放り投げる。
「単純だよね、全く」
保存食に群がる犬達を見て百夜はつぶやく。と、一匹の犬が思い出したように急に振り返って白夜に襲い掛かる。
「いて! 畜生!」
一瞬気が緩んだ隙に足を咬まれ、彼は逆上する。そしてその犬めがけて容赦なく斬りかかった。
「シャドゥボム‥‥いえ、ここは眠らせるべきですね」
リアはシャドゥボムを繰り出そうとしたが、敵の足止めを優先して保存食に群がる犬達にスリープで次々に眠らせていく。その後、眠った犬達は白夜の容赦ない攻撃を食らう羽目になる。
クララとその愛犬を囲む四匹は、更に間合いを詰めていた。すると突然茂みの方から一本の矢が飛び、犬に突き刺さる。矢を放ったのはジーン。密かに犬達を回り込むような位置に移動をしていた。
「キャウン!」
その犬はたまらず悲鳴を上げる。他の三匹もそれを見て一瞬引く。
「今だ!」
シルヴィアも残る三匹の方に矢を放ち、命中させると、クララもウインドスラッシュで追い討ちをかける。
総崩れとなった犬達はたまらず逃げて行く。
「追い払った‥‥?」
レナフィーナはいざとなったら、ライトニングアーマーをかけて犬に突っ込む覚悟だったがその必要がなくなり、ホッとする。
足を咬まれた白夜は百花のリカバーのおかげで全快できた。
その後は順調に歩いて行き、無事目的の家の前までたどり着く事ができた。
「誕生日の子とも友達になれるかな? カーナ」
「大丈夫、なれますよ」
ジーンはまだ見ぬ子供と仲良くなる事に胸を膨らます。
カーナはリアの手助けを借りて扉をノックしながら、
「シフール便でーす。ミーナちゃん、お父さんからですよー」
と、女の子が扉を開けるよう差し向ける。
「カーナちゃんだー」
家の中から女の子の声がする。おそらくミーナと呼ばれる子だろう。やがて扉はギイと音をたててゆっくりと開き、小さな女の子がひょこりと姿を現す。
「こんにちは、ミーナちゃん。お父さんからのメッセージですよ、せーの!」
『誕生日、おめでとうー!!』
白夜、百花は不参加だが、それでも七人によるおめでとうは、ミーナを驚かせるのには十分だ。彼女は満面の笑みで、
「ありがとう」
と返した。
さすがにカーナを助けてくれた家族とあって、皆を快く迎えてくれる。家は一気にパーティの準備であわただしくなった。
日も暮れ、ミーナの母親が即席で焼いてくれたケーキを囲んでのパーティが開かれる。
「あなたの誕生日が幸せな日であることを私は願う」
そう言い、リアはオカリナを吹き始め、クララも曲に合わせて踊り出す。
「おいらはエジプトって国から来たんだ。そこには砂漠とかあってね‥‥」
ジーンは早速友達になったミーナに自分の故郷の事を教える。ミーナも見知らぬ土地の話に興味深々だ。
レナフィーナは学問に関して話そうと思っていたが、ジーンの話にも興味を惹かれた為に完全に聞き手にまわってしまっている。
「あの子も満足そうだな。いやはや、いい友達を持ったもんだ」
シルヴィアはそう言ってカーナの方をじっと見る。勿論ここで言ういい友達とはカーナの事。彼女はえへへ、と照れ顔だ。
「異教を奉じる身ですが、誕生日を祝うのはいいものです」
無命も今日のパーティには満足そうだ。
さて、パーティーに参加していない二人はというと、
「やあ、いい月だ」
「‥‥」
白夜は星を眺め、百花はクララの犬を眺め、それぞれまったりと時間を過ごす。
空には今日という日を祝うかのように満天の星空が光輝いていた。