エビータと髪飾り
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:永倉敬一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月30日〜08月04日
リプレイ公開日:2005年08月06日
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●オープニング
ケンブリッジには、子供から大人まで様々な年齢の生徒が一同に集まり、基本的にどの授業でも一緒に受ける事ができる。
しかし、カリキュラムによっては年齢規定されたものもあり、その中でも五歳から十一歳までを扱っているものは『パピーフォーム』と呼ばれている。
「なんだよエビータ、その頭についてる物は。お前学校にこんなもの持ってきていいと思ってるのか?」
「あーん、返してよー」
マジカルシードのパピーフォームに属する教室で、男の子三人がエビータと呼ばれる女の子の髪飾りを取り上げて困らせている。年は皆十歳、まあ年齢相応のよくある風景だろう。
やがてエビータは一人ではどうにもならないと思い、友達の所へ駆け寄る。
「ドーラ、なんとかしてよ」
「またライアン達にいじめられてんの? もう、たまにはビシッと言ってやりなさいよ!」
おどおどした様子のエビータとは対照的に、男勝りな雰囲気を漂わせるドーラ。彼女は先程の三人組の元へスタスタと歩いていく。
「ちょっと、男が三人がかりで何いじめてるのよ!? 恥ずかしいと思わないの? さっさとそれを返してあげなさいよ!」
「う、うるせえ! お前には関係ないだろ、あっち行ってろよ!」
「そうだ、そうだ!」
ドーラの言葉に負けじと言い返すライアン達だが、明らかに押されている。
「関係ない訳ないでしょ!友達が困ってるのに。早く返しなさいよ! でないと‥‥」
そう言い、ドーラは手をポキポキ鳴らす動作をする。でも実際は鳴らない。
「なんだよ、こっちは三人だぜ。勝てると思ってるのかよ!」
一触即発の危機。
「ねえドーラ、勝てっこないよ。やめた方がいいよ」
エビータが後ろから恐る恐る止めに入るが、誰も聞いてはいない。そして‥‥。
「うわーん!!」
「う、うえぇーん」
しばらくして、ありったけの声で泣き叫んだのはドーラの方だった。エビータもつられて泣く。
「お、おい。行こうぜ」
「う、うん」
ライアン達は髪飾りを持ったまま、そそくさと逃げていった。
「あーん、返してー」
エビータは数歩だけ追いかけて、またドーラの元へ戻っていく。
「ひっく、どうしよう?」
ドーラが少し落ち着いたのを見計らって、容赦なく頼るエビータ。
「ひっく、あいつらめ。こうなったら奥の手よ」
泣きはしたものの、彼女の目には闘争心で満ち溢れていた。エビータも、奥の手の言葉に一瞬で顔がほころぶ。
「すごい、そんなのがあるんだ。で、何をするの?」
「先生に言って返してもらう」
ドーラの言葉にエビータは拍子抜けするが、当の本人は本気らしく、さっさと先生の所へ向かって行った。
先生に報告を終わらせ、ドーラ達は教室に引き返して行った。
「ふー、またあいつらか」
頭を抱える担任の教師。ライアン達とドーラ達のいざこざは今回に限った事ではない。
「大変ですね。そちらも」
別の教師も同情する。
「ただ取り返すだけなら簡単なんですよ。でもそれだと次も同じことを繰り替えすんで効果が無いんです。ケンカするほど仲がいいって言うじゃないですか。だからあの子達もやり方次第では仲良くなると思うんです」
担任の考えに感心する別の教師。彼はしばらくうーん、と考え込んだ後、ある事を思いついた。
「ケンブリッジギルドで募ってみてはどうでしょう? 少々お金がかかりますが、経験豊富な冒険者達ならひょっとすると上手くやってくれるかもしれません」
「そうか、それはやってみる価値がありますね」
担任の教師は早速、ギルドに足を運ぶ事にした。
●リプレイ本文
「どうだったかしら?」
「ダメでした‥‥」
ナッツ・マイヤード(eb3130)の問いに大宗院透(ea0050)が素っ気無く答える。
一行はまず男女に分かれて、それぞれの言い分を聞いたうえで説得を試みようとしたが、上手くいかなかったようだ。
「ライアン達に色々言ってみたけど、逆に怒らせちゃったね」
のほほんとジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は語る。怒らせた事にたいして気にも留めてない様子。
「エビータとドーラの方は、それとなくライアン達が仲良くしたがってるような事は言っておいたが、それだけではどうにもならんな」
と、言いながらイリーナ・リピンスキー(ea9740)は肩をすくめる。
「『いじめ』は自分が『みじめ』になるだけなんですが‥‥」
透はさらりと駄洒落を言うが、皆気にせずどうしたものかと考え込んでいる。
「あたしにいい考えがありまっす!」
そんな折、ファム・イーリー(ea5684)が元気よく手を上げながら皆の周りを飛び回る。
「‥‥こんな感じだけどどう?」
「正直、気が進まないな」
ファムの出した案に難色を示すイリーナ。どうやら神聖騎士の彼女にしてみれば、正攻法とはいえないらしい。だが他にいい手が浮かばなかったので結局それで行く事になった。
下校途中、ライアン達の前に一人の男が立ちはだかる。ベアータ・レジーネス(eb1422)だ。
「おや? 強い魔力を感じますね。君達の持ってるものは何ですか?」
突然現れた男の問いかけに戸惑う三人。
「そんなの持ってたか? 俺達」
ライアンは仲間の二人に確かめてみる。
「持ってるわけ無いじゃん」
ネロスは即答するが、カズミは少々考え込む。
「ひょっとして、髪飾りのこと?」
彼はライアンのポケットを指差しながら言う。
「ああ、確かにその辺から感じますよ」
しめたとばかりにライアンに近づくベアータ。勿論、髪飾りにそんな魔力は無いし、彼自身も何か感じ取ってるわけではない。
ライアンはポケットに手を入れて、中のものを取り出そうとするが、途中でやめる。
「これが、何だって言うんだよ?」
さすがに見知らぬ人に言われただけにかなり警戒している様子。
「気をつけなさい。最近噂になってる妖精たちは、そうしたものが大好きですから」
ベアータはそう言って、この場を立ち去っていく。
「何だったんだ?」
「さあ?」
突然の事に戸惑う彼ら。しかしよほど気になったのか、ベアータが見えなくなってから髪飾りを取り出し、三人でまじまじと見つめるようになった。
そんな事をしばらくやっていると、どこからとも無く歌が聞こえてくる。
「髪飾りぃ♪ 髪飾りぃ♪ 渡してくれたら好きなあの娘と仲良しさんにしてあげるぅ♪」
歌と共に現れたのはファム。呪歌を使って髪飾りを渡してもらうつもりらしい。
ライアン達は歌に酔いしれ、
「は、はい‥‥」
と、すんなり髪飾りをファムに渡す。彼女はそれを受け取ると、歌いながら何処かに飛んで行ってしまった。
「‥‥。ハッ、待てー! 髪飾りを返しやがれー!」
ファムの術が解けて気がついたライアン達は必死に追いかけるが、追いつけるはずも無くすぐに見失ってしまった。
「ハア、ハア‥‥。畜生! あれがさっき言ってた妖精ってやつか?」
悪態をつくライアン。とっさの事なのでシフールを妖精と見間違えてるようだ。
「どうする? ライアン」
「エビータに何て言おうか?」
元々返すつもりだった髪飾りを無くしてしまい、途方にくれる三人。
そこへ運悪くエビータとドーラに出くわす。
「ライアン、もういい加減返しなさいよ!」
「そうだよ、返してよー!」
即座にライアンに迫る二人。
「その、髪飾りなんだけどさ‥‥」
いつもの勢いはどこに行ったのやら、しどろもどろ答えるライアン。
「妖精に盗まれた!?」
ドーラが思わず驚きの声を上げる、エビータはその瞬間から既に泣きそうな表情。
「あーん、どうしてくれるのよー!」
彼女は泣きながらライアンの肩をポクポクと叩く。
「ご、ごめん」
謝るライアン。あたりにはものすごく気まずい空気が立ち込める。そこへ、ファムとベアータ以外の四人がぞろぞろとやってくる。
「だめだよライアン、女の子を泣かせちゃ」
追い討ちをかけるように言うジェシュファ。だがライアンはそんな彼の手を握り、
「頼む、お願いだ、助けてくれ!」
と、かなり無礼だが助けを求めてくる。
「どうしたの? よほど困った事があるみたいね」
ナッツの問いに、ライアン達はさっきの出来事を包み隠さず話す。
話が終わるとイリーナは何か思い出したようなそぶりを見せる。
「聞いたことがあるな、妖精とは違うかもしれないが、協調性を乱す者が大切にしていた品を、学校に集う英霊が戒めの為持ち去ったとか何とか」
「学校ですか‥‥。そういえばさっきこんなものを拾いましたよ」
イリーナの話に乗じて、透が『返して欲しかったら、夜に学校においで』と書かれた手紙を取り出す。
「それさっきファ‥‥むが」
「さっき空を飛んでる何かが落としたやつですわ」
隠し事という概念を持たないジェシュファ。危うくすべてを台無しにしそうになるところをナッツがとっさに口を押さえて機転を利かす。
「ふむ、という事は夜に学校に行って君達が仲のいいところを見せれば髪飾りは返ってくることになるな」
不自然ではあるが、イリーナはそれとなく五人に学校に行くようほのめかす。
「えー、夜に学校に行くのー?」
嫌そうな顔で言うのはエビータ。夜の学校が怖いようだ。
「逃げるのですか‥‥? 男のくせに‥‥」
透は言葉巧みにライアンの心をくすぐりに入る。すると、今まで青ざめていた彼の表情に血の気が舞い戻ってくる。
「そんな事一言も言ってないぞ! 見てろ、このライアン様がすぐに取り返して来てやるからな!」
ライアンの言葉に他の子供たちも士気が上がる。
「それならいいものを貸してやろう」
そう言い、イリーナはランタンと木剣をライアンに渡す。彼はそれを受け取ると、剣を天に掲げる。
「よし、行くぞ!」
ライアンの言葉に、子供たちはおおーっと掛け声をかけて学校の方に歩いて行った。
一方、学校ではファムとベアータが子供たちが来るのを今か今かと待ち構えていた。
「来た!」
五人の姿を確認すると、ファムはベアータの方に飛んでいく。ベアータはクマの着ぐるみを着て待機している。
「やっぱり帰ろうよー」
「もう、あなたの髪飾りなんでしょうが」
ドーラの腕をつかんだまま離さないエビータ。
「よし、今だ!」
ファムが火の玉の幻影を彼らの前に作り出す。
「で、出たぁー!」
エビータはとっさに逃げ出そうとするが、ドーラとライアンに取り押さえられる。
「だ、だから逃げたらダメだって」
そう言っているドーラだが、わずかに言葉が震えている。他の子達もなんとか平静を装っている感じだ。
「いい感じになってきましたね。それでは本命行きますか」
満を持してベアータがリトルフライでふわふわと宙を舞いつつ子供達の前に姿を現す。ライアンの持ってるランタンが丁度それを下から照らすような格好となり、非常に不気味な姿に子供達の目には映った。
『うわぁ!!』
今度は全員が揃って悲鳴を上げる。しかしそんな中で勇敢にも立ち向かおうとする子がいた。
「ライアン!」
ライアンは腰を抜かして動けなくなったエビータとドーラをかばうようにして立っていた。彼はベアータに木剣を突きつける。
「この野郎! ついに正体を現しやがったな!」
ライアンは木剣でぺちぺちとベアータの足を叩く。
「痛い、痛い!」
思わず声を上げてしまうベアータ。
「効いてる! すごいよライアン!」
エビータは今までいじめられていた事をすっかり忘れてライアンを応援する。
「ちょっとやばいかも。えいっ!」
痛そうにしてるベアータに危機感を感じ、ファムがライアンにスリープをかける。
「畜生‥‥むにゃ」
『ライアン!』
突然眠るライアンに他の四人が駆け寄る。
「よくも、ライアンを!」
ドーラがキッとベアータをにらむ。エビータ、ネロス、カズミも後に続く。
「もう、ライアンには指一本だって触らせないんだから」
「そうだ、さっさと帰れ!」
「さもないと、僕たちが相手だ!」
いつもケンカばかりの五人の心が一つになった瞬間だった。
「わあ、皆の仲が悪いと聞いてやってきたのに、にげろー」
かなり棒読みなセリフで逃げ出すベアータ。すかさず、ファムが髪飾りを子供達の前に投げて、彼らが追ってくるのを防いだ。
「ライアン! 目を開けてよー!」
エビータは泣きながら、眠っているライアンを起こす。
「むにゃ‥‥うん?」
『ライアンー!』
彼が目を覚ますと皆一斉に抱きつく。
「あれ、あいつは?」
「ライアンが追い払ってくれたんだよ。髪飾りもこのとおり。ありがとう、ライアン」
もうエビータにとってライアンは英雄になっていた。ライアン自身は彼女があまりにも自分を褒めてくれるので少々照れくさい。
「ゴメンな、いつもいじめてばかりで。これからは友達だぜ」
「うん!」
五人は代わる代わる握手を交わし、これからの友達付き合いを誓い合った。
一行は物陰に隠れて一部始終を眺めていた。
「うまくいったみたいですわね」
ナッツがベアータの治療をしながらホッと胸を撫で下ろす。
「でも、あの子達剣とか置いてっちゃったよ」
ジェシュファの言葉に皆が目をやると、彼らの立ち去った後に木剣とランタンがポツリと置かれていた。
「まあ、今回は見逃してやるか‥‥」
持ち主のイリーナは不機嫌そうに拾いに行った。