【妖精王国】救出部隊を救出せよ!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:永倉敬一
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月23日〜08月28日
リプレイ公開日:2005年09月01日
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●オープニング
妖精王国が焼き払いに遭う。
そんな情報を聞きつけて、ケンブリッジでは救出隊がいくつか派遣された。
「この辺なのか?」
「ああ、もうすぐだ」
彼ら一行もそのうちの一つ。王国の場所を知っているという男を頼りに東の森を歩いていた。
「さっきもここ通らなかったか?」
「おかしいな、このあたりだと思ったんだが‥‥」
案内係の男、どうやら道に迷ったようである。
「ちょっと待っててくれ」
彼はそう言うと、さっさと奥に行ってしまった。
「おい、待てよ! ‥‥全く、本当にあいつに任せて大丈夫なのかよ?」
冒険者の一人が毒づく。その言葉に他のメンバーは苦笑する。
「帰るか? なんか信用できねえ」
また別の一人がそういった時、少し離れたところから声がする。
「おい、こっちだ。早く来い!」
見ると案内係が手招きをしている。一行はやれやれと、彼に言われるままに歩いていった。すると、少々開けたところに案内される。
「‥‥何も無いじゃないか」
「妖精の王国だぜ、普通に入れるわけないだろ。その辺に固まって立っててくれ」
成る程、と皆は納得し、彼の指示に従う。しかし、一人があることに気付いた。
「お前は入らないのか?」
一塊になってる冒険者達に対し、案内係は少し離れた木の側で指示を出していた。彼は邪悪な笑みを浮かべる。
「いいんだよ、お前らだけ行って来いよ!」
その瞬間、彼の後ろから何人かの人間が現れ、ロープのようなものを引っ張る。すると冒険者達の足元からネットが現れて、彼らは宙吊りにされてしまった。
「何をする! 貴様ら!」
「お前、騎士訓練校の生徒だろ! こんな事して恥ずかしくないのか!?」
冒険者達は網の中で案内係を睨み付ける。
「生憎、お前らとは仕える主人が違うんでね。でも王国に連れて行くってのは本当だぜ? おい、適当に眠らせておけ!」
部下らしき者たちはコクリと頷き、木の棒で冒険者達を一斉に叩き始める。
「畜生! 覚えてろ!」
殴られながらも、吠え立てる冒険者の一人。案内係はそれを鼻で笑いつつ、来た道を引き返して行った。
所変わって、生徒会長の部屋。
「どうも引っかかる」
妖精王国の救助に何組か向かわせたケンブリッジの生徒会長、ユリア・ブライトリーフだが、何処か腑に落ちない点があるようだ。
「何故、人間が妖精王国の詳しい位置を知っているんだ?」
派遣したうちの一組に、妖精王国までの道を知っているという男が案内役を買って出ている。しかし、最近ケンブリッジに現れるようになったディナ・シーにでも聞かない限り、妖精王国の位置を人間が知る術などない。
「本人は一回あそこに捕まって、命からがら逃げ出してきたと言ってますが」
「それにしては、身なりが綺麗過ぎる。それに何故捕まったかの質問には答えを右往左往させていたしな」
生徒会員の言葉を真っ向から否定するユリア。彼女に言いようの無い不安が押し寄せる。
「もう一組派遣しよう。もし、派遣した生徒が捕まってしまったのなら助けに行かないと。出来ればあの男が何者なのか調べたいところだが、今は人命を優先させる」
ユリアはそう言って、先日派遣した者たちの安否を祈った。
●リプレイ本文
「オウ、妖精王国に行こうにも詳しい場所がわかりませェん」
コーダ・タンホイザー(ea8444)が、頭を抱えて叫ぶ。
「少しオーバーじゃないです?」
小声でロータス・セクアット(eb0584)が忠告する。
ここは学生食堂の中。一行は案内係の男がまた案内を買って出るのではないかと踏んで、彼をおびき出そうと一芝居打っていた。
「少しぐらいオーバーな方がいいんじゃない?」
フィノ・アンテニィ(eb0074)は、小声でそう言うと、今度はわざと人に聞こえるように大声で話す。
「そうねえ、四人っていうのも心もとないわ。誰か一緒に行く人いないかしら?」
会話はそこで中断。皆うーんと唸りつつ回りを見回す。
「あの人でしょうか?」
ダヌ・アリアンロッド(ea8548)の目線の先。そこには同じくこちらを見ている一人の男の姿があった。先程の会話が少々オーバーアクションだったせいか、少しためらった様子を見せていたが、ダヌと目が合った事でようやく声をかける気になったようだ。
「お前ら、妖精王国に行きたいのか?」
話しかけてきた男は、騎士訓練学校の制服を着ていた。制服自体、昨日今日着たばかりという風でもなく、その辺にいる普通の学生と全く変わらない外見だ。
本当に彼が捜し求めていた人なのか? 一同に不安がよぎる。だが、直接聞くわけにもいかない。
「お兄さん、王国の場所知ってる?」
フィノのストレートな質問に他の三人はギョッとする。だが男の方は顔色一つ変えない。
「ああ、この前捕まってたところを何とか抜け出せたんだ。奴らに仕返しをするためにも俺もまぜてくれないか?」
情報で得た男の手口とよく似た回答。
「どうでしょう?」
ロータスの言葉には、彼を加えるかどうかではなく、彼が犯人かどうかの意味が含まれている。三人はそれを理解したのか、確信したような表情で頷いた。
「丁度前衛が少なくて困ってたところでェす。ありがとォう、ありがとォう」
コーダは男の手をつかんで無理やり握手する。
「そうと決まればこれからの事を相談しないといけませんね。ここじゃちょっと賑やか過ぎますし、場所を変えましょう」
「俺は別にここで構わないが?」
男の言葉には一切耳を貸さず、ダヌは皆をつれて人気の無いところに移動する。
「まずは自己紹介といきましょう」
ダヌはコーダに目で合図を送ると、彼は頷いていきなり歌いだした。男は強引で、しかも急な展開に戸惑うばかりだ。
「さあ、自己紹介でェす〜。自分の〜事を〜、包み隠さず話しましょう〜。ではあなたから〜♪」
コーダは男に尋問をしようと、メロディーを唱える。程なく男は術にかかったのか、ゆっくりと話し始める。
「俺の名はリックだ」
「前にも〜同じ手口で〜人を騙しましたか〜?」
「やっていない」
歌詞の中に巧みに質問内容を盛り込み、洗いざらい話してもらおうと試みる。しかしメロディーの効果に強烈な強制力は無いために尋問は難航した。
更に悪い事にメロディーは聞いている者すべてに効果を及ぼす。当然他のメンバーも魔法にかかり、各自勝手に自己紹介してしまっている。
コーダは心の中でオウシットと叫びながら事前の打ち合わせにあった質問を一通り投げかけてみた。
結果として分かった事。
名前はリックで騎士訓練校の生徒。
仲間は四人らしいが、自分達の事かもしれないので今一信憑性に欠ける。
あとは妖精王国の位置や捕まった人間のいる場所がかろうじて特定できた。
そして歌は終わり、皆我に帰る。
「お前ら! 人の好意を疑って魔法を使うとは、最低な奴らだな! もういい勝手に行け!」
リックは自分の置かれた状況を即座に理解すると、吐き捨てるように言って駆け出した。
「待て!」
とっさにフィノとロータスが後を追う。ダヌはコアギュレイトで束縛しようと呪文を唱える。しかし、彼の足の方が速かった。詠唱が終わった頃には既に魔法の届かない位置まで走り去っていた。
しばらくしてリックを追った二人もとぼとぼと帰ってくる。
「すみません、取り逃がしてしまいました」
ロータスは申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
「あいつ、私たち以上にケンブリッジの土地勘持ってるわ」
対照的にフィノは実に悔しそうに話す。
「ドンマイでェす。王国の位置もわかりましたァ。私たちの任務はァ、人命救助でェす。気を取り直して行きましょォう!」
コーダは二人の方をぽんぽん叩きながら励ます。
一同は複雑な心境ながらも王国に向かう事にした。
さすがに口頭で聞いただけなので道は困難を極めたが、ロータスの土地勘も手伝って何とか妖精王国らしきものを見つけることが出来た。
鳥の巣のようなものがぶら下がっている木。それが何本も見える。
「捕まった人達はどこでしょうか?」
見張りがいないか確認しつつ、ダヌは人の入れそうな洞のある木を探す。
「確か、中心に巨大な木があるようなことを言ってましたでェす」
巨大な木。森林地帯であまり遠くが見えないとはいえ、そんなものはここから見ることは出来ない。王国の範囲が意外と広い事を実感する。
「どうやって行こうか?」
言いつつフィノは通れそうな道を探す。出来れば捕まった人を助けるまでは見つからずに済ませたいものだ。
「リックに逃げられなかったら、もう少し聞き出したかったんだけどなあ」
「いえ、そうとは言い切れませんよ」
口惜しそうに言うフィノの言葉に間髪要れずにダヌが答える。
「ギャリー・ジャックとの関係がまだ分かってない人の効果を期待するのは危険です。それに、いざ、戦闘となった時に足手まといになりそうですし」
「ですが、彼が襲ってこないとも限らないでしょう」
ロータスも話に加わる。リックを取り逃がしてしまった事に、まだ少々負い目を感じているようだ。そこへコーダが明るい口調で割って入る。
「大丈夫でェす。いざとなったらミーの歌で大人しくしてもらいやがりまァす」
自信満々に親指を立てる彼の姿に、一同クスリと笑う。メロディーの強制力の不安もあるが、今はそれより、彼のポジティブな考えに、三人は過去を蒸し返すような会話をしてたことが恥ずかしかった。
気を取り直して、一同は木の葉や枝を体に付けてカモフラージュしつつ、前に進む事を決心した。
幸いな事に全員金属鎧を持ってる者はいないので、足音は比較的簡単に消す事が出来た。
「あれっぽいでェす」
それは想像をはるかに超える大きさの木。巨木という言葉すら小さく感じるほどだ。
「妖精王国‥‥」
思わずダヌがつぶやく。イギリス王国の中にもう一つの『国』がここに存在する事を実感した。
「あれは見張りでしょうか?」
ロータスの目線の先にはディナ・シーが二匹、洞の前に立っていた。
「どうやら操られてるみたいね」
フィノはそう言うと、コーダに顔を向ける。
「打ち消せるかしら?」
「やってみましょォう」
コーダは頷いて、しばらく歌詞を考える。やがて考えがまとまると、妖精たちに向けて歌いだした。
「助けましょう、助けましょう〜。捕まった、可哀想な人達助けましょう♪」
突然の歌にディナ・シー達は、驚いて武器を構える。しかし、魔法の効果を受け、一匹がおもむろに鍵を開けようとする。それに気付いたもう一匹が、寸前のところで取り抑えられる。
「もうちょいでしたァのに」
悔しそうに指を鳴らすコーダ。その脇ではダヌが呪文を唱えていた。
「今度こそ!」
コアギュレイトを二匹に向けて飛ばす。二匹は今まで宙を浮いてたが、動けなくなり地面にぽとりと落ちる。それを見てダヌはホッと胸を撫で下ろす。
「やったわね」
フィノはロープを取り出すと、動けない二匹をさらに縛り付ける。そして鍵を奪うと、扉の方に走って念のためノックしてみる。
「助けに来たわ、誰かいる?」
彼女の言葉に中は賑やかな歓声に包まれるが、誰かのシーッという声にすぐに静まる。
「お願いだ、早く出してくれ。怪我人もいるんだ」
「待っててください、すぐに手当てします」
怪我人という言葉に、ロータスは気持ちが焦り始める。やがてガチャリという音と共に扉がゆっくりと開けられる。同時に中から人がぞろぞろと出てきて、自分達を助けてくれた人達に各自思い思いに感謝の言葉を述べる。
「お腹減ってない?」
フィノとロータスは彼らに保存食を分け与え、ロータスは更に洞の中に入って怪我人の手当てに取り掛かる。
「これは‥‥思ったよりもひどいですね。」
怪我人の内の一人が、傷口が化膿してかなり危険な状態になっていた。
「ここでの治療は限界があります。一刻も早く街に戻ってちゃんとした手当てを受ける必要がありますね」
ダヌも怪我の治療に当たるが、それでも全員は治療できそうに無かった。
「誰か、この人を連れて街に戻る人はいないでェすか?」
コーダは助けた人達を見回すが、返ってきた答えは意外なものだった。
「すまないが、君達が連れてってくれないか?」
「え? 私たちはこれから焼き払いを阻止しないと」
戸惑いながらも答えるフィノ。だが、彼らが考えを改めようとはしない。
「俺たちだって王国救援の為に来たんだ。頼む、このままおめおめと引き下がるような真似はしたくないんだ」
目的を果たせずに帰還する事がいかに無念か。それを考えると帰れとは言い出しづらい。
「わっかりましたァ。怪我人は責任もって街につれていきまァす」
コーダはそれを感じ取ったのか、明るい口調で彼らの思いに応える。
一行は即席の担架を作り、怪我人を乗せると、助けた人達に守られながら王国の出口まで歩いていく。
「それでは頑張って下さい」
ロータスと、ダヌはそう言って、それぞれの神に祈りを捧げる。
「ああ、そうそう。一つ教えておくよ」
突然、一人が何かを思い出したようだ。
「俺たちを嵌めやがった奴。どうもあいつはギャリー・ジャックの手下じゃないらしい」
えっ、と四人揃って声をあげる。
ギャリー・ジャック。今回の一連の事件の首謀者と言われる人物。その手下じゃないとすると、彼は一体何の為に動いているのだろうか?
そんな疑問が一行の頭を離れる事は無く、彼らは口数少なくケンブリッジに怪我人を連れて帰還した。