シフールが好き過ぎて
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:永倉敬一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月02日〜09月07日
リプレイ公開日:2005年09月10日
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●オープニング
「どいてどいてー!」
そこのけそこのけシフール便が通る。とりわけ、シフール飛脚の一人であるカーナの配達のときのスピードは、他の飛脚仲間の間でも群を抜いている。
だが、スピードと安全性は反比例するもので、カーナのそれも例外ではない。
「わわっ」
不意に横風に煽られ、バランスを崩したかと思えば、立て直しもままならないままに、木に突っ込んでいく。
「きゃー!」
何とか幹への激突は免れたものの、カーナはパキパキと枝を折りながら地面に墜落していった。
「いたたた‥‥。羽根は?」
以前こうしたことで羽根を痛めてしまい、しばらく飛べない時もあったため、真っ先に調べるカーナ。何度かさすったり動かしたりしてみたが、どうやら飛行には問題ないようだった。思わず安堵のため息がもれる。
「そうだ、手紙手紙」
一安心したところで、仕事中だという事を思い出し、手紙を入れたカバンを探す。その時だった。
「これをお探しでぷか?」
ふと上の方から声がしたかと思うと、目の前に手紙の入ったカバンを突きつけられる。それは紛れも無くカーナのもの。
「あ、それです。どうもありがっ!」
カバンを探してくれた人にお礼を言おうと顔を上げ、そこに見えたもの。それは、色白で太った中年の男が、痛々しいまでにメルヘンチックな衣装をまとい、背中に羽根のようなものをつけて立っていた。見るからに怪しい。
「あ、ありがとうございます」
なんとか平静を保ち、改めてお礼を言ったものの、あまり関わらない方がいいと、カーナは直感的に感じた。
「じゃあ、私は配達がありますので」
すぐさまカバンを奪うように返してもらい、立ち去ろうとする。
ズキン。
「痛!」
立ち上がって歩こうとした瞬間、右足に痛みを感じて倒れそうになる。
「どうしたでぷか? ひょっとして怪我をしてるんでぷか? それは大変でぷよ! 今すぐ治療をしてあげないと!」
男はかなり慌てた表情で、カーナをひょいと持ち上げると、あたふたと町の方へと走っていった。
カバンを置いて。
数日後。
冒険者ギルドの受付には数人のシフール飛脚がわいわいと群がっていた。
「最近カーナちゃんが飛脚ギルドに顔を出さないのよ」
「見てよ、これカーナのカバンだよ。町外れの木の下に落ちてたんだ」
「きっと誰かにさらわれたんだよ」
飛脚たちは受付係の人に、雨のように容赦なく言葉を降らす。一人ずつしゃべらせようとしても、他の者が口を挟んで結局もとの木阿弥になってしまう。そんなやり取りを繰り返しつつ、苦労の末に依頼書は完成する。
シフール飛脚たちはそれに満足すると、がやがやと話しながら帰っていった。受付係は、ふう、とため息をついて、一応書類に不備がないか目を通す。
「えーっと、シフール飛脚のカーナが誰かにさらわれた模様、っと」
ピタと動きが止まる。そして改めて内容を確認。
「‥‥さらわれた。ええーっ!?」
今になって驚く受付係。彼はカーナとは面識もあったので、全く他人事には思えない。こりゃ大変だとばかりにわたわたと依頼書を掲示板に貼りだした。
●リプレイ本文
「カーナさん誘拐事件はこの私、歌姫名捜査官と呼ばれるヴァージニア・レヴィンが必ずといてみせる!」
さあ今から捜索だというところに突然、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)が握りこぶしで熱く語り出す。
「それは初耳です。どういう人に呼ばれてるんですか?」
興味津々にジークリンデ・ケリン(eb3225)が聞くと、
「え? 私だけど‥‥」
という答えが返ってきた。
一同、ジト目。
「そのうちに広まる予定なの!」
腕をブンブン振りながら必死に弁解するヴァージニア。だが他のメンバーはそれを無視するかのように本題に入っていた。
「とりあえず、カーナさんの特徴とか知らないと捜査できないですよね。誰か面識のある人がいれば話が早いんですが」
そう言いながらベナウィ・クラートゥ(eb2238)が全員を見回す。
「あ、私会った事ありますよ」
それに答えたのはシルヴィア・エインズワース(eb2479)だ。彼女は以前カーナの依頼した仕事を受けていて、それなりに顔を覚えていた。
「じゃあ、カーナさんの特徴をおいらに教えてよ。簡単なのなら似顔絵描けるよ」
絵心のあるチップ・エイオータ(ea0061)は、筆記用具と魔法用スクロールを取り出して似顔絵を作ろうと試みる。
「ちょっと待ってください。それなら飛脚仲間の人達の話を聞きながらの方が情報収集も出来ていいと思います」
「ジークリンデさん賢いですね。そうと決まったら早速飛脚ギルドに行きましょう」
ベナウィはポム、と手を打つと、皆を連れてシフール飛脚ギルドに向かおうとする。その後ろではヴァージニアが弁解を続けていた。
「ちょっと、聞いてるのー?」
飛脚ギルドは配達員がほとんど出払ってしまっているため、中は閑散としていた。受付の人に事情を説明すると、丁度次の配達の準備をしていたシフールを連れてきてくれる。
「おいら、似顔絵描くから特徴を教えてよ」
そう言ってチップはさっき同様、筆記用具と魔法用スクロールを取り出す。すると受付の人がギョッと驚いて、
「そんな高そうな紙を使わなくても、ウチで使ってる羊皮紙をあげますよ。カーナを探してくれるんでしたら必要経費ですし」
と言って、わたわたと紙を取りに行く。確かに、魔法用スクロールは似顔絵を描くには高すぎる紙だ。
チップはシルヴィアを含め、カーナと面識のある人からの情報をまとめてサラサラと似顔絵を描いていく。
「出来た。こんな感じ?」
「そうですね‥‥。確か、そんな感じだったような気がします」
絵心があるとはいえ、少々かじった程度。曖昧な返事をするシルヴィアを見る限りではあまり期待できなさそう。
それでも会話からカーナの特徴を知る事が出来たので良しとする。一行は、カーナのカバン借り、それを拾ったという場所に向かった。
「さあ、私の出番ね」
ヴァージニアはここぞとばかりにパーストを唱える。ギルドの人達の話から、失踪した時間の大まかな予想を立ててあるため、三回目でそれらしい場面に出くわす事が出来た。
そこで彼女の見たもの。
木の側に墜落するシフール。
そこに近寄るシフールっぽい格好をしたおっさん。
彼はカバンを拾ってあげて、それを渡そうとする。
突如何かに気付き、シフールを抱きかかえると、カバンを置いてそのまま走り去っていく。
シフールっぽい格好のおっさん。
「えーっと‥‥」
しばし頭を抱えて考え込むヴァージニア。見なきゃよかったという後悔も少し感じた。
「どうしました? 何か見えたんです?」
ジークリンデが心配そうに覗き込む。ヴァージニアは意を決して見えた物を話し始める。
「シフールの格好をした人が犯人よ! そう、丁度こんな感じ」
そう言って、ベナウィを指差す。彼には犬耳と尻尾がついていた。
「えっ、俺みたいな格好ですか? それぜひ見てみたいですよ」
期待に胸を膨らますベナウィ。そんな彼を見て、きっと本物を見たらショックだろうなあと思いながらヴァージニアはため息をついた。
「その犯人もカバンを手にしたんなら匂いがついてるかな?」
チップは犬にカバンの匂いを嗅がせて、犯人を追跡しようと考えていた。
「一回やそこら触っただけの匂いが果たして今も残ってるかどうか‥‥ってベナウィさん何してるんですか?」
シルヴィアが不安そうに犬の様子を見ていると、途中からベナウィが一緒になって匂いを嗅ぎ始める。
「いや、せっかくなんで」
何がせっかくなのかはよくわからないが、獣耳戦士として対抗してみたかったのだろう。
さすがに男の匂いは感じられなかったのか、犬はカーナの落下地点付近をいつまでもクンクンと探っている。
「今日のところは引き分けですね」
犬と一緒に四つんばいで探していたベナウィは満足そうな表情で立ち上がる。
「‥‥真面目にやりましょうね」
顔はにこやかだが、あまり穏やかではない口調でシルヴィアは注意する。多分、次やったらキレるだろう。ベナウィはそれを察して、おとなしく引き下がる。
結局匂いの追跡はうまく行かず、街での聞き込みをする事になった。
「この辺で、シフールみたいな格好した人見なかったかしら?」
現物を知っているのはヴァージニアだけなので、彼女が中心となって聞き込みをしていく。
「ああ、その人なら大体今の時間帯にうろついてるよ」
意外と簡単に情報が手に入った。どうやら結構有名な人の模様。ちなみにこの後、ベナウィの姿を見て仲間と思われたのは言うまでも無い。
この辺に出没するという事なので、一行はしばらく待ってみることにした。
「あれですかね」
ジークリンデがそう言わずとも、皆の目線は一人の男に釘付けだった。
「うん」
ヴァージニアはもはや多くは語らないといった感じで素っ気の無い返事を返す。
シフールっぽい羽根を付け、メルヘンチックな服装で軽やかに歩く太った中年の男。
「あ、あれのどこが俺みたいな格好なんですか!? あれじゃ全然萌えないですよ」
見事に期待を裏切られたベナウィは涙混じりにヴァージニアに抗議する。
「そんな事を言ってる場合じゃありません。私に策がありますのでちょっとあの人を引き止めててくれませんか?」
ジークリンデはそういうと、ヴァージニアとシルヴィアを連れて物陰に隠れて行った。
残されたチップとベナウィの二人は、意を決してシフールの人に接触を試みる。
「いい羽根をつけてますね」
話しかけたのはベナウィの方。やはり彼の方が話しかけやすそうだと判断したようだ。
「なんでぷか、君達は? 僕は忙しいんでぷよ」
初対面なのに『君』呼ばわりされ二人は少しカチンときたが、ここで怒るとすべてが水の泡。ここは何とか我慢して話を続ける。
「おいらにも作り方教えてよ」
「初対面の人に教えるわけにはいかないでぷ。まずは自分で考えるでぷ」
とりつくしまも無いとはこの事か。ろくに会話を成り立たせる事が出来ずにおっさんが立ち去ろうとしたその時だった。
「あら? いい羽根ですね。どうやって作ったんです?」
見ればジークリンデが羽根をつけてこっちに歩いてくる。その後ろにヴァージニアとシルヴィアがついてくる。どうやら二人に手伝ってもらいながら即興で羽根をつけてたらしい。
「えっと、これはでぷね‥‥」
男はどぎまぎしながら、丁寧に作り方を語り始める。チップ達との対応がまるっきり正反対なので彼らは更にカチンと来た。
ジークリンデの作戦のおかげで男は彼女に親近感を覚えたのか、質問に対して素直に答えていく。
シフールの男の名はデビッド。彼はシフールに憧れるあまり、自分もシフールになりたいと思ってこの格好をしたらしい。
「ところでデビッドさん、私の友達にカーナっていうシフール飛脚がいまして‥‥」
「カーナたんを知ってるんでぷか?」
ジークリンデの話が終わる前にデビッドは身を乗り出してくる。
「お願いでぷ。助けてほしいでぷ」
デビッドは返事も待たず、付いて来いと言わんばかりに歩いていく。一行は事態があまり把握できないまま彼の後を追った。
彼の向かった先。それは大きな家だった。たしか名のある商人の家だったような気がする。
「ひょっとして、あんたの家なのかい?」
「正確には、お父さんの家でぷよ」
チップの問いにどこかしら自慢げに答えるデビッド。門番の彼に対する態度からどうやら本当のようだ。
「ここでぷ」
敷地内の一角に建てられた小さな家。一応自立してるという事らしい。世話係もいないらしく中は荒れ放題となっていた。
一行は入り口近くの部屋に案内され、ドアを開ける。するとそこに一人のシフールがベッドで横になっていた。
「カーナさん!」
それを見たシルヴィアは真っ先に彼女の元へ走り出す。カーナもそれに気付いて手を差し伸べる。
「助けて‥‥」
弱々しい声でシルヴィアに助けを求めるカーナ。どうやら熱があるらしく、息遣いが荒い。
「どういうことですか?」
ベナウィはデビッドの方をキッと睨むと、木剣に手をかける。
「違うんでぷ。カーナたんが怪我をしてたんで治療をしたんでぷが全然良くならないんでぷよ」
デビッドは慌てて事情を説明する。
「良くならないって、まあ当然だわ」
シルヴィアは呆れたように周りを見回す。今いるこの部屋も例外なく散らかってて、しかもカーナに巻かれている包帯も取り替えた気配がない。
「つまり汚いから治る物も治らないって事だよね」
チップが身も蓋も無い言い方で結論を出す。
「そ、そうだったんでぷか!」
ガビーンといった感じで全てを悟るデビッド。彼はしばらく全員の説教を受けることになる。
その後、カーナは教会でちゃんとした治療を受けて、元気に飛脚ギルドに飛んでいった。
「スピードは控えめにね」
去り際にシルヴィアが釘を刺す。カーナは手を振って応えるが、きっとまた全力で配達する彼女を見る事が出来るだろう。