【ハロウィン?】Trick is treat
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■ショートシナリオ
担当:長谷 宴
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月29日〜11月03日
リプレイ公開日:2006年11月08日
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●オープニング
「そ、それは本当なのだろうな?」
暗がりの中、中央の卓を囲むように座っている男達。置かれたランタンだけが光源の中、一人の男の言葉に驚きが走る。顔はマスカレードに隠され、特に目元の変化などは分からない状態だが、それでも口元や上ずった声でどういうベクトルの驚きか分かる。
そう、そんなに都合のいいことがあったのか、という喜びと、それを信じきれない気持ちが入り混じった驚き。
「勿論だ。最近、他国から冒険者達が来ているだろう? それによるとだな‥‥」
朗報をもたらした男が、口元をニヤリとゆがめた。
「『ハロウィン』を知っているか?」
深刻そうな表情のギルド員が静かに問う。問いかけられた冒険者の中から、まばらながら手があがる。
「・・・・そうか、分かった。まあ、知らない奴らに簡単におしえ」
「説明しましょう! イギリスで行われているハロウィンって祝祭では、かぶをくり抜いて顔をつけ、中に火を灯して家の前などに飾る。これが一つ目。もう一つがモンスターの扮装をした子供達が=ごちそうしないといらずらするぞ☆=といって夕食をねだって各家を訪問する。フフ、扮装した子供達・・・・」
とりあえず今行われているのはこれだけね〜。じゃ、と突如受付から駆けつけてまくし立てた女性は再び元の席へ瞬く間に戻っていった。「子供達〜」の件で危険な笑みを一瞬浮かべ、口元を緩ませたのを気にする暇さえない。
「い、今のは一体・・・・」
「どう見てもただの受付嬢だろ。ああ、本当にありがとう」
言葉をなくす冒険者を尻目に微笑んで彼女に礼を述べるギルド員。しかし、その表情には少し気落ちした部分。
実は彼には、持っている知識を惜しみなく披露して説明したい、という悪い癖があった。聞き手にとっては厄介なその習慣、今回もそれが始まろうとしていたのだが突然受付嬢が現われたことでそれは空振りに終わった。もし彼女が現われなければ「ケルトの祭りにだな」やら「10月31日には妖精が」などと長話につき合わされていただろう。
「・・・・っと。それで依頼なんだがそのハロウィン絡みだ」
気を取り直したギルド員が再び冒険者達に向き直る。再び表情を引き締め。
「あー、何だ。最近ここキエフでも貿易や冒険者の流入などで他の国の文化が段々と知られてきている。ハロウィンもその例に漏れんのだが、なんと言うか、伝聞に伝聞を重ねると情報というのは正確さが欠けていってだな」
ため息をつき、ギルド員は一旦間を空ける。そして億劫そうな表情で続けた。
「ここから一日程行った町で、何を勘違いしたのか、夜のうちにどこからとも無く現れてジャック・オ・ランタンを頭につけた――ああ、流石に灯りは一緒に入れずに手に持ってるらしいが――筋骨隆々な男達が『悪戯がご馳走じゃ〜』などと嬌声だか奇声だかをあげて、あどけない少年から渋いおじ様まで手当たり次第に男性ばかりを狙って、えー、何だ、『悪戯』をするという事件が発生している。ってああ、帰るな!」
無言で立ち去ろうとする冒険者を必死に引きとめながら、ギルド員は続ける。
「襲われた男性は、皆『悪戯』で心に深い傷を負ってしまったそうだ。それで、そのかぶ仮面どもは顔が覆われているため誰だか分からず、ガタイが良くて力づくでは難しい上逃げ足が速いため取り押さえられないらしい。で、その自警団はそういうことを理由に逃げ・・・・いや手を煩わせている。そこでお前達の出番というわけだ。ってああ、だから帰るな! いや、帰らないで下さい!」
●リプレイ本文
「そう、この地にも本当にいるのね・・・・」
故郷イギリスを変態の本場と称するバードのハーフエルフ、チュチュ・ルナパレス(ea9335)は依頼先の町で被害状況を調べて、そう呟いた。元はといえばケルトの祭りから派生した故国で行われるこのイベント、誤解されこのような汚された形となってしまったことを彼女は悲しんで・・・・
「って文化の誤解されてるじゃない、正統派を伝道しなきゃ!」
彼女の目が妖しくキュピーンと光る。・・・・悲しんで?
何か企んだ顔になると、彼女は町の酒場へと向かった。
「うーん、変なことになったな」
美青年吟遊詩人という噂を流された今回の囮、レイム・デューカ(eb7890)。しかし、この時期に来るよそ者、しかも男ということで始めから冒険者と目され注目されていたが、噂が流れたことで町を歩くとどうもあぶ男達の類友扱いな反応をされている気がする。
「怖いですね・・・・僕、見つかったら逃げちゃいそうです、兎みたいに。だそうです。ああ、大丈夫ですよ、お相手するのはレイムさんだけでしょうから」
戦闘前の打ち合わせをする冒険者達。小さい身体を震わせるポン(eb8523)の言葉を、サクラ・フリューゲル(eb8317)が育ちのよさそうな顔を微笑ませながら告げる。今回一行の中でポンが話すことの出来る言語を理解できるのは彼女だけなため、通訳をする役になるのは必然的であった。サクラが東洋人とのハーフで助かったといえよう。
・・・・ちなみに、これから死地に赴こうかというレイムに対してサクラがそんな穏やかな顔なのは天然ボケなため事情を飲みこねてないに違いない。・・・・きっと。
『大丈夫大丈夫、何とかなるって♪』
あはは、と笑うは李絲静(eb7984)。そんなやたら明るい様子の彼女を見て言葉は分からないが何となく仲間達は雰囲気で察する。大丈夫じゃなさそう、と。
そう、言葉が通じてないのである。華国人である絲静は自分の国の言語しか話せないうえ、ポンと違い通訳できる者もいなかった。それでもまあ、ギルド等では通訳をしてくれるシフール懸命の努力のおかげで依頼内容自体は理解して現地まで来れているのだが。
果たして何とかなるのか?!
『ってそうだこの手があったか、多用は出来ねーけど』
『ええ、通じてる!?』
レイムがテレパシーを使用して思念だけで会話。これで最低限の情報の伝達には心配が無くなった。意外と何とかなるもんである。しかし今後ロシアで冒険者を続けるならば、二人は簡単な日常会話レベルのゲルマン語は覚えなくてはいけないだろう。
そんなこんなで日は暮れ・・・・恐怖の夜が来る。
『こちらレイム。今だ敵影あらわれません。帰っていいですか、どーぞ』
『そちら被害が集中している場所なのでおとなしく獲物をひきつけておきなさい、折角葱とかぶ用意したんだから、どーぞ☆』
レイム的には終末の場所、チュチュ的には期待の場所なのか。待機場所で往生際悪く粘るレイムと何故か縦に長い形を持ったチュチュはテレパシーで連絡を取り合う。
『・・・・あのー、本当に灯りとかぶっぽいシルエット見つけたんだけど、これ、逃げたら』
『ダメ』
「・・・・悪戯はご馳走。・・・・悪戯はご馳走」
潜む冒険者全員に、その声が聞こえてきた。
じりじりと後退するレイム。にじり寄るかぶの仮面を被った筋骨隆々な男達。筆記用具を構えるチュチュ!
「いっただきまー・・・・ぐぇ!」
飛び掛ろうとした男が、前のめりに倒れこむ。足元にロープ。潜んでいたサクラと絲静が仕掛けていたのだ。
「く、こ、姑息な! しかーし!」
とうとうレイムに「ちょっとだけ」手が伸びたところでかぶ男の一人が猛烈な勢いの蹴りにみまわれた。絲静の鳥爪撃である。男達をみた彼女は「うわぁ・・・・」と思ってしまい、また犠牲なったらどうなるのか若干気になった所為か出足が遅れていた。
「な、なにゆえ我々を邪魔立てする、我々はイギリスの慣習を行っているだけだ!」
『お祭りにかこつけて悪さするなんて、許せないよね!』
驚いた男は抗議するが、生憎と言葉が通じないため、お互い相手がなにやら喚き散らしてるようにしかみえない。
「く、くそ、女に興味は無いが我らのご馳走を阻むなら突破するまで! っと、・・・・何っ!?」
突如投げられた網に驚き身を捻る男。投げたと思われる方向、そこにはサクラの姿が。
「あら、やっぱりなれない事は上手くいきませんね。・・・・それにしても」
首を捻りながら男達をしばしじっと見たサクラは続けて、
「貴族の心得として対人鑑識能力を多少なりとも身に着けているはずなのに、この方達の実力が分かりません、どうしてでしょう?」
『対人鑑識って、そういう能力だったんですか?』
物陰で一人、ポンが真に受けてポツリと呟く。嗚呼、天然ボケと馬鹿正直が紡ぐ誤解。
「いやいや、それはちげーよ! 俺もある程度は出来るけど対人鑑識は人格を読み取る技術! こんな変態連中に通用しねー!」
「な、何を言う!? 我々は『かぶ紳士』だ、それを変態扱いするとは!」
「どこの世界に同性に無理やり迫った挙句胸をはだけさせる紳士がいるー!?」
とりあえず同じ技術を持つレイムが手をかけられた胸元を押さえながらつっこむ。変態呼ばわりされたかぶ男改めかぶ紳士達は猛然と抗議するが、絵面的にジェントルマンというには無茶すぎる。
「そうだったんですか? ・・・・えっと、じゃあ普通にお相手すればよろしんでしょうか?」
何だか緊迫感が欠如した空気のまま、サクラはクルスソードを構えた。
(ふふ・・・・そう、もっと、もっとよ!)
物陰で忙しなく手を動かしながらチュチュはかぶ紳士と仲間の戦いを眺めていた。書いているのは創作メモらしい。一体何をつくりたいのだろう?
(あぁ・・・・でももう我慢できそうに無いわ!)
実力的に冒険者はかぶ紳士より上回ってはいたが、数の差による不利を覆せるほどではなく、攻撃・・・・というか悪戯対象とされたレイムが薄着になりつつ宙に舞う姿を見るウチに何か興奮してきたらしい。筆記用具を仕舞うと、足元の二種類の野菜を持ちとうとう駆け出した! ・・・・その髪は逆立ち、瞳は赤い。感情の高ぶりによる狂化。
「あなたたち、わたしの伝道歌を聴きなさい! 」
そう言い放つと、魔力をこめた歌を、チュチュは唄いはじめた。
『蕪を被った変態は
下部が
※歌唱の途中ですが描写を中断して聴き手の様子をお送りします。
「な、今まで潜んでいたと思ったらな、何歌ってるんだアイツ!?」
「ええっと・・・・『被り芸』ってなんでしょう? それに、『最初は葱』『次は大根』っていうのは? ・・・・一体何を身体に刻むんでしょう?」
『ね、ねえ、何ていってるか気になるんだけど!? 歌詞は分からないのに何かへんな気分になって来たし!?』
「も、もう紳士などではいられん、蛮族と呼ばれたっていい! うおーっ!」
メロディは、その歌の内容が精神に作用する魔法。どんな内容か詳しくお伝えできないのは残念だが、結果はより悲惨な混沌。かぶ紳士あらためてかぶ蛮族達は次々と服を脱ぎ捨てレイムへもっと接触を図ろうとし始めた。嗚呼、彼はこのまま餌食となってしまうのだろうか!?
・・・・しかしチュチュの歌は続きがあった!
『逃げようとしても逃がさないわ!
投網で挟撃&シャドウバインディング!
変態が! 泣くまで! 殴るのをやめない!』
『な、なんだかとっても彼らを痛めつけ・・・・違う、やっつける気力が湧いてきたよ!』
「葱は持っていませんが、それでもやれそうです! ・・・・でも、なんで葱なんでしょう?」
「ちょっと待って、むしろ逃げてーのは俺だよ!」
チュチュの歌に勇気付けられた冒険者達は、変態たちとの戦闘に再び勢いをとりもどした。サクラの剣がかぶを裂き、絲静の拳が叩き潰す。ポンも勇気付けられ、物陰ながら手元のスリングで攻撃を始めた。そしてレイムは、逃げ足が鈍くなったのか用意にかぶ蛮族達にしっかりつかまり、かれらの気を引くことに成功している! 今、冒険者達は変態退治のために心を一つにしているといっても過言ではない! 宙を舞うのが肌色が多くなってきたレイムだけでなく、同じく肌色の多いかぶ蛮族達も多くなってきた。・・・・圧倒してきている!
「ぐっ・・・・くそ、異国の文化を受け入れられない頭でっかちどもめ、覚えていろ・・・・って、そこは蹴るなぁ!」
ぼろぼろになったかぶ男達はほうほうの体で逃げ出そうとする、そのすねを絲静に蹴られ、痛そうに抱えなが男は飛び跳ねて退いていく。
『逃がさないよ!』
「いえ・・・・待ったほうがよさそうです。なんだかんだ言って相手のほうが数が多いですし、それに・・・・」
手でサクラは絲静を制しながら、視線を後方に向け絲静の視線を誘導する。
『あー、これは追えない、ね・・・・』
そこには狂化して歌い続けるチュチュと、ボロ雑巾のように打ち捨てられたレイム。少なくともチュチュのほうは止めないと、住民にも、自分達にも不味いことになる。レイムは絲静が唯一の仲間と意思疎通する手段であったし、何よりそのまま放って置くには気の毒すぎた。
かぶ男達を捕えることは出来なかったが、翌日の夜はまったく現われず、また人相も分かったので住民は大変喜び、約束どおり宴会を行ってくれた。絲静は残念ながら酒を断っていたが、皆自分なりに楽しみ、今回散々な目に会った挙句、捕えてから行おうとしていたことが出来なくなったレイムを慰めていた。
今回の冒険がきっと後の糧になるにちがいないと自分を信じ込ませつつ、冒険者達は帰途についた。