妄執の魂、強欲の悪漢

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2006年11月20日

●オープニング

 最近、あのコがなにやら怪しい連中に付き纏われている。
 思いに囚われて富める商家らしい彼女の家の前で足を止めてしまうのはしょっちゅうだったが、べつに自分のその行為が誤解されたとも思えない。それに、最近は特に夜に家の前で止まると怪しい気配らしいものを感じることすらある。
 間違いない、あのコは狙われている。それもきっと物騒な連中に。
 いくら彼女の家が裕福だといっても用心棒を置けるほどじゃあない。もし狙っている連中が暴力を用いたら、美しいあのコは略取されてしまうに違いない。きっと、身代金か何かを要求されるに違いない。例えそのお金が払われたとしても彼女はひどく怖い目にあってしまうに違いない。
 
 そんなことはさせない。・・・・ボクがあのコを守る。守ってみせる!

 こっそりと彼女の家の見張りを始めて3日目、とうとう怪しい男達を見つけた。許せない、愛しいあのコを苦しめていたこいつらは!
「おい、お前ら・・・・」
「出たな、最近毎夜この家を付け狙ってういるという不審者は!」
「なっ・・・・ボクはあのコを守るために! お前らこそ・・・・」
 何を言っている? ボクはわけが分からないまま、大声で叫ぶ連中に言い返した。凶暴そうな目つき、暗闇にまぎれやすい衣服。そして・・・・手に持つ物騒な短剣。どうみてもあのコを付け狙っている不審者達はお前らじゃないか?
「なっ、こいつ刃物を出しやがった! 大変だ!」
 さっき大声を出した大柄なやつの右側にいる男が、そう言いながら短剣を突き出して迫ってくる。ボクは慌てて懐の中の護身用のナイフを探った。
「は、刃物を持っているのはおまえだろう、やめ・・・・」
「不審者が、逆上しやがったか!」
 ボクの抗議は大声で怒鳴る目の前にかき消され。
「ガッ・・・・」
「いい様だ! 大方金目当てで付き纏っていたんだろうな!」
 ボクの叫びはすぐに音を失い、胸に突き刺さった刃物を見つめたまま手足の感覚と意識が薄れていく。
 ・・・・そんなボクはあのコを守るって決めたのに。
「おい、ずらかるぞ。見られたらマズイ」
 アノ・・・・コニチカヅクヤツ・・・・ハユル・・・・サナイッテ・・・・・・キメ・・・・タ・・・・。

 それが人としての、青年の最後の想いだった。


「なるほど、最近怪しい連中が辺りを徘徊しているという噂があったところに、ある夜、突然不審者だという声。その場に行ってみれば胸を一突きにされた青年が死んでいた・・・・手にナイフを持って」
「ええ、そういうことです。その男は、確かに不審者と呼ばれるだけの行動を知られていました」
 髭を撫でながらそう受付嬢に話す今回の依頼人である太り気味の男。彼の家はキエフで衣服を扱う大きな店。商売は中々好調で、一財産築くほどだった。
「それは・・・・どのような?」
 受付嬢が尋ねると、依頼人は傍らに座る妙齢の、彼が親とはすぐには信じがたいほどの美しさを持つ娘のほうをチラリと見た後、顔を苦くして答えた。
「どうにも、ウチの娘に気があったみたいで。我が家の前で立ち止まったりするのを何度も見かけられています。だが、どんなに慕おうが娘と結ばれるような家では到底無い、ただの青年」
 たしかに、思い余ってということも考えられる。だが・・・・。
「持っていたのが凶行に及ぶのにはとても不足なナイフ。そして声を上げ、おそらくその青年を害したと思われる男も見つかっていない。そこが、ひっかかる・・・・ということですね?」

「それで、具体的な依頼は警備ということでよろしいのでしょうか?」
「あぁ。だができれば内密にお願いしたい。常々金を払って人を置けるわけでもないので求めているのは抑止力でなく、捕えられる力。最近防寒服を大量に仕入れるので紛れる機会もある。それに・・・・」
 ものものしく警備された店に服を買いに来る客もいないだろう? そう依頼人は言葉を結んだ。

「あ、あのっ・・・・」
 依頼人が立ち去ろうかというそのとき、それまで黙っていた娘が不意に声を上げた。遠慮しているのか、自信が無いのか随分と小さいボリュームで。
「はい、どうしました?」
 父親が娘に訊ねる前に、受付嬢は答えた。もし大事な情報を持っているなら父親に声をかけられ下手に萎縮されては聞けるものも聞けなくなってしまう。
「えっと、あの・・・・最近見るんです。夜、何か胸騒ぎがしてふと外を見ると青白い・・・・炎みたいなものが、ゆらめいているのを。その青年の死体が見つかってから」


「アニキー。どうするんですか、あそこの娘の誘拐」
 薄汚れた部屋で、3人の男が灯りを灯して会話を交わしている。
「まぁもうちょい待て。最近目立ちすぎてて噂になってたところで、あのニィちゃんに罪を着せられたんだ。ここ数日で犯人が捕まったって安心するだろうから、その時が狙い目だ」
「さっすが兄貴! あのとき突然声を上げたときはびっくりしたけど、考えてることがふけーや!」
 下卑な笑い声がひとしきり響いたあとに、兄貴と呼ばれた男が目を細めて、部下と思わしき二人に告げる。
「だから、お前らちゃんと用意して置けよ。もう出歩く必要も無いぐらいに情報は集めたしな。まったく、ほんとあのニィちゃんはいい仕事してくれたぜ」
 それは、欲に溺れた悪鬼のごとく。


 そして一方、妄執に囚われた魂が動く。
『カノジョニチカヅクヤツハ・・・・ユルサナイ・・・・』
 その日、娘は再び蒼白い炎を見た。

●今回の参加者

 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8338 ロランス・レステンクール(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb8677 ディルフォン・エルスハイマー(29歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)

●サポート参加者

リック・ルーヴィン(eb8447

●リプレイ本文

「こちらなどいかがでしょう、お似合いですよ、お客様」
「ナンパなら一般人相手にしておけ・・・・」 
 何だか語尾にはぁとがつきそうな物言いで進める服屋の店員、実はこういうことは得意だから、と志願したロランス・レステンクール(eb8338)。そんな彼女に声をかけられ、そっけなく応じたのも客に扮するロイ・ファクト(eb5887)。二人とも自然な店を演出しながら警備を成り立たせるための役回りだ。
「ち、違うぞ、成りきるためだ。誤解だ。ああいった言葉遣いは普段から慣れて無くてな・・・・」
「あまり話し込むと疑われるわ。ロイさん、交代しましょう・・・・あれ、買うんですか?」
 そんな二人に声をかけたのはアーデルハイト・シュトラウス(eb5856)。彼女もまた警備をするため客に扮していた。そんな彼女が目に留まったのはロイが抱える防寒服一式。
「ああ、どうせ必要なものだし、エリヴィラ辺りからも言われててな、まあ、折角買えるのだから買っておこう、ということだ」
 どうにもロイにとって馴染みの顔が多いらしい。というかアーデルハイトもそうなのだが。


「っくしゅ!」
「おや、風邪ですか・・・・そろそろ冷え込みが激しいから、しっかりしてないと」
 突如くしゃみをしたエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)に、シャリオラ・ハイアット(eb5076)は嗜めるように言う。二人はそれぞれ、青白い炎の情報収集と、念のための警護のため、依頼人の娘の元を訪れてた。
「心配ありがと。うーん、でもひくとしたらロイさんだと思うんだけど・・・・」
「心配じゃありません」
 素直じゃないシャリオラの物言いに慣れているのか曲がった言い方の部分をまっすぐに戻して言葉を受け取ったエリヴィラが普通に感謝したが、シャリオラは抗議。
「・・・・まあいいです。では、調査よろしくお願いします。お嬢さんは私が警護しておりますので」
 外へ向かうエリヴィラを見送りつつ、シャリオラはいえ別に、お友達が欲しいわけじゃないんですよ、と言い訳めいたその言葉が後に付け加えていた。

 
 日が暮れ始め、調査と警備を一旦終えた冒険者達はそれぞれの結果を伝え、推測を交えながら話し合う。
「じゃあおいらから。まず青年をあっさり殺しおおせていた辺り、普通に襲うのを止めたというわけではないと思うんだ。それで、青年以外にここを見張っておいた存在がいないか聞き込んだんだけど・・・・」
「・・・・人相の悪い男数人がうろついていた、ですか。私のほうも、似たような話を聞けました」
 不審者のほうを重点的に調べたイルコフスキー・ネフコス(eb8684)の話の内容に、同じく不審者を調べたディルフォン・エルスハイマー(eb8677)がその内容を裏付ける。
 他に警備をしていた者は、特に店内、また店のすぐ側で特にそれらしい怪しい人物は見かけなかったとのこと。そして、炎のことについて調べたエリヴィラの番になった。
「えーと、私はお嬢さんに話を聞いた後、街中で青白い炎についての調査に専念、するるつもりだったんだけど・・・・」
「・・・・つもりだった?」
 怪訝な顔で聞き返すロイに、慌てて弁解しながらエリヴィラは答える。
「あ、べ、別にサボったわけじゃなくて、炎のこと調べたら、その見かけらる場所がその・・・・犯人とされた青年が死んでた、場所で」
 目を伏せ、声のトーンを落としながら彼女は何か関係があるみたいだし、もしかしたら犯人の情報につながると思いその青年について調べたことを語った。
「ふむぅ、随分ご執心だったということですね、その青年は」
「うん、まぁいわゆる高嶺の花、ってことで憧れ、に近いものだったみたいだけど」
 その笑みを湛えた表情どおり、場の空気にそぐわなくもおっとりとした口調でディルフォンがエリヴィラに確認する。
「ええと、私も少し話を向けてみましたが、たまに見かける、ということで覚えてはいますが名前も知らず、特に関係は無いみたいでした。・・・・彼女にとっては」
 シャリオラも直接聞いた話を伝える。友人を装って、ということだが上品そうに見えることもあり、それなりに上手く交流できているようだ。
「一方通行の思い、か。それならもしかしたら、青白い炎は青年のレイスかもしれないね」
 冒険者達の中では一番アンデッドには詳しいイルコフスキーの推測。ただ、彼の知識では恐らくそうであろう、という程度の確度、そして普通の武器じゃあ効かないはず、という曖昧なことしか分からなかった。が、それでも、ある程度の指針にはなる。
「なんと言うか、そのまま退治するのも切ないわね・・・・勿論、レイスだったら危険なモンスター、なんだろうけど」
 アクアこと、アクエリア・ルティス(eb7789)がそう呟いた。

「じゃあ、私達は炎のほうを。それほど見つけるのが難しいとは思えないけど、よろしくね」
 アーデルハイトとエリヴィラが再び店を離れ、炎について調べに行く。
 そして、日は暮れ夜が来て、徐々に忍び寄っていた暗闇で街は包まれた。


「アニキィ、大丈夫ですかね? この前あのヤロウ片付けたのはいいけど、それで逆に警戒されてなんかいたら・・・・」
「バカヤロウ! 警戒されそうだからこそあいつに罪を着てもらって、そしてしばらく俺たちは離れたんじゃねえか。今頃安心しきってる頃だぜ」
「おかげで易々と娘を手に入れ、これで大金は俺たちのものっすね、さっすがアニキィ!」
 物騒な会話をするお世辞にもまともに働いているように見えない3人の男達。彼らが向かう先は依頼人宅、目的はその娘。


 闇の中、蠢く影を捉えたのは少し夜目のいいロイ、そしてロランス。ロイは灯りのついたランタンを向け暗がりに紛れた侵入者を照らし出す。
「な、何だ手前らは?!」
 易々と侵入して目的を達成できる、その予想を覆された悪漢たちは目の前の冒険者達に狼狽しながら、手に持つ短刀を構える。
「そういうお前達こそ、何者だか問われる立場だと思うのだがな」
 冷めた口調で言い放つと、背中に潜ませたクルスダガー「トロイツカヤ」を取り出すロイ。
「逃がしはしないぞ。お前達には確かめたいこともあるのだから」
 ロランスもナイフを取り出し、退路を断とうと回り込むように徐々に男達の周りを歩む。
「あ、アニキィ。あの辺りをうろついてたマセガキを犯人に仕立て上げたから大丈夫って言ったじゃないですかぁ?!」
「ば、バカ、余計なことを言うな!」
 子分と思わしき1人が取り乱した様子でそう言ったのを慌てて止めるリーダー格の男だったが、もう遅い。
「そうか、やはりお前達だったか」
「青年の無念、晴らさせてもらうぞ」
 ロイとロランスの言葉には、普段の二人からは考えられない熱がこもっていた。

「ちぃ、厄介なもん着けやがってぇ!」
 リーダー格が振るうダガーを鉄で覆われた左腕で全て受け止めるロイ。伝わる衝撃をものともせずに、すぐさま右腕で持つクルスダガーで反撃する。
「くそっ、この女出来る?!」
「あたれぇ!」
 子分二人を相手にするロランスも、その身の軽さを利用して避け続ける。然程回避は得意でもないが、素早くサイドステップを踏む彼女に男達二人はついていけない。
「・・・・武闘大会上位に入ったとはいえまだまだ知られていないな、私も」
 呟く彼女の手にあるナイフが閃き、鋭い軌跡を闇の中に描きながら攻撃を空ぶった男の身を裂く。そのままもう1人、と身を向けようとするが刹那の差で間に合わず、一太刀受けたロランスの左腕から血が滴る。浅くは無い。
「へっ、これで形勢逆転だな!」
「あぁ・・・・そうだな」
 勢い付いた男に、そっけなく、言い返すロランス。
「な、何だと、どういう意味・・・・ぐぁっ!」
「こういうこと、ですよ!」
 二階から物音を聞き付けやって来たディルフォン。笑みを崩さないままディルフォンが放った一撃に、受け止めきれない男は声を上げながら態勢を崩す。
「さあて、降伏していただきたいのですがそう素直になってはいただけないでしょうから、少々痛い思い、していただきます」
 呻き、心持ち後ろに下がる男達。ロイの元にもアクアが駆けつけており、侵入者達と冒険者達の戦いの趨勢は決しようとしていた。


 それよりもほんの少し前。青白い炎について調べようと夜の街を見回るためエリヴィラとアーデルハイトは依頼人宅の外にいた。ちなみにそのままでは仕方ないだろう、ということで依頼人が貸してくれたランタンが灯り。
「生前はこのあたりで青年の姿が見られていたということになってるわね・・・・青白い炎もこの辺り。やっぱりレイス・・・・?」
「・・・・そんなになるまで人のことを想う、なんて」
 位置を確認して辺りを見回すアーデルハイトの言葉に、切なそうに頷くエリヴィラ。
「まあ、どうのような真相だろうと、私は仕事をするだけ、だけどね」
 エリヴィラの様子に、アーデルハイトは伏し目がちに呟いた。
 自然、やって来た沈黙。それを破ったのは依頼人宅のほうから聞こえた剣戟音。
「この音・・・・侵入者!? 早く行かなきゃ!?」
「待って! ねえ、あれ・・・・」 
 慌てるアーデルハイトの裾を引いたエリヴィラが指で示す先には揺らめく青白い炎。ぼやけているが人のような、形をした。――レイス。
『カノジョニチカヅクノハ・・・・ユルサナイ・・・・』
 殺気のこもったその言葉を呟くと、中へ向かおうとするレイス。
「追わなきゃ!」
「くっ、飛んでるし速い。・・・・向こうが止まらない限り、追いつけそうにないわね」
 その後を追い走る二人だったが、あっという間に距離は開く。


「へっ・・・・なんだよそんな驚いた顔しやがって。数だけはいるのにビビリやが・・・・ぐぁあっ!?」
『ユルサナイ・・・・ユルサナイ・・・・』
 突如現われた、と思えるほどの速さで近付いたレイス。冒険者が目を奪われているので強がってみせた男の顔が、レイスが触れた途端絶叫と共に歪む。慌てて振り返りダガーを振りかざすが、すり抜け宙を切るのみ。
「や、やめろぉ・・・・やめろぉ!」
『キエロ・・・・』
 泣きながら後ずさる男だったが、レイスに再び触れられ、崩れ落ちた。レイスはそのまま近くにいるロランスに向き直る。
「待て・・・・我々は彼女に危害を加える存在ではない・・・・落ち着け・・・・」
 説得を試みつつも、ゆっくりと後ずさるロランス。今レイスにも有効な彼女の太刀は手元には無い。
『カノジョニ・・・・チカヅクノハァッ!』
「駄目です、話が聞けるような状態じゃありません!」
 悪漢の制圧とレイスの出現を見て、依頼人の娘から離れたシャリオラが駆けつけ叫ぶが、既にロランスの位置はレイスの攻撃範囲の中。
「ちっ・・・・こいつは任せる」
 アクアにそういうと、悪漢の下から離れレイスとロランスの中にロイが割り込む。
「ロイさん、危ない!」
「ぐっ!」
 追いついたエリヴィラが目にした光景に思わず叫ぶ。レイスがロイに接触。が、ロイも一方的にやられてはおらずクルスダガーを突き刺し、何とか距離をとる。
「やはり、打ち倒さなくてはいけませんか・・・・死者が生者を縛り付けることは、ゆるされませんから。・・・・すみません、詠唱が遅れまして」
『クソ・・・・オマエラ・・・・』
 レジストデビルをかけたディルフォンが前に出て、レイスの攻撃を阻む。
「まったくこの様子じゃ、娘さんと話なんてとても無理、か・・・・放っておきたくないのに、ね。・・・・っと、逃がさないわよ!」
 混乱に乗じ逃げようとした悪漢をアクアは剣で制す。
「化かして出した本人達が逃げようなんて、そう都合よくはいかせ無いんだから」

 黒と白の二対の光が、レイスを撃つ。悲鳴か呻きか、はたまた叫び。表現しがたい声を上げるレイスが目の前のディルフォンに襲い掛かるが、その威力は慈愛の神の加護にそがれる。強がるというわけでもなく、ディルフォンの表情は崩れない。
「眠れ・・・・お前はもう、終わっているんだ」
「剣士に出来るのは武器を以って排除することぐらい・・・・容赦しないわ」
 ロイがクルダガーで斬りつけ、レイスをひるませ。、そこへ、アーデルハイトが静かに名剣と呼ばれるベガルタを振りぬく。その真の力は発揮されないものの、その刃は霊を裂く。立て続けに襲う痛みにレイスが吼える。
「その気持ち、何となく分かるけど・・・・ごめん。せめて、全力で出来るだけ早く!」
 一閃。武器自体の重さを載せ、エリヴィラがその小柄な体のもてる力を出し切り振るったイスケンデル・ベイの剣がレイスを捉えた。

 傷ついた悪漢たちは既に戦う力も、勝ち目無いことも悟りあっさりと降伏した。彼らは、その後連れて行かれた先の尋問で、一連の行動の目的を、依頼人の娘を誘拐すること・身代金の要求だとあっさり認めたそうだ。
 冒険者達の負った傷はそれほど深くなく、イルコフスキーのリカバーで全て傷は癒えた。
「はい、つまりはその青年の貴女の側で守りたい、という気持ち・・・・いや妄執の結果、怨霊化して、この辺りに現われていた、ということでした。」
 襲撃の翌日、シャリオラは依頼人の娘に青白い炎についての真相を話していた。
「そうだったんですか、あの炎は殺された青年が私を・・・・何か、凄く、」
 気持ち悪いですね。怯えるように言った彼女が吐き捨てたその言葉は、心の底からの拒絶がにじみ出ていて、霊よりも冷たい感じがした。