うたがわれるねこ

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月18日〜11月25日

リプレイ公開日:2006年11月26日

●オープニング

●下っ端はつらいよ
『『『お疲れ様でしたー!』』』
 太陽の引き駆りはまぶしくとも、空気の冷たさが肌を刺す明け方、とある村の倉庫の床下に響く害獣の声。しかしその鳴き声と共に、キイキイと鳴いていた害獣ことネズミ達の姿はシフールの倍ほどまで大きくなり、背にコウモリの羽を生、先端が矢尻のような形をした長い尻尾、耳まで裂けた口には鋭い牙が並ぶ鉛色の醜い小悪魔――インプとなった。
『いやー、しかしなあ、言われてやる悪戯ほどつまんないもんはねぇな』
『あぁ、しかも肝心の奴らは酒盛りだろ? やってらんねーな、逆らえねーけど』
 一匹がため息をつくかのようなしぐさと共にこぼした愚痴に、もう一匹がしきりに頷き同調する。
『ほら、愚痴はそこまで。何か今日異常はあった?』
 二匹の不満が全体に波及しないように、と思ったのかインプたちの中でも割合背の大きい一匹がたしなめ、全体を見回す。視線を向けられた小悪魔たちはお互い顔を見合わせながらも、沈黙。
『よし、じゃあ今日はここまでにして――』
『あ、あの――』
 比較的小さい体を更に縮めて、遠慮がちに手を挙げる一匹。膝に置いたほうの手が持つ麦穂が、微かに揺れる。
『ん、どした?』
『えっと、猫に・・・・放されていた猫にあったんです。最近僕らがネズミの振りして荒らしてるから、人間がもしかしたら連れてきたのかな、と』
『はーん、成るほど。で、ちゃんと殺したん?』
 何気なく返した返答に視線を一瞬逸らした一匹に、周囲の注目がいっせいに集まる。
『お前、まさか・・・・』
『いや、なんというか、ボク、ここであいつらに使われる前に仕えていた相手の影響で、猫に手を出そうとしてもとっさに動かなくて・・・・あの時は良くしてもらっていたし』
 ああ、と何匹が分かったといったようなリアクション。猫に手を出す出さないは別にしても、ここにいるインプたちは今自分達に命じている毛むくじゃらの連中に反感を持っているものが殆ど。大した差は無いとはいえ、自分より上の存在には絶対服従であるがゆえに、反感は強い。
『でもさー、猫とかいるとめんどいじゃん。とっとと殺っちゃおうぜー?』
『あー、でも死体の始末めんどくさくね?』
『っていうかネズミ捕りに来た猫がネズミにやられてるってのもまずくね?』
『人間達にばれたら面倒だしー』
『じゃあ人間に猫取らせたらいいんじゃね?』
『無茶じゃね?』
『なら、俺らが猫になって悪戯したほうがいんじゃね?』
『『『『それだ!!』』』』
 知能が決して高く無いのはその会話からも分かるインプ達だったが、こと悪戯に関する狡猾さでは定評がある。今回も上手いところ思いついた明暗に、沸いた。
『あ、そうそう。あいつらには一々伝えなくていいよな?』


●嫌な上司の一例としては、部下に押し付け怠けるタイプ
『なんかさー、呼ばれた気がしない?』
 日の差さない暗い場所。エールの入った樽に突っ込んだ頭を引き上げながら、インプよりも一回り大きい、毛むくじゃらの「あいつら」――グレムリンの一匹はそう他の二匹へ尋ねた。
『あー、気のせいだろ? インプ共には酒盛りの邪魔すんなって言ってあるし』
『そうそう、それよりんな飲み方スンなって言っただろ? お前しかのめなくなってんじゃねーか』

 
●依頼受けるのはキミじゃなんだから落ち着きなって
「猫が処分されようとしている?!」
 今にも飛び出そうと言わんばかりの勢いで、身を乗り出した受付嬢は依頼人に聞き返した。
「ええ・・・・先日こちらの冒険者さん達に依頼してとある村にネズミ対策として増えすぎた猫を連れて行ってもらったんですが、どうも一向に被害が減らないばかりか猫が食料を荒らしているという目撃例まで出まして。村の子供たちは反対しているけど処分されそうだって、友人からの手紙にありましたの」
 はぁ、と目を細めてため息をつく依頼人の婦人。前回依頼に来たときと異なり、ため息をつくさまには心労の影響が見受けられ、心なしか皺も増えたように見える。
「そう・・・・なんですか。それでご依頼の内容は」
「元はウチの猫さんだし、送ったまま迷惑をかけっぱなしでというわけにもいかない、そして何よりそのまま殺されるのは忍びないからまたウチに戻そうかと思って、その手伝いを頼みたいの。・・・・それにしても食料だけでなくお酒にも手を出すなんて、いつからそんなコになっちゃたのかしら」
 憂鬱げな婦人の言葉、しかしその中に受付嬢にはひっかかる部分。もしかしたら・・・・いや、猫が処分されるのが忍びない自分の希望的観測かもしれない。だけど、もっと情報を集める価値はある、はず・・・・。
「すみません、他になんか話、ご友人からの手紙にはありませんでした?」
「え? ・・・・えーと、何だか猫の数が多い、しかも同じ姿をした猫がいたり。とか悪戯で子どもが棒でつっついても傷がつかない猫がいたりして、子どもたちは猫の妖精だ、いや神の使いだといって反対してるらしいとか・・・・でも猫が処分されるのを嫌がっている子どものいうことですし」
 確信。いや、少なくとも調べてみる価値はある。受付嬢は切り出した。
「分かりました、条件付で引き受けます。少々お値段高めになってしまいますが、もしかしたら村からお礼をもらえてその分は容易に補填できると思いますから。・・・・神の使い、どころかとんでもないやつらです、きっとそいつらは」

 こうして、依頼がまた一つキエフの冒険者ギルドに張り出される。
『キエフから二日ほどの村まで行き、食料・酒を荒らすという猫を調査。ただの猫ならばそのまま連れて帰り、悪意を持った存在なら退治せよ』

●今回の参加者

 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb6701 カンジス・コンバット(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6810 マナトール・プラチナム(28歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb6993 サイーラ・イズ・ラハル(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7143 シーナ・オレアリス(33歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb7984 李 絲静(29歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb8537 チロル(22歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

「まったく、猫を処分しようとするなんて信じられないない、絶対に無実を晴らしてあげるんだからっ!」
 村への道中、愛すべき猫を処分しようとする話に御冠なのは武道家のパラ、李 絲静(eb7984)。今までの彼女では公用語であるゲルマン語を話せなかったために仲間は雰囲気で察しなければいけなかったが、今回はある程度話せるよう、しっかり覚えてきていたので意思疎通もばっちりだ。おかで彼女が喧嘩っ早そうなのは一同の知るところとなりかけている。
「まあ、抑えて抑えて。確かに猫さんの無実は晴らさなくてはいけません‥‥実際、どうもその悪戯は別の存在がやったものでしょうし。実際聞き込んでみないとはっきりとは言えませんが、恐らく‥‥下位の悪魔ですね」
 そんな絲静をなだめながら、シーナ・オレアリス(eb7143)は今回いると思しき黒幕を自身の知識、そして仲間から借り受けた写本 「悪魔学概論」で得た情報で推測してみせる。
「分かってるなら、なお急がなきゃ。みんな、出発前からゆったりしすぎ!」
「ああ、スマンスマン。でもまあ、収穫はあったんだし許してくれ」
 そう言う絲静にジト目を向けられたマクシーム・ボスホロフ(eb7876)は、苦笑しながらその『収穫』であるハーブを見せる。猫が好むとされるキャットニップ。依頼人に猫が好みそうなものは何か無いかと頼んだところ、余っていた分を譲ってもらったものだ。
「えーと、それって確か輸入品だよね、見せて見せて!」
 異国の植物に興味を好奇心をもったのか、蝦夷から来たチュプオンカミクルのチロル(eb8537)がせがむ。彼、もとい彼女もジャパンのマタタビを手に入れようとしたが、流石に時間と資金がそれを許さなかったようだ。キャットニップもロシアでは自生していないが、ヨーロッパの温かいほうで取れるものなので幾分かなじみがある。
「まったくもう、のんびりだなぁ」
 そんな和やかな雰囲気にツンとする絲静を見ながら、サイーラ・イズ・ラハル(eb6993)はこっそりため息。道中余裕があれば毒草を採取しようと思っていたのだが、そんなことを言い出したら火に油を注ぐ結果になるのはその「火」の様子を見れば考えるまでも無い。
「あ、そういえば絲静さん、シーナさん、今更なんですが」
 クレリックのメイユ・ブリッド(eb5422)に呼ばれ振り向く二人。申し訳なさそうにメイユは告げる。
「猫さんの無実、『証明』せずに『晴らして』しまっては不味くないでしょうか?」
 ‥‥‥‥‥。
「‥‥アハハ、ほら、あたし覚えたてだし!」
「‥‥『シフールの風流れ』、とも言いますし」
 そんなわけで、馬車と速さを合わせながら進む冒険者一行だった。


「成るほど、猫を、ね。まあ、引き取ってくれるんならありがたい」
「‥‥恩に着る」
 損害の分が補償されればなお、ね。そう付け加えつつ村の代表者はマクシームの持ちかけた協力の提案を了承した。言外に冒険者を雇う金があるのなら、というニュアンスが含まれているのは言うまでもない。
「ああ、それとアンタの言ってた酒だが、駄目にされちまったもんがある、それなら自由に使いな」
「どうでした?」
「まあ、何とか、だ。ああ、それとやっぱり酒が駄目になっているのがあるのも確かだな。分けてくれるとさ」
 待っていたシーナに、やれやれ、といった様子で肩をすくめるマクシーム。彼は出発前に猫の好物だけでなく、罠として使えるかもしれない酒を購入しようと思っていたが、生憎と時間が許さなかった。しかし、エチゴヤで買えるぐらいのものならしっかりと事前に用意しておくべきだろう。ちなみに帰りの分の保存食が足りずに割高ながら背に腹は変えられず今さっき購入してきたシーナにも当てはまることだが。なお、最初から仲間に分けてもらうこと・わけることが前提のものもいたが。
「そうですか。他のことも聞いてみましたがやはり悪魔‥‥恐らくグレムリン、そしてインプあたりで間違いなさそうですね。あ、ところでマクシームさんの言ってた判別法ですが」
「どうした?」
 ちょっと困った顔をしながらシーナは、続けた。
「どうも、悪魔が別の生物になるのは魔法ではなく、固有の能力らしいんです。断言できるほどの詳しさではありませんが、時間経過で解けることは無いそうなんです」
 
「おねーちゃん、おにーちゃん、あっちあっち〜」
「だから僕もおねえちゃんなんだって!」
 村の子供たちと一緒に猫を探しているのは絲静、そしておにいちゃん扱いされているチロル。猫を助けられると聞いたら、ほとんどの子どもは諸手を挙げて賛同してくれ、思いのほか猫の探索は進んでいる。キャットニップの効果もあるだろう。絲静などはついでに傷のつかない猫など、疑わしい猫の居場所なども聞いていた。
「あれー、いないなー? その猫さん何時もはここにいるのにー」
 生憎と不在で残念がる子供達。それでも、猫は少しずつ集まってきた。


『おいおい、あれ冒険者だろ? ‥‥どーするよ?』
 暗闇に潜みながら囁きあう猫たち。あきらかに異質な存在。
『えと、とりあえず報告を‥‥』
『バカ、あいつら俺らの責任にするだろうが! どっちかって言うと俺はあいつらの酒の不始末が原因だと思うね!』
『‥‥それはさておき、今は報告しなくてもいいね。そう見分けれるとも思えないし‥‥ん?』
 一匹が、猫とじゃれ合いながら道行く冒険者、そして子供たちを見てふと、その大きく裂けた口でニヤリと笑った。


「とりあえず、離れて見守ってみてはどうでしょう? 人前でエールを飲むとは思えませんが、去ったと思わせればあるいは‥‥」
 うーん、と浮かない表情をしながらメイユは次善策を提案。とりあえず時間経過でどうしようもないならば、他の手段を使うしかない。
「‥‥そうだな。俺のほうの罠や、テレパシーでの調査をそっちにまわしたほうがいいか」
 仕方ないといった表情でマクシームも自案の変更を提案する。当初の目論見が崩れたのは痛手だが、何とか応用するしかない。
「ええ。あの。ところで今猫は集めているんですか?」
「はい、絲静さんにチロルさんが子供達と一緒に」
 そこまで聞いたメイユは顔色を変え、慌てて走りだす。
 あっけに取られる二人だったが、すぐにシーナは自分が何気なく口にしたことの内容にハッとなった。
「大変です、今悪辣なデビルが何の力も無い『子供達』といるんですよ!」


 突如スローモーションになる世界。
 絲静の時間は、何とか油断させた怪しげな猫に銀のネックレスをかけようとした時から、その歩みを急速に鈍らせた。
 近付いた猫が、平然とした様子で喉笛を切り裂こうと容赦なくその爪を振るう。油断していたのは、どちらの側なのか。
「――っ!」
 不意をつかれ、懐に入られ、というひどく不利な状況だったが、爪が然程鋭くないのにも助けられ何とか深い傷にならずに済んだ絲静は、喉を押さえながら何とかさがる。子供たちから悲鳴が上がる。「だ、駄目だよー」と言うチロルの声が、ひどく場違いに感じた。
「くっ、このやったわねぇ!」
 身構えるが、有効な手段は無い。さてどうしようかと言うところに、忙しい足音が複数。
「大丈夫ですか!?」
「な‥‥なんとか」
 血相を変えたメイユを筆頭に、冒険者達が集まる。彼らが目にしたのは、猫達の何匹かがインプとなっていく姿。
「正体を現しおったな!」
 ファイターのカンジス・コンバット(eb6701)はマクシームから借り受けた魔剣「ストームレイン」を構え駆け出す。マクシームも同様、星天弓に矢を番えた。
「おっと、待ちな!」
 腰を抜かしていた村の子どもに突きつけられるのはインプの爪。そして牙。その場にいた村の子どもの何人かは、人質に取られてしまった。硬直する冒険者。魔法で拘束しようにも、一体を抑えるうちに子どもを傷つけられてはどうしようもない。


「‥‥騒がしいわね。早く済ませなきゃねえ」
「ええ。こういうこと、大目に見るのは今回限りですかね、サイーラ」
 喧騒から離れたところにいるのは、サイーラ、そして今回の依頼中ゲルマン語を話せない彼女の通訳もしていたマナトール・プラチナム(eb6810)。彼女たち二人は、依頼の内容とは別の、ある個人的な目的を持っていった。
「で、どう? 悪戯だって大目にみるし、正直待遇いいはずよ」
 インプを使い魔として配下に置く。それが魔女を自称するサイーラの目的だった。マナトールも、いい顔はしないながらも協力をしている。今彼女が勧誘しているインプも、彼女がテレパシーで話しかけ、明らかに猫とは思えない知性をもった反応を返したもの。
『えーと、そうだな、わかったよ、使い魔をやってやる』
 二人で連携した内容のイリュージョン、そしてチャーム。これで勧誘するための下準備はばっちり。念のための通訳に、と考えていたマナトールのテレパシーもいらずに会話でき、とても便利な存在が手に入った、とサイーラはほくそ笑む。
「物分りがよろしい。じゃあ、そうね、黒猫にでも化けて頂戴」
『了解しました、我が主』
 そういったインプは足元にひざまずき、何やら唱え‥‥
「――! サイーラ、危ない!!」
「っ!?」
 とっさにかかったマナトールの声のおかげで、サイーラは自分に魔法が向けられたこと、そしてそれに抵抗することが出来た。インプはちぃ、と吐き捨て宙に舞う。
「く‥‥くそ、何故裏切るの!」
『愚かな人間風情が。何度も魔法にかけらるか、今お前がしたように抵抗すときもあるさ。それに、もしかしてグレムリンの姿を出そうと思ったんだろうが知りもしないのにやったせいか、まったく出鱈目だったぜぃ!』
 言うや否や、飛び去るインプ。なおも魔法で対抗しようとするサイーラだったが。
「‥‥諦めましょう。それより向こうが不味くなっています」
 肩に手を置きマナトールは制止する。彼女の頭には、専門レベルのテレパシーにより伝わる、仲間達からの援護の要請があった。


「うっ‥‥」
 デビルの手に白い玉が握られ、そのインプに拘束されている子どもの顔から若干血の気が引いた。デスハートン。生命力を奪う、デビル魔法。
「この‥‥っ」
 普段の上品な口調から考えられない言葉を吐きそうになるのを、メイユは堪えた。聖女と呼ばれる彼女からすればひどく許しがたいが、ここで浅はかな行動に出てはどうしようもない。
(おさえろ‥‥大丈夫だ、二人が来れば何とかなる‥‥『来たのか』)
 マクシームが小声で囁き、何やら伝える。覚悟した表情になる冒険者達。
『なんだぁ。お前ら何をこそこそと‥‥!?』
 突如二匹のデビルの表情が一変する。外から何の変化も見えないが、冒険者達はそれがサイーラ、マナトールのイリュージョンだということを知っている。
「もう、ボッコボコにするくらいでは許しませんよ、コアギュレイト!」
 さらにもう一体、呪縛を受け硬直。そのインプが手に持つ白い玉がこぼれた。 
 パキリ、という音と共に氷付けになる人質をとった最後の一体。シーナの唱えた専門レベルのアイスコフィン。
「よかった、成功しました‥‥」
 まだ成功するかどうか不安な技量。何とか成功させたシーナはほっと胸をなでおろす。
「おぬしら、覚悟するがいいぞ!」
 怒りをこめ、魔剣を振るうカンジス。斬られたインプの傷はただの一撃で相当なまでになる。剣の持つデビルスレイヤー効果が、カンジスの手により十分に発揮されていた。
「これで終わりだ」
 狙いを絞ったマクシームが矢を放とうとする。その刹那かかる声。
『ちぃ、何やってんだよお前ら!』


「‥‥村の人たち、凄く怒ってたね。口には出さないけど、目が、凄く」
 気落ちした絲静の言葉。普段からの明るさが特徴の彼女、そしてカンジスもとてもそのような様子は見せない。
「‥‥ごめんなさい、もっと早くに止めるべきでした」
 同じくメイユがポツリ、呟く。子どもを使った悪魔探し、その危険性。
 あの時、現われたグレムリン達もまた子どもを人質にとっていた。距離も離れており、弓で狙うにも子どもが危険。またしても危なくなるところだったが、そのグレムリンが提案してきたのは、意外なことに、自分達の安全な撤退。子どもを捕えられていてはどうすることも出来ず、安全な距離を取られたあとに、子どもの解放、そして悪魔達は去った。
「『気付かれたならもういい、そういわれてる』、ですか‥‥上位の存在が、まだいたのでしょうね」
 シーナが、グレムリンが登場際インプたちを諭した言葉を繰り返す。悪魔の社会では上限関係は絶対。この村の悪戯にも何か意図が隠されていたのか。
 後悔の冒険者達だったが、一応村からは悪魔が去った。残った猫もきっちり15匹。シーナの凍結したインプは置き去りだったため、それを見て村人もいままでの現象に一応納得がいったようだった。
 なお、猫は村に残った。どっちにしろネズミは脅威で、備えには悪くない、ということか。

 悔しさを胸に秘めながら、帰路へつく冒険者達。明日の挽回を誓いながら‥‥。