サムライ気分

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月14日〜12月19日

リプレイ公開日:2006年12月20日

●オープニング

『ジャパンの文化を理解する助けとなる、演劇をやってくれる冒険者求む。実際の出身は問わない。ジャンル不問』
 ギルドに張り出されたその文句に目を留める冒険者が幾人。
 王室顧問が動いたり何だりできな臭い雰囲気が漂ってきたキエフで珍しい依頼である。当然、その詳細は受付嬢に聞かれるわけで。
「そう、あれは日差しが出ても寒く感じる、ある日の昼でした‥‥」
 何故か回想モードに入った受付嬢によって経緯が語られる。


「それでね、ひどいんですよその令嬢。他所のところの貴族から紹介されたんですがいやあまったく」
 その依頼人、いつか冒険者の代役を求めに来たという奇特な吟遊詩人の方なんですが、冷えたでしょうと営業スマイル満開でお茶を勧めてもまーったく手をつけずしばらく愚痴が。折角持ってきたんだからせめて一口ぐらい飲むのが良識ってもんですよね、まったく。

 そういうアンタが今愚痴ってるよ! 愚痴り放題だよ! など思いつつ曖昧な返事を返しながらおとなしく冒険者は話を聞く。下手に同意してこの話が長引くのも、マジメにつっこんでこじらせるもよろしくないから。

「『うーん、よくあるわねー。なんていうか、お話なんだからある程度そういう要素が必要なのはわかるケド。というか話だけだと段々‥‥』などと言って、半ば私の仕事否定ですよ! いや、魔法を使って上手く像を使える人だっていますけど‥‥」
 とまあそんな愚痴を聞きながらようやく本題に入っていただけました。まだ愚痴っぽいですけど。

 溜飲を下げて片手で頭を抑える仕草をする受付嬢。演出意図は悩める美女なんだろうか、コレ。聞く冒険者は冷めたご様子。

「で、唐突に『ああ、そうだ。月道が繋がってるとはいえジャパンのことまだまだ分からないよのねぇ。何かそういう話は?』とご注文が。いやボクはむしろ何やって欲しいか言ってくれたほうが嬉しいんですけどね」
 で、またブツクサブツクサ言いながら話がのろのろと進むわけですね。さっさと本題に行けばいいものを。まったく自分の不幸を人に分けようだなんてあさましい。

 つっこんで欲しいのか? そうなのか? 冒険者のフラストレーションがチビチビたまる。頼むから依頼人とまったくおんなじことやってるのに気付いてくれよ受付嬢。そう祈りながら。

「で、急遽切り替えて注文どおりの話をしたわけですがそれも『ジャパンじゃなくてジャパン人の話、かぁ』『うーん、でもやっぱり物足りないというか』と言われまして。で、なんだか急に顔を明るくしたと思ったら『ああそうだ! アナタ、前に冒険者に依頼して来てもらったのよね! アナタのあせり具合で折角の熱演も無駄だったってあのコ言ってたわよ』などと。正直放っておいてくれよぉ! とかそのときはおもったわけですが」
 で、ここからがようやく本題。まったく、自分の能力の無さを棚に上げて僻みっぽい男っていやよねぇ。

 ‥‥それぐらいのことで根に持つ女もどうだか。とか冒険者は必死に言いたいことを自制。ようやくこっちも本題にたどり着けたんだからゴール直前で躓くようなマネはゴメンだ。

「『そのときみたいにさ、冒険者集めてお芝居にでもしてくれないかしら? 彼らならジャパン人もいるし、一緒に過ごしてるだろうし。ちょうどジャパン関係学ばなければいけないことになっていたのだし。準備金は用意するから、お願い』という急展開に。まあ、お金をいただけて特に断る理由もないので、こちらに」
 だったら用件だけ話せ、ってやつよね、まったく。

 盛大にため息をつく受付嬢だったが、冒険者はそれ以上に疲れたようだ。回想中の受付嬢と大体感情がシンクロしてつっこむ衝動抑えるのにも力を使ったからだろう、きっと。


 その後、話をまとめると『ジャパンの文化を取り上げていて、ちゃんと話になっていればOK。創作は良識の範囲内で』ということらしい。
 なお、話の筋は本来依頼人の吟遊詩人が担当するところだが、急がしさでどうせ関わることができないのと、短い期間の間にしっかりと動きを覚えるには自分達で考案したもののほうがよかろう、ということだそうだ。
 まあ、今回の貴族の道楽部分を外しても、異国の文化理解は重要なことだ。特に、ジャパンのような月道でつながってはいるものの、生活様式がひどく異なる国の場合は。最悪、例えばジャパンに存在する下着というものが誤った使い方などされたら大変である。両国の住民にとって不利益しか生まない。一般にも公開していい、との令嬢の言葉があるので、思った以上に意義のある公演となる可能性もある。
 乗り気になった冒険者達はあれこれと想像を巡らせ始めた――。
 

●今回の参加者

 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb9400 ベアトリス・イアサント(19歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9569 魁沼 隆生(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マリウス・ゲイル(ea1553)/ フィニィ・フォルテン(ea9114)/ アド・フィックス(eb1085)/ シャリン・シャラン(eb3232)/ サシャ・ラ・ファイエット(eb5300

●リプレイ本文

「持ってる物の中にジャパンの品物も沢山あるし衣装や小道具として使える物があれば貸し出すぜ」
 ゴールド・ストーム(ea3785)が言ったとおり、彼の荷物にはジャパンの品物も大量にあった。そうジャパンの品物「も」。
「でもこれは流石に‥‥多すぎですよね?」
 いつもと変わらぬ微笑を浮かべながら、汗が一筋。クロエ・アズナヴール(eb9405)はその尋常ならざる荷物の量に驚かされていた。
「ああ、だから預かってもらうんだが‥‥」
 手伝いに預かってもらう算段になっているゴールド。確かに、並の商店ならば圧倒できてしまう程のこの荷物をもって動き回ることは不可能だ。だが‥‥
「必要なもの、どこにあるのか目星がつけられなくて‥‥」
「‥‥」
 潜るべきか潜らざるべきか、それが問題。

 格好重視なのかそれとも浪費癖で懐が十分でないのか、ジャパン出身の浪人、魁沼隆生(eb9569)は冬にも関わらず普段着のまま寒空の下を歩いていた。まあ随分と恰幅のいい体つきなので、普通の者に比べれば大分マシだろうが。
「おや、隆生サン。これが傘地蔵の内容でいいんだよな? ゴールドは動けないしとりあえず俺がコイツと打ち合わせてるんだが」
「へえ、どんなかんじでがしょ?」
 向かった先にいたのはベアトリス・イアサント(eb9400)、そして依頼人のフォーカ。一応台本化するためゲルマン語がしっかり出来る彼女が依頼人協力(という名の使役)のもと作業を進めているのだが。
「‥‥とまあこんな感じ、どーよ?」
「いや、まず何で地蔵がゴ‥‥」
 何か色々内容にあるらしい。そんなこんなで幾分やり取りをした後に。
「んじゃ、とりあえず、わしは何か使える道具が無いか見てくるべ」
「あいよ。しかし何だ、寒そうにしてるじゃねーの旦那」
「確かに相当厳しいが、これでも身体のおかげでまだ何とかってとこだよ‥‥ってどこ見てんだべ?」
「ああ、いや、寒そうだなーって思っただけだぜ。‥‥笠をかぶせたくなる心境が分かった気がする(ぼそり」
 魁沼 隆生、御歳33歳。顔つきで実年齢より上に見られる彼には、キエフを突き抜ける冷風が頭皮にしみる。



『むかーしむかし、ジャパンのとある村に、貧しいおばあさんとおじいさんがいました』
 そんなわけで始まった劇。客入りは短いながらもフィニィ・フォルテンとシャリン・シャランが歌と踊りで気を惹いたため貴族の気まぐれの突発的なものにしてはそれなりに上々。
 ちなみに舞台上には地蔵役として冒険者達3人のみ。
『(中略)。そして余った笠が重くて腰にきているおじいさんは持って帰ることを面倒に思ったのか、コレ幸いと寒そうな地蔵に笠をかけてあげました』
 展開早。既に舞台上の冒険者地蔵たちは笠‥‥じゃなくて兜を装着済みである。兜!?
(え、えーと、ちゃんと代用できてます、よね‥‥?)
(お、重い‥‥首が重え)
 いつもの表情も地蔵らしく、扮装が似合っているクロエだったが内心あせっている。笠を手に入れられないならジャパンの武具で、とは彼女の提案で確かにジャパンっぽさはでているのだが何とも‥‥物々しい。重みもあるためクレリックであるベアトリスは何だか少し苦しそうだ。
「おお、あのじいさんありがたい。これで雪と寒さをしのげるな」
 そう言ったゴールド、とりあえず地蔵って命令無しで動くゴーレムだよな、と伝え聞いた情報に基づいて動いている。たしかにそうすると受け入れやすいが。
「ええ、ありがたいことです。恩を受けたからには、やっぱりちゃんと返したいですね」
「ああ、そーだな。あのじーさん、貧しそうだったしな」
 しみじみと言ったクロエに、ベアトリスが賛同する。目指せ子ども達の観劇・ハートウォーミングな舞台。今回の劇に、そういった望みをそれぞれ持っていたりする。
 とまあ、地蔵たちが諸々の思いを述べているところに現われた影。
「まったく、あの貧乏爺は今年以内に返済しろといったのにさっぱりでござるな。こうなったら大晦日に衝かれる鐘の変わりに108回ついてしまうでござるよ」
「ああ、まったくだべ。わしたちに『初詣』させるとはいい根性だよ。門松の先がなんで尖っているか思い知らせてやるだ」
 困窮の老夫婦に金を貸付け、高い利息を取り立てる借金取りである。手下役の磧箭(eb5634)と、親分役の隆生。ちなみに隆生は当初折角のジャパンものならば主役張りたいと思っていたが、笠地蔵なので自分じゃ貧相に見えないべと断念し裏方の予定だった。しかし人手不足気味、ということで舞台上に。実のところ今回お爺さん役はいないし、今の役は役でしっかり似合っている。そもそも普段から悪漢だし。
(って、何でバイオレンスな!? ベアトリスさん、貴方子どもに見てもらいたいって‥‥)
(あー、そういえば脚本書くときにそんな話をしたら、フォーカの奴「じゃあ飽きないように刺激的でないと」って言ってたから割と同意してたんだよ。まあそん時のノリだぜノリ)
(ま、いいだろ? ジャパンじゃ勧善懲悪の話は基本だしな)
 目の前吐かれた台詞に表情にこそ出ないものの動揺を隠し切れないクロエが問い詰めるが、ベアトリスはのらりくらりと。そういえばこの人、気まぐれだ。ゴールドもまあジャパン帰りの俺が言うんだから、と言った調子で宥めてみる。
 一方、箭も今の展開と予想外のジャパン文化の絡みで驚きを隠しきれない。
(た、たしかに様々なジャパンの事柄を絡めようと進言はしたが、このようなことになろうとは‥‥)
 とりあえず笠地蔵の基本的なところだけ頂こう、と言いはした彼だが今となっては後悔の色。まだまだアレな台詞は控えている。
「では、向かうとするでござるか。‥‥おや、この笠は。まったく、いくら売り物にならないとはいえ暢気なモンでござるな」
 掃き捨てるように行った箭。そのまま借金取りの二人は舞台袖に消えていく。姿が消えたのを見計らって、話し出すゴーレム達。
「マズイな、じーさん狙われてるみたいぜ」
「いまこそ恩返しに絶好のとき、ですね。あんな悪人連中に好き勝手はさせません」
「ああ、奴らを‥‥止めるべきだな」
 こうして、彼らは動き始めた。


 お爺さんの家の前、箭と隆生がついてみると、軒先には地蔵が三体。
「な、何でござるかコレは!? たしか通ってきた道に‥‥」
「構うことないべ。さっさと爺さんにしめ縄は何のためにあるか教えてやっぺ」
「わ、わかったでござる‥‥」
 驚愕の声を上げる箭を、貫禄のある様子で止め指示する隆生。中々堂に入っている。
「HEY! とっとと表に出てくるでござるよ! こちらがわざわざ『初詣』してやってるのだからそれなりの誠意を見せろでござる!」
「待て、そこのチンピラども!」
 乱暴に戸を叩く箭を制する声。振り向けば先程の三体の地蔵が動き出している。声を上げたのは真ん中で腕を組み堂々と立つゴールド。
「おめえたち、ただの地蔵じゃなかったんだ!?」
 動き出した地蔵に、抜刀する隆生。実の所、彼は殺陣を密かにやりたがっていため嬉しいシーンである。
「させませんよ‥‥」
 対するクロエも太刀を引き抜く。彼女も彼女で時間が余ったらジャパンの武具について解説したいとは思っていたが、こんな展開だとは思ってもいなかった。みんなの希望を取り入れた結果色々と混沌となったらしい。
「ここは任せるでござる! 華国伝来ジャパン流取立て奥義『獅子舞!』」
 どこに隠していたのか、獅子を模した頭をつけた箭が突進する。
 ちなみに獅子舞、確かに華国由来と言われているが、華国における獅子は家の前にいて魔物から守る役割とされている。何か立場が真逆。
「正月を敬う気持ちを忘れたお前らに勝機はねーぜ! おら、『ジャパンでは一年最後の日に鐘を計108回突いて煩悩を落とす』んだぜ!」
「な、何ぃ‥‥、く、まだ、しめ縄があるでござる!」
 ベアトリスの一撃で吹き飛ばされる箭。ちなみに格闘の実力上、やられる側が上手く頑張って演出している。
「それはさせん。『しめ縄は神域と外界とを隔てるための囲うための縄』だ!」
 今度はゴールドにより返り討ちにあった箭。‥‥そう、地蔵たちは目出度い正月の行事・道具を誤った用い方をしている借金取りたちを解説と『肉体言語』付きで正しているのだった! まさにアクションと文化理解との融合である。
「ば、馬鹿な‥‥でござる」
 二度の肉体言語による教育で箭はどさっと崩れ落ちる!
「あ、諦めないだよ、門松だ、とりゃあ!」
 一方、クロエと立ち回りを演じていた隆生は、部下がやられてあせったのか設置してあった門松を掴み取り突進する。
「いけません、『門松は年神を家に迎え入れるための依代で凶器じゃない』ですよ!」
 あっさり門松をたたっ斬られた隆生、おもわずバランスを崩したところにクロエから止めの一撃が!
「『一年の無事と平安を祈る行事』が『初詣』です!」
「ご、ごふっ‥‥何者だべ、お前ら‥‥」
 上手く腹にめり込んだ拳をゆっくりと戻すと同時に、隆生が大きな音を立てて倒れた。変わらない表情はこういうとき凄みがある。
「私達ですか、ただの地蔵ですよ。笠をかぶった、だけの」
 ――こうして、地蔵たちは笠の恩返しを完了した。
『お爺さんたちは借金とりから解放され、貧しくも慎ましい幸せな余生を送り、道に立つ地蔵たちはいつしか「兜地蔵」と呼ばれるようになり地元の人たちから愛される存在になりましたとさ、めでたしめでたし‥‥』
 最後を強制労働させられている依頼人のナレーションで締めくくると、客席からは拍手や子供たちの歓声が聞こえてきた。それなりに評価をもらえたようだ。後に依頼人から聞いた話によると今回の原因である令嬢も、思いつきで言った割には期待以上だったりで、満足してもらえたとか。
  

「って折角笠って設定で通してたのに兜って認めちゃダメじゃねーか!」
 まあ、武闘派地蔵だからという理由でココは一つ。