【厳冬の罠】カモンナイト!

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 18 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月27日

リプレイ公開日:2006年12月29日

●オープニング

●フラワーガーデンinブレイン
 憧れの王子様が、か弱い乙女が危地に陥ったところに颯爽と現われ救い出す。
 
 細部は違えど、世の中の乙女(自称含む)の殆どがこんなシチュエーションに一度や二度、憧れを持ち自分を当てはめてみたことがあるだろう、いや、きっとある、間違いない! なぜならこの可憐な乙女を体現しているといっても全く過言ではないアタシがそう思っているのだから!
 だがしかし、世間一般的な生活を送ってもう十分な年齢に成長した頃にはそう簡単に危機に陥ったり出来ないということぐらいはわかるようになり、また王子様なんて駆けつけるほど余ってないという現実に打ちのめされてしまう。ま、そうやって我々乙女は手ごろな男に自分が落としたと思わせこみながらちゃっかりと分相応な男をその実女主導で手に入れるわけで。まあそれも人並みな生活を送るには悪くない。なにせ私達は白馬の王子様とは大して縁のない世界で生きているのだから。

 だが、そうやって自分を偽っていいのか、いや、よくない!(反語

 ここで何故我々が白馬の王子様を手に入れられないか改めて整理してみよう。問題は、我々の器量か、いや違う! 勿論器量的に縁がないものもいるだろうが、とりあえず私は除外される。とりあえず。勿論十分かつ納得の根拠は選ぶのに困るほどあるのだが、それはおいといて。
 問題は機会である。危機がそのへんには転がっていない。勿論おとなりの夫婦がギャンブルのせいで修羅場だとか、向かいの家の嫁と姑の折り合いが悪く一触即発とかそういういかにも庶民的なものは掃いて捨てるほどだが、残念ながらにそういったことでは王子様は来てくれないのである。もっと、乙女的なピンチが欲しいのである。
 ‥‥まあ、それこそ凶作で無い年の麦や、クワス並にありふれていたらおちおち枕を高くして夢の中で王子様に会うことができないのだが、それはそれ、これはこれである。
 だが、この一見解決困難な問題も考え方次第ではたちどころに解決出来てしまうことをアタシは発見してしまった。ごめんあそばせその他大勢の乙女の皆様、ワタクシは一足先に王子様を手にいれてします。え、どうするんだって?

 危機が身近にないならあるとこにいけばいいじゃない。

 そう、これこそが乙女の宿願に近付くための唯一無二の方策である。これでアタシは晴れて王子様を!

 だが、ちょっと考えてみて欲しい。果たして『王子様』のあまりはあるのだろうか。
 何しろ王子様だ。王の子様だ。庶子を含めたとしてもそう多くは無いだろうし、大体王侯の習っている馬術は実戦的なんだろうか。危機を打ち破れるパワーがあるのだろうか。疑問である。助けに来た王子様が返り討ちなんて展開、ナンセンスにも程がある。
 
 だからこの問題は独断と偏見によって『白馬の騎士様』を救出役として変更することによって解決します。

 考えてみて欲しい、我々乙女が何故に白馬の王子様に憧れてきたのか。金か! 名誉か! それもいい!! っていうかできるなら欲しい!!
 しかしそういったことに囚われては物事の本質を見誤る。大事なのは『私のため』に危機に飛び込み救い出せる『強く、立派な』男だという点である。そう、独占することができなおかつその男に価値があるということだ!
 そういった点では騎士なんてちょうどいいじゃない。強いし、騎士道的に浮気は名目上NGだし、そして金も名誉も王侯ほどじゃないにしても十分ある。あ、あと、えーと、で、でも、金とか名誉なんて飾りだとしか思ってないんだからねっ! 本当なんだからねっ!

 さて、長くなったがまとめてみよう。我々乙女の願望の成就のためには
『危機に自ら陥り、誘導した騎士様にたすけてもらう』
 ということがあればよい。

 というわけでアタシ、か弱くも可憐で美しいセヴンティーンな夢見たい乙女、エヴゲーニヤは今ココに自ら危地に飛びいることを宣言する。勿論備えはばっちり、冒険者ギルドに依頼書は出したし、これからむかうところは最近になり様子がおかしくなったと評判のところ、しかも王様ご一行が視察だとかで出張り始めてるのでもしかしたらそのまわりから騎士来るかもしれないし。まあきっと大丈夫。助けに来た騎士様が来るタイミングで飛び込めばさほど危険は無い。いざとなれば魔法使えばいいよね? もちろん普段は抑えないと助けてもらうときの魅力が激減しちゃうから極力使わないけど。

 え、依頼を出す代金? もちろん高かったわよ。でもまあ色々な実験の産物やら従者的ゴーレムやらを奇特な貴族様にうったりしたら何とかなりました。さよならゴーレム。私が欲しいのはごっつい従者じゃなくて格好いい庇護者なのだ。


●冒険者ギルドにて
「‥‥うーん、これはこれは」
「どうしたんだ、そんな難しい顔をして」
 同僚が無理やり引き受けさせられた依頼書を見て唸る受付嬢に、係員が声をかける。
「いえ、この依頼書の端、色々書いてあるんですがどうも結論が『これからアタシ大ピンチになるから助けを送ってね☆』としか読めなくて」
「‥‥なんか、狙われてるのか?」
「語弊があったわね『大ピンチになりに行くから』よ」
 目を丸くして二の句が告げないでいる係員をよそに、受付嬢はため息をつきながら淡々と作業を始めた、
「ま、ちゃんと報酬あるしこの名前と住所は確かなものだしいいか。念のため腕は確かな冒険者を集めて、と。たしか最近の情報じゃあ出てもコレぐらいの冒険者ならそう苦戦しないモンスター‥‥バグベア闘士の一団だって話だし。そしてなにより依頼人はちゃんと女の人だし」
「‥‥こういった文を男が書くと?」
 精神的アイスコフィンから解放された係員が届けられた依頼書に目を落としながら係員が尋ねると受付嬢は、ちょっと前に担当した美青年のストーカーである身体はおっさん心は乙女な男のことを思い出してしまい顔を歪めた。


●そのころ依頼人の目的地な森では
『来る‥‥』
『どうしたバグ? 最近森の中で感じる不穏な連中バグか?』
『違うバグ、何かこう、もっと恐ろしい災厄というか身勝手なおそろしい存在バグ!!』

●今回の参加者

 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0034 ヴォルフ・ストランディア(31歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9400 ベアトリス・イアサント(19歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●冒険者の憂鬱
「まったく、自分からピンチに陥りに行くだなんて‥‥王子様願望は分かりますけど、そこまでするものなんでしょうか」
 依頼人自ら危地に飛び入り、それを救出すると言うこの珍妙な依頼、やはり冒険者達にも戸惑いは隠せないようで。オリガ・アルトゥール(eb5706)が呟いたことは皆が思っていたことだった。
「そうですね、たしかに理想の男性を探すために情熱を傾ける‥‥っていうのは分かりますけどいくらなんでもこれは危なすぎますね。ちゃんと連れ戻して諭さないと」
 人情に厚く、人のための行いを好む李雷龍(ea2756)でも、流石に今回のような依頼人はそう思わざるを得ない。それでも、依頼を受けた以上はきっちりこなさなくてはいけない。難儀な仕事である。


「‥‥こっちだな」
 白く染まった大地の上、普段とは様相を変える道だが、ヴォルフ・ストランディア(eb0034)はそういったところでもしっかりと先導が務められていた。流石は地元の者、とでも言うべきか。その顔にまったく緩みがでず、無愛想に見えるのは仕方ないかもしれない。いくら気持ち緩めで行けると募集されていた今回の依頼だが、彼は依頼同伴許可証の使用者である。特に安全は保障されてない以上、硬くなるのも無理はない。まあ、それ以前に彼自身の性格が強く出ているかもしれない故なのはおいといて。
「あー、それにしてもよ」
 そんなヴォルフの様子を見ながらベアトリス・イアサント(eb9400)が気にかかったことを口にする。ちなみに彼女も、というか雷龍以外は皆依頼同伴許可証の使用者だったりするのだが、ベアトリスは特にそれで気負った様子も無い。ヴォルフに比べて冒険の経験があることがその差か、しかしやっぱり性格に由来するだけなのかもしれない。そしてオリガにいたっては依頼人の想定している基準と比べてほとんど遜色無かったりはするのだが。
「依頼人の妄想についてはどう解消するんだ? 雷龍は既婚じゃん、っつーことは‥‥」
 そういって前行くヴォルフに視線を向けるベアトリス。まあ、依頼人の要望と言う厄介ごとの行く末も今回の依頼の重要なファクターである。そんなわけで押し付けられる流れなのだが。
「‥‥さあ。とりあえずそんなあきれた人には説教が必要だとは思うけどな」
 愛想の無い表情を動かさずそう言うヴォルフ。何と言うか‥‥
「滅多に叶わないから、願望なんですよね‥‥」
 疲れたようにオリガが漏らす。‥‥ごもっとも。


●バグベアの動揺
『近い、近いバクゥ!』
『そ、そんなに慌てるなバク! それは、今まで森の中にいたような連中とは違うバクか?』
『ち、違うバク‥‥連中は何か目指して離れて行った見たいバクが、今回近付いてるのは、何かこう、もっと別な、理不尽で横暴な‥‥』
 天変地異の前には、動物達はそれを事前に感知し騒ぎ出すという言い伝えがある。オーガ種である彼らにも、野の中で生きる以上、そういったものが備わっているのだろうか‥‥。


●エヴゲーニヤの暴走(済)
 嗚呼‥‥自分に、この発想力に優れた頭脳が備わっていて、本当に嬉しい。自分の理想の男性と巡り合うと言う共通にして困難な願望を、あっさりかなえてしまう術を見つけてしまったのだから。あとは冒険者が来たのを見計らって上手くバグベアたちのところに行けばいいだけ。
 そう言えば、ここに赴いた当初、何だか森全体の雰囲気におかしさを感じたが、まあ、いいだろう。特に現状問題は無いようだし。バグベアさえ用意されていれば。ああ、それにしても‥‥まだかしら私の騎士様、もとい冒険者達は‥‥。おや、あれは‥‥冒険者?! 見える、この私の13の特技の一つ『エヴゲーニヤ・アイ』(仮称・ただの優れた視力)なら見える、確かに冒険者だ! ちょっと希望より数は少なめだけど騎士っぽい人もいるし大丈夫だ、よーし‥‥


●冒険者達の溜息
「あー、このあたりじゃねえのー?」
「ああ、そのはずだ」
「しかし、どうするつもりでしょう、依頼人さんは。助けに来い、っていっても一体どうやってそれを見計らって‥‥」
「ん、待ってください、あれ‥‥」
 そろそろ歩き疲れたのかベアトリスが言外に「まだ歩くのか〜?」と訊ねそれにヴォルフが平坦な口調で答え、オリガが肝心なところを不思議に思い口に出して、雷龍がその優れた視力で何かを見つけた直後、その声は聞こえてきた。
「た〜す〜け〜て〜」

「「「「‥‥‥‥」」」」
 間の抜けた声が響き、その方向を見ながら何となく固まる冒険者達。
「えーと、今回の依頼人、こんな形で依頼を出させて助けを求めるあたり、役者だと思ったんですが‥‥」
 何か一段と疲労感が増したと言うか、ある種の動揺を隠せないと言うか。皆までいうのをためらったオリガの言葉を、ベアトリスが引き取る。
「舞台上の演技は、ダメだぜ‥‥」
 さすが、依頼で舞台に上がった女、ベアトリス。上手く落とした。‥‥って
「それよりも早く行きましょうよ! たしかにそれはそれでそうですけど、情報通りの相手なら例え依頼人の人がウィザードであろうともそう持ちこたえられないでしょうし!」
 雷龍の言葉に、気を取り直して棒読み気味の悲鳴(?)が聞こえたほうへと向かう冒険者達。どうにも、現実感をもって行動するのが難しい依頼である。


「お〜た〜す〜け〜、って何アンタ近付こうとしてるのよ!」
 冒険者達がまず目撃したのは、取り囲んではいるものの害意とかそういうものよりも、似つかわしくなく動揺しているような様相のバグベア闘士達、取り囲まれて過剰に怖がった様相装っているウィーザード風のエルフの少女。そしてその斧を振りかぶって彼女を襲おうとした慌てた、というか焦った感のあるバグベアの身体にトラップを踏んだのか紫電が走った上、空中に巻き上げられた姿である。その上、彼女の周りには雪が渦巻いているように見える。
「えーと、何だ。俺、エヴゲーニヤがバグベア闘士を蹴散らせるぐらいだったらどうしようかと思っていたんだが‥‥」
 呆気に取られたままその様子を見ていたベアトリスが言う。そう思う気持ちもわからんではない。
「いえ、たしかに一見圧倒してるようには見えますが、魔力の消耗は相当激しいはずです。というかむしろバグベアたちすらこの状況に戸惑いを隠せてないような‥‥」
「と、とりあえず急いで助けましょう。ノリで押し切れるような相手でもないでしょうし!」
 ともすれば真面目さを失ってしまいそうなこの依頼だが、雷龍は名刀「祖師野丸」を抜いて戦闘体制になると声をかける。いくら経緯と様子がアレとは言え敵はバグベア闘士、決して舐めてかかれる相手ではない。
「さて、どこまで通用するか‥‥」
 ヴォルフもオーラシールドを展開してロングソードを構える。実力的にまだまだなのは本人も重々承知だが、事ここにいたった以上、やるしかあるまい。


「まったく、あんなふうに始めからど真ん中に立たれては仕方ありませんね‥‥」
 微笑を崩さずにオリガが呟いた後、身体が青い光に包まれたかと思うと、気を取り直してエヴゲニーヤに襲い掛かろうとしていた一体の足元から氷が覆い始める。アイスコフィン。ある程度の距離をとった上で高速詠唱でも発動させることが、オリガにはできた。
「行きます!」
 気合と共に振るわれた、闘気をまとった雷龍の攻撃がバグベア闘士を打つ。厚い装甲に阻まれてはいるが、確実に苦しんでいるだろう。
「まあありがとう。貴方強いのね。騎士じゃないのが残念‥‥」
 そんな彼に注がれるエヴゲーニヤの視線。
「ええい、そんなことよりさっさと戻りましょう!」
 バグベア闘士の重い一撃を十手で受けながら、雷龍が叫ぶ。コレがキエフ初めての依頼とは、まったく大変な運命の下にいる人である。
「そうだな‥‥そう持ちそうには無い。数の差だ」
 オーラシールドで守るヴォルフだったが、その実力差は埋めがたく。身体に赤い血のあとがある。背後に庇うようにいるベアトリスのリカバーで傷は塞がったようだが、それは彼我の差を如実にしめしていた。
「そうですね‥‥彼ら、結構耐性あるみたいで」
 オリガのアイスコフィンも、そう毎回通用はしない。加えて、その魔法の威力が高ければ魔力消耗は激しい。
「えー、でもまだ颯爽と現われる予定の騎士様が‥‥」
「いねーよ! 依頼を受けた冒険者はこれで全員、そんでまわりにそんな人の影はなかったぜ! さあ、このまま一生機会を不意にするか、それともまたチャンスを待つかだぜ!」
 選択を迫るベアトリス。実際、このままでは不味くなる可能性は否定できない。雷龍かヴォルフ、どちらかが倒れれば持ちそうに無い。一方、敵は分厚い鎧に守られ、動きは遅いがそう簡単には倒れそうも無い。
「‥‥わ、わかったわよ! それでもアタシは依頼人なんだからしっかり守りなさいよね!」
 その言葉の後に、すぐさま退く準備をする冒険者達。依頼人と一丸となって退路を開く。バグベア闘士の足の遅さもあり、なんとか退路を開くことには成功した。


「はあ、まったくせっかくゴーレムうっぱらったのにこの結果かぁ‥‥」
 その後、などとまったく反省の色が見えない依頼人に、冒険者総勢で諭そうとしたり、反発されたりとまた疲れる帰路だったが、特に危険は無く。帰ることができた。ベアトリスの治療もあり最終的な負傷者も皆無。依頼人を満足させるには至らなかったが何とか助け出すことができた。問題の無い出来と言えるだろう。
 その向かった森が、此度聖夜祭のときキエフを騒がせた国王・王妃などを襲撃した蛮族が潜んでいたらしいということを知るのは、彼らがキエフへ戻った後である。