【聖夜祭】限定の罠

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月28日〜01月02日

リプレイ公開日:2007年01月08日

●オープニング

「今日はおっ休みお買い物かしら〜♪ ‥‥せめて24日と25日、当然のように仕事を入れられても反論できなかった悔しさは晴らすべきかしら!」
 鼻歌交じりでウキウキ! というわけでもなくキエフの街中を蝶のような羽根を動かして飛ぶシフールの少女。道行く者の内若い男女の組に敵意のこもった視線を送ってるのは気のせいではないだろう。聖夜祭が近づくに連れて街全体が浮ついているのは明らかだ。
「ま、まあ‥‥シフール飛脚一、慈しみ深いこのアタシが聖夜祭にわざわざご出勤する世の中のためになるからかしら! べ、別に暇だった言うわけではなくてわざわざ予定を空けただけのことよねっ」
 ブツブツと呟く少女。さらっと自分を?1にしているのはご愛嬌。と、ちょっと前方不注意だった彼女の目の前に影。
「きゃっ!?」
「うわぁ!?」
 正面からぶつかった者の、お互い空中から滑り落ちることも無く身体を起こす。
「い、いたいかしらぁ‥‥うぅ、貴方、いったい」
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか? とりあえずどこかで一旦休みましょう。そうだ、貴女お名前は?」
「カ‥‥カーリンでいいのかしら‥‥」
 叫びそうになったのは思わず飲み込んだシフール少女のカーリンの頬は、何故か赤く染まっていた。
 
「そう、そのときは身体中にビビッ! と来たって言うか何かとても運命的なものすら感じられたのかしら。それなのに‥‥会話が盛り上がっていい雰囲気になってきたと思ったら」

「実は今、聖夜祭直前期間限定で、シングルの方限定で、この限定生産の‥‥(後略)」
「分かった、モチロン頂くのかしらー♪」

「で、『限定』という文句に踊らされて本当は特に効力も無い細工品やらに高い買い物をさせられたわけね。まったくシフール飛脚の恥さらしなのだわ」
 シフール用に誂えられた小型のカップで紅茶を飲みながらカーリンの姉貴分と周りには思われている、紅い瞳と髪が特徴の、同じくシフール飛脚のローミがあきれたように言う。
「ちちちち違うのかしら! た、ただ買わないと相手の人が気の毒に思えたから仕方なく、そう仕方なく! 大体ローミは私より生まれたのが1年遅いのにまったく年上を敬う素振りが見えないのかしらっ!」
「‥‥貴女はこのローミに相談を持ちかけていた言うのを忘れていないかしら? 今更誤魔化そうとしても遅いし、第一何の解決にもなりはしないのだわ。‥‥それと、そういう考えに陥ってる時点で相手の思う壺なのだわ。あと、そうやって慌てふためくのは年上の淑女が取るべき態度ではないわ」
「う、うう‥‥」
 とっさに反論したカーリンだったがローミの冷静な指摘にあっさりやり込められてしまった。
 そんな彼女を見て、大きくため息を吐くと同時にカップを置くとやれやれと言わんばかりに首を振り、ローミは言う。
「何にせよ、貴方だけを狙った犯行とは思いづらいのだわ。どうせ狙うならたとえシングルと言えもっと豊かそうに見える者を狙うでしょうもの。つまり、今回の場合、相手は幅広く無差別に狙っていると言っていい。つまり、被害を受けたのは貴女だけではない可能性が高い。そうならば、‥‥例えば、冒険者ギルドには同様に被害を受けたものが集まってるかもしれない。それならば泣き寝入りしたほうがまだマシになってしまう程ネックな依頼料も‥‥って、ちょっと、待ちなさい?!」
 話を聞くや否やあっという間に飛んでいってしまったカーリンの背を見ながらがっくりと肩を落としたローミが嘆く。
「そのように最後まで人の話を聞かないから今回みたいな目に遭うのだわ‥‥」

 
 聖夜祭という時期に、キエフ街中で寂しい心理に上手く取り入り限定を殺し文句に効果の無い高額商品を売りさばく者達を突き止め、成敗せよ!

●今回の参加者

 eb5663 キール・マーガッヅ(33歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5967 ラッカー・マーガッヅ(28歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb9400 ベアトリス・イアサント(19歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb9421 セシリア・ランバートル(34歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

所所楽 柳(eb2918

●リプレイ本文

「間抜けだったな。ま、勉強したと思って今回の分は諦めとけ」
「ひ、ひどいかしら〜っ!?」
 容赦の無いベアトリス・イアサント(eb9400)の言葉に、犯人達の特徴を説明に来ていたお間抜けシフール、カーリンがショックで涙目になりながら抗議した。
「ま、そういうな。精神的に弱ってしまう時期を狙われたのもあるんだし」
「そうですよー。折角の、信じる心を裏切る商売ですー…父も悲しんでしまいますよー」
 そんな優しき慈愛神の信徒をレンジャーのキール・マーガッヅ(eb5663)と厳しき再現神の信徒ラッカー・マーガッヅ(eb5967)が宥める。ああ、何だか宗旨が良く分からない。勿論使える神によって個人個人の性格が決まるわけではないのだが、人にはやっぱり紋切り型とかいるわけで。
「ま、わーってるって。こんあセコいことやる連中は放っておけねーぜ」
 言動は荒っぽいが、筋の通ってないことは許せない。ベアトリスは目が燃えているように見えるほど。気合十分。
「そーですねー。‥‥さてー、こんな感じでしょうかー?」
 隣でキールが聞き出した情報を元に描き出した似顔絵を来てくれた依頼人達に見せるラッカー。確認を取って適宜修正しながらより本物へと近づけていく。
「‥‥結構多いんだな」
 ラッカーの手元にたまるそれぞれ別人の似顔絵を見て少し顔をしかめるキール。別に用紙にかかるコストを気にしているのではない。複数犯だろうとは思っていたが結構大規模なグループであるのを見て少し気が重くなっただけだ。こちらの人数も少ないことだし。元々ギリギリの線だったが実際現場に来た人数は更に減っていたのだ。
「あー、ちょっと他のほうでも聞いてみたが多い感じだぜー」
 直接事情を聞く以外に色々まわって聞き込みをしたベアトリスがその呟きを裏付ける。
「この中に似ている顔はありますかー? ‥‥そーですかー。じゃ、特徴教えてくださいー」
 まだ、増える余地はあるようだ。


 さて、悲しみと怒りと悔しさと恥ずかしさに満ち溢れた聞き込みを終えた冒険者達は、聖夜祭続く街中へ。相手とその手を出してくる条件の調べがついたのならば囮で誘い出せばいい。
 というわけで囮にはラッカー、そしてベアトリスが出ていた。ラッカーのほうはクレリックだと悟られないように信仰の証、十字架は防寒服の下に隠されている。
 キールはというと、ラッカーの描いた似顔絵を頭に叩き込みながら、陰に隠れて尾行準備。
 ちなみに空は既に紅く焼け始めている。本拠地特定には遅い時間でそのまま戻っていくのを追えばいいだろう、というキールの発案。

 手持ち無沙汰にしながら街中をぶらつき歩くベアトリス。若い身空で聖夜祭の間も特にすることも一緒に過ごす相手も無く、ただ街を歩み行くのみ‥‥べ、別に、寂しいわけじゃないんだから。といった雰囲気を展開し、声をかけられる準備はばっちり。
 さあ声をかけるがいい! 一蹴してやるけどな! ‥‥お、来た来た。ここからわざとぶつかるっつーやつだな。よーし、やってやんぜ。
 それらしき人影を見つけたベアトリス、脳内での語り口の乱暴さは既に突き抜けている感じだが、あくまで表面上は寂しそうな若い娘っこ。さあこい、と言わんばかりに準備ばっちり。

 どん!

「わっ‥‥ご、ごめんなさいー」
「こ、こちらこそすみません、不注意で! え、えーと、大丈夫ですか? とりあえずどこかで一旦休みましょう。そうだ、貴女お名前は?」
「あ、えっと、はい。ラッカーです」
 早くも出来上がる(お互いにとって都合の)いい雰囲気。
「‥‥おい」
 そんな二人を他所におもわずぽつん、と1人で突っ立てる羽目になったベアトリス。思わず出してしまった唸りに近い低い声。その禍々しい空気を感じ取ったのかラッカーがびくり、と肩を震わせる。彼の目の前の男には届かないほどの声の小ささは幸いか。そう、男。とても76歳というエルフとしては大人と言える年齢に入ったようにみえないあどけなさが残る顔立ちではあるが、立派な成人男性のエルフであるラッカーに声をかけたのは男なのだ。うら若きベアトリスを差し置いて。
 ちょっと、待て、俺男に負けてんじゃん!? とベアトリスは心の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていくと同時に奥から湧き上がるやりきれない怒り。種族が違うとかならまだ言い訳のしようもあったが、残念ながらラッカーは同じくエルフ、そして信じる神は違えどこちらも同じクレリック。とどめに周りには同じような年頃の人影は無し。騎士顔負けの正々堂々一騎打ちでの敗北、というやつである。
 ちなみにラッカーに声をかけそうな女性に目星をつけるつもりだったキールも明らかにうろたえている。さすがに男性はノーマークだったようで。
「ええ、そうなんです。折角の聖夜祭、みんなが楽しく過ごせるようにすのが僕の願いなんです」
「わー、すごいですー。本当にそんな幸運を呼ぶアイテムなら、俺もすがりたくなっちゃいますねー、大いなる父も、信じるものは救われるといいませんでしたかー‥?」
 と、ベアトリスが悔しさを募らせキールが事態の把握に勤めている間に、当のラッカーと怪しき男は店へと連れ立って歩いている。しかし声をかけた男がラッカーの一人称が『俺』となっているのに気付かないのとか、信仰をささげる対象のいった言葉がうろ覚え気味なのは‥‥これも聖夜祭の気の緩み、だろうか。お似合いの二人だ。
「試しに信じてみるとかー、いいかもですねー」
 何故財布を確かめるのだラッカー・マーガッヅよ?! その目は本気で信じてるんじゃないか!?

 ちなみにこのときのベアトリスのショック解消に「声をかけにくいっていうのはしっかりした証拠」とか「滲み出る清廉な聖職者然として雰囲気のせい」とか依頼人の1人カーリン含めて頑張ることになったのはまた別の話。年頃のナイーブな乙女は傷つきやすいせいだ、きっと。


「‥‥ほら、ちゃんと持ってきてやったぞ」
 夜、衣服一式を抱えたキールの前には一糸纏わぬラッカーの姿。月の光に照らされてそのエルフらしいしなやかな肉体が浮かび上がる。事情を知らない者からとんでもない誤解が生まれてしまいそうだが、これもれっきとした調査の一環。
「ありがとうですー。やっぱり、同じ連中ですねー」
 先ほどまでラッカーは、ミミクリーを使って犬に化けることで匂いを確かめていたのだ。彼が買った(!)オブジェと依頼人達のそれと同じかどうか。こういった依頼でもし間違った者達を相手にすることになったらまずい、という冒険者の配慮がなさせた行為である。
「‥‥それにしても、大盤振る舞いなんじゃねーの、買うなんてさ?」
 半ば感心、半ばあきれたようにベアトリス。つい先ほどまではミミクリー解除後で必然的に不可抗力でヌード状態となっていたラッカーがいるため物陰に寄りかかって待っていた。
「あー、それならー、今日のうちならまだ使われて無いでしょうしー、とりもどせるかなー、と」
 言外の分をフォローするなら、今までの分はどっちにせよ使われてしまい戻ってこないだろうが俺の分は別♪ ということだろう。


「へっへっへ、まったく馬鹿な連中だぜ。聖夜祭を寂しく過ごしたくない、それだけのためにあっさり心が弱くなりやがる」
「まったくですぜ! でも、自分もアニキと一緒に居れるから、強く‥‥」
「あ‥‥?」
 夜にもかかわらず舌なめずりをしながら金貨を何度も数えていた男は、相槌を打つとともに熱っぽい視線を向けた部下にぞっとするものを感じている。
「そんなのより、早くのみましょーぜ、ぱーっと」
 そんな男に声をかける影、よく見ればそれは今日ラッカーに声をかけた男である。彼の周りには他にも種族・性別問わず様々に。どうやら打ち上げ、といったところか。もう年も暮れる頃である。
「あ、ああ、そうだな」
 そういって男が向かおうとしたその時!

「‥‥お前ら結構恨みを買ってるぜ。どんなに儲けても、死んだら土に還るだけ。下手したらケモノに食べられてしまう場合もあるのに、そんなお金に魂売ったような生き様でいいのかぁ!?」
「だ、だれだ!?」
 響くシャウト。動揺する一同。
「えーとー、女に間違えられたまま謎のオブジェを買った冒険者Aとー」
「‥‥その女に見える男に阻まれておとりすら果たせなかった冒険者Bだぜ」
「そして冒険者Cに声をかけたら思いのほか集まってしまったお前達を恨む‥‥」
「依頼人一同かしらーっ!」
 結局だまされたまま寂しい年越しの予定だったか、やっぱ効果なかったな、などとつっこむ無粋な者はここにはいない。こうして、怒りの依頼人+冒険者の一部は人をだます欲深き者達へと殺到するのだった。冒険者もいるし俺達荒事なれてません、ということで特に危険もなさそう。

 そんなこんなで、聖夜祭という楽しみが産んだ悲劇は年越しと共にきれいさっぱり清算されましたとさ‥‥。