絶対無礼チルドレン
|
■ショートシナリオ
担当:長谷 宴
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月14日〜01月19日
リプレイ公開日:2007年01月20日
|
●オープニング
「へーえ、そうなんだー、ふーん」
「い、いや、だからどうしても、っていうわけじゃないんだが」
青年騎士、セルゲイは眼前で腕を組んで、プイと顔を背ける少女の前でうろたえていた。、主である彼女、ファイーナの機嫌が目に見えて悪くなるのを感じとっていたからだ。笑顔こそ浮かべているもののその裏側に何か恐ろしいものがせき止められている、そんな感じ。
「でもやりたいんでしょう? どうにも『断れない相手』からの頼みみたいだし、ねぇ」
「んとだな、その、できれば、っていうだけで絶対ってわけじゃあないんだよ。だ、だから別にいいよ。ほら、何かお前怒ってるみたいだし」
決定的な事態に至るのだけは何とか回避しようと、慌てて取り下げようとするセルゲイ。が、気付かないうちに彼はライトニングトラップを踏んでしまっていた。
「怒ってる‥‥? すると何、アンタが昔の誼で若くて綺麗なシスターに頼まれた孤児院の子供の世話で、ちっと離れるのをアタシにお願いに来てるだけで? たしかにこの時期に抜けぬけとそんなことを言い出すのには驚いたけどねぇ。別にそれぐらいで怒るわけないじゃない。‥‥なに、その顔? まさか、アンタがそのシスターの頼みで動いてることに、アタシが怒ってるとでも?」
別に今コイツ体が銀色の光に包まれてたわけじゃないよなぁ、と頭の片隅でそんな暢気なことも考えつつしまった、と数十秒前の自分にセルゲイは後悔する。もしここに過去視を出来る術師が後に訪れたとしたら自分はきっとその嘲笑の対象だ。既に手遅れだと感じつつ、セルゲイは弁解を続ける。
「い、いや、他意はないんだ。一応ダメ元でな、聞くだけ聞いてみただけし、怒ってるっていうのもそういうわけじゃ」
「‥‥いいわよ」
しかし彼の行っていたそれは、最後まで続けられることは無かった。ポツリ、と呟いたファイーナの言葉に思わず口を噤んでしまう。しばしの沈黙の跡にやっと出てきたのは間抜けな一音節。
「‥‥へ?」
「だから、いいって言ってるのよ! シスターのとこでも何でも行っちゃいなさいよ! アタシには関係ないんだから!!」
「はぁ、そうやって追い出されるようにその足でここに来た、と」
これまでの経緯をセルゲイから聞きながらどこか冷たい視線で見つめる受付嬢。ちなみに昨年末は路上の怪しい客引きに引っかかって変なオブジェを買ったとか買わなかった噂がまことしやかに囁かれている。
「ああ、昔の誼で一応引き受けてはみたものの、実際やるにしても俺1人じゃあとても世話なんて無理だからな。まあそれでここに」
ひどく疲れた表情のセルゲイが頷きつつ依頼の本題を話す。要は、年末の忙しさやらこの季節特有の寒さやらで風邪を引いたのかもう一人のシスターが倒れてしまい、大変な状況らしい。まあ、孤児院での世話ならたまにある依頼だし、そうは珍しくは無い、だが。
「これ、報酬は無しなんですね。一体?」
あえて受付嬢は直球を投げる。目の前の騎士がそれほど困窮してわけでも無いのも、渋っているわけでも無いもの彼の表情その他から見て取れたからだ。
「ああ、それなんだが‥‥。俺が報酬を払えないわけでもないんだが、そうすると向こうが気を使って俺にその分を工面しようとしちまうかもしれない。悪いんだが、無料で来てほしいんだ‥‥」
すまなそうに頭をかきながら告げるセルゲイ。しかしのあと、だが、と言葉を区切って付け加えた。
「依頼後に打ち上げ、って言っちゃ何だが少しぐらい高い店なら連れて行ってもいいぜ。疲れるだろうからな、それが少しでも冒険者達の励みになれば」
●リプレイ本文
「わお! こんなに連れてきてくれて、セルゲイ悪いねぇ。アタシはここのシスターのジーナ、すまないけど、みんなよろしく頼むよー!」
「ご、ごめんね〜、私が倒れちゃったせいでぇ〜。め、迷惑かけるけど、ジナりんのことよろしくお願いします〜」
「って、何で外にでちゃってるのユーちゃん! こんな寒いとこいないで早く寝なさい!」
のっけからエルフらしからぬハイテンションと、太陽の光を反射する雪よりもまぶしい明るさで冒険者一行を迎えた、ジーナと名乗ったシスターは背後に身体をふらつかせながら、おぼつかない足取りで現われた彼女より少し年上に見えるユーちゃんと呼んだエルフにしては割合自己主張の強い体つきのシスターを抱えてほらほら、と中へ戻ってしまった。
「まあ、何だ。ああいうやつなんだよ、アイツは‥‥。それと、アイツをして手に負えないとも言わせる子ども達が相手なわけだから、俺からもよろしく頼む」
呆気にとられ沈黙した冒険者達に、頭を抑えながらセルゲイが言った。
「お、おう。じゃあ、ちょっくら一仕事始めようぜ!」
内心の動揺を必死に鎮めながら、ベアトリス・イアサント(eb9400)は一同に声をかける。そんなわけでまずは、と子ども達に接触し始める冒険者達だった。
「はい、どうぞ。お昼、もってきましたよ」
寝込んでいる『ユーちゃん』のもとで看病の手伝いをしているのはアルトリーゼ・アルスター(ec0700)。今回彼女は、雑用に徹することにしたようだ。子ども達の相手をするものが多いので、気になっていた倒れたシスターの世話も手伝うことにしたらしい。
「ふえ〜、ありがとう〜。ごめんね〜。あの子達、迷惑かけると思うけど、大目に見てあげてね〜」
妙に間延びした声でぼーっとしながら『ユーちゃん』はアルトリーゼに子ども達のことを気にかけて話した。こんなときでも子ども達を心配するその姿勢に、少し苦笑しながらアルトリーゼは感心もしていた。
「――ということなんだ。みんな、わかったかな‥‥ってあれ?」
勉強になれば、と話をしていたジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は、いつの間にか子供達の姿が消えたことに驚いた。
「前置きが長すぎる上に、自分の話に夢中になるからですよ‥‥」
困ったような笑みを浮かべながら、昼食用の食器を運んでいたあるとリーゼが子供達の姿を探してあたりを見渡すジョシュに言った。ちょうど子供達が外へ行こうとしてそろりそろと抜けだしているのを、食器を運んでいた彼女は見かけたのだが、子ども達に「しーっ」と黙っているように仕草で伝えられて見逃すほかなく、ジェシュを放って置くわけにもいかず気付くまで待ってた、というわけだ。
一方その頃、外にて。
「ちぃ、やるなぁこのガキィ」
「みんなー、油断するなー! この姉ちゃんシスターと同じくらい凶暴だぞー!」
子ども達の中心で、いや子ども達に囲まれているのはベアトリス。最初は折角そういう場所であるし、ジーザス教の共通言語で覚えさせて損は無いだろうとラテン語を教えていたはずだが、結局性分には勝てず外に出ることになったらしい。しかし子供達より先に勉強に飽きてしまうとは、恐るべし。
「いやあ、仲が良いですね」
「ええぃ、手ごわいんだよ! おめーも手伝え手伝え」
「分かりました。よし、じゃあ、『英雄ごっこ』しようか、みんな!」
そう声をかけたアルーシュ・エジンスキー(eb9925)が、続けて、私が悪の手先、そしてこっちのお姉さんが悪の首領、と続ける。明確な目的が出来上がった子供達は一層盛り上がり、我こそ英雄にならんとばかりに嬉しそうに声をあげながら二人に向かってくる
「むう、この意気や良し。これならきっと未来の英雄が‥‥」
「ってオイ、状況悪化してんじゃん!? っつーか話をきけぇ!」
そんなわけで、これもまた大いなる父の試練、ついでに見定めと信じたアルーシュと、何だかんだいってもついつい本気になって相手にしてしまうベアトリスの苦行は続く。子供は強い。
「そう、自分の名前は書けたね、じゃあ次は‥‥」
そんなこんなで、唯一中に残り学問を教えているのは、エルフの青年ウィザード、キラー・ウォールス(eb9311)。必要性・利便性、そして自分の能力の適正から彼はゲルマン語を教えていた。
「ね〜、せんせー。ここ、わかんないよぅ‥‥」
「あ、うん、今行くからね」
普段の口調と変わっているのも、彼の今回の依頼に対する努力の一端だ。とにかく優しく。もし泣いてしまったら後が大変になってしまう、そう配慮して子ども達に接している。最もそれが厄介だという気持ちは微塵も無く、報酬もない依頼ではあるが彼は依頼に尽力する心がけだった。そのおかげか、子供達も学習への意欲はそれなりに示していた。
が、そうは言っても子どもは子どもで、勉強は勉強である。外からの歓声が伝わってくるのも影響してか、集中力がなくなっているのは目に見えてきた。今でも残っているあたり割とインドア派な子ども達が主ではあるのだが。
これはどうしましょうか‥‥、と悩んでしまうキラーだったが、まあ、子どもは元気なもの。それを抑えつけたりする様なことも‥‥という結論に至り。
「えっと、じゃあお外に行きましょうか。ちょうど晴れていますし」
折りしも前日まで深々と降っていた雪は今日は空から訪れることも無く、雲に隠れていた太陽も段々とくっきり顔を出し始めていた。外で遊ぶにはちょうどいい。そして、晴れた空が好きな自分にも、ちょうどいい。
「みなさーん、そろそろ夕食の時間、うわぁ!?」
外で遊んで言う面々に声をかけようとしたアルトリーゼは足元に転がる亡骸、もとい真っ白な灰のイメージを背負うベアトリスに驚いた。
「燃えた‥‥燃え尽きちまったぜ」
「え、えーと」
ただそう呟くベアトリスに困惑するアルトリーゼだったがよろよろと戻って来たアルーシュが代わって説明する。
「さすが、若さといいますか‥‥子ども達の遊び相手で完全に疲れてしまったみたいですぞ。私ですらこんな有様ですから、彼女がこうなるのもまた致し方ないことですな」
確かに彼自身も疲労を隠せない子ども達の相手、体力に劣る彼女が相手をすれば致し方ないといったところだ。ゆっくりとベアトリスを抱え起こしたアルトリーゼは、ふとあることに気付いた。
「‥‥あれ、たしかセルゲイさんもそちらに巻き込まれてませんでしたっけ?」
「彼ですか‥‥色々と大変なことになっているようですぞ」
そう言って彼が指差した先を辿ると、雪で固められた騎士の姿。
「さ、さすがにアレは不味くないですか‥‥助けないと」
「子ども達に『お前シスターと仲よさそうに話してたなぁ?』とかそんな感じのようで。おかげで我々は何とか撤退できましたが」
大いなる父の試練はかくも厳しいものか、としみじみした口調でアルーシュが締めた。依頼の発端からその最中まで女性が原因で大変な目に遭い続ける騎士に、アルトリーゼは心の中で涙した。
「あ、キラーさん。陣さんと一緒だったんですか」
「ええ。外に行く時自分だけでは不安だったので、一緒に来てもらったんです」
呼び声に応えて戻ってきた一団に、外で怪我がないようにと見ていた駿陣(eb9077)の姿も一緒にあったのを見て、アルトリーゼが少し驚いたような表情を見せた。
「ああ、どうせ気をつけるならそっちのほうがいいと思ってね。まあ、全然危ないことは無かったし、それに中々いいものを見せてもっらたよ。キラーさんの植物講座」
そう言って朗らかに笑う陣に、そんな大層なものじゃあなかったですよ、とキラーは謙遜した。ある子どもが雪化粧の中ひょっこりと顔をのぞかせていた植物に興味を持ってキラーに聞いてきたのを答えたところ、思わぬ盛り上がりを見せたことでちょっとした野外学習と化したのだった。
朝は早く、夜は早い、というか結構な重労働で早めの就寝になったりして、もともと短い依頼期間はあっという間に過ぎていった。最後の日、結構打ち解けた子ども達との別れは、冒険者も、子ども達もそれぞれ名残惜しそうだった。蛇足だが、セルゲイだけは雪玉で狙われて追われるようだったとか。
「ホント、今回は助かったよ」
「ありがとう〜」
そしてシスター二人の心をこめた御礼は、冒険者達がいかに助けになったかを如実に示していた。
「今回はお疲れ様だった。まあ、何だ、報酬が無いっていう中で頑張ってくれたことには感謝して‥‥」
「おーい、とりあえず高いやつ上から3つほど持ってきてくれー」
「あ、すみません、私のは大盛りで」
「ええ、もうそんな決まってるの? ちょ、ちょっと待って‥‥どの高いメニューがおいしそうなんだろう‥‥」
「ってオイィ!」」
回りくどいながら謝辞を述べようとしたセルゲイだったが、ベアトリスの注文と食い意地の張ったアルトリーゼの要請、そしてそのペースに置いていかれそうなジェシュの慌てた声などであっさり遮られ、しかもその内容が彼にとってはあんまりだったため、台無しになってしまったり。
「1番キラー、歌いマス!」
「あ、その高い酒もついでに頼む」
「だから、人の話を」
「まさか、折角の打ち上げだ妥協しろっていう話じゃないよね?」
早くも混沌とした様相を見せ始めた宴に、タジタジになりながら一応程度の制止はしようとしたセルゲイに、あんまり目が笑ってない笑みを浮かべながら陣が釘を刺す。まあ、報酬代わりということだから、ケチれる立場じゃないのはセルゲイは百も承知だが、やはり異様な気迫のある打ち上げの料金持ちとしては、何か恐ろしい予感を感じてしまうのだろう。
「まあこれも大いなる父の試練、ということで」
がっくりと肩を落としたセルゲイの肩を、ポンとアルーシュが叩いた。長い夜になりそうだ。