自称乙女はボクに恋してる?!

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月22日〜02月27日

リプレイ公開日:2007年03月03日

●オープニング

 ああ、愛しい貴方。私は帰ってまいりました。無粋な輩の邪魔が入り私達の仲は一時は離れてしまいましたが、そんなことで消えるようなものではございません。むしろ遠くに居る間も想い焦がれることで、貴方への気持ちの深さ、そして強さを改めて感じることが出来ました。
 もう、私は離れません。もう、貴方を視線から離しません。
 だから、もうちょっとだけ待っていてくださいね。私が貴方と顔を合わせるようになれるまで。

 貴方の話は、何度も聞いた。貴方の魅力を嬉しそうに語るお兄様に、私はステキだね、と頷きながら、内心でまだ見ぬ貴方のことを憎んでいた。積もる雪よりも深く、吹き付ける冷風よりも強く。
 だって、貴方はお兄様を取ったから。だから憎かった。妬んだ。だから、お兄様と一緒にこっちに来たときは、今だから話せますがよからぬことを企んでいました。
 でも、一目貴方を見た瞬間、その卑しい気持ちは瞬時に消え去り、私の心を占めたのは貴方をお慕いする気持ちと、畏敬の念でした。
 貴方ならお兄様の心を奪っていたのもしょうがない、だってその美しさは完璧なんだから。
 それでも貴方は罪な人です、だって私の心までも奪ったのですから。
 始めはお兄様と同じ方が意中の方になるということに苦しみましたが、家族会議を経て妻妾同衾で、ということにきまったので大丈夫です。
 私もお兄様と一緒で、顔を合わせるのが大変お恥ずかしく、まだお会いできていませんが、声だけは貴方の元へ届けていきたいと思います。


 キエフ、冒険者ギルド。去っていく美青年を見送りながら、冒険者の1人が係員に話しかけた。
「なー、さっきの人、依然見たことあるんだけど」
 ――ああ、以前も依頼を出しているからな。今回は、その続き。
「どんな依頼?」
 ――店先で働いている彼を遠くの物陰からこっそり見つめ続け、魔法を使って声を物を届け、近付けば煙だしたり風吹かしたり灰分身使ったりして恥ずかしがりながら逃走するいい年したおっさん兄弟をどうにかしてほしー、っていう依頼。
「ってそういえばあの依頼かよ! 帰ってきた挙句また付き纏われてんのか‥‥」
 ――まあほら、彼って絵に描いたような美青年だし、オマケに造花とか取り扱う高級花屋の看板息子だから。似合いすぎてるって言うか。ちなみに報酬は『商店街の美を守る女将の会』から
「それなんか絶対間違ってる。青年じゃないだろその対象は」
 ――それでもまあ、名物だしねぇ。彼目当てが多いんだよ。
「そーかい。ところでさ、これイメージに偽りアリじゃないかな? 結局は相手は以前取り逃した変態魔術師だろ?」
 ――だって、ほら、何も苦しいことを正面から受け止めること無いじゃないか。配慮だよ、人道上の。ちょっとでも苦痛を和らげようとだね。それに、君達冒険者にはもうちょっと本質から入ってもらおうかと。表層的なことじゃなくて
「へー。じゃあ核心ついてみるけど最初から厳しいイメージだと人、来ないからだろ?」
 ――まあね‥‥しかもこれは最も忌避されるケースだから。
「やっぱりな。ま、近付いたからって俺は受けないぞ、こんな目に優しくない依頼は」
 そう言って立ち去ろうとするそこの冒険者の貴方、係員はもうしっかりと袖とか裾を掴んで、離しませんよ?

●今回の参加者

 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5723 サスロイト・テノール(27歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1000 パシクル(29歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec1053 ニーシュ・ド・アポリネール(34歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1103 アスタルテ・ヘリウッド(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

藤村 凪(eb3310)/ 稲生 琢(eb3680)/ エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)/ マリエッタ・ミモザ(ec1110

●リプレイ本文

「世の中には2つの人種がいる‥‥変態かそうでない奴か‥‥どこかの偉い人が言って気がする」
 依頼主はご婦人方の宝。ということはご婦人方は当然自分達の味方。
 そう考えて協力を仰ごうと商店街を回ろうとしたサスロイト・テノール(eb5723)は依頼主の店近くであるものを見てしまった。
「嗚呼‥‥いつ見てもステキ‥‥」
『うん‥‥そうねお兄様‥‥本当にあの方は罪なお方だわ』
 陰に隠れる筋肉質で毛深い中年の男と、その傍らの木箱が乙女チックな言葉を吐くのを。
「に、逃げているかとばかり思っていたのだが‥‥」
 同じく協力をようびかけようと商店街に来ていたケイト・フォーミル(eb0516)もその光景には唖然とさせられてしまう。
「正直初日で遭遇してしまった場合‥‥というか、正面から堂々とアピールしてるのは想定外でしたが、どうしましょうか? 迷惑なのは明らかですし、早ければ早いほどいいのは確かなんですけど」
 立ち尽くす二人を見つけたクロエ・アズナヴール(eb9405)も、事情を理解すると肩をすくめながら笑みを浮かべながら二人に尋ねる。ちなみにその表情は、決してこの状況を面白がっているのではなく、むしろ感情を隠すためのものだが、正直視線の先が先なので普通に楽しんでいるように見えなくも無い。
「う、うむ、確かに放っては置けないが、逃走経路とかのチェックがまだだし、口惜しいが今日のところは‥‥」
「そうだな‥‥私も尾行するときに顔が割れてると面倒だから、気付かれずやり過ごせば‥‥」
 そう言いつつそろりそろりと後ずさり、距離をとるケイトとサスロイト。
「そうですねぇ。まあ、弟が姿を見せずに会話すら魔法を使っているのも確認できましたし、準備をきっちりやり遂げてから、にしましょうか」
 表情を変えないまま、クロエも呟きその場を離れた。

「そう、そうですマダム。青年を守るには貴方達の力が必要なんです」
 にこやかにご婦人方へナンパ‥‥でなく協力の要請をするのは、ノルマン出身の騎士、ニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)。
 正直はじめは、ご婦人方もあまり乗り気でない、というより警戒心のようなものが見えて透けていた。彼女達のして共有財産である花屋の美青年が今遭っている目が目なため、依頼を受けた冒険者、といえどもほとんど無差別に近く警戒の姿勢をとってしまう状態に婦人達はなっていたのだろう。だが、貴族の心得をしっかりと身に着けている、慇懃な態度にあっというまに警戒は解け、今や口説きにすら見えるにこやかな談笑へと変わっていた。
 ちなみに彼はギルドから笛を借りてそれを合図にしようかと思ったが、「本当に要るんならそれぐらい自分で調達しやがれ」と仕事態度が不真面目な係員に断られていた。もっとも、声を出せば何とかなるだろう、ということで、見つけたら連絡、という要請は変わっていないが。
「あ、ところでマダム。この後のご予定は? 良ければお茶など‥‥」
 ニーシュ、打ち解けすぎ。

「わざわざ来てもらったのに、すまんのう」
 ストーカー魔法使い達の位置を特定しようとマリエッタに同行してもらったカムイラメトクのパシクル(ec1000)は、そう言って頭を下げた。何と言うか、探すまでも無い光景を彼もケイトたちと同じように見ていたのだった。
「ま、何かするわけにもいくまいて」
 辺りを十分確認した後、そう言って彼はその場を見つからないように離れ、閉店を待った。店が閉まれば見つめることが出来なくなり、魔法使い達はいなくなる。そうすれば商店街の女将さん連合への打診も問題なく出来るだろうとの判断してのことだった。


 そして下準備を終えた明くる日、美青年を救うための戦いが始まった。

「あら、お上手ね。それじゃあ、コレもお願いしようかしら」
 それは一見すれば女性客と店員である青年との単なる談笑。しかしその女性の正体は、何を隠そう依頼を受け解決のために粉骨砕身する冒険者、アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)。暦年齢56歳のハーフエルフ、人間で換算すれば28歳ほどの独身(←独断と偏見に依る推定)女性なのだ!
 そう、冒険者の作戦とは囮を使ってストーカー魔法使い兄弟をおびき寄せる作戦。無論、ただの囮作戦ではない! 囮であるアスタルテが青年に接触し、積極的にアピールをすることで普段物陰から隠れて、近付けば逃げてしまう厄介な兄弟を逆上させて向こうから現われるようにしてしまおう、という何ともメロドラマめいた作戦なのだ!
「さて、あの程度で向かってくるようならギルドまで来ることは無いのでしょうが‥‥っと、ああ、そうですね、マダム」
 前日に協力の要請を快諾した店の軒先で、その様子を監視するニーシュ。が、どうにもその顔が監視対象だけでなく店の女将さんにもしょっちゅう向いているような気がする。いや、これはきっと彼の意思に依るものではなく、協力関係を維持するために必要なのだろう、きっと。
「ふふ、中々いい葉を使っていますね、このお茶は。お目が高い」
 きっとそうなんだってば。

「ふむう、フェイズツー、ですな。そろそろ敵は普通の客でない、とは思い始めるじゃろうが」
 パシクルがそう呟いたでは、一度店を離れたアスタルテが包みを持って戻ってきたところだった。二人が浮かべるその様子は、明らかに私的な関係によるものだということを示している。
 そう、青年もそういった表情を浮かべている。実は、前日の準備にはアスタルテが上目遣いで頬を染めながら「ちゃ、ちゃんと付き合ってよ? こっちも、頑張るから‥‥」と青年への協力を要請することも含まれている。ちなみに要請の様が記録係の独断と偏見による補完があることを一応記しておく。一応。

「わかりやすい、ですねぇ‥‥青年にとっては紛れもなく悲劇なんですが、これは‥‥」
 そう言って物陰で悔しそうな表情を見せる魔法使いの兄と弟が魔法の対象にしているだろう木箱を見ながら、同じく物陰に潜むクロエは呆れたような笑みを浮かべる。何のためにあれだけ店を回ったのか。まあ、無駄でなかったのだけれど、それでもどこかやり切れなくはある。
「ま、この様子なら飛び出すのは時間の問題ですね。後は弟のほうですか‥‥」

「正直、宿無しわりには普通に買い物するのはどうかと思うのだが、うむ‥‥」
「まあ、そんなこと今や気にかからないだろうから。しかし早速近くにこられると、尾行のしようが‥‥ん?」
 日は傾き、空は赤く染まり、もう店は閉まるかという時間になっていた。アスタルテは宿無しという設定だそうで、このままお泊りコースらしい。作戦だとあらかじめ知っている身のケイトは冷静につっこんでいたりしたが、そのような様子を見ててストーカーが壁なわけが無い。震えている。そのたくましい筋肉と濃い体毛をぷるぷると震わせながら耐えているのがある程度は慣れていても常人より少し視力が優れている程度でもはっきりと確認できた。そんな、見たくも無い動きをはっきりと確認してしまったサスロイトに遠くから声がかかった。振り返るとっそこには商店街の女将の一人。この場をケイトに任せていってみれば、そこには我慢できずに姿を現し、現場の兄のほうへと近付いていく弟と思わしき人物。確証はないが明らかに兄弟としか思えないその風貌と何かに耐えるように打ち震える姿で弟だとあっさり確信を持つことが出来る。
「首尾は上々、だな」
 実のところ、パシクルの働きや女将さん連合の協力で姿を見せない弟のほうも大体の位置は割れていたのだが、向こうから姿を見せてくれるに越したことは無い。
「余計見苦しくはなってしまいますけどねぇ」
 中年筋肉質体毛濃厚系の魔法使いが二人並ぶその光景を見て、ニーシュは苦笑い。


 店は閉まった。が、アスタロテは出てこない。これが意味するところを兄弟は良く分かっていた。昨日はこれで姿を消したのだが、この日は血走った目をしながら裏のほうへ、外からも見える窓があるようなところへ向かっていく。当然そこには塞がれているが、今日に限っては灯りに照らされ見えるようにと薄布だ。ここから先が重要。ある程度寒いのを我慢してもらっても、やり遂げなくてはいけないところなのだ。

「寒いわね、‥‥、暖かく、したい」
 青年の名前を呟くとそう言って抱擁する青年とアスタロテ。無論窓の側、子どもがいたら間違っても布を取りされないようなシルエットが浮かび上がる位置で。敵が見ているのは確認済み。だって、
『そ、そのオンナは貴方を弄ぶ気よ! 騙されちゃダメ!』
 とか既に木枠から直接聞こえてきているのだ。魔法を使った発言とはいえ明らかにこっちの動きを把握している証拠。
 よしならば、とアスタロテは更に距離を縮める。むにっと何かが当たって押しつぶされるような「えっ、あっ、あたって‥‥」と顔を赤らめながら何やら呟く。
「あ、当ててんのよ。そういうの、き、気にしないのっ。たまにはそっちの役得があってもいいでしょ?」
 アスタロテも頬を染め恥じらいを見せつつ耳元で囁く。
『だめ、だめっ! そこの年増は近付かないで!』
 中年が三十路前の女性年増とか言うな、と心の中で反論をしながらもアスタロテはよっしゃ、とほくそ笑む。後もう一押し。ノリノリな28歳はとどめ一言を言い放つ。
「あ、も、もう夜だし着替えるね。さ、流石に見ないわよね、あっ、でももしみたぃってぃぅなら‥‥」
 最後のほうはぼそぼそと俯き加減に。完全に二人の世界を作り上げていく。青年は「えっ、あっ、そのっ」と顔を真っ赤にしてたじろく。

「だめーっ! 離れなさいよそこの年増ーっ!」
「騙されないで、どうせその女はよからぬことを企んでるわーっ!」
 流石に耐え切ることができなかったらしい。物陰から伺っていたストーカー魔術師が血相を変えて飛び出してきた。中のアスタロテも声と足音で察し太腿にくくりつけておいた武器に手を伸ばす。



 そして待ち構えていた冒険者達は二人の前に姿を現す。
「絶対に逃しはしないぞ‥‥」
 拳を握り締めるケイト。先ほどからずっと監視下においておいたため、魔法を使っていないのは確認済み。
「なっ、何よアンタ達‥‥きゃ!?」
 そういった弟へダーツが当たる。
「彼は迷惑してるぞい‥‥反省して止める気は無いのかのう」
 そう言ってパシクルも投擲によるけん制の構えを取りながら距離を詰める。
「な、何よ! アンタたちもアタシ達の恋路をじゃまするのね!?」
 そういった兄の身体が赤く光る。高速詠唱による魔法の発動。
「説得は不可能‥‥まあ、命を奪うわけでもいですし、やむなし、ですか」
 クロエもそういって篭手を握り締め駆け出す。既に戦端は開かれたのだ。
「手加減は出来んぞ!」
 一帯が煙幕に包まれたが、準備をしていた冒険者には遅い。煙が広がると同時、サスロイトの拳が魔術師を打った。
「いやー、乙女の顔をーっ!」
 
 色々と魔法を弄して逃げ回っていた二人も、準備を整えた冒険者達に、何の用意も無い状況で近接戦に対抗できるわけも無く、あっさりと縛につくことになってしまった。その際に使われた武器に殴打の補助武器が多かったため、やたらと「顔は、顔はやめてー」とか不快な兄弟の悲鳴が多くなり、冒険者達を苦しめたようだ。

「あなた方も乙女なら、彼が拒絶しているであろう事はお分かりでしょう?」
 縛についた二人は突き出される前に、冒険者達の説教タイムが待っていた。ニーシュの言葉に、うなだれる二人。「本当は、わかっていたんです」などと、三文芝居的な光景が始まる。‥‥縛につく二人は相当ありえないパターンの人物だが。
「女を磨いて来るのです! ‥‥雪深い開拓地とかで」
 ニーシュの言葉に、感激したように瞳を潤ませる兄弟。何が何なんだか。だが、このままでは「女を磨いてまた来ました☆」とかしかねないので、ケイトがフォローに入る。
「す、好きならば恥かしがらずにどんと行くのはいい、だが嫌がられたのなら諦めろ。好きな者に迷惑をかけてお前たちは嬉しいのか。そ、それが本当に愛しているということなのか!」
 魂がこもった(?)この言葉が決め手だった。
「私達が間違っていました」「迷惑かけてごめんなさい」「遠くから思い続けるのも愛の形よね」と、反省の言葉を口にする兄弟。
 そう、冒険者達は、自称乙女な兄弟の人格を完全否定せず、相手をおもいやること、つまりは『愛』の一つの形を教えることによって、その歪んだ愛を正し根本からの解決をしたのだ。美しきかな完全なる解決!

 まあ、絵面的にはパシクル発案で「発動具を取り上げよう!」と筋肉と体毛豊かな兄弟が裸に剥かれて縛られて美しいなんて口が裂けてもいえないのはこの際気にしない。


 ちなみに、アスタルテは女将さん連合から、ニーシュは旦那様方から視線で出禁をくらったのはいうまでもない。