割のいいお仕事は好きですか?
|
■ショートシナリオ
担当:長谷 宴
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月01日〜03月06日
リプレイ公開日:2007年03月11日
|
●オープニング
「ゴブリン退治? にしてはちょっと割がいいな?」
張り出された依頼書をしげしげと見つめていた冒険者が、係員のほうへと顔を向けて訊ねた。
「よく読めよ、ゴブリン戦士、ホブゴブリン戦士の可能性もある、って書いてあんだろ?」
慣れた様子の係員は、声の方向に顔を向けないまま答え手元の書類に変わらず集中しようとしたが、ふと何かに気付いたような顔になると冒険者のほうへ向き、呼びかけた。
「おい、興味があるなら来な。割がいい原因とはまた違うことなんだが、意外と適当かも知れないぜ、その依頼」
それなりに利用する者のいるその街道に、戦士格のゴブリン、ホブゴブリンの一団が現われ、強盗をするようになったのは割と最近のことだった。
勿論そのような事態、近隣の住民のみならず商業にも影響が出るレベルになれば、しかるべき者達がすぐにでも出て行くべきなのだが、生憎と手が離せない状況が続いている。そこで、迅速な解決のために冒険者ギルドに依頼が、人手を確保するために高めの報酬が設定された。
「とまあ、これがち割がいい依頼になった理由なんだが、詳しく調べてみるとちと妙な話もあってな」
「妙な話?」
冒険者が聞き返すと、元々落ち着きが無いのか、その係員はせわしなさそうに羽ペンを手で回しながら続けた。
「ああ。まあ元々やつらは狡猾だから気にも留めなかったんだろうが、襲う対象に選別があってな。そいつらが初めに現われたという後にも、いくつかの集団は何事も無く通り過ぎてるんだ。そいつらの姿を見ることも無く」
「‥‥見た目に危険だったから、諦めただけじゃないのか。それにさっき狡猾だとも」
「ああ、言ったさ。だがな、その中には一見したところ脅威には思えない、魔術師が多かった集団も含まれてたんだよ。それどころかな‥‥」
そう言って一旦言葉を切った係員は、冒険者のほうに向くと、ニヤリと口を動かす。
「襲われた集団は、大体が荷物の金額、量の割には護衛にケチっていた連中やら、実力が伴わないのにモノばかりはやたらお高いのを選んだ旅人やだったりするんだよ、つまり『割がいい』相手だ」
しかもその徹底具合、貧しく、弱そうな女性などは見逃されているほどだよ。皮肉にも不幸中の幸い、っていうやつだがな。と、係員は付け加えた。
「なるほどな、『狡猾』の一言で済ますには随分と出来すぎてる、っていうことか。つまり、ゴブリン連中以外の相手がいるんなら、この報酬もそうお得にはならないかもしれない」
「とは言ってもまあ、依頼の内容自体は『ゴブリン系強盗団の退治』だから損にはならないはずだがな。まあ、手隙なら頼むぜ、ああ、それと、だ」
その強盗団の現われる街道近く、キエフ側から出たんなら必ず通過点になるところにある宿にな、連日泊まっている初老の魔術師風の女性、そしてよく立ち寄るシフールがいるそうだぜ。
最後にもう一つ、係員は付け加えた。
●リプレイ本文
「おやおや、若いお客さんたちだね。アンタ達、冒険者かい?」
件の宿に入った3人は、探すまでもなく関与してると思しき初老の女性と会うことになった。入った早々、椅子に深く腰掛け寛いでいる彼女のほうからいきなり声をかけてきたからだ。
「いえいえ、そんな大層なものではありませんよ、ただの行きずりの者です」
いきなり踏み込んだ質問をされたことによる動揺を隠しつつ、ソフィーヤ・アレクサシェンコ(ec0910)は「当初の予定」通りに行くようにとあくまで旅人だ、と答える。
「おや、そうかい。職業が異なってそうな若いモンが連れ立ってるとつい冒険者だと思っちまってね。歳を取ると考えが単純になって困るよ、早とちりしてすまないねぇ」
苦笑してわびる老婆だが、一行を伺う目は笑っていなかった。
「えっと、確かに冒険者でもあるんだけど、別に今はその依頼で来てるんじゃないですよ、だから、今は旅人だよ」
「‥‥そ、そうなんですよ〜! だからもし今襲われたらと思うと大変だにゃ〜!」
ボロが出る前に、と思ったのか早々にマイア・アルバトフ(eb8120)がある程度自分達について明かしたことに、ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)は内心驚きつつも、すぐに話をあわせつつ、当初の予定通り自分達が「都合の良いカモ」であるとの印象を植え付けようとする。
「そうかい、そいつあぁ大変だねぇ。お嬢ちゃん達キエフから来てるんだろう? だったらこの先に進むなら気をつけときな。最近物騒なことにゴブリンの強盗がでるらしいからねぇ」
「えー、それは困ったにゃ〜!? アタシ弱いからゴブリンが出ても太刀打ちできないし、奪われたら困るものもあるのに〜」
「物騒な世の中になっちゃったんだねぇ‥‥」
言葉の内容とは裏腹に、あっけらかんとした表情と明るい声で弱者を演じるルイーザ。外套の中に武器を潜ませていることを気取られないようにしながら。マイアも話をあわせる。女は、そんな3人と、表情を砕いて談笑していたが、その探るような目は変わらなかった。
「‥‥やっぱりあやしいにゃー」
自分の部屋へと向かったのか、老婆が二階へと赴きようやく解放された3人は、ようやくほっと息をつく。姿が見えなくなったのを確認して、ルイーザは女性を怪しむ。
「そうですね、何だかんだいって値が張りそうな私達が身につけている魔法の装飾品確認してましたし‥‥。あ、それはそうと、マイアさん」
ふと思い出したソフィーヤがマイアに向き直る。
「助かりましたよ、今はオフの冒険者だ、って言ったこと。あのままだとかなり怪しまれて随分慌てそうでしたし」
「ああ、あれですか‥‥」
ありがたがれているのに、何故か表情を曇らせて目をそむけるマイア。どうしたのかにゃー? と、ルイーザもマイアへと視線を向ける。
「方便だと分かっていても、嘘をつくのは、どうも、ね‥‥いや、オフだっていうのも嘘だけどね‥‥」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、マイアはボソリと答える。どうやら、ほぼ怪我の功名らしい。
「あ、それは置いといて! 一つ、気になってることが!」
顔をぶんぶんとふって気を取り直したマイアが話を本筋に戻す。同じく気にかかっていたことがあるルイーザが、もしかして、と言って後を引き取った。
「シフールの、こと‥‥?」
『聖職者ガイタカ。今回ハ中ニ入ランゾ』
「くく、指輪を良く見ろとか、聖職者を嫌うとか、流石にアンタがただのシフールじゃないってことを確認させられるねぇ」
『‥‥ゴタクハイイ。ソレデ、ドウスル? 冒険者ナノダロウ?』
「ああ、十中八九ゴブリン達を退けに来たねぇ。まあ、それでもあんな連中なら問題ないし、隠し玉があっても割を食うのはゴブリン達さ。それに、見逃すには惜しいモンばっかりだよぉ、あんな駆け出しには勿体無い、ねぇ‥‥」
寒風が吹き込むのも気にせず、窓を開いて外にいるシフールと会話する初老の女性。その顔に浮かぶのは卑しい笑み。
「‥‥冷えるな」
ラヴァド・ガルザークス(eb9703)がテントに向きながらポツリとこぼす。
「悪いねぇ、得物が中々重たいモンでね」
誰に向けて呟いたわけでもないが、同じテントのオルフォーク・ザーナル(ec1004)が答えた。
「いや、それは関係ないから気にするな。半日遅れじゃそもそもが無理だったんだ」
今回の依頼では、これまでの情報からこちらの戦力が大きすぎると敵が手を出してこない懸念があった。ために、3人を先行させ襲わせる気にさせておいて、残ったものが遅れて合流して戦うという作戦を冒険者達は選んだ。
そのために、二つのグル−プは出発時期をずらしたのだ。が、結果としてちょうどいい宿がなく野宿する羽目になってしまった。テントや防寒具を持ってきていてるため流石に凍死などという事態には至らないが、キエフの冬空の下では、その程度では寒さを阻むことは出来ない。
「こうなると、明日はこのまままっすぐいくしかねぇな‥‥じゃないと追いつきそうにねぇ」
身体を震わせながら、オルフォークがぼやいた。
「そうかい、行くのかい。じゃ、気をつけるんだよ」
「ええ、ありがとうございます、色々教えてもくれて。セーラ様がついてるのできっと大丈夫ですよ」
心配そうな素振りで冒険者を見送る女性。それに、マイアが頭をさげて礼を述べて答えた。
結局、後続の者達が現われなかったことは両者に影響を与えた。
先行した冒険者達は後続が来てもお互い他人のふりの予定だったが、それでも既に冒険者と明かしてしまった以上、怪しまれるのは必然。その点からは都合が良かったが、これで後続は追いつくべき時間が分からなくなってしまった。そのため、結局前日自分たちがかかった時間から大体逆算して昼前には出立という運び。
そして、来なかったことにより最も大きな影響。それは‥‥
「ふむぅ、本当にあのコらだけなんかねぇ‥‥なら、悩む必要はないね!」
「結局シフールはあらわれなかったにゃー‥‥」
「まあ、元の情報でも女性と違って必ずいるわけじゃないそうだし、仕方なわよ。それより、そろそろ‥‥」
マイアの言葉にルイーザは外套の中の武器を確認する。宿で集めた情報によれば、この辺りでゴブリン強盗団の現われることが多いらしい。
確かに、潜むのにちょうどいい奥まで目が届かない森が広がっている。
「追いついてくれますかね、残りの方々は‥‥」
「そう祈るわ」
ため息混じりのソフィーヤの言葉に、マイアが短く答えた。
がさり、と茂みが揺れたかと思うといっせいに現われるゴブリン達。先頭に立っているのは他の者よりもしっかりとした二体の色違いのゴブリン――ホブゴブリン戦士とゴブリン戦士。後にも5体ほどのゴブリンとホブゴブリンが入り混じった集団を引き連れている。
「あー、これは持ちそうにないにゃ〜」
剣を構えて声を明るくしながらも、早々にルイーザの諦めの声。
「それならとりあえず‥‥逃げるわよ、ソフィーヤ君、荷物を馬に載せて!」
「‥‥そろそろっ!」
背後を確認しながらソフィーヤが言う。まだ走り出して然程もたっていないが、息が乱れていないのはルイーザだけ。このまま続けても距離が縮まりジリ貧になるのは目が見えている。
「そうね、時間も少しは稼げただろうし‥‥やるしかないみたい」
足を動かすのを止めた3人。ルイーザは即座に前に出て後の二人を庇う。マイアも息を整えると、すぐに詠唱に入った。
「‥‥やっぱり多いー!」
ゴブリン達の攻撃をひょいとかわしながらをルイーザは悲鳴。回避に優れているため彼女に攻撃が届かないが、押し留めることはできない。
「‥‥それなら!」
ソフィーヤの身体が光り、一体のゴブリン戦士をじっとみる。
すると、次の瞬間、ゴブリン戦士は味方に向かってむちゃくちゃに武器を振り回す。ゴブリン達に動揺が広がる。
「よかった、成功した――」
安心した様子のソフィーヤ。彼女が使ったのは魅了の月魔法、チャーム。高速での詠唱だったため、成功するかどうかも不安だったのだが、抵抗もされずに上手く効いたようだ。
「ソフィーヤ君ありがとう、おかげで完成!」
近付こうとしたゴブリンが何かにぶつかったようによろけた。今の混乱のうちにマイアがホーリーフィールドを完成させていたのだ。
「よしっ、これなら‥‥」
斧を振り回すゴブリンを軽くいなしながらルイーザは嬉しそうに呟く。数では半分以下の冒険者だったが、上手く立ち回ることで時間を上手く稼いでいた。
「遅くなった!」
ホブゴブリン戦士の斧が結界を破壊し迫ろうとしたところに、現われたのはラヴァド。両手に持ったナイフでダブルアタックを仕掛ける。それをホブゴブリン戦士は斧で薙ぐ。
「ちぃ‥‥」
お互いに攻撃を受け、揺らいだのはラヴァドのみ。流石にナイフではホブゴブリン戦士の鎧に阻まれ有効打を与えられなかった。また、野営明けでまっすぐ向かってきたことによる疲労が、彼の持ち味である回避力を鈍らせていた。そう浅くない傷から、血が流れる。
「そいつは俺に任せな、ヴァレロー、お前は雑魚どもを!」
傷を受けたラヴァドに更にたたみ掛けようとするホブゴブリン戦士の前に、ジャイアントソードを手に持ったオルフォークが立ちふさがる。
彼の指示を受けたヴォレロー・コーロビウス(ec1524)は、打たれ弱い者を庇うように位置を取りつつクルスソードを構えてゴブリンと対峙する。
「その傷ならすぐに治せるよ、少し待って!」
その隙にマイアはヴァレドに駆け寄り、リカバーを唱える。ホーリーフィールドは砕かれたが、後続が合流したことで幸い治療の余裕があった。
「はぁっ!」
ユーリア・プーシュキナ(eb9784)も日本刀を力をこめ振り下ろし、襲い掛かろうとするホブゴブリンを斬り捨てる。重さのない日本刀はあまりそういった使い方には向いていないが、それでもホブゴブリンの戦意と生命力を削り取るには十分だった。
「ちぃ‥‥やはり増援がいたか」
森の中で戦闘を見守りながら悔しそうに呟くのは宿に宿にいた女性。やはり雰囲気どおり、といったところかローブを着ていかにも魔女といった風体。その手にはスクロールが握られている。
「それにしては、おや、なんだか動きが‥‥ああ、成るほど、キエフの冬を舐めてるねぇ」
クルスソードを振るうテルティウス・ガルバ(ec1526)やオルフォークの動き、そして服装を確認して女性はクツクツと笑う。
「まだ勝機はあるねぇ。アンタ達も行きな!」
「‥‥まだいたのか!」
2体のゴブリン戦士が部下を引き連れ茂みから向かってくるのを見つけて、回復してゴブリンを相手取っていたラヴァドは忌々しそうに叫んだ。逆転した数だが、再び敵が若干上回ったことになる。
「くっ、早く倒れろ!」
ステップを踏みゴブリンの攻撃をかわしながらカウンターの一撃を叩き込む。が、元がナイフ。効いてはいるが一撃では然程の効果を発揮しない。相手を片付けるまでにはまだ時間が要る。
「何言ってんだよ、こんな奴ら物の数じゃねぇ、だろぉっ!?」
そう言ってオルフォークはジャイアントソードをふり抜くが、ホブゴブリン戦士はそれを盾で受けきる。オルフォークの動きは、はっきり言って通常時に比べて鈍くなっていた。
「ちっ、やっぱり防寒服は忘れるんじゃなかったな‥‥」
自嘲気味にオルフォークは呟く。寒さをしのぎきれない状態での野宿とここまでの強行軍は、流石の彼でも動きを鈍くしてしまっていた。はっきり言って、押されている。もしここで新手が加われば‥‥
「‥‥従って」
が、その危機も未然に回避された。新たに現われたゴブリン戦士の一体へソフィーヤが再びチャームを成功させたのだ。魅了された戦士は、ソフィーヤのために本来の仲間へと刃を向ける。
「凍えてなんか、いられませんね!」
その様子を見て気力を奮い立たせたテルティウスも、目の前のゴブリンへと刃を振るう。クルスソードが食い込み、ゴブリンは地に倒れた。雪が赤く染まる。その様子にゴブリン達に動揺が走る。後ずさりするものも出始めた。
「助太刀します」
リーダー格のホブゴブリン戦士はオルフォークとの戦いを有利に進めていたが、周りの雑魚を片付けたユーリアが助けに来たことで状況は覆った。ホブゴブリン戦士が振りかざした斧を易々と彼女は受け止め、返しの刃で叩き込んだ重い一撃をホブゴブリン戦士は受け止めることが出来ず、それが決定打となった。
「ちぃ、武器を壊してからだったのによ」
悔しそうにするオルフォーク。だが、本当に彼が一番悔しがっていたのは大切にすべき仲間のために、1人で戦い抜けなかったことだった。
「‥‥あっちの茂みに?」
ふと森の奥の方で何か動きがあったのに、ヴァレローは気付いた。
一瞬駆け出そうとも思ったが、この依頼、彼にとっては初依頼。なんとしてでも確実に、慎重に行きたい彼はまず周りに確認する。
「もしかしてあの女かシフールが?」
聞いたルイーザが教えられた方角を向くも、確かに動いてるような感じはするものの確証は持てない。それに、既に距離が離れすぎている。
「いや、もう無視! とにかくゴブリンを逃さないようにしないとね!」
余裕がないと判断したルイーザは目の前の掃討戦へと意識を戻した。
「まったく、ゴブリンどもったらホントに使えないねぇ!」
茂みを駆けつつ女は悪態をつく。
『フン、呆気ナイナ』
「‥‥いたのかい。まあ、いいさ。どうせ冒険者が呼ばれるってことはもう潮時だったのさ、あんな奴らとの関係を清算出来てちょうどいい」
『‥‥モノ捉エ様ダナ』
戦士格のゴブリンを倒すと、後は驚くほどあっけなく、現われたゴブリンを殲滅することが出来た。ティルティウスなどは、ゴブリンから情報を引き出せたらと考えていたようだが、流石に街中までゴブリンを拘束するわけにもいかず、どうせゴブリンが握っている、または理解しきれている情報なんて、とオーガに関して少しは知識のあるユーリアの言葉であっさり諦めたようだ。
かくして、街道に現われるゴブリン強盗団は全滅した。宿にいた老婆もシフールも姿を見せなくなったそうだ。やはり関与してる疑いは濃いが、これだけでは何の証明にもならない。結局、要領のいいゴブリン達の仕事も解明できなかった。
が、この結果は恥ずべきものではない。冒険者達は街道の平和を取り戻したのだから。