解読不可能

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月18日〜04月23日

リプレイ公開日:2007年04月30日

●オープニング

「コレなんです」
 そう言って、ギルドに訪れた顔立ちの整った青年は手紙を差し出した。受け取った係員は書かれた文面を見て怪訝な顔。
「‥‥なんだこりゃ、汚い字だな。えーと、おいおい、物騒なことかいてあるな、『無理矢理襲う、ベッドの中で』とか『北東が果てない』、『味方馬鹿だけ』とか。しかも、まったく意味が分からないし」
 困惑した表情のまま、係員は手紙を青年へと返す。やっぱり、そうですよねぇ、と深くため息をつきながら、青年は係員から手紙を受け取ると、もう一枚の紙を取り出した。
「僕も最初、これが送られてきた時全く意味が分かりませんでした。でも、もしかしたら何か重大なメッセージ、暗号なのかもしれない。送り主が意図的に分かりにくくしたのでは、と思い良く読み返してみたんです。‥‥そしたら、案の定、でした」
 そう言って青年はもう一枚の紙を差し出す。手紙とは対照的に、整っていて読みやすく、書き手の丁寧さも見えてくるような字面だった。
「これは‥‥そうか、元の手紙は字が汚すぎて読み間違ってために解読が出来なかったのか。そしてこの紙が、きちんと字をただして本来の文面にしたもの!」
 両手にそれぞれをもって、見比べながら係員はおお、と感嘆する。だが、ええ、と頷いた青年の顔は優れなかった。
 どうしたんだ、と疑問に思いつつも書き写された方の紙を読み進めていくうちに、係員の顔も次第に曇っていき‥‥そして、何度もその文面を見返す。
「おい、こ、これは‥‥直す前も意味が分からない文章だったが、これは・・・・直しても」
「‥‥ええ、解読、できません。いや、一つだけ、伝わってくる重要なメッセージが」
「ああ‥‥‥‥『アンタを無理矢理襲いたい。男男関係的な意味で』ということは」
 差出人の名が男性名であり、目の前の青年の容貌を確認した係員は、気の毒そうに、そう言った。


「それで心当たりは?」
「私、旅の吟遊詩人なんですが。この前酒場で演奏した時に」
 大きなサイズの木板に、『て・が・み』と書いて本人は柱に隠れながら必死にアピールしてくる筋肉ダルマ的中年を見ました。青年は泣きそうになりながらそう答えた。
「もうあの男がいるというだけで僕の演奏は乱れそうなんです! 今度の演奏は幸い広場。許可も取れました。そこで多くの人たちに聞いてもらえる機会を潰したくないんです! だから!!」
 その広場での演奏を邪魔されないよう、その男をとっちめて欲しい、青年はそう頼んだ。

●今回の参加者

 eb0516 ケイト・フォーミル(35歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5967 ラッカー・マーガッヅ(28歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec1053 ニーシュ・ド・アポリネール(34歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1103 アスタルテ・ヘリウッド(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2055 イオタ・ファーレンハイト(33歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)/ キドナス・マーガッヅ(eb1591

●リプレイ本文

 依頼を受けた冒険者が出て行くギルド入り口。そこに、一組のカップルらしき二人がいた。
「身の危険を感じたら、我慢しないで逃げてください‥‥何かあったら、私‥‥」
「任せて下さいー、頑張りますよー。ちゃんと替えの服も用意しましたしー」
 顔を赤らめ瞳を潤ませている女はシシルフィアリス・ウィゼア、見送られるはラッカー・マーガッヅ(eb5967)。想い人がいるのにこのような依頼で囮とは誠に不幸極まりない。見送る側も慙愧に耐えないだろう。なんか妄想とかしてこっそりうふふとか不気味に笑っているが、それはきっと気のせい。見なかったことにするのは記録係との約束だ。


 あら、こんな飲み物頼んでないわよ? いえ、あちらのお客様からのものです。
「もしかしてお気に召しませんでしたか、マドモアゼル?」
 依頼人が以前演奏したという酒場で、杯を贈られ愉悦を驚きと困惑で隠す女性に笑みを浮かべながら語りかけるのはニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)。申し訳なそうな顔をしながら、心の中では既に勝利を確信して顔に出ている以上に勝利の笑みを浮かべている。
「じょ、情報収集にきたはず、だよな?」
 そんなきゃははうふふなニーシュゾーンを呆然と見ているのは、同じくこの酒場に依頼人を付け狙う変態のことを聞き込みに来たイオタ・ファーレンハイト(ec2055)。彼はああいった「貴族の教養」に含まれる(?)能力についてはニーシュに劣るが、絶対にそれだけの差が問題なわけではない、とひしひしと感じる。
「やっぱ身長かにゃー?」
「ど、どうしてそういうことになるんだ! っていうか身長のこというなぁ!」
 情報収集をいつの間にか済ませたのか、イオタの背後に立っていたルイーザ・ベルディーニ(ec0854)がボソリと呟く。コンプレックスをばっちり突かれたイオタは、顔を真っ赤にして抗議。だがルイーザはどこ吹く風、涼しい顔だ。こうしてイオタは、天敵の存在を改めて噛み締めることになる。


「う、うむ。やはりあの男が依頼人が言っていた件の変態と考えて間違えないな。‥‥というわけで、頑張れ、ラク」
 そういってラッカーの肩を叩き励ますのはケイト・フォーミル(eb0516)。ほとんど声に出さずに、「お前という尊い犠牲は忘れない」と唇を動かしたような気がして、思わずラッカーは突っ込みそうになるが、確認したところで余計へこみそうだと考えて諦める。なんというか、既に犠牲が確定しているのもひどく切ないし。
「はぅ‥‥みなさん、救出は出来るだけ早くお願いしますね‥‥本当に」
 泣きそうな顔で仲間に懇願するラッカー。そんな彼に、
「まっかせない、『ちゃんと』時間通りに行くから。『間違いなく』、『本当に』、『絶対』よ?」
 とそのインパクトのある胸を張って約束するのはアスタルテ・ヘリウッド(ec1103)。義理人情に厚い彼女らしい台詞‥‥のはずだが、言い回しというかアクセントがもう前振りにしか聞こえない。
 御武運を、とラッカーに十字を切ったのは、彼の甥だっただろうか。


「――後はここいらの確認ね」
 さて、といった感じで広場を見回すアスタルテ。――と、彼女の名前を呼ぶ声。イオタだ。
 どうしたの、尋ねるアスタルテに変態が潜みそうなところをチェックしてきた彼は無言で指差す。
「あー、ありゃ情報どおりっていうか明らかっていうか‥‥あれ?」
「もう1人いそうですね。何を言ってったかよく聞こえませんでしたけど、歌がどうとか」
 しばらく見張る二人だったが、相手から動かない限りはどうしようもない。分かりやすい特徴を頭に叩き込むと、静かに二人はそこを離れた。


 演奏当日、予定より早い時間に現われた吟遊詩人――にミミクリーで化けたラッカー。広場の様子をチェックする振りをしながら、あたりを見回す。
 とそこへ、早速現われる件の変態。だが、様子が妙だ。仇敵に対するそれで、とても憧れの人に向けるそれではない! 咄嗟に危険を感じラッカーは借りた楽器に手を伸ばすが‥‥
「違うわ! 貴方ニセモノね! あのお方はそんな指遣いじゃない! もっとやさしく、包み込むように、撫でて‥‥。アンタはそんなあのお方を侮辱しているのよ、正体を現しなさい!」
「‥・・」
 声を上げて反論するわけにもいかず、沈黙するしかないラッカー。それを無言の肯定と取ったか、変態の発言は尚もエスカレート。
「‥・・つまりは、貴方はあのお方の評判を利用して成り上がろうとする偽者よっ! 許せないわ‥‥いくわよっ!」
 いつの間にか組み立てられた超理論の元、顔を真っ赤にして怒り狂った変態が声をかけるともう1人、比較的小柄な男が姿を現す。ただし、その濃ゆさは大して変わらないが。
「あのお方の音。私の詞。そしてこのコの声が合わさってはじめて私の理想とする音楽が完成するのよー!」
「その通りでございます。‥‥君の顔ぐちゅってするぅ!」
 そういって後から現れた変態の男は、世の多数には受け入れ難だろう質の奇声を発しながら飛び掛る。
「うきゅーっ!?」
 危うし、ラッカーの貞操!

 一方その頃。
「あー、ケイト、それ私のピロシキーッ!」
「ふ、ふぎゅ‥‥これはアスタルテが‥‥」
 何故かピロシキを持っていたアスタルテがケイトにくわえさせ、それでいてケイトが勝手に食べたかのような口ぶり。
「あーっ、ケイトちんにあたしもあーんしたいにゃー!」
「る、ルイーザ、何を!?」  
 しかもそれを目撃していたルイーザは、何故か羨ましがるわけで。何でだかケイトは顔を赤らめるわけで。
「‥‥って、何デスカコレハ。はやく助けに行かないと――」
 と見かねたイオタが促すも
「まあまあ、折角ラッカーさんが囮になってくれてるわけですから、もうちょっと男を見習いましょうよ」
 と引き止めるニーシュ。笑みが黒いぞ、ニーシュ。
「そうそう、そうカリカリしてると伸びるモンも伸びないにゃー」
「だっ、だから身長のことは――!」
 さらに乗じて、ルイーザがイオタをからかう。これにはさすがに黙っていられないイオタ。猛然と抗議。

 ――アスタルテは言った。「遅刻はお約束」と。
 ‥‥危うし、ラッカー!

「うぅ、皆さん助けて‥‥」
 いつの間にか衣服が裂け肌が露になり、筋肉豊かな男二人に壁際に追い込まれたラッカー。女と見間違われるほどの顔を恐怖に震わせている。
「‥‥ぱっと見すごい犯罪よね、アレ。どうみてもいたいけな女の子を襲っているようにしか」
「――いえ、逆に考えてくださいルーテさん。むしろ『女の子に見える男』を襲っている図の方こそより倒錯的でギルティな‥・・」
 そんな様子をじっくり観察しつつ至極真面目な表情で意見を述べるアスタルテとニーシュ。
「っていつまでさっきまでのたるい空気を引きずってるんですか!」
「記録係さん的にもこれ以上は困ると思うにゃ」
 そんな二人に、イオタとルイーザがつっこむ。ルイーザのほうからは既に疲労感しか伝わってこなかったりするが。
「とっ、とりあえずは説得だぞ! ‥‥おーい、そこの二人、お前達の行為はその吟遊詩人にも迷惑をかけているんだ、大人しく‥‥」
「きぃ、偽者の仲間よ!」
「あのお方を助けることが出来るのは私達しかいないわっ!」
 ケイトが半分も言い終わらないうちに説得は遮られ、二人のむさ苦しい変態は喧しくなる。殆ど計画通り! っていうか想定通りだった冒険者は、素早く実力で解決することにした。


「いやーっ、喉だけは喉だけはやらせないわーっ!」
「私の指を砕いて、詩を書けないようにしようって言ったてそうはいかないんだからーっ!」
 野太い悲鳴が広場に響く。それだけで二人を倒そうという冒険者達の士気はガタ落ちだ。しかも冒険者達は、街中でおおっぴらに得物を振り回すわけにはと自重して、殴打による接近戦を選んでいた。そのため、変態たちの反応を超至近距離で受けることになる、だがそれに屈するわけにはいかない。
 冒険者達は、依頼人が安全に、そして安心して演奏できるように。
 さらに、危険な囮を買って出た仲間を無事想い人の元へ返すために。
 そしてなによりも、この報告書をギルドに公開しても問題ないようにおさめるために!
 この戦い、負けることは許されないのだから。


 そんなわけで戦いは冒険者の側の勝利に終わった。具体的には、アスタルテの射撃にビビッてすくんだところをルイーザの背後からの一撃で気絶させたり、フットワークとか的が小さいその身体的特徴を生かしたイオタのアッパーが入ったところにケイトが投げをかましたりとか、ニーシュが「ダガーとポイントアタックと変態たちの男性としてのステータスと」に思い至り想像してつい青ざめたり、ラッカーの声が色っぽかったりした気がしなでもないが、あんまり詳しく書くと見苦しいのでコレぐらいが適当だ。

 というわけで捕縛後恒例の(?)説教タイム。ルイーザは何か疲れたから既に変態二人の側から離脱。‥‥ごもっともである。
「悔しい‥‥あのお方の力になれないばかりか、こんな連中に捕まるだなんて」
 涙で頬をぬらす縛られた男達。いまだ勘違い道爆走中。
「いやーあのー、俺、別にそういうわけで化けてたわけじゃー‥‥」
 距離をとりつつ弁解するラッカー。流石に襲われかけたばかりでは精神的に厳しい。ケイトがコホンと咳払いして、前に出た。
「う、うむ。きっとお前達にはすぐに受け入れらないだろうが――あの吟遊詩人はお前達の見られている恐怖で演奏が出来ないところまで追い込まれていたんだぞ。‥・・迷惑になるようなことはいかん。男なら、堪えないと」
 そんな、と目を見開く男達。付き纏っていただけ合って、最近の依頼人の不調には覚えがあるのか。
「‥‥貴方達の趣味を咎めに来たのではありません。ですが、男子たる者、恋をしたなら相手を思いやらないことは恥ずかしい! ‥‥そして、結ばれるだけが、恋愛の終わりではないんです」
 さらにニーシュが優しくも厳しく諭す。しばらく俯いていた二人だったが‥‥。
「うおーん、俺らが間違っていましたー!」
「愛を語ろうとするものが愛を分かってなかっただなんてー! あだぢに詞を書く資格なんてないんだー!」
 と相変わらずの濁声で泣き出した。どうやら分かってもらえたようだ。
「‥‥なら、演奏を聴きましょう。彼の前に姿が見えない位置で、ですが」
 イオタが優しくそう語りかけた。ちなみに頭を撫でようとして止めたのはみんなで見ない振り。
「――さーて、じゃああたし達も聞きに行くわよ! 出禁ももう大丈夫でしょうし!」
 アスタルテの掛け声と共に冒険者は表情を緩め、広場に向かった。

 もうすぐ、演奏が始まる。