鬼達に明日は無い

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:7人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月21日〜05月26日

リプレイ公開日:2007年05月30日

●オープニング

「チィイイイイ、下等ナニンゲン共ガァ‥‥」
 あの日、占拠していた村から落ち延びた悪魔は、痛む身体を抱えながら、彼の主から預けられた『使えない』人間たちと別れ、山奥へと向かっていた。
 深くなっていく緑、気配が増える獣など気にも留めずその悪魔は奥へと至る。そこにいるのは幾数ものオーガ。

 闖入者に驚きながら、一体のオーガが棍棒をその悪魔に向けて振り下ろす。何だか得体が知れないが、こんな小さいヤツ、何を恐れることがある、潰してしまえ、と。
 が、事実そのオーガの半分ほども無いその黒く醜いそいつは、潰れるどころか、傷も、痛みすらも無い様子で、悠々と立ち――憤然としていた。
「‥‥燃エロ」
 ボソリと呟いた悪魔は、ふいごから火を放ち、オーガを焦がす。オーガが痛みにのたうつ間に、ふわりと浮き上がって、その悪魔は子オーガへとふいごの先を向けながら呆然とするオーガたちへ宣言する。
「従エ、下賤ナ種ガ。サモ無ク、バ‥‥」
 オーガたちは否応なしに気付く。「コイツ」には勝てない。‥‥滅ぼしようが無い。
 そして、滅ぼされないためには、従うしかない。例えその先がほんの一縷の希望すら掴めない様な、破滅の道だったとしても。


「イイノデスカ‥‥今ハ、マダ‥‥」
 指令を出してオーガたちを向かわせたその悪魔に、恭しく部下らしき子悪魔――インプが尋ねるが、返された憎悪に満ちた視線に竦んでしまう。
「コレは我が任さレタのダ。ソレニ、別ノ『コト』にハ丁度ヨイヨウダシナ。ソシテ何ヨリ――我ハ、モウ、我慢デキン」
 先の戦いで負傷した箇所を押さえながら、怒りに打ち震える地獄のかまど番は、憎憎しげに言い放った。


「オーガの群れが村々を襲いながらキエフの方へ向かっている?!」
 じっとしてはいられない、と係員から依頼の話を受けた冒険者の1人がいきり立つ。が、受付嬢はそれを落ち着いた所作で宥める。
 仕方ない、と冒険者は席に着くが、今にも駆け出しそうな雰囲気だ。
「‥‥気持ちは分かりますが、まずは落ち着いてください。敵は、オーガやオー、ゴブリンなどの混成部隊。その中でも特に強力なオークロード、そしてオーガ戦士などが先頭に立ち率いているそうです」
 そして、この集団若干妙なところがあるのですが、そう受付嬢は淡々と続ける。
「村々を襲ってはいますが、手当たり次第というわけでなく、進路上近くのところばかりでモノを狙って収奪して進んでいるとか。そのせいか、あまり人の方の被害はないそうです‥‥もちろん、皆無ではありませんが。それでも、負傷した主な理由は奴ら阻もうとした者が殆どで、無抵抗だった者にはほぼ手を出していないとか」
 不可解ですよね? 尋ねるというより、確かめるような口調で受付嬢は冒険者達に話す。先ほどまで今にも飛び出しそうだった冒険者も、上った血を元に戻し、考え込む顔つきになっている。
「確かに妙な話だな。長く、そして遠くまで進めばそれだけ奴らの危険は大きくなる。それなのに、収奪も抑えて進めるだけ進んでいる、だなんて。知能は高くないとはいえ、狡猾な奴ららしくない」
 ようやく冷静になったみたですね、受付嬢は音を立てず、顔だけで少し笑った。
「全くその通りですね、現にこういった腕の立つ冒険者を集める自体にまでなっているのですから。‥‥さて、では依頼の本題です」
 本題? 冒険者の1人が聞き返す。既にやることは決まっていよう、と。
「数十体にもなる奴らを相手にするわけにはいかせませんよ。貴方がたには、その集団を率いる強力なオーガ種の相手をしていただきたいのです。敵重要戦力の切り崩し、を」
 受付嬢によると、勿論このような事態をこの公国の上が放って置くわけもない。ただ、さる事情によりそれなりに手の立つ者は今、ほとんど動かすことができない。地方も同様に、今はとても手元から放すわけにはいかないようだ。それで、冒険者にお鉢が回ってきて、効率よく倒すために頭の狙い撃ちによる混乱を引き起こし、一気に残りを叩けるようにしよう、ということらしい。
「全滅させるのは難しいでしょうが、上手くいけば怖気づいて散り散りになることもありえましょう。そうなればただのオークやオーガ、いかようにでも対処できます」
 そう言いながら受付嬢は地図を机上に広げ、キエフから1日と半程行ったある街道の1点を指す。
「推測される進路はここ。先に到着した兵達がそこにバリケードを作成し最後の防波堤とするそうです。ここをオーガたちなどに抜かれることは、あってはならないこと。皆様には、ここで戦ってもらうことになるかと思います。‥‥ご武運を」
 オーガたちがこのような行動をした意図は不明ですが、今は何よりも撃退が最優先、気にせず闘ってください。念のため、と一言付け加えて補足する受付嬢。たしかに今は猶予もない事態だ。
 恐らく、キエフを出発して3日目にはオーガたちも目指す場所に到着する。
 その日が、決戦の日だ。

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8769 ユラ・ティアナ(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea8794 水鳥 八雲(26歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4341 シュテルケ・フェストゥング(22歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

アール・アーツ(ea3403)/ ボボ・クバレル(ea9956)/ ニセ・アンリィ(eb5758)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

 空飛ぶ箒から降りたその姿をみて、バリケード作成していた兵達は感嘆の声を上げる。はじめに現われたのはジークリンデ・ケリン(eb3225)。その後に、調べものを終えたジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)。二人の魔術師は、そのまま辺りの地形把握や、防衛線の確認、偵察などを行う。今回先制となる奇襲は重要なため、念入りな調査が行われた。特に、ジークリンデの偵察の情報の密度は、さほど離れたところへいったわけでもないのに随分な濃さ。驚嘆して手段を訊かれたが、彼女は上品そうな笑みで「機密です」とだけ答えた。

 本来一日半かかる行程を多くの冒険者はアイテムや騎乗により短縮した。それは今回の戦いの性質――陣取っての防衛線、となっているところによるものも大きい。唯一徒歩で赴き、最後の到着となったシュテルケ・フェストゥング(eb4341)も、到着すると、徒歩の長時間移動による疲労を感じさせずに、兵達の工作の手伝いを買って出た。
 集結した冒険者は、偵察や防備の手伝い、各々に必要な準備をして、決戦に備える。
「それにしても‥‥奇妙ね。最近デビルが絡んでるきな臭いこと関連、なのかしら?」
 各自が成果を確かめ合い、情報を交換している夜、ひと段落ついたところでユラ・ティアナ(ea8769)が思わずぼやく。
「確かに妙だよな。そんなに今キエフでやってるパーティに参加したいなんて‥‥ってそれはないか」
 あはは、と笑うシュテルケに、アルフレッド・アーツ(ea2100)はん、と何か気付かされたような表情になり‥‥少ししてから考えを言葉にした。
「たしかに‥‥目的は‥‥そこ‥‥かもしれません‥‥。でも‥‥とりあえずは‥‥目先の脅威を‥‥取り除きましょう‥‥」
 例え黒幕がいたとしても、下を叩けば上も黙ってはいられないだろうから。アルフレッドはそう付け加えた。 



「――来た。話には聞いてたけど、随分いるね」
 はるか前方、普通の者には砂塵が舞い上がっているのが確認できるかどうかといった距離がある中、何人かの冒険者はオーガ達の接近に気付く。
 報告を受けてカイザード・フォーリア(ea3693)はさて、とオーラを身に纏わせ始めた。今回事前に使用するオーラの数が、彼は半端ではない。騎士にしては異例とも言える、ソルフの実の使用まで予定に入っていた。

 徐々に明らかになっていく敵影。先頭にはずっしりと歩むオークロード。詳しく調べていたジェシュファ曰く「臆病なオークにしては普通ありえない」行動だ。
「やっぱり身に着けてるものが見分ける目印になるんだ。これで兵士さん達が無理することは避けられるかな‥‥」
 オークロードやオーガ戦士が鎧を纏っているのを確認してシュテルケがほっと胸を撫で下ろす。オークとオーク戦士には装備の差異は無いが、それもその身から発される雰囲気でほぼ分かる。更に強力なオーガ達は前に固まっているのも見分けるのを簡単にするだろう。
 だが、たしかにこれは習性を知る者なら「異常」と気付く。オーガはともかく、オークの系統が前に出るなど殆どない。さらに、遠目にも分かる切迫した空気がその異様な雰囲気を強めていた。

 オーガ達は街道に陣取る冒険者、そして兵達の姿をついに認めた。オークロードが号令のように槌の先をこちらに向け、一咆え。そして雲霞の様に鬼達が押し寄せる。
 が、すぐさまその速度が目に見えて落ちる。地面が水で濡れぬかるんでいたのだ。が、それを何とか踏みとどまり尚もオーガ達は進もうとするが、そこへ急に煙が立ちこめ視界を奪われる。たちまち混乱に呑まれるオーガ。
 ――轟!
 そこへ爆ぜるは魔法の炎。先ほどの煙も、そしてこのファイヤーボムもジークリンデの精霊魔法によるものだ。耳をつんざく音共に熱気が辺りを覆う。その後一瞬の静寂の後に聞こえるはオーガ達の悲鳴。とんでもない威力で行使されたその呪文は、よほどの威力でない限り大した傷にならないはずの上級種へも、かなりの効果を発揮している。
「ちょっとは涼しくしてあげるべきかな?」
 さらにジェシュファのアイスブリザードが襲う。きっちりと敵を大量に範囲内収めたその一撃に、前にいたオークやオーガ達は満身創痍の様子を呈する。倒れてしまう者も、少なくない。
「――! まだやるっていうの!?」
 が、煙に覆われた空間をインフラビジョンで見ていたジークリンテが思わず叫んだ。飛び出してくるのは、オークロードを筆頭とする上位種。それに鼓舞されたのか、よろめきながらもオークやオーガ達が続いた。


――オオオォォオ!
 その数々の魔法を身に受けながら、いまだ怯む気配をみせないオークロードが槌を振り下ろす。大きな鎧との衝突音が響き渡った。
 が、しかし、それを身体で直接受け止めたカイザードに、傷みの色はかけらもない。
「こちらの番だ」
 静かに告げると同時、オークロードに叩き込まれていたのはジャイアントソードによるカウンターの一撃。元々相当な破壊力をもったその一撃に、闘気、そして強靭な腕力の分が上乗せされ、圧倒的なものとなる。常に厚い皮膚と重い装甲にその身を守られていたオークロードは、初めて感じる身を裂かれる痛みに悲鳴を上げ――がむしゃらに槌を振りかぶり、お返しとばかりに思いっきり振り下ろした。


「残酷だけど‥‥ここに至った以上、もう猶予はないしね」
 ユラの魔弓「ウィリアム」から放たれた2本の矢が、突撃して守りを破ろうというオーガ戦士の顔を射抜く。騎乗していながら正確に狙い打つその腕前は、正に達人そのもの。思わず頭を抱えるオーガ戦士へ、追い討ちの矢が飛ぶ。咆哮のような悲鳴と共に、オーガ戦士が崩れた。
 ――ガァァアアアア!
 仕返しとばかりに数体が襲い掛かろうとするが戦闘馬のノワールの機動力に敵うはずもなく。代わりに蹄がオークを襲った。だが数と勢いに任せて突撃してくる敵が尚も襲いかかってくる。
 だが、前に出たオーク戦士は、風を切る音と共に来た刃を受ける。アルフレッドが放つダガーofリターンだ。カイザードのオーラパワーにより力不足を補われたその攻撃を受けオーク戦士は足を止める。怒りアルフレッドに向かって咆えるが、残念ながらすでに十分な距離と取って飛んでおり、攻撃が届くことはない。
「こちらに‥‥気が向けば‥‥上出来‥‥です」
 ふわりと軽い身のこなしで空を旋回しつつアルフレッドは再びダガーを放った。

「さてさてこっちを気にしてもらわないと」
 陽動として動くと決めた水鳥八雲(ea8794)。上手いことに、と言っていいのか、彼女はしっかり囲まれていた。次々と繰り出される攻撃をなんとか機敏な動きでかわしながら、スタンアタックで反撃し意識を刈り取っていく。既に彼女の足元には気を失った2体のオーガが横たわっていた。実のところ繰り出した数はもっと多いが、相手の身体の頑丈さを思えば上出来だろう。
「――っ! まだ強いのいたの‥‥」
 が、順調に攻撃を避け続けていた八雲の肌に赤く滴る血。避けそこなったオーク戦士の一撃だ。
 が、そのまま捉えられるでもなく、後続の攻撃をかわした八雲は流麗な動きでオーク戦士の戦士の正面まで進み、神速の蹴りを繰り出す。十二形意拳・酉の奥義を受け、さらに魔法のダメージを刻み込まれていたオーク戦士は、ついに力尽きた。

「兵士さんたちのところへはいかせないぞ!」
 煙から出た敵はソニックブームとソードボンバーを合成した攻撃で迎撃していたシュテルケだったが、オーガ達が接近された後はひたすら剣で攻撃をさばき続けていた。その早熟な実力を思う存分に発揮し、いなし続けていた彼だったが、続く攻撃に疲労の色が見え――とうとうオーガ戦士の一撃が彼を捉えた。
「‥‥っ! まだまだ‥‥」
 傷口を押さえながら尚も退治しようとするシュテルケ。そこへ容赦なく戦士が攻撃を加えようとするが、その瞬間、オーガ戦士は雷撃を身に受け怯む。ジェシュファはスクロールを利用した一撃。
「僕達を忘れてもらっちゃ困るね‥‥そんなに好きにはさせないよ?」
 だが、さほど傷みを感じなかったのか再びオーガ戦士は再びシュテルケ目掛けて槍を繰り出そうする。その腕へ今度は突き刺さる二本の矢。ユラが急ぎこちらに向いて弓を構えていたのだ。
「今のうち、傷を!」
 生じた猶予に、シュテルケはリカバーポーションを使用する。たちまちにして傷が塞がり、動きに元の精彩が戻る。
「よっし、これなら行けるな!」
 年若いというよりあどけないといった表現の方が似合うシュテルケの奮戦に、兵達は守られてばかりではいけない、と意気込み囲ませないよう何とか防衛ラインを押し上げる。シュテルケの相手は正面の戦士に絞られる。やる気十分、といった様子でシュテルケは斬りかかった。受けきれないオーガ戦士の身体が裂傷が刻まれる。
 よし、と安心したユラが手綱を握りなおそうとした時、視界の端に移った黒い影。あれは小悪魔――?


 ――キィィィイイン!
 もし直撃すれば鎧の厚さも問題にしない程の一撃。それをカイザードはしっかり受けた。既にオークロードは満身創痍。実力差も考えると始めから分かりきっていた勝負。
 だが、その攻撃に正に鬼気迫るものを感じたカイザードは、容赦なくカウンターで一撃を返した。先ほどの比でない叫びが木霊し――オークロードは、地に伏した。倒れた振動に揺れる戦場。だがそれ以上にオーガ達が揺れたのはいうまでもない。
 ――ガァアアアァ!
 ボロボロになりながら立ち続けていた最後のオーガ戦士が、仲間のほうへ一瞬振り向き、なにやら告げるような仕草をした後、向き直り冒険者達に突撃を敢行する。同時に、残っていたオーガ、オークは一斉に逃走を開始した。
「仲間を‥‥逃がすための‥‥殿?」
 アルフレッドのダガーを受けながらその歩みを止めないオーガ戦士。退かない騎士を体現するカイザードは迎え撃てるよう備える。同じくオーガ戦士も最後の力を振り絞って槍を構えた。だが、その槍は何も貫くことはなかった。そのオーガ戦士の身が、ジークリンテのマグナブローに貫かれたから。
 ‥‥最後の上位種が倒れた。残りは背を向け傷ついた身体に鞭打ちながら逃走するただのオーガやオーク。
 兵達は気勢を上げ、追撃を開始した。


 散り散りになったオーガ達。配備された兵達が追い立てるのを冒険者達は手伝い、大部分のオーガ達は地に伏した。
 が、幾ばくかは散り散りになりながら逃走している。悪さを出来るような状態では最早ないだろうが‥‥如何するか。
「一掃出来るに越したことはないけど‥‥深追いは禁物ね。骨が折れるし」
「確かにね。もうほとんど魔力は残ってないし」
 あちらこちらへ分かれた小さくなったオーガの影を見ながらユラはぼやく。ジェシュファもそれに同意。彼に限らず、戦闘に魔力を要した者は疲弊しきっている。それだけ派手な戦いだったということだが。
「奪われたものは出来るだけ回収しようと思ったんだけど‥‥全然ないね」
 辺りを見回ったシュテルケは呟く。本当に、必要な食べ物ぐらいしかぐらいしかとってなかったのかな、と。
「‥‥すまない、後は頼む」
 突然、カイザードが呟いたかと思うと、卒倒して彼は倒れた。何事かと駆け寄る仲間。冗談でもなんでもなく、カイザードは衰弱しきっていた。呼吸すら弱々しい。死の淵にいる。
「‥‥あ‥‥オーラマックスの‥‥反動が‥‥」
 はっとなったアルフレッドは急ぎカイザードの持ち物からヒーリングポーションを取り出し、口の中へと流し込む。いまだ辛そうな表情だが、意識ははっきりとしてきたようだ。
「‥‥こういうことはちゃんと前もって言っておきましょうね」
 慌てた様子より呆れた色の方が強い無い八雲が、追加のヒーリングポーションを取りに行こうと、馬の方へと向かう。このまま放っておけないのは当然だが、もしかしたらその色っぽい肉体のラインが強調されやすい忍鎧を見せ付けるようにして「どう、エロスマート?」と色っぽい女性が苦手なあどけない少年シュテルケを弄ぶのに飽きたからという真偽の程が不明な隠れた事実があるのかもしれない。まあ、それはさておき。
 とそこへ、駆け込んでくるシフールの姿があった。息を切らせてやって来た。肩で息をするシフールは、冒険者達に重大な事実を告げる。

 ――怪僧、反乱を起こす!
 その報を聞いた冒険者達はきっぱりとオーガの追討を諦め、急ぎキエフへと帰路を取る。恐らくはこの戦いもその大きな流れの一端に過ぎなかったのだろう。そう考えれば、わざわざ冒険者に頼りない兵を預けた理由も、備えの一言で説明がつく。

 オーガ種の異常な行進騒動は収束した。戻ってことのついでにユラが報告した、戦場で垣間見た小悪魔の件は重要な情報となるのだが、それはまた別の話である。