StageRumble
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■ショートシナリオ
担当:長谷 宴
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月22日〜05月27日
リプレイ公開日:2007年05月30日
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●オープニング
「‥‥ふむ、出演の手配は取れたか。買わせろといったときは肝を冷やしたが、所詮は小娘の気まぐれだったようだな。手まで加えてくれると、むしろ感謝すべきか」
愉悦に顔をゆがめていた中年の貴族の男は、報告の続きを聞いて表情を一変させる。
「な、ダブルブッキングになってしまったので他の者もいれろ、だと!? ボルダンチュークの小娘がぁ!」
下手なごり押しをしようとすれば、腹を探られる口実になりかねない。引っ込めることも、同様に。
「油断ならない」と評判の令嬢の手のひらで踊らされ――そして既に退路を塞がれている。そのことに気付き憤然とし、報告書、そして件の令嬢が『わざわざお書きになった』文をその手の中で力の限り握りつぶした。
「演劇の依頼、ですか。場所は‥‥ああ、件の虫が巣食っていた建物ですね、郊外の。もう改装終えたんですか?」
「ええ、一通りは。冒険者の方のご配慮もあって順調に。完璧ではありませんが、使用にはもう問題ないかと。まあ、本当はもっと手入れしたかったんですけど、先方は待ってくれませんしね」
最後の言葉に疑問の表情を浮かべる受付嬢に、にっこりと笑って返すのはボルダンチュークの令嬢ルフィーナ。傍らに控えるハーフエルフの女騎士は、何故か疲れた表情をしている。
「いえいえ、こっちの話です。あ、それで今回題材は一応指定させて頂きます」
そういって差し出された羊皮紙に目を通す受付嬢。
「えーと、『役者がホンモノの武器を使用、または所持する作品』? ‥‥というより、募集をかける冒険者にある程度の実力を求めてるっていうことは」
落とした視線を元に戻し、問い詰めるような目を令嬢に向ける。
「あー、それと今回ダブルブッキングになってしまうので時間を分けて公演なのですが、そのもう一方の方々はその待遇に怒って、冒険者の皆様に危害加えようと企むかもしれないのでお気をつけて、と書き加えて置いてくださいな」
質問に答えず、さらに加えられるはおかしなこと。わざわざ冒険者ギルドに自ら足を運び、ダブルブッキングにしているのだ。しかもそれが危険に繋がると分かりながら。
だが、この依頼主が嫌がらせで出演者を増やすような捻じ曲がった性格の持ち主でも、わざわざ厄介なことを引き起こすような愚かさを持ち合わせていないことも、令嬢という立場の割に曲者であることを受付嬢は重々承知していた。ということはつまり、だ。
「‥‥大丈夫なんですか? わざわざこちらから人を向けたら警戒して空振るかもしれませんよ」
「世の中平和が一番、それで済むなら結構なことですよ。でも、多分そうはなってくれませんよ。目の前の大きな魚を逃すような方々ではありませんから」
真剣な眼光に切り替えた受付嬢が尋ねるビジネスの話に、ルフィーナはお茶会で世間話に興じるように返す。
「私が直接見に行きますからね。友人も一緒に。勿論ミレーナ、他数名ぐらいにも付き添ってもらいますが、またとない機会でしょうし。きっと舞台から飛び出してくれますよ」
一体なんという――受付嬢は舌を巻く。同時に傍らのお守りの女騎士には同情を禁じえなかった。これほど翻弄される主もそういないだろう。もっとも、今回本当に翻弄されるのは舞台に立つ者達、のようだが。
「――それで、ダブルブッキングって、どういうこと順番になってるんでしょう?」
「まずは冒険者の皆様、そして予約者の方々がそれぞれに。順番は舞台の設置の関係もあるから申請いただければその通りに。そのあとに合同でやっていただきますわ。合同の時には、相手の方の楽士が『ご協力』していただけるそうで」
冒険者の皆様が武器をもって舞台にいるとき、また舞台に晒されている間にはさすがに飛び出して主演となる勇気はないでしょうが、楽士に奮い立たされてお互いに舞台に上がっている時なら動く気もおきるでしょうね。そう、笑顔を崩さずにルフィーナは言った。
――ばれてるんじゃないか、もう? こんな分の悪いのは、もうやめて‥‥
――言うな。ここはキエフの喉元も同じ。事が起これば必ず重要な場所と成る。それに、わざわざ価値のある人質にもお越しいただけるのだから。
声を潜めて会話するのは、劇場へ赴く楽士や役者達。だが、その者達が運び入れる魅せるためのはずの小道具や楽器から漂うのは、紛うことなき、害意。
●リプレイ本文
依頼人を尋ねたアクエリア・ルティス(eb7789)は、割と久しぶりなヘタレだった頃から知り合いの騎士ヤーンに久しぶり、と挨拶。そのまま、彼の主へと取次ぎを頼んだ。
「分かりました、アクエ‥‥いえ、アクアさん。 えーと、それで、一体?」
「んー、事情も聞きたいし、ちょっと、頼みたいことがね」
少し不思議そうな顔をしてた尋ねるヤーンに、少し考えながら答えるアクア。ちなみに、愛称で呼ばなかったところを言い直したのは、彼が足元で小さくゲシゲシと脛をけられたことに恐らく起因するが勿論秘密だ。
「なるほど‥‥面白いですね、ちょっと待ってくださいね」
アクアの話を聞いたルフィーナは、うんうんとどこか楽しげに頷いていた。事情を聞くのもそこそこに提案したアクアの策が気に入った模様。大体依頼の背景を理解してくれていたことも理由の一つだろう。まあ、貴族の心得は一応ある者には、色々しがらみや立場による面倒などはそう分からないものではないのだろう。
「はい、出来ました。こんな感じでしょう。一応貴女に合わせて言いやすいようにはしてあるので」
「は、はい、それはありがとうございますっ!」
ゲルマン語会話があまり上手くない点を付かれて顔を赤くし思わず恐縮するアクア。それでも嫌な顔されずに相手をされたのは育ちのよさそうな見かけどおり礼儀はきちんとしているからだろう。そんなアクアにと・こ・ろ・で、言ってずいっと迫るルフィーナ。
「‥‥え、えーと、言わなきゃダメ?」
「勿論、私依頼人ですし♪」
「そ、それで話したのか? というかよく生きてかえってこれたな?」
愛想のない表情だが、少し頬を赤く染めてるような気がしないでもない顔をして、愛しそうにまるごとこっこを撫でるジュラ・オ・コネル(eb5763)は、戻って来たアクアの報告に驚愕する。
「いやだってあたし脚本家違うし。っていうか話を聞いて嫌にノリノリだったのがあの令嬢の怖いところね。まあ、今回の話でドニエプル川に沈む役は‥‥」
そう言ってジト目をむけるアクア。お前ら何演じる気だ。
「‥‥流石に建物に大掛かりな細工をしている余裕はないみたいですね」
劇場を廻って確かめながら、カーシャ・ライヴェン(eb5662)はほっとため息。依頼人の意図を汲み取って考えると、何かしらされる危険性は高い。もし上演中に梁なんか落ちてきたらそれこそどうしようもない。そう思い見回ったが、どうやらそこまでの心配は杞憂なようだ。
「カーシャ、良いですか?」
「あ、はい」
レドゥーク・ライヴェン(eb5617)から声がかかり、戻るカーシャ。劇の打ち合わせ・練習もしなくてはならない。
練習日はあっという間に過ぎ、本番。客席は結構な埋まり具合だ。ダブルブッキングというアクシデントが合ったが、計3種が見れるということで逆に評判になったのかもしれない。
まあそんなわけで冒険者の劇が始まる。時間もないし、とギルドの報告書から適当に漁ってきたものをアレンジして演じるわけだが。
「ちょ‥‥ちょっとあの役って!?」
「‥‥あら、言ってなかったかしら?」
「な、何で私が嫉妬なんか!? っていうかあの時私を追い出したのはこの話を聞くためだったんですね?!」
「ええいうるさい静かにしなさい!」
固まるヤーン。分かってて楽しげに笑うルフィーナ。ミレーナの顔が恥ずかしさで赤く染まり、ルフィーナ友人の某強気な令嬢はその騒々しさに怒る。
とまあ、そんな感じで大惨事な客席。
「‥‥何と言うか、随分と恐ろしいものを作り上げてしまいましたね、私達は」
客席の惨状に唖然と成しながら、篭手でいなすレドゥークは呟く。演じながらも警戒はしているが、中々難しい行為だ。
「っていうか言ってなかったのね‥‥」
尋ねた日にルフィーナに追い詰められ粗筋を話したアクアは、中身を知っているのが未だに彼の油断ならない令嬢のみ、という状況に畏怖すら覚える。絶対敵にしたくない、と。まあ、舞台上では敵に回っているわけだが。
「ふう、我ながらいい崩しっぷりだったな‥‥ミレーナさんは上手く顔が赤くなったりしてたし」
そんなこんなで波乱万丈な冒険者の演目が終わり、相手の楽士の演奏時間。充実した様子のジュラは、まるごとっこを着てパトロールに励んでいた。断っておくが、彼女は大真面目だ。傍から見れば、大きなニワトリが汗をかきかきうろついている様にしか見えなくても。
と、そんなこっこもといジュラの視界に、恐らく相手が次に使用するだろう器具が入る。ほぼ連続して舞台にいることになるので、控え室から持ってきておいたのだろう。
「‥‥‥‥」
人気がないことを確認しながら、ジュラは慎重にそれらに近付いていった。
「演奏自体はそれなりにいいですね。こういう機会は滅多にありませんから丁度良いかもしれません、しかし‥‥」
「ええ、微妙に人相が悪い人やがっちりしている人もいるとか、そんなことよりも」
レドゥークとカーシャ、休憩時間に二人は客席で聴き続けながら、有事がないようにと監視していた。だが問題が一つ。
依頼人周辺の騎士から向けられる視線が痛い。気のせいじゃなく。
本来この責を負うべきニワトリがこの場にいなかったのが恨めしいとか何とか。
「愚かな人間め、貴族として動くのにとても便利だったわ。王国を陥れるための手は進めてある」
合同劇もクライマックスを迎える。アクア演じる悪役は、自ら悪魔であることを明かす。
「次の狙いは私の邪魔をするように動き、キエフ郊外の建物を私にせんじて確保した貴族の令嬢。そのための手は、既に打った。もう、私の手の者が潜んでいる」
その台詞に、劇場は水を打ったように静まり返る。いくら演劇とは言えデビルを演じる、ということを不快に感じた客もいるだろうが‥‥それだけでは、ない! このルフィーナに頼んで書いてもらった色々と言われては拙い台詞を聞いて黙っていられないのは、観客では、ない!
「ちぃ、だまってりゃあお前らは放っておいても良かったのにな!」
『楽士』の中からどこに仕込んでいたか武器を手にした者達が飛び出してくる。と同時に、音を奏でて魔法を紡ぎだす者も!
「ヤキマワル家のごろつきども、お前たちのやることはぜーんぶまるっとお見通しだ。この舞台から五体無事で降りられると思うなよ」
まだ舞台が続いてるかのように堂々とたんかをきったジュラに、どこの家だよ、とか呟きながらファイター風の男が斬りかかる。が、ジュラはそれを軽い身のこなしで避けると、劇でも使っていた霊刀「ホムラ」の刃を走らせる。
「ふ、またつまらぬものを‥‥ちっ」
が、尚も鋭い剣筋で反撃してくる相手に、決め台詞までは言えない。当たるならシュライクを使用し一気に決着を、とも思っていたが、さすがにそのような手が通じるほど易しい相手ではなさそうだ。
「愛ある限り戦いましょう、この命燃え尽きるまで、美女仮面クラースヌゥィ!」
劇の行方が怪しくなったところでこっそり懐に手を入れて用意しておいたマスカレードをつけてカーシャは名乗りを上げながら、カーシャはキューピッドボウから矢を放つ。
「‥‥このっ! ふざけやがって!」
が、短刀を手にした俊敏な男は軽い身のこなしでその矢をかわし、距離をつめる。そのまま刃がカーシャもとい美女仮面を襲うかと思われたその刹那!
「真紅の騎士『仮面レッダー』参上!」
同じくマスカレードをつけたレドゥークが、名剣「ベガルタ」を振るいその攻撃を防ぐ。そのまま武器を叩き落そうとディザームを仕掛けるが、相手は何とか衝撃に耐える。
「そう上手くはいきませんか‥‥」
しかしこれまでの感触から、剣の腕なら自分優位。そう感じたレドゥークはまっすぐに斬りかかった。が、相手はステップを踏み何とか剣先から逃れる。一筋縄でいける相手ではなさそうだ。
‥‥しかし、顔を隠すマスカレード、素顔で舞台に立ったあとに身に着けてもあまり意味は無いような。
「――させないわ!」
客席の方へ飛び出そうとする男へ突撃の一撃を放つアクア。ぐぅ、と刃を突き立てられ苦しそうな顔をする男。だが傷はそれほどでもなく、剣で反撃する男。アクアはそれをライトシールドで凌ぐが。
「――きゃっ!?」
魔法が彼女を襲う。そこにたたみかけようとする男。
だが、振り下ろされた剣はアクアの眼前で止まる。
「たとえ劇場の興行主が許しても、この美女仮面クラースヌゥィが許しません!」
客席に被害が及ばないようにと気を配っていたカーシャのコアギュレイトが、その動きを許さなかった。
「‥‥な、なんで仕込んでいたこれが!?」
「手品の腕がこんなところで役に立つとは‥‥」
一人目を切り伏せたジュラはそのまましこんでいたはずの得物が抜けずに混乱していた男を斬り捨てる。おそるべしこっこの工作。
さて、と観客席に目を向けるジュラ。想定通り依頼人達貴賓の下にも敵がかかっっていたが騎士達がそれ以上の接近を許していない。
安心したジュラは舞台上の敵の相手に戻る。こちらも余裕があるわけでない。
やがて、迅速かつ損傷の少ない制圧の不可能を悟った敵のリーダー格の者が撤退を告げ、敵は去って行った。この判断には恐らく、時を同じくして起こった領主軍の反乱が鎮圧されたことも関係しているのだろう。冒険者達の戦いも苦しかったが、守りきることが出来た。傷を負ったものも、幸いカーシャのリカバーで癒すことが出来た。
この後怪僧の反逆の報を聞いた冒険者達はこの戦いの意味を悟った。おそらく先ほどの者はその息がかかった者。ここを制圧して、助けとするつもりだったのだろう。だが、その意図は挫くことができた。冒険者達の、勝利だ。