バーニング・フォース

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月09日〜06月14日

リプレイ公開日:2007年06月17日

●オープニング

「グザファン?」
「ええ、ふいごを使うデビルといったらそいつで間違いないでしょう。炎を扱えるデビルは他にもいるけど、かまど番に相当するデビルはそいつだけね」
 二ヶ月ほど前、とある村を襲ったデビル。その時の冒険者の報告にあった特徴をしかるべき知識を持ち合わせた人物が判断した結果、その正体が判明した。グザファン、地獄のかまど番であり、下級と呼ばれるデビルの中でもそれなりに強力な能力を持つもの。
「そのふいごのほかにも、いくつか火の魔法を使えるわね。最も厄介なのはやはりそのふいごなのだけれど」
 そう言いながら、受付嬢は地図を冒険者の前に広げる。
「さて、肝心の依頼なのだけれど。そのグザファンが姿を消した場所の近くで、最近小悪魔の姿がちょくちょく目撃されていたみたい。そして少し離れたこちら――オーガ種の大群が、不自然ともいえる行進を行った場所。既に撃退されほぼ壊滅させられたとの情報ですが‥‥監視するような小悪魔の姿をみた、と」
 受付嬢の指先が動き、一つの山の方を指した。
「敗走するオーガを追いかけたところ、この山に方へ逃げ帰ったそうです。そう、最近よく小悪魔が目撃された、そのすぐ側の」
 関係があるかどうか、はっきりとは言えません。そう断ってから、受付嬢は続けた。
「ですが、今のところ、最も疑わしいといえるでしょう。皆様には今回、オーガ達の追討ということでこちらに向かっていただきます。以前からの情報で、こちらにはオーガ種の集落があるということですし。ただ、オーガ達が『もし』さした近隣への脅威でなく、それ以上の脅威があったとしたら」
 臨機応変な対応で構いません。そう、告げた。


 ほとんどが死の行進に参加させられ、閑散としたオーガの集落。残っているのはまだ成長しきってないもの、また既に年を取って満足に動けない者ばかり。そこへほうほうの体で戻って来たオーガをみたグザファンは憤怒の表情を浮かべるとすぐさまふいごに手をかけ――オーガに火球を放った。断末魔の悲鳴を上げ――倒れる。
「コノ下賎ナモノガァッ! ムザムザ戻ッテアトを追ワレレバドウナルカァ‥‥ナゼ死ンデコナイッ!?」
 驚愕と恐れ、そして怒りを堪えてその様子を見ていたオーガ達をグザファンは見回す。
「ナニヲシテイル‥‥サッサト、備エロ! コイツノ所為でココマデ襲ワレル!」
 怒りに触れないように、と倒れたオーガへ無念そうな視線を一瞬向けながらオーガ達は散っていく。そこへ急ぎ飛んでくるインプ。
「‥‥ドウシタ?」
「ア、辺リハ既ニ人ガ抑エテイマス。逃ゲ出スノハ最早‥‥」
 振り返ったグザファンの視線につまるインプ。グザファンは怒りに塗りつぶされていた。
「逃ゲル、ダト? ソノヨウナコト、スルカ。来ルノナラ、タタキツブス」

●今回の参加者

 eb5072 ヒムテ(39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb7341 クリス・クロス(29歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8120 マイア・アルバトフ(32歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ec1023 ヤグラ・マーガッヅ(27歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec1103 アスタルテ・ヘリウッド(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1500 マリオン・ブラッドレイ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1876 イリューシャ・グリフ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2055 イオタ・ファーレンハイト(33歳・♂・ナイト・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ 藺 崔那(eb5183)/ 陰守 森写歩朗(eb7208

●リプレイ本文

「ちっ‥‥いると分かってるのに、手の出しようがないとはな」
 その指に嵌めた石の中の蝶のはばたきを確認しながら、前方を見てヒムテ(eb5072)はほぞをかむ。
「全部位置射抜くわけにもいかないしねー。これはやられたわー」
 重装備に身を固め、狙いを定めようと強弓「十人張」に矢を番えていたアスタルテ・ヘリウッド(ec1103)も、諦めたようにため息一つ、戦闘姿勢を解いた。
 二人とも、以前グザファンが現われたとされる依頼の時の経験から、デビルが見張りを立ててくると想定していた。その姿を変える力を利用し、ただの動物となり見る者を欺くことで。しかし、それもデビルの存在を感知する石の中の蝶があれば発見できる、といった算段だった。確かに、大体の距離すら羽ばたきの激しさで現してしまうその指輪の特性を利用する有効な作戦だったろう。ある程度開けた場所ならば。
「ここで鳥が一羽飛び去ったら羽ばたきが止まった。とかならばどうにか手の打ちようもあるんだが‥‥」
 眼前の広がるのは道と言っても人より動物が通りそうなもので、しかもうっそうとした森の中。動物の数も多すぎる。
「見張りするなら鳥、だと思うんだけどねー。‥‥飛んだわね! どう?」
「相変わらず元気に羽ばたいてくれている」
 見張りを素通りするのは癪だが、冒険者達はこのまま進むことにした。動いていないなら報告されてもいないはず。そう願いながら‥‥。


 まだ朝日も完全にキエフの大地を照らしてもいない早朝に、冒険者達は集落目指して進んでいく。
「さすがに夜明けと同時に、っていうのは無理でしたか‥‥。と、大丈夫ですか、アスタルテさん?」
 遅れ気味のアスタルテに向かって、イオタ・ファーレンハイト(ec2055)が声をかけた。鎧から弓に至るまで重量のあるものを選んでいたためだ。
「ゴメン‥‥さすがに馬をここまでひっぱてくるわけにもいかなかったねー」
 そう言って頭をかくアスタルテ。まあ、イオタは一言置いて答える。
「まあ、バレてる可能性高いから今更、って気も。やつらの狡猾さときたらハンパじゃないしな‥‥だからこそ、今度は絶対にとり逃せない」
 前回も被害にあったのは無辜の民。そのようなことはもうさせない、騎士として、イオタは心の中でそう決意した。


「さて見えたぜ‥‥ここからじゃあオーガしか見えんが‥‥まだ指輪も大人しいし、行くか?」
 視力のいいヒムテがはじめに敵陣を確認して、仲間へ振り返る。矢を取り出し、いつでも番える準備は済み。
「そうねぇ‥‥気付かれていると不味いし、さっさと強襲をかけましょうか? まったく前回の騒ぎに続いてまたデビルだなんて‥‥犬にかまれて地獄に落ちてしまえばいいのよ、悪魔なんて」
「地獄に落ちろって‥‥あんま詳しくないが、それってただの里帰りじゃねえのか?」
 マイア・アルバトフ(eb8120)の呟きに、イリューシャ・グリフ(ec1876)は笑って答える。何だか堅くなっていた空気も、少しほぐれた。おちゃらけ効果か。
「ま、もう少し近付いてから行こうぜ。ここからじゃあ俺らは見れねーし」
「そそ。あたしも射程範囲だけど見えないし」
 イリューシャの言葉に、アスタルテも同意する。あと少し近付いて、それから強襲だ。


 三本の矢が風を切る音。そしてその直後、その矢は一番住処から離れてうろついていたオーガへささり、悲鳴が上がる。それに反応して、矢が飛んできたと思われる方向へオーガ達の注意が一斉に向いた。
「行くぜ行くぜ行くずうぇっと?!」
 同時に駆け出した冒険者達、特に名剣「スケヴニング」を携えたイリューシャは意気揚々と乗り込んだが、その眼前、突如爆発が起こり慌てて爆発から身体をそらす。
「これが敵の炎‥‥ってお嬢ちゃんかよ!?」
「うるさいわね‥‥ちゃんと『今のは』巻き込んでないから大丈夫でしょ。性質上最初に使わないとどうしようもないし‥‥それに、とっととその生意気な悪魔に出てきて欲しいのよ。火の魔法を使うだなんて‥‥」
 振り返ったイリューシャに、不機嫌そうにしたマリオン・ブラッドレイ(ec1500)がそっけなく答える。その忌々しそうな口ぶりから、因縁こそないもののグザファンには相当思うところがあるらしい。
「一応耐火装備つけてますけど過信はできませんから‥‥せめて声を」
「ならあんた達は大丈夫よ。それに好きで巻き込もうとしてるわけじゃ無いし仕方ないじゃない。私も目的を果たしたいだけ、さっさと眼前に集中して頂戴」
「はい‥‥」
 同じく巻き込まれかけたイオタも注意を促すが、逆に丸めこまれる。嗚呼悲しいかな下っ端属性。ちなみに、彼の言ったように今回グザファンの炎を警戒してスヴァローグの篭手やイフリーテリング等、炎に対して加護を受けた装備をつけてる者が多い。


(見たところ脱出に使えそうな道はありませんね。あくまで押し返すつもりでしょうか‥‥おや?)
 後方で戦場の様子を確認していたヤグラ・マーガッヅ(ec1023)。オーガ達が向かってくるにつれ、だんだん奥のほうも見やすくなり見えてきた影に気付く。
「やっぱりいましたか‥‥インプたちが来ます! それに、奥のほうにインプやグレムリンとも違う別のものが!」
「ああ、マジであの時のデビルじゃねぇか!」
「もうちょい近くないと狙えないわね‥‥オーガはたのんだわねイオタ君!」
 ヤグラの声に弓を持つ二人が反応し、狙いをつける。既に一度遭遇済み、間違うはずも無い!
 先ずヒムテの梓弓からまっすぐ放たれた矢が、向かってくるインプやオーガ達の間隙を縫ってグザファンのもとへ至る。その矢にグザファンは反応するものの、全く動かない! 矢が突き刺さる。
「なっ‥‥?!」
 だが、矢の震えが止まった直後の光景にヒムテは思わず絶句する。たしかに手ごたえはあった。はっきりとは聞こえていないが刺さった音もあったはず。だが。
「空中に浮いてる‥‥そんなまさか!」
 遅れて狙いをつけられる位置まで移動したアスタルテも驚愕の表情。矢が空中で静止するなど、そんな馬鹿な! 心の惑いを払拭するように力強く弓を引きダブルシューティングを放つ、が。
 彼女の矢もまた、グザファンに届くことなく空中に留まる。だが、そのときの変化をヒムテは見過ごしていない。
「刺さってはいる‥‥そんな動きか。あれは‥‥」
『良クヤッタ‥‥イイゾ』
 グザファンの声と共に、透明化していたグレムリンが姿を現す。既にダメージがかなりあるのか、完全に覚束ない動き。
「ほんっとうアンタ、いっつも誰かの後ろにいるのねー‥‥すこしは自分でも痛みを知ってみたらどう?」
 半ば呆れた表情のアスタルテが再び番えようとする。
『後ロニ居ルノハ貴様ラダ、ダガ‥‥』
 その様子を、余裕を持った笑みで見るグザファン。見渡すヤグラはその意図に気付きハッとする。
「インプが二人に集中しようとしています‥‥通しては!」
 前衛がオーガの相手をしている隙を突き後方へとインプ数匹が向かってくる。
「させない!」
 ペガサスを引き連れた神聖騎士、クリス・クロス(eb7341)が大脇差「一文字」を振るい一匹を捕らえる。さらにペガサスから白い光が放たれインプを射抜く。
「デビルの跋扈は許せませんからね‥‥それにしても数が!」
 更にもう一太刀浴びせ、インプを墜とすクリスだったが、まだ逃したのが数体、後ろに向かっていく。
「‥‥撃つわよ、離れなさい」
 そのインプたちを襲ったのは、マリオンのファイヤーボム。既に近づいていたためマリオンも巻きこまれてしまう。
「ちっ‥‥まったく悪魔如きが手を煩わせて」
 爆風を浴びながら呟くマリオンは傷を押さえる。抵抗こそしたできたものの元々が頑丈ではないのでたとえ初級ランクでもそれなりに傷になってしまうのだ。
「マリオンさん、はやくこっちに! 今結界を張りますから」
 ホーリーフィールドを張りそこでリカバーをかけようとマイアがケルティック・ハイクロス+1を手に詠唱を始める。口惜しそうにしながらマリオンもそちらへ下がる。と同時、爆発をくぐり抜けインプが近付く。
「しょうがないわね‥‥あいつらの攻撃なんて受け止め‥‥っ!?」
「くそっ‥‥どこから来た‥‥そういうことか!」
 標的をインプに変えようとしたヒムテとアスタルテを襲ったのはどこに潜んでいたのか猫や大ガラス。襲い掛かられヒムテは狙いが定められず、アスタルテに至っては番えることすらままならない。この襲撃の理由をヒムテは振り払った時に目に入る石の中の蝶にて悟る。
「くそっ‥‥こいつらもデビルか!」
「そうか、石の中の蝶じゃあ何匹も近くに居る時は警戒には‥‥マイアさん、ホーリーを! 治療は私が」
 ヤグラが駆け寄りながらそう叫ぶ、が、次の瞬間ホーリーフィールドの前に現れたインプの牙が聖なる結界を解呪する。ニヤリとわらいそのまま襲おうとするところを、クリスの刀が阻む。
「前線は後回しですね‥‥」
 彼が庇う間にマリオンとマイアは距離をとり、ヤグラも合流。今度はリカバーの詠唱をヤグラが始め、それを確認したマイアも続く。
「一度はセーラに蹴られてしまえばいいのよ、あなたたちは」
 マイアのホーリーがインプを襲う。それにしても蹴るだんなんて慈愛神らしくない表現。


「しまった、アスタルテさん! ‥‥このっ!」
 チラリと背後を垣間見た隙を狙ったオーガの攻撃を篭手で受け止めたイオタは、シャスティフォルを思い切り振るい逆に打ち倒すと、もう一度振り返り戻ろうとする。その様子を目に留めたイリューシャはスケヴニングを構えつつ距離を取りながら、声をかけた。
「後ろの敵程度なら何とかなるはずだ。オーガ達はここから通さねえし‥‥何より倒すべき相手いるんだろ、任せな」
 そう言って目配せをしたイリューシャはオーガへ向かって突進。勢いのあるチャージングの一撃は生来頑強なオーガを揺るがす。
「今のうちだ、頭を叩けば‥‥ちっ!」
「大丈夫、通してあげるわよ」
 なおも立ちはだかり進路を塞ぐオーガにイリューシャは舌打ちするが、そこに後ろから来る声。そして――爆発。
「うおっ、こんどこそ本当に容赦なく巻き込みやがった!」
 マリオンの援護(?)のファイヤーボムに叫ぶイリューシャだったが、イフリーテリングの加護か、何とかかすり傷。そして同じく加護を受けた装備で傷を最小限に抑えたイオタは、混乱したオーガ達の間を抜けている。
「今度は取り逃さない‥‥地獄に帰れ、グザファ‥‥っがぁ!?」
 既に取り巻きもいない中振り上げた剣を下ろすだけ。それだけで打ち倒せる。眼前まで近付きそう信じていたイオタは突然のことに何が起こった理解が出来なかった。ただ、自らの体が焼かれたということを除き。
 後ろで見ており、しかも火魔法の使い手のマリオンにはそれがファイヤートラップのものだと見抜けたが、突然の出来事にイオタの思考は止まる。
 そこに、ニヤリと醜く笑みを浮かべたグザファンが、ふいごを構えた。さっきの炎もまた抵抗は出来た。傷はそう深くない。気を据え直して剣を振り下ろそうとしたイオタだったが、ふいごから放たれた火が襲う方が速かった。


『我々ヲ見逃セ』
「‥‥っ、何を!」
 猫やらカラスやらに完全に妨害目体で襲い掛かられ、狙いを定められないヒムテたちに、インプが言葉を投げかける。あまりにも馬鹿げた内容に嘲笑うヒムテだったが、体がその言葉に力を感じる。何とか集中して抵抗したが、確実にその言葉がただのものではないと悟る。
「これもデビルの魔法‥‥ってやつかねー?」
 同じく感じるもののあったアスタルテが苦し紛れに笑みを浮かべながら何とかインプたちを振り払おうと動く。単純な攻撃ならその鎧や受けの戦闘技術でどうにでもなるが、弓周りで引っ掻き回されてはどうしようもない。特に機動力を失った装備では。
「このままじゃ‥‥っ!」
 前方でイオタが炎に包まれるのを見て一層焦りが募るが、動きが取れない。このままでは直接の格闘に弱い者が多い以上、一気に押し切られかねない。
「仕方ないわね‥‥少し我慢してなさい」
 そこへ急ぎ戻るマリオンの姿が目に入る。彼女の言葉を理解すら否や、高速詠唱で紡がれたファイヤーボムが飛んできた。
 ――轟ッ!
 爆発がおこりアスタルテやヒムテ達ごとデビルたちを炎に巻き込む。インプたちは悲鳴を上げ、また動物となっていたインプたちも慌てて変身をとく。弱い身体のままでは危ない。
 だが爆風が収まったあとに彼らを待っていたのは弦の音。至近距離から魔法効果のかかった矢がインプを射抜いた。
「まったく‥‥無茶するわね。もろに直撃よ。問題ないけど」
「ちょっと痛むが‥‥大丈夫だ、次!」
 今度は巻き込まれないように、と急いでヒムテは距離をとるが、アスタルテは重装甲でどこ吹く風で矢を番えている。その様子を見てマリオンはふっと笑い、さらにもう一度のファイヤーボムを放った。
 再びインプたちの悲鳴。劣勢を悟り引き返そうとするところに、白刃が光る。
「滅しなさい‥‥!」
 クリスの刀が閃き、インプたちは力尽きていく。


『グゥオァ!? 邪魔ヲ‥‥』
 イオタへ爪を振り下ろそうとしたグザファンを襲った白い光。痛手だったようで受けた箇所を抑えながら、ホーリーを放ったマイアを睨みつける。
「抵抗できないものね‥‥徹底的に浄化されるといいわ」
 だがマイアは臆せず、再び詠唱を始める。
『‥‥チィ』
 一瞬、ふらつきながら立ち上がろうとするイオタに目を向けたグザファンだったが、目標を変えマイアたちの方へ向かう。阻もうとする咄嗟に放ったイオタの剣は、かわされてしまう。が、今度はそこへイリューシャが立ち塞がる。
「残念、オーガたちは早々に倒れたぜ‥‥やる気、ないのかもなぁ?」
 ニヤリと笑みを浮かべるイリューシャと対照的に怒りに打ち震えるグザファン。ふいごから炎を放ちイリューシャを襲う。
「キツイな‥‥だが、こんなもんじゃあ!」
 炎を受けながら突進をやめないイリューシャの剣がグザファンを捉える。悲鳴を上げたところでグザファンが目にしたのは飛来するファイヤーボム。まだ巻き込むか‥‥気付いたイリューシャは苦笑を浮かべた。
「悪魔の分際で火を使うなんて‥‥燃えなさい」
 だが、
『愚カナ‥‥炎ヲ扱ウ我ニ火ナド‥‥ノァッ!?』
 余裕の笑みも束の間、次々と矢が突き刺さり悲鳴にもならない声を上げるグザファン。アスタルテとヒムテも既にインプたちの戒めから抜けている。
「ここまでですね‥‥逃げられませんよ」
 そういったヤグラは、イオタの傍ら。彼のリカバーで、傷をが癒えたイオタも剣を構えている。上空にはクリスのペガサス。変身しても逃げ道は無い。
『馬鹿ナ‥‥何故我ガ、コノ我ガキサマラ如キニィイ!』
 最後まで傲慢狡猾だった地獄の竃番の断末魔が焦げ痕燻るオーガの集落に響く。冒険者が勝利を手にし戦いが終わったのだ。