スライムバスター XENOBLAST

■ショートシナリオ


担当:長谷 宴

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 66 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月16日〜06月23日

リプレイ公開日:2007年06月24日

●オープニング

 ‥‥ええ、そうです。はい、キエフから3日ほど行ったところにある古い遺跡みたなところです。そこの地下へ行ってもらいたいんです。あまり大した大きさじゃないので、進むだけなら時間はそうかからないはずです。道も単純ですし。
 ‥‥察しがいいですね、そう、障害がありまして。それが今回こちらに持ち込んだ理由にもなるんですが。いざ行こうとして最近の様子を聞いてみたら居るらしいんですよ、『アレ』。えーっと、灰色がかた黒めのドロドロしてたるのとか、四角くて透けてるのとか。
 そう! グレイオーズとゼラチナスキューブ! スライムが居座ってるんですよ! まったくもう、いくら地下だってお約束過ぎませんか、ねえ?
 ‥‥っと、興奮してしまいましたね、すみません。私が聞いたのはそういうダンジョンやそれに近いところを巡ってるやつなんですが、それらのせいで諦めたってことだそうで。他にいた『弱いスライム』は簡単に退けたっていうやつが言うんですから、その姿を見ただけで諦めざるを得ないグレイとゼラチナスっていうのは相当強敵なんですよね?
 ‥‥強敵ですね、どうもこれは。これだけの依頼料が適当っていうんならそいつらはかなりやりますね。懐に対してもかなり脅威的ですし。
 え、あ、はい! この条件で問題はないですよ。そのスライムたちを退治して奥の祭壇みたいなところに置いてあるものを確認してきてください。そう、確認でいいんです。あるか、ないか。それだけで。まースライムが食べちゃってたりしてそれがまだ融けたりしてない時だけ持ち帰っていただけますか。
 ‥‥理由、どうしても必要ですか? んー、まあ強いて挙げるなら郷愁、ですかねぇ? 色々あったんですよ、色々。あ、地図はここに置いておきますので。最近行ったやつの話を加味しても変わってないでしょう。元からシンプルな構成ですしね。
 それでは、私はこれで。冒険者の皆様にはよろしく言って置いてください。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1133 ウェンディ・ナイツ(21歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2488 理 瞳(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2546 シンザン・タカマガハラ(29歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9400 ベアトリス・イアサント(19歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「えーと、グレイが泥たまりみたいで、ゼラチナスの方が通路を埋め尽くしてるんだよな、見逃さない様に注意しないと‥‥」
 ブツブツとあまり詳しくない知識を反復して覚えようとしているシンザン・タカマガハラ(eb2546)に、より詳しいシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)が助け舟。
「そうですね‥‥グレイオーズの方は床や壁のほかにも天井にも気をつけたほうがいいみたいです。ゼラチナスキューブは中に溶かしきれない物があるなら透明でも分かりやすいかもしれません」
「では天井や床に注意して進まないといけませんね。それで移動した痕とかも分かるかもしれませんし」
 シシルフィアリスの言葉にセフィナ・プランティエ(ea8539)は中での進み方を考慮する。
「ってなんだ、シシルフィアリス知識あるんだ。じゃあ俺が気に負うことでもないか」
 もし敵モンスターについての知識担当があまり詳しくない自分だけだったら大変だと心配していたシンザンなのであった。


「‥‥いた、来るぞ!」
 ランタンの光にうっすらと照らされる通路の先、そこにある異質に気付いたシンザンは声を上げ仲間に伝えると同時に、シールドソード「サバイバー」を構えた。と、同時に、その声に反応したのか灰色の泥水溜りがスルスルと二つほど寄ってくる。
「思ったより早いですね‥‥それなら」
 どいてもらう暇はないし、またランタンを持っているものが下がればそれだけ視界は悪化する。アイスブリザードを早々に諦めたオリガ・アルトゥール(eb5706)のウォーターボムが水溜りを直撃する。だが、その進行は止まらず、その表面から触手のように身体を伸ばし襲い掛かってくる。
「‥‥やっぱりグレイオーズです。皆さん、接触されないように気をつけて下さい‥‥私もこっちで」
「ならばこちらの方が効きそうか?」
 知識に当てはめて敵を判断したシシルフィアリスがグレイオーズの攻撃方法を告げて注意を喚起しながら、彼女もまたウォーターボムを放つ。さらに、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)がスクロールで発動させたムーンアローがもう一体も射抜くが、そちらはあまり効果がないようで、勢いが削がれないままに飛び掛ってくる。
「‥‥ふん、丁度いい、纏めてだ、行くぞ!」
 熱血の片鱗を垣間見せながらシンザンは眼前まで触手を迫らせたグレイオーズへサバイバーを振り下ろしソードボンバーの衝撃波を飛ばす。避けることも出来ずに、もろに攻撃を受けその液状の身体を震わすグレイオーズ。だが、それでも伸ばした触手は冒険者達を捕らえてくる。
「ちぃ、厄介なやり口だな」
「近づけさせません‥‥」
 だが辿りつくまでに受けた傷で動きが鈍ったその攻撃は、シンザンのサバイバーとウェンディ・ナイツ(eb1133)のクリスタルシールドが受け止め阻む。グレイオーズは触手を振り払われるが、更に別の部分から伸ばし、冒険者達の身体を酸で侵蝕しようと目論む。そこへ後方からの掛け声と共に飛ぶ水球。取り付こうとするグレイオーズは耐え切れずに後ろへ飛ぶ。
「うおっ!? ちょ、ちょっと待て今の魔法声の後に撃つの早すぎだろ」
「まあ、遅れて治療の世話になるよりはマシだろ」
 掠めた飛んできた水球に肝を冷やし慌てて飛びのくシンザンに、そっけなく後ろで控えるベアトリス・イアサント(eb9400)が答えた。
「魔力ハ大事ニシナイトイケマセンカラネ‥‥ソノ通リデス。コチラデサッサト刻ンデシマイマショウ」
 そう言いながら追い討ちに前に出た理瞳(eb2488)が振るう薙刀「但馬国光」がグレイオーズを捉えた。斬られた部分からグレイオーズの身体が飛び散っていく。
「‥‥なんだ、ああいった攻撃は通じるのか。それならばウィンドスラッシュでも問題ないか?」
「そ、そうですね‥‥特に問題はないはず、です」
「そうか、ならば」
 感覚的に通じにくいと思って敢えてウィンドスラッシュでなく威力の低いスクロールでのムーンアローを使用していたエルンストだったが、瞳が薙ぐ様をみてただの杞憂かと思いなおす。更にそれを聞いていた有識のシシルフィアリスの言葉にそうかと悟ると、一瞬で詠唱を成し、真空の刃をグレイオーズ向けて放った。


「意外と呆気なかった‥‥のでしょうか? 怪我をされている方は?」
 二体のグレイオーズを倒し終え、安堵の息をつく冒険者達。セフィナが皆を見渡すが、特に負傷者はいない。
「ナラ先ヲ急ギマスカ‥‥?」
「いや‥‥そうは問屋がおろさないみたいだぜ」
 スライムを斬った薙刀の刃を拭い、手入れをしながら瞳が促すが、先ほどまで目を閉じてなにやら集中していたベアトリスが制す。
「動くような音がだんだん大きくなって来たぜ。もう近い、誰か見えねえか?」
 その言葉にハッとなりランタンの光が届かない闇の先を視力に優れた冒険者達が凝視する。
「ドウセ足ヲ踏ミ入レタナラシッカリ退治シテオイテホシカッタデスネ‥‥」
「術師は私達の背後に‥‥円陣を組む形しかないなさそうですね」
 ウェンディが盾を構えて前に立つ。既にかなり接近されている。
「やっぱり私達の懐にも強敵になるかも知れませんね‥‥そう簡単には近付かせませんが」
 ヒーリングポーションがあるのを確かめてため息一つ、年齢の割りに幼さが残る顔立ちながら、凛とした表情に切り替えたセフィナは詠唱を始める。
「まったく、精神衛生上よろしくなさそうな画になりそうですよ、これは」
 向かって来る数を悟りその光景に辟易したオリガはポツリ。いつもと変わらぬ笑みを浮かべてはいるが、実のところ曇っているのが雰囲気から見て取れる。
 セフィナのホーリーフィールドが完成するとほぼ同時、灯りが届く範囲に数多のグレイオーズの姿が照らし出される。それらが冒険者達に触手を伸ばそうと襲い掛かるのと時を同じくして、風の刃や水の球が飛び、刃が閃きスライムを捉えた。


「さて‥‥これで最後だな。覚悟しておけよ‥‥と、どうした」
「いや、いい。ここは俺が片をつける。魔力は温存しとけ」
 何度も攻撃を受け、弱ったグレイオーズへ止めを刺そうとするエルンストをシンザンは制止すると刃を振り下ろし最後の一体の命を絶った。胸を撫で下ろすシンザン。
「お疲れさん。傷見せな、さっさと治療しちまうから」
 そんな彼にねぎらいの言葉をかけながらずいっと近付くと、ベアトリスはリカバーで彼の傷を癒す。
「すみません‥‥結界もあっさり破られてしまって。もっと実力があれば‥‥」
「そんなことないですよ‥‥。実際破るのに攻撃に手間かけさせた分、有利になったわけですし」
 こちらも傷を癒していたセフィナは、ウェンディに手をかざし終えると口惜しそうな言葉。そんな彼女をシシルフィアリスが元気付ける。
「ありがとうございます‥‥それにしても、何とか使わないで済みましたね」
 手元のヒーリングポーションへ目を向けるセフィナ。アイテムが必要な程の負傷はなく、受けた傷は皆さほど深くはない。元々実力的にはグレイオーズに苦戦する冒険者達ではなかった。それでも傷があるのは相手の数に手が追いつかず捌ききれなかったから。
 しかしセフィナは力不足を嘆いていたが、そんなことはないだろう、彼女に治せない傷は死の淵を彷徨うほどの深さのものだけなのだから。
「それにしても、ここから先はより慎重にならなくてはいけませんね‥‥流石に」
「ああ、消耗が激しすぎたな。あそこで止めてもらえてよかった、シンザン、すまない」
 心配そうなオリガの言葉に、エルンストが頷く。今回の一行には魔術師等後衛向けの者が多かったため、否応なしに手数は制限されるのだが、既に結構な消耗をしてしまった。相手の動きに対応するためには、高速詠唱が欠かせなかったことも一因だ。
「でもこれでグレイオーズは殆どいなくなったと思いますから‥‥後は動きが遅くて気付きやすいゼラチナスキューブだけなた、何とかできると思います」
 シシルフィアリスの言葉に一同は頷く。そうだ、とエルンストがふと荷物から何か――振り子を取り出した。
「上手くいけば戦闘を避けられるかもしれないからな」
 そう言って振り子を地図の上に垂らすエルンスト。ダウジングペンデュラム。目的のものがある場所を指し示すといわれているアイテムだ。
「ふむ、ここか。もし本当にここがゼラチナスキューブの居所なら‥‥避けて通れそうだな」


「‥‥ありませんねぇ」
「ええ、まさに欠片も見当たりませんね」
 オリガの呟きにセフィナが答える。
 特にさしたる障害もなくたどり着いた目的地だったが、依頼人が言っていたようなものは特になかった。
「うーん、ほんとに祭壇『みたい』なところですね、ここは。特に魔法語とかもありませんし。まあ本当に何もないならそれはそれでいいんですけど‥‥」
 色々と調べているシシルフィアリスだが、気にかけるようなものは見つからない模様。そんな様子を見て、
「何かを封印してるとか、そんなんあるかもと思ったんだがなぁ。これじゃあそれはないか?」
 シンザンに至っては、拍子抜けといった印象を隠し切れない。
「ドウシマスカ? 一応無イナラ無イデオ仕事ヲ終ワラセテモイイミタイデスガ‥‥」
「それもそうだが‥‥いや、これは確かめてみるべきか? 実際に行かないとこの精度でははっきりしないわけだが」
 今度はダウジングペンデュラムで目的の『何か』を探していたエルンストがハッとなる。指し示したのは先ほどゼラチナスキューブの場所を探った時とほぼ同じ。依頼人の言葉が思い出される。食べちゃったりしてる場合、と。
「面倒は面倒だがなぁ。いいんじゃねーの、宝探し第二幕だ」
 肩をすくめたベアトリスの言葉はおどけながら。だが、冒険者達は皆このまま帰るつもりではなさそうだ。依頼人のはぐらかした物言いが気になった者もいる。


「いくら透明、つってもあれだけ中身がありゃあ分かりやすいわな。それじゃあ頼むぜ」
 灯りに照らし出される一見宙に浮くように見える数々の武具を見て、冒険者達はゼラチナスキューブに気付いた。下手に取り込まれては、と警戒するシンザンは後ろを庇えるように構え、いざという時は攻撃できるよう準備はするものの、魔法攻撃待ちだ。
「随分タフそうですからね‥‥いざとなったら頼みますよ」
 緩慢な動きで近付いてくるゼラチナスキューブだが、その身体に冒険者達を取り込もうとする前に幾多の魔法が襲う。その遅さから余裕を見て、魔力の温存のために通常の詠唱から放たれた攻撃がゼラチナスキューブを襲う。
「やったか?」
「いえ‥‥生命力は強靭ですから‥‥これぐらいでは」
 視力の都合で相手の状態の確認が遅れるエルンストが目を凝らそうとするが、シシルフィアリスが即座に否定する。ゼラチナスキューブはそう簡単には止められない。
「距離ヲ取リツツ削ルシカ無イデスカネ‥‥コレハ」
「ったく、パッと見じゃあどんだけ効いてるか分かりにくすぎるぜ!」
 ゼラチナスキューブの間合いの外から瞳は薙刀を振るい、シンザンはソードボンバーで攻撃する。だがそれでも敵の動きは止まらず、取り込もうとにじり寄る。
「この速度なら下がりながら攻撃できます‥‥捕まったら最後抜け出さない限りその中身みたいになってしまいますから、ここは‥‥!」
 憂うセフィナの声に皆ゼラチナスキューブから目を離さず警戒したまま距離をとる。地図がある以上気をつければ追い込まれることもないだろう。そう判断した冒険者達は着実に削りに行くことした。幸い前衛も肉薄しなければ刃が届かないわけではない。


「これで打ち止め‥‥ですね」
 オリガの達人ランクの魔法がゼラチナスキューブを襲う。それを受け身体を震わせたのを見て冒険者達はまだか?! と半ば驚愕、半ばうんざりしながら再び構えるが、直後にゼラチナスキューブは自身を支える力を失い崩れ落ちた。
「ようやく倒れたかー‥‥ほんっとに頑丈な奴だったぜ」
 とベアトリス。ここまで明け透けに感想を言うのは彼女ぐらいのものだが、皆気持ちは殆ど同じだ。
「‥‥これか? 言っていた特徴とあってはいるが‥‥何しろ曖昧な表現をされたからな」
 ゼラチナスキューブの身体か零れ落ちたそれらしいものは、なにやら珍しそうな鉱物を使ったもの。最早鉱物以外の部分は侵蝕が進んで何だったのかは推測しかできない有様だが。
「あれ、随分隠したがっていた感じでしたけど、聞けたんですか、依頼人に?」
「まあ、最近随分物騒になったからな、デビルやら。ダメ元で聞いたが分かったのは大体の形だ。宛てにならんぐらいの」
 記憶と照らし合わせるように確かめるエルンストにセフィナが問うと、ため息をつきながらエルンストは答えた。余計なリスクは負えないのだろう。
「うーん、でもコレは確かに珍しいですけど‥‥」
 鉱物について知識を持っているオリガが覗き込むと、同じく知識のあるエルンストはその先を引き取る。
「特になんでもない、な」
「一体、目的ハ何処ニアルンデショウネェ‥‥」
 分からない、といった様子の冒険者達。だがその停滞した空気はあっさり破られた。
「まー、いいじゃねーのこれで成功なんだから。それに、グズグズしてると‥‥」
 お気楽な調子でベアトリスが言うが、後半はトーンが落ちた。彼女の指し示す先を目のいい者が凝らしてみる。
「近付いてくるぜ、音」
「向こうからなら避けて帰れますね‥‥敵の足は遅いですしこれは」
 シシルの言葉に皆一斉にお互い確かめあい、頷きあった。

 冒険者達は逃げ‥‥いや急いで帰り出した。ゼラチナスキューブ(B)は追いつけなかった!


 帰還した冒険者達が依頼人にとって来たものを渡す。改めて何人かの冒険者が詳細を求めると、依頼人は笑って答えた。
「言ったでしょう‥‥郷愁って。依然懇意にしていた方との思い出が蘇って辛いけど捨てるには忍びないから遠くにしまったんですけどね、まあ気になっちゃったわけですよ。‥‥ああ、口にすると余計恥ずかしいですね、だから黙っていたんですが」
 軽い感じで答える依頼人に、しばし硬直してしまう冒険者も出てしまう。
「こ、ここは封印とか何とかそんなのがベタだと思ったんだが‥‥」
 なんとか口を開けたシンザンが言葉を搾り出すが、相変わらず笑みを崩さず依頼人は続ける。
「いやあ、そう感じてくれたならそれはそれで幸いですよ、遣り甲斐は包み隠さず説明するより大きくなったわけですから。まあ、実際そんな大層なものだったらギルドもそう簡単に受けてはくれないでしょうケド」

 ‥‥踊らされた? その場に崩れ落ちようとするのを何とか踏みとどまる冒険者達だった。